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「猫と女と」(25)

小説「猫と女と」(25)

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 兎に角、女達がしおらしく成り、私に従う様になった事は進展だった。私のペースで物事が運び易くなったのは喜ぶべき事に違いない。誰が何と言おうと私と女達とが同じ気持ちで行動出来る事は三人の絆がより強くなる事になり、仮にこの先何か中傷や妨害が入ったとしてもこじれる事なぞ起き難い筈だ。私に二つの家庭が出来る事には成るが、彼女等は私の立場を考えれば私の家庭を壊してまで独占したいとは思わないだろう。それよりも実質的な方を選ぶ筈だ。つまり、それは女二人だけの生活に欠ける一家の中心的役割であり心の拠り所と成る男性が欲しいという事だけだ。結婚なぞ考えてはいないという舞子の心情も本当だろう。女も結婚に失敗して女やもめの長い生活が続いた事もあって今更結婚なぞ望みもしていないのだ。もっと具体的には私と舞子との間に子が出来るという現実だ。子はカスガイと言うではないか。これ程強い絆は無い。

 自分達の血を分けあった子ほど確実な愛の証は無いという。舞子も女もそれを強く感じて居る。逆に、それが私への手かせ足かせには成るだろうが、それも運命と考えれば真摯に受け入れるしか無い。万年青年とうそぶいて来た私への神様からのお灸だったのかも知れず、何と神様は時に粋な計らいをするものか。そう考えれば早く子供の顔を見たく成って来る。あれ程衝撃的な出来事と想えた事が、私の新しい人生の幕開けだったと想える様に成って来た。逃げるのでは無く突き進むべき事なのだ。子供には何の罪も責任も無い。無垢の穢れの無い子を我々に与えてくれた神様は我々に何をさせようと考えて居るのだろう。否しかし、その様な事は我々で決めるべき事では無い。我々は唯大事に子供を立派な大人に育て上げるだけで良いのだ。高齢者になっても父親としての責務を果たせば良いだけの事なのだ。それを舞子は母親としてサポートして行くのだ。

 だが、其処まで考えて、ー体私は良い歳をして他所の女に子供を産ませる事で如何にも子煩悩な好々爺に成り下がってしまうのだろうかと自問してしまうのだった。こんな筈ではなかった。子供なら既に家に息子がー人居るのだ。舞子よりも少し下の二十代後半にもなって、それも生意気な世間知らずのマザコンなのだ。内弁慶で父親に反発ばかりして朝の挨拶も出来ない情けない男だ。浪人をしてやっと国立大学に入ったものの税理士試験を受けるのに有利だからと大学院まで行きたいと言うので行かせた。卒業後は何を思ったのか折角の就職先もー年で辞めてしまった。毎日ブラブラと暮らし、たまにアルバイトの金で飲みに行って憂さ晴らしをしている。何の為の勉強をしたのか全く分かって居ないのだ。その表れとして国家試験に何回も失敗ばかりし屁理屈をこねては弁解する。そのくせ私がー級建築士である事に対して「あれは簡単な国家試験だそうだ」と言って自分の不合格を弁解した積もりで居るらしい。馬鹿かと想う。

 要するに学歴自慢しか出来ない空っぽの頭なのだ。男の腐った様な軟弱な奴だ。「生意気に親の資格試験の事を言う余裕があるなら先ず自分の目指す試験に通ってみろ。ろくに稼ぎも出来ず、偉そうな事を言うなら家を出て自活してみろ!」と前に言った事があった。しかし、その後も一向に態度を改めないままだ。「一体どう成っているのだ?」と妻に訊けば「もう試験は諦めてしまった様ヨ。そっと放っておいてやってヨ」と他人事の様に言う。息子も息子なら妻も妻だ。毅然とした母親としての態度が取れない馬鹿女だ。そんな馬鹿な家族を見ていると不信感しか湧いて来ないのだ。そもそも男の子が生まれ出たのが間違いだった。祖父母に甘やかされ過ぎた様だ。其処が不幸の始まりだった。そのせいか父親を父親とも想わず不遜な態度を取る様になって私は見限ってしまった。今では顔を避け声も掛けなく成って、まるで下宿人か居候が住んで居る様なものだ。

 かつて仕事仲間に愚息の愚痴を言った処「親がしっかりしている内は、息子は親に頼ってしまって働かなくなる」と言われた。成る程そういうものかと想った。それを妻に言うと「上を見ればキリがないワ。もっと程度の悪い息子だって世間には幾らでも居るのヨ。そう想ってそっと見護ってやってヨ」と言う。だから仕方無く、食べる位なら家に居ても構わないと考え直し、それからは黙っている。が、多分、そういう私の内面的な不満が外へのはけ口として酒や女に発散して来たのかも知れない。つまり私には心休まる家族というものが無いのと同じ事になる。生来の女好きもあって、デザイン事務所の女に惹かれる様になったのも舞子に溺れてしまったのも、ちゃんとした背景があったのだ。だからと言って自分を正当化しようとは思わない。一家の主が逃げてどうなるものでも無い。私は私、妻は妻だ。愚息なぞ放っておくしか無いのだ。

 しかし、そうだからと言って好々爺に成り下がる気も無い。好々爺の何処が悪いのかと言われれば反論のしようも無いが、私は未だまだそういう気には成れないだけの事だ。女がどう思おうと舞子がどういう行動に出ようと私のペースで事を運ぶだけの事だ。もう女に振り廻される気は無い。これまでそういう生き方をして来たのだ。今更誰彼に頼って生きて行く積もりも無ければ妻も子供も要らない。たった一人ででも生きて行けるのだ。尤も、それは寂しい人生だと言う人も居るだろう。しかし、私は一向に構わない。女と舞子とが私に付いて来る限り私も出来る限りの事はしよう。妻も私に付いて来るならそれも良いだろう。但し、馬鹿息子とは縁を切ってしまいたい。父親から見限られれば考えるだろう。それで逆に一生恨もうが自分が蒔いた種なのだ。自分で刈り獲るしか解決方法は無い。男ー匹、自分の身の振り方も出来ない様では見込みも無いという事だ。(つづく)



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