アイズ保護記 




アイズ保護記
adopted children


野薔薇と オッドアイズ。

同じ植え込み出身の子猫たち。

野薔薇は2002年の秋から冬にかけて、

その植え込みにひとりぼっちで潜んでいた。

夏から2か月くらいは母親と一緒に。

その後の2か月はひとりだった。

保護したのは2003年のお正月。

あったかい部屋に彼女を連れてくることができて、心底ほっとした。


野薔薇がようやく甘えられるようになってきた、

その年の6月にアイズを保護した。

ミケッチとトラッチ。オッドアイの姉弟。


その日だけ、その植え込みにいたのか、

もう少し前からそこにいたのかはわからない。

いたとしても何日もいたわけではないと思う。

完全野良さんの子どもではないだろう。

植え込みの合間からふたり、ちょこんとお顔を覗かせていた。

野良さんの子どもはそんな所で顔を覗かせたりしない。


野薔薇もアイズも、

保護したときは最大級に警戒して、暴れた。

家に着いて、ケージに入れると、さらに動き回って

ケージに顔をぶつけていた。

どちらも人に慣れていない子猫だった。



桜のころ、野薔薇はうちの子になった。

人慣れするのに時間がかかるだろうとわかっていたから。

うちで迎えるか、さらに慣れるまで待って里親さんを探すか

ずいぶん迷ったが、慣れてきたこの家を出て、

もう一度新しいおうちで最初からやり直すのは酷なことに思えた。

アイズは初めから里親探しをしようと思った。

うちで迎える余裕がなかったから。

スペースのこと。経済のこと。

野薔薇やシーチとのこと。

ふうちは子猫と共存できるが、野薔薇やシーチにはかなりのストレスだ。
アイズがうちにいる間、野薔薇はアイズを威嚇し、攻撃し、

彼らと共存できなかった。

せめて彼らに素敵な里親さんを探すことが

彼らの幸せにつながると信じていた。


2003年8月3日の日曜日、アイズは富山へ行った。

車に乗って羽田まで。
飛行機に乗って富山空港へ。

車に乗って里親さんのお宅へ行きました。

電車には二度乗ったことがあるけれど、車も飛行機も初めて。

ミケッチもトラッチもよくがんばった。

暑い日だったので、熱中症になったらどうしようかとこわかった。



帰路につき、富山空港からひとり羽田へ向かうあいだ、翼の下に広がる田園風景を見て、

こんなに広い、知らない町に、彼らをたったふたりで置いてきてしまったと思うと

いたたまれなかった。




彼らによかれと思って里親探しをしたが、

うちでの生活に慣れて、私たちになついて、

くつろいでいられるようになったころ、急に知らない町へ移動させる。
それはとても残酷な行為だ。

だけど、どうしたらいいのだろう。

これ以上ないくらい素敵な里親さんだった。

だから遠くても連れて行くことにした。

少しでも向かない人だったら簡単に断っていただろう。

わたしと一緒にいるより、明らかに幸せになれる。

そう確信できたから、連れて行くことにしたのだった。


そうはいっても、その時点で

彼らが苦痛なく、ためらいなく生活できる場所は
我が家だけだった。

羽田までの車の中で、

空港の手荷物カウンターで、

彼らがどんなにおびえているか、目の当たりにするうちに

自分のしていることの身勝手さに気づき始めた。

けれど、とにかく今日はお渡ししないと。

それだけを考えた。

里親さんのお宅に着いてから、

ひとしきり彼らと同じ部屋で過ごした後、

簡単なお別れをした。

ふたりともベッドの下の奥地に潜ってしまい、

お別れの抱っこはできなかった。



帰りの飛行機で、

どんなに残酷なことを今日、彼らにしたかと思うと

堪えられなかった。

すぐに引き返してふたりを連れ戻したかった。

窓からはもう白い雲しか見えなくなっていた。

どうしたらいいのかわからなくなった。

羽田に着いて、トラッチがしょんぼりしていると聞いてさらに混乱した。



彼らがいなくなって2日が過ぎた。

送っていただいた画像は、トラッチが少し大きくなっていた。

ミケッチも多分大きくなっている。

座っているポーズだからミケッチの大きさがよくわからないけれど。

明日はもう少し大きくなる。あさってはさらに。

彼らも向こうの暮らしに慣れていくだろう。

うちでの暮らしに少しずつ慣れていったように。


これからは里親さんが彼らのことを考えてくれる。

わたし以上に。

彼らは私の子どもではない。

彼女の子どもになったのだ。

彼らはすごく幸運な子ども達だ。


わたしにできることはもう終わっている。

これからは遠くから彼らの幸せを祈るだけでいい。

ふたりがたくさん生きて、たくさんの時間を彼女と過ごして

彼女に最期を看取ってもらうよう

それまでわたしは祈り続けるだろう。

永遠に近い時間を彼らが一緒に過ごせるように。











不幸な猫がこの世から1匹もいなくなってほしいから

猫を保護している。

これを生きがいにしているわけではありません。

不幸な子達がいなくなれば、こんなことをしなくてよくなる。




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