今日も他人事

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3.新天地


馬超を筆頭とする旧馬騰軍の将兵を吸収することに成功した董卓軍。

董卓は武威に娘婿の牛輔、天水に李カク、安定にカクシをそれぞれ太守として三千の兵とともに派遣。

袁術軍の侵攻に備える為に長安に四万の軍を残しつつ、残った三万の兵を漢中に向けて南下させます。

この時、王允ら一部の文官からは昨年末からの連戦で、兵糧と資金が不足しており、軍事作戦は年明けまで待つべきだと献策されますが、董卓は速戦で漢中と上庸を占拠することを決定。

それは武威の戦いが行われていた頃、張魯の弟である張衛が攻城部隊六千を率いて天水へと攻め込み、張遼の騎馬隊五千に撃破されており、張魯軍の兵力が大きく喪失している内に叩いてしまいたいという思いもありました。


<193年1月 漢中の戦い>
■董卓軍

指揮:董卓
兵力:三万

■張魯軍(五斗米道)
>
指揮:張魯
兵力:二万

■劉焉軍

編成:張任
兵力:一万五千

■解説

この頃、漢中の張魯軍は北に出没するようになった三千ほどの賊徒と南から桟道を渡って攻め寄せる劉焉軍両方の対応に追われていました。

張魯自ら八千の歩兵を率いて賊徒の根城を攻めている所へ、天水を出立した董卓軍三万が到着。

董卓は呂布、馬超の騎馬隊と朱シュンの攻城部隊を漢中へと直行させ、自らは騎馬隊一万二千を率いて隘路の張魯を打ち破ります。

漢中を巡って劉焉軍と張魯軍がぶつかり合う中、董卓軍は陽平関を占拠し、互いに疲弊した所へと殺到。

劉焉軍を野戦で粉砕し、返す刀で漢中を占拠した董卓は楊松という使い物にならない文官を見せしめに処刑。

董卓軍に逆らうことへの恐怖を見せ付ける一方で、張魯ら主だった者達を自らの配下とします。


時を同じくして、潼関に袁術軍の李厳、孫策、周ユらが三万の兵を率いて押し寄せてきますが、カクは二万の弓兵隊を率いてこれを迎撃。

守備隊を含めて、一万二千もの兵を失いながらも、袁術軍三万を壊滅させ、潼関を守り抜きます。

また、5月に漢中に隣接する上庸を劉表軍七千が占拠しますが、漢中から進発した呂布の騎馬隊一万、朱シュンの攻城部隊五千が攻め込み、8月には上庸を奪い取ることに成功。

董卓は呂布を上庸に駐屯させて袁術軍、劉表軍の攻撃に備えさせるとともに、漢中に王允、李儒ら主だった文官を呼び寄せ、軍事拠点としての整備していきます。



--漢中、周辺。

 気に入らない。とにかく、気に入らなかった。

 馬超孟起。涼州の軍閥である馬騰の息子で、親子揃って、祖父の董卓に挑み敗れた馬鹿な連中である。錦馬超などと呼ばれているが、それは纏っていた外装が煌びやかなだけだ。実際は粗野な田舎者で、態度の悪さを思い返すたびに董白は苛立ちを覚えずにはいられなかった。

 だが、董白が一番腹ただしいのは、馬超に対して祖父が目をかけていることであった。しかも、かつての馬騰軍の将兵三千をいきなり預けて遊軍として働かせようというのだ。

 祖父が何を考えて、馬超を重用しているのか。優れた用兵家であることは三千騎を縦横に使いこなす手腕を見ていれば良く分かる。しかし、それだけではないような気もする。騎馬隊の指揮なら高順や張遼といった武将達も勝るとも劣らない。

 祖父は馬超に対して、何かを求めている。

 それは単に強い武将という意味ではなく、もっと別の何かを期待しているように思えた。そう思う度に、董白の胸中に不快な感情が募った。怒りではない。もっと暗く、自分自身でも掴み所がない。そんな感覚だった。

「どうした、白」

 声がかけられた。馬上で祖父が、こちらを一瞥している。

「顔をしかめて、どうした?折角の可愛らしい顔が台無しだぞ」
「別に。大したことじゃないわ」

 取り繕うように言いつつ、董白は白竜を祖父が跨っている刑天の横に付けた。

「それより、おじいさま。次は益州を攻めるんでしょう?どんな所なの?」
「益州か。わしも話に聞いたことしかないが、肥沃な土地で、四方を険しい山岳に囲まれた要害の地といわれておる」
「厄介ね」

