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ヨミガエリ{小説
「何でだよ!嘘だろ!何でよりによって美紀なんだよ!」
あれから、もう
一年がたとうとしている
時間というものは
恐ろしいものだと、つくづく感じる
美紀を、忘れたくない
美紀への想いを、薄めたくない
俺は時間の流れに
必死にはむかいながら
今でもまだ、もちろんこれからも
彼女だけを愛して生きてゆく
「勝也くーん!」
俺は、蓮沼圭の声に足を止めた
「…何だよ。デカイ声出して」
「今日一緒に帰れない?」
「何で?」
「え?何と無く。話したいなぁと思って」
「何の話だ?今ここで言えるなら、その方が有難いんだけど」
俺が止めた足を再び動かし
校舎へと向かうと、圭もそれに続いた
「今日、だめなの?何か用事?」
「別に」
「じゃあいいじゃん!」
圭が足を速めた
「じゃ、放課後下駄箱で待ってるからね!」
圭は走って校舎へ入った
俺はスピードを変えずにそのまま歩いた
「勝也!」
知哉は俺の幼馴染だ
美紀のことも、あの時のことも
全て知っている
そして、今の俺の気持ちも
「おはよう」
「おう!元気ねーじゃん!」
「お前が朝から元気すぎなんだよ」
「そうかー?それより、さっき蓮沼と話してたじゃんよ!」
「え?ああ、話してたと言うより、かなり一方的だったけどな」
俺は下駄箱から靴をとりだし、履き替えた
「蓮沼、お前のこと好きなんだぜ?」
「笑えねぇ冗談はやめてくれ」
「え、何で?蓮沼、かわいいじゃん?」
「いらねえよ、あんな女。第一うるせぇのは嫌いんだよ」
「美紀ちゃんだって、元気な子だったじゃんよ」
「…美紀は違う」
ほかの女を好きになることは
美紀を忘れることなんだ
「ああ、そうだな」
美紀を忘れるなんて、絶対に無理な話だ
忘れたくもないし、忘れようとも思わない
「今日数学あったよな?宿題写させてくんねぇ?」
むしろ、忘れるのが怖いくらいだ
「ああ」
俺達は教室に入った
「勝也くん!おはよ」「おっはよぉ!」
女子達の明るい挨拶に
俺は小さく「ああ」とだけ言っておいた
「圭もさあ、よくあんな無愛想な奴好きになるよねー」
「女なんて興味ねーよ、って!かっこつけちゃってさー」
なあ美紀
今日もお前は、居ないんだな
当たり前か
俺はあれから、ずっと、探してるんだ
校舎の中、女子の軍団、通学路
でも、どこにもお前は居ないんだよ
居るはずもないのに、今でも、探しちまうんだよ
なあ、美紀
そろそろ帰って来てくれてもいいんじゃねぇのか?
「圭!ファイトだよ!」
女子の大きな声に、俺は現実に引き戻された
田村萌…最近の女は声がでかい
「ねえ、勝也くん。ちょっとお話があるんだけど」
またお前かよ
出そうになった言葉を喉の奥に引っ込めた
「…なんだよ」
「ちょっと、廊下まで来てもらっていいかな?」
「…ああ」
俺は蓮沼圭につれられて、廊下へ出た
「圭ね…ずっと、勝也くんのことが好きだったの。付き合って下さい」
「悪いけど、」
「即答!?ひどーい、勝也くん!少しは考えてくれたぁ?」
「…でも、俺は、」
「好きな子でも居るの?」
居、る…
「ねえ、居るの?」
「お前にそこまで聞かれる筋合いはない」
「ひどっ!勝也くん、冷たいよお。女の子はね、デリケートなんだからね?今回は諦めるけど、絶対振り向かせてみせるんだから。覚悟しといてよね」
「…悪いけど、俺はそんなつもりないし、全然」
「待って!それ以上は聞かなくてもわかってる。だから、言わないで?」
「…じゃあもう、俺は諦めてくれ。俺がお前に振り向くことなんて、絶対ないと思うし。俺を思うだけ無駄だ」
「…私、諦めないもん。振り向かせる自身あるもん」
「迷惑なんだよ…」
「えっ…」
「おいおい、勝也ー!それは酷いんじゃないのかー?」
知哉が俺と圭の間に入った
「お前には関係ないだろ」
「圭ちゃーん、近いところで俺なんかどーよ?」
「え?」
「俺!」
「知哉も好きだよー?だけどごめんねぇ」
「あちゃー、振られちったよ!なあ圭ちゃん、俺ら振られた者どうして、退散しよーぜ」
「…うん。今日はもう諦める」
俺は圭と知哉を残してその場をあとにした
たとえ、圭がクラスでも
一、二を争うほど顔がよくても
俺が圭に振り向くことはない
「勝也ー!もう帰るんか?」
「ああ」
「じゃあまた明日な!」
「ああ」
今日も、何もなかった
変わりなかった
美紀も、居なかった
ヴー ヴー
制服のポケットの中で
バイブが響いた
圭からの電話だった
━「もしもし?勝也くん?」
「なんだよ?」
━「今どこに居るの?今日の放課後、下駄箱で待ってるって言ったじゃん」
「もう帰る。今日は無理だから。じゃあ」
━「待って!切らないで」
「何だよ」
━「…今から、会いたいの。今どこ?すぐ行くから」
「…無理だって言ってんだろ」
━「お願い…少しでいいから」
「……じゃあ、西公園の前に居るから」
━「わかった!すぐに行くから、待っててね!」
そのまま電話は切れた
5分ほどして、圭がやってきた
「勝也くーん!」
いつもと変わりない、元気な姿
「…何だよ。何か用かよ?」
「ううん、そうじゃないの。ただ、嫌われちゃったかな、って、不安で…」
「何だよそれ」
「気持ち、伝えたくて、告白したけど…それがキッカケで、もう、勝也くんと話せなくなるの、怖くて」
「…自信満々に絶対振り向かせるとか言ってたのは、どこいったんだよ」
「あれはさ…皆の前だったし。私、ああでも言わないと、本気でつらくて、泣いちゃいそうだったの」
「でも、俺はお前の気持ちに答えることは出来ないんだ」
「その理由を、聞かせてくれない、かな?私、ちゃんと