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小説「猫と女と」(11)

小説「猫と女と」(11)


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 女が、舞子に恋人が出来た風なのを喜んでいるのか、それとも私に頼んでいる見合いの方に期待しているのか判断がつき兼ね、敢えて見合いの件を否定してみた。私にすれば複雑な気持で女の本音を知りたいと想ったのだ。「もし、恋人が出来たのなら、彼女に任せれば?彼女も大人だし、話をした限りではしっかりした感じだから・・・」「そうねえ。相手次第だけど・・・。ニューヨーク時代に恋人が出来たそうだけど、親の言いなりになる様な軟弱な男で、別れて帰って来たぐらいだから余り心配はしていないのヨ。でも、私は貴方に頼んだ見合いに期待しているの」「もし、仮にだけど、舞ちゃんの恋人が不倫関係だったら、どうする?」「不倫?フフ、在り得ないワ。所帯持ちの男なんか歯牙にも掛けない娘ヨ。考えた事もない」せせら笑って女は言いきった。「そう?全面的に信頼している訳だ」「そうヨ。でなきゃあ、ニューヨークになんかに独りで行かせられないわヨ」女は自信あり気だった。


 この先、何が待ち受けているか分からないものの考えられる事は、私と舞子との関係を女が知った場合どういう態度に出るか明らかだけに予想するのも嫌だった。怖いとか恐ろしいという訳ではなく煩わしいのだ。自分の家庭を壊してまで舞子と一緒になる気も無い私は、その前に女とは上手く手を切れる自信はある。お互い割り切った大人の関係の気持ちで居る限り大丈夫と想え、女も私との関係が切れたとしても多分大丈夫な筈だ。かつて離婚後、強度のノイローゼを病んでいたというが、それでも仕事優先で考える女なのだ。だからこそ元夫のデザイン事務所に離婚後も平気で出入りし仕事をして来たと言える。だからこそ女と縁を切って、舞子との関係だけを秘密に続ければ、将来、仮に女が関係を知って私に突っかかって来ようとも後の祭でしか無いだろう。舞子の意志でそうなったと分かれば女も諦めるしか無い筈だ。


 そんな事よりも今から舞子とも別れる算段を私はしておくべきなのだ。だが、果たしてそれができるかどうか今の私には自信が無い。理性では断言できても舞子という麻薬にドップリ毒された身体には理性は無い。言うは易く行うは難し、口ほどでもない自分に愛想をつかしてしまう。それなのに舞子から電話が来るのを心待ちにしている自分を意識してしまう。身勝手かも知れないが舞子も私に会うのを楽しみにしていると想う。母親の心の病を私が治したと信じて喜んでいるのに絶交してしまう事で病が再発したなら舞子は私を責めるだろう。舞子まで私と母親との肉体関係を知る羽目になってしまうのではないだろうか。仮に知ったとするなら舞子は私と縁を切るかも知れない。切れるなら切れても仕方が無い。そうなれば私は舞子の呪縛から逃れられる。が、舞子を失う事で禁断症状が出るのではないだろうかとも想う。色々な考えが錯綜するがどれも確信が持てない。


 三角関係どころか四角関係のドロドロした関係は一体誰の為に在るのだろう。女の為なのか、それとも私の為なのか。私の為なら私が手を引けば簡単に済むだけの話だ。女は諦め、舞子も諦めるだろう。妻は知らないままで終えるだろうから問題は無い。が、女が妻にバラすと脅して関係を維持しようとするなら、先手を打って妻に話して謝罪し了承を取り付けておかねばならない。嗚呼、面倒だ。男はどうしてこうも面倒な事に心血を注いでまで女に手を出すのか。其処に山が在るのと同じく女が居る限り止むを得ない事なのだろうか。複雑な関係にこそがスリルがあって楽しいとするなら余りにも稚拙過ぎる。もっと大人になって開き直れば別の解決方法も在るのではないだろうか。こんな事で平和な家庭を乱すなぞ一人前の男のする事では無い。かつて計画通りに動いて来た私だ。人生五十を過ぎて色事で躓くなぞ世間の良い笑い物だ。妻も呆れ返って笑い転げるだろう。


 案外、既に久しく関係を持たなくなった夫婦に久々の椿事は、妻にとって私を男として見直すきっかけに成るかも知れない。それならそれで良い。私が恥をかくだけの話だ。しかし、舞子の持つ毒性には魅力がある。今時こんな中年過ぎの男に若い女が金銭関係も無く情愛だけで関係を持つなぞあり得ない話だ。それだけに別れるには惜しい。あのはち切れんばかりのピチピチした身体が脳裏から消えそうにない。それも七年間も関係を持ち続けている女の実の娘だ。こんな不道徳で罪悪感のある関係はめったに無いだろう。その罪悪感こそが快感をより盛り上げる。そのくせ夫々を抱く瞬間は罪悪感も無く単なる女として受け入れられる。枯れ掛かった花と今正に開花した盛りの花との違いながら夫々の持ち味があり女達の根には共通の体質が潜んでいる。それだけに別々に抱きながらも違和感も無く同じ考え方や反応を感じる。


 ところで気になる別の事としてデザイン事務所の所長が居る。彼は我々の事を知ればどう想うだろう。考えるだけ頭が痛い。仕事関係者でありながら、知る由も無い舞子との関係を知れば彼を逆上させ兼ないだろう。舞子に言わせれば変わった父だと言う。つまり離婚して別居する父親を批判的に観ているからこそ割り切って私と関係をもっているのだ。そのくせ娘に甘い父親からは渡米費用から学費から滞在費総てを出して貰い、ニューヨークのマンションに一年間無償で借り住んでいたのだ。母親と折半だったにせよ兎に角親の脛をかじって学校に通う、ちゃっかりと取るものは取る現代娘なのだ。娘にすれば当然の権利と想っているのだろうが、親にすれば両方とも大切な生娘と想っている筈だ。それを私が食べ頃になって味見をしている。考えれば人の親として許せない存在だ。つくづく私に娘が居なくて幸いだったと想ってしまう。(つづく)




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