よんよんとともに

創作話  第一章 梅のひと



第一章 梅のひと・・・





ぼくが、君に出会ったのはずっと前のことだったんだね・・・・。

何も気づかぬまま今日まで来てしまった・・・・。



そう、ずっと君は僕の傍に居たにもかかわらず・・・。



あの日、君が僕を初めて見かけたという・・・あの日。



そう、僕は都会の喧騒や、自分の立場をすべて投げ出して

かばんひとつ提げて旅にでたんだ・・・。



生きていくことが息苦しくって、何もかもいやになって、逃げ出してきたんだよ。

もしかしたら、自分を取り戻せるかもしれないと思って・・・。

なくしたものを無性に探したくなってしまったんだ。



そのせいで、今度はまたたくさんの無くし物をしてしまったけれどね・・・。



海辺の町にも行ってみたよ・・。

険しい山にも登ってみた。



そしてやがて僕はこの地にやってきた。



聞こえてくるものは、鳥のきれいな鳴き声と、

どこまでも透きとおった川のせせらぎの音。

そして、枝を揺らす風の音だけだった・・・・。



川の淵に老齢の梅の樹があって・・・・。



そのとき僕ははっと息を呑んだ・・・。



今考えると梅の精だったのかもしれないね・・・・。



僕はその女性に一目で恋をしてしまったんだ・・・。



でも、瞬きしている間にその女性は僕の視野から消えていた。

僕はみっともないほどキョロキョロして彼女を探したけれど、

その日はもう、彼女の姿をみることはできなかった。



やがて、僕はその梅の老木にもたれ掛かって、いつしか眠ってしまったんだ。



あぁ、そうだったね。君はそのときのぼくのことを全部見ていたんだったね・・・。



あの老木は僕を丸ごと包んでくれた。そんな気がしていたんだよ。



あたりがすっかり漆黒の闇に包まれて、

空にきらめく星が瞬きだした時、



やっと深い眠りからさめて、立ち上がろうとしたんだ。

そのときに手に触れたのが、君だったとは・・・・。



きっと僕があのひとを探した時に君を踏みつけてしまったんだね・・・。

そして目覚めた時に、ぐったりとした君を偶然見つけて

宿に持ち帰ってしまったんだね・・・。









鼻筋の通った美青年は、小さい鉢に植えられた

名もない一輪の花に語りかけていた・・・。



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