 董卓軍の中核を成しているのは西涼の兵である。匈奴とも深いつながりがあり、騎馬による野戦を得意としていた。山の中を動き回るような戦い方は本領ではないのだ。 

「白、お前が益州攻略の軍を指揮するなら、どう攻める?」
「私?」

 董白は小首を傾げて、しばし考え込んだ。くすっと口元に笑みが浮かぶ。

「そうね、正面から力押しっていうのも悪くないわ。けど、まずは別の進路を探すかしら」
「別の進路から攻めるか」
「だって、益州の軍は山岳戦に慣れているんでしょう?わざわざ敵の土俵で戦ってやるなんて馬鹿馬鹿しいもの」
「悪くない。わしの考えともあまり離れておらぬ」

 祖父が東南の方角を指差した。

「益州に入るには二つの道がある。一つは、この漢中。そして、荊州」

 荊州は、上庸から漢水を渡った先にある南方の土地だった。上庸は漢中から東南の方角に位置する。
 思わず、董白は手を叩いた。

「分かったわ。おじいさまは、次は益州じゃなくて荊州を攻めるつもりなんでしょう?それから荊州を経由して益州を攻める。上庸を取ったのも、荊州を攻める時の拠点にするため。ね、そうでしょ?」
「まぁ、そんなところだ」

 祖父がにやりと笑みを浮かべた。

「報告によれば荊州には劉表が居座っておる。まずは、これを叩き潰して荊州を奪い取らねばならん。その為に、各地から兵糧を集めさせる。物資の輸送も滞りがないように文官どもに整えさせるつもりだ」

 武威占領後、立て続けに漢中、上庸と攻め落とした。一部の文官からは兵糧が決定的に足りないと出兵に対して反対の声が上がっていたが、領土が飛躍的に増えたことで、それも解消される筈だった。兵糧が足りなければ、奪い取れば済む話だった。

 しばらくの間、これからの作戦について言葉を交えながら、董白達は馬を進めた。周囲には、二十名ほどの騎兵が遠巻きに董白達を護衛している。

 進んでいく内に、周囲の風景が微妙に変わり始めた。一刻ほど経った頃、董白の眼前には狭く細い道が長く続いていた。すぐ横は深い崖になっている。

「この隘路の先が益州だ。中原の連中からは、巴蜀などと魔境のように蔑んでいるが、かつて漢の高祖は、この漢中と益州を基盤に項羽と天下を争った」

 そう董白に語りかけている間も、祖父は遥か彼方を見据え続けていた。

「分かるか、白よ。力を得て、機を掴むことができれば、どのような身分であろうとも覇者になれる。天下を掴めるということだ」

 無言で、頷き返した。董白を見下ろす祖父の双眸。ぎらつくような鋭く強い光がそこには宿っている。


長安を皇甫嵩、カクに任せ、漢中に腰を据えた董卓は、腹心の李儒らに命じて益州と荊州を制圧するための戦略立案とその準備に取り掛からせます。

文官らが武具や兵糧を蓄える一方で、各地で兵を養い、主だった武将がそれを鍛え上げていく。

じっくりと時間を掛けて軍の増強を推し進めていく董卓軍に衝撃が走ったのは、193年10月のことでした。

事の発端は9月に起きた袁術軍の再三に渡る潼関への侵攻でした。

この時、先鋒として進撃中だった李厳率いる歩兵六千をホウ徳の騎馬隊五千が襲撃。

ホウ徳は歩兵の陣を切り裂いて、敵将・李厳の下に辿り着くと一撃でこれを討ち取り、袁術軍を壊走させるという大手柄を挙げます。

そんな中、安定から長安へと向う輸送部隊が羌の馬賊による襲撃を受けるという事件が発生。

輸送部隊を全滅させた三千ほどの賊徒は、疫病の蔓延によって兵力が弱体化していた安定へと殺到。

賊徒討伐の為、長安からカクの歩兵隊五千、孟達の騎馬隊五千が出撃しますが、直後に孟達が袁術軍へと寝返り、カクの部隊に攻撃を仕掛けてきます。

引き返してきたホウ徳の援護もあり、孟達を撃破することには成功するも、身柄を取り押さえられず、更に賊徒によって安定は陥落してしまいました。

安定一帯は壊滅的な打撃を受け、太守のカクシは行方を暗まし出奔してしまいます。

董卓は天水太守の李カク、長安の皇甫嵩、カクを呼び寄せて責任を追及。

首を刎ねようとする董卓に対し、後方の兵力を疎かにしていた戦略自体にも問題があったと王異が指摘。

董卓は三名を降格処分で留める一方で、王異と羌賊の扱いになれた張既を派遣し、三千の兵とともに安定の再興を命じます。

荊州、益州攻略を目指し、兵站路となる漢中と上庸の守りを固めながら、侵攻の機会を虎視眈々と狙い続けるのでした。



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