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冬の京都(3)
冬の京都(3)
ボクは京都へ行く度に想う事がある。それは道中の経路によって違う。先ず、車で行く場合、名神高速を通るか、京阪奈高速道路を通るかでも違って来る。つまり、途中の風景で考える事が変わるのである。数学の方程式の様にスタートとなる式に係数を放り込むのが道中の風景である。所要する時間も問題に成るが、景色の変わり様で以前との比較や、この先の未知数に想いを馳せる。すると目的地に近く成ってから振り返ると、同じ京都に到着しても、これからの京都での行動が変わって来る訳である。行きたかった処が別の方面に変わったり、遣りたかった事を変更するのである。大抵は一人か二人で行くが、二人の場合は相手が妻だからボクの京都に対する観方や考え方が違う分、行動も変わってくる。そういう場合はボクはホスト役だから主役では無い。だから一人で行く場合の事を考えると、京都に行く目的内容がその都度変化するという事である。
京都(11) 本堂の伽藍。
先述した様に何か心に引っかかる場合や悩み事があるから故郷に行く訳ではないにしても、何か具体的な目的がある場合でも気分転換で行く事には違いは無い。しかし、その気分転換は当然ながら人生の一頁である事には変わりは無く、行く先々で出逢う人々に依っても内容は変わる。そして、時間が来て戻る頃に京都に来て何か心に残る事でもあったろうかと振り返る。車の場合は飲み会は無いが、必ず立ち寄る処がある。それは学生時代から常連で通った中京区のコーヒー・ショップである。その店のガレージに車を留めて、出来れば何時もの席で先ず地元新聞を読みながらコーヒーを飲む。そして京都の近況を知り、興味のあった記事からこれからの行動を決める。京都に着くまでの道中での考えた予定と摺り合わせ、知った人と出逢わなかった場合は、其処へ向かう。其処が観光地である場合もあれば何も無い単なる知っている場所である場合もある。
京都(12) 墓地への参道。
それは美術館や画廊や映画館である場合もあるが、大阪で出来る様な事は折角の京都まで来てやる事では無いから、大阪での見逃した映画が上演されていれば優先して観た。それよりも京都ならではの場所だから其処にしか無い風景や寺院や仏閣である場合が多い。車だから簡単に行ける。そして一通り廻って納得出来れば、それだけで満足して帰る事に成る。その点、車は便利である。だが、コーヒー・ショップで常連の知人に出遭ったりすれば時間や計画が変わる。一緒に行動する場合もあり、大概の場合、相手も暇だから相手と一緒の行動は予定外ながら計画変更で臨機応変に行動する。片方の車はガレージに置いたままにしたり、二台で出掛ける事もあれば、近場の場合は二台ともガレージに残す事になる。電車で行った場合は、そういう煩わしい事は無いから相手の車に乗る。そして出先で別れる事もある。駅まで送ってくれる時もあり、そういう時は相手に合わせた行動を取っているから予定の行動は取り止めている。
京都(13) 観光名所になっている寺院。
人と会う約束以外に出逢った人の割合というものは一割も無く、独りでの行動が多かったから、当初から考えて居た行動や道中で考えた行動を取るのが普通だった。京都に丸善があった頃は必ず立ち寄って本を物色した。大阪にも丸善はあったが、京都の方が専門書が多かったから自分の専門分野で無くとも興味があれば医学書でも物理学書でも美術や文学や歴史にも手を出した。振り返ってみて、それは冬場が多かったのは京都の四季で一番内にこもり易い季節だったからだろう。夏場はジッとしていても汗が出るぐらい暑いから買い物はせず、春や秋の時候の良い頃は観光地の風景を見て居るだけで気持ちが良いので動き回ったものだった。わざわざ買い物をするからには其処でしか無い物を買い、大阪でも売って居るものは買う気にも成らなかったのは当然で、自宅にある小物類で毎日の様に使って居る物の殆どは京都で買った物ばかりであるのに最近気が付いた。
京都(14) 山の静寂。
成る程、我ながら同じパターンを繰り返して居たのには驚いた。行く道中で考え方を変えたり気分で行き先を変更していた割には、結局は無意識の内に取る行動が習慣づいていたのだったに過ぎないのだ。そういう意味では京都は箱庭のように狭いエリアなのだ。精神治療法で箱庭療法というのがあるそうなのだが、患者に何も指示しないで勝手に箱庭で遊ばせておくだけなのだという。それだけで患者の治療に成るというから、ボクも自分で無意識に箱庭療法を自分に施していたのかも知れない。と言う事は、大阪や東京で仕事に行き詰ったり人間関係で上手く行かなかった場合に、京都という心の故郷で何等かの解決方法を見出していたのだろう。10年ほど前に亡くなった京都の友人が、別の友人にボクの事を「彼は京都が懐かしくて度々京都に来て心を癒している」と言って居たそうだが、それを聴いて「馬鹿な!」とボクは笑ったものだった。
京都(15) 夕陽の東寺の五重塔。
しかし、考えてみれば「其処に京都があるから行くだけの事で、京都が無ければ行かなかった」と自分では想って居たものの、ひょっとすればそれは間違いで、京都があった事でボクは救われたのかも知れないとも想える様になった。だが、最近では、同窓会や飲み会や新年会を京都で経験して、それらが終わる度に数日間疲れてしまうのだ。それは一体どうしてだろう。それは京都には直接関係の無い事では無いだろうかとも考えられる。それは遠くに在る為の単なる体力的な問題であるのかも知れない。が、ゴルフの方が激しい運動をしているのだから関係がない筈である。となれば人間関係の事になってしまう。懐かしい旧友に会う事が、そんなに疲れる事なのだろうか。それとも方程式の係数の入れ方に問題があるのではないだろうか。様々な事を考えながら、自分と相手との人間関係の折り合いが付いていない部分が自分の側にあるのではないかと想ったりもするのだ。(つづく)
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