異常社会（５）
自分と考え方が違うというだけで相手を殺すというのは狂人である。普通の人間であれば、対話や文章で相手を説得するとか、言っても無駄と想えば諦めるものである。親子でも断絶がある時代なのだから意見が合わない相手は五万と居る。居て当たり前なのだ。それを自分の考えだけが正しいとして相手を倒したり再起不能にするとか挙句は殺すというのはまともな考え方で無い事は誰にでも分かる理屈だ。しかし、現実にそういう人間が居る以上、我々はどうすれば良いのだろう。正論を言っているだけでは無くならないだけに難しい問題である。単純に言えば、損得の勘定で考え方が変わる場合があるから、先ず利害関係から始めるのが手っ取り早いだろう。が、あの原発推進派が金まみれになって原発擁護するのを観ると躊躇してしまう。
世の中は損得勘定だけで動いている様に観えるから直ぐに金の話に成る。大枚の金を与えられれば人間は弱いものだから殆どの人が転ぶ。そんな不浄の金なぞ要らないと毅然と断る人も居るが、現実は少ない。少ないどころか、正当な理由が付加されれば即座に飛びつく。其処が相手の思う壷で、危弁やまやかしで騙す場合もあるだろうし、騙されているのを承知で知らない振りをして金を受け取る場合もあるだろう。後で、都合の悪い金と知って、こっそり返す人も居る。殆どの政治家がそうだ。バレなければ良いだろうとして惚けている人も多い。所謂、正義感やモラルの問題だが、自分の心に嘘をついて人生を渡る事ほど情けない事は無い。それでも金まみれの方が幸せだと言う人も居るのだ。言わば、お育ちが悪い人々である。
ボクの言う育ちが良いとか悪いというのは経済的な事を言うのではない。親の躾が良いとか悪いというのが基本で、物事の正邪の判断がつく当たり前の家庭教育がなされた環境で育ったかどうかという事だ。貧しくとも、それを卑屈に想わず、正々堂々と世の中を渡って行けるだけの心構えが出来るという事は中々出来ない事である。どうしても卑屈にならざるを得なくなる場面に一度や二度ならず遭遇する筈である。それでも親が毅然とした態度で子供に事の理非を教える事が出来るかという両親の精神力を問うのである。つまり、白紙の状態の子供の心に世の中の嫌らしさや邪な事象を誤魔化しなく教え納得させるだけの知恵があるかどうかである。大抵の両親は自分達の貧しさを誰かのせいにしたり恥じたりして真実を伝えない事が多いものだ。
子供は素朴な気持ちで親の言う事を聴いて信じるが、それが誤魔化しや危弁に満ちた説明である事が後日分かった時点で子供は親を軽んじてしまうものである。残酷な程、子供は冷静であり案外真実を観ているものである。嘘は直ぐにバレるのだ。変な言い訳は説得力に欠ける。心から信じる事ができるのは在りのままの真実と、それに対する正しい姿勢である。何故、自分の家庭は貧しいのかと子供なりに考える。逆に、何故金持なのかとも考える筈だ。悪い事をしたり人を欺いて得た金で家が富んでいる事を知れば逆に子供は卑屈になるだろう。それが長じて年頃に成れば少しは世間が見え始め、社会性や事の理非も分かって来るから心の劣等感からグレたり非行に走ったりする。小さな心では耐えきれないのだ。
自分の親が権力者であれば自分までもが偉くなった気になって変な自信が出来、仲間や世間を見下すようになる。どうせ何かトラブルでもあれば親がもみ消してくれるだろうという甘い考えが生まれる。そして事実そういう事があって、繰り返しが重なれば本当に世間を軽んじて観る様になり人間的にも欠陥を持ったまま成長するようになる。だから政治家の子弟にグレている者が多いのもそういう背景があるからだ。せめて母親がしっかりしていれば少しは子供の精神も歪められずに育つだろうが、母親が輪を掛けて見栄を張ったり威張ったりしている様では子供はロクな育ち方をしない。つまりお育ちが悪いという事になるのである。何も経済的な事だけで育ち方が云々されるのでは無いのである。精神性の問題なのである。
貧しさから心が卑屈になって暗い人生を送るのも困ったものであるが、なまじ裕福で何不自由なく育ったのに心がネジくれている場合はもっと困ったものである。今回のノルウェーの大量射殺事件を起こした犯人は、経済的には裕福であった様だ。そういう場合の犯罪はタチが悪い。父親は外交官で、再婚した女生との間に彼が生まれ、直ぐに離婚し、更にその後、別の女性と結婚している。先妻との間には三人の子供が居るという。父親は移住先のパリへ彼を引きとろうとしたが、親権が得られず、母と子はオスロに残り、母子家庭で生活し、経済的に不自由はしていなかった様だ。１０代になってからはパリの父親を訪ねたりしていたようだが、粗暴な行為が目立つようになり父親が厳しく注意したことで関係が悪化、１９９５以来、彼とは会って居ないと父親は語っている。（つづく）
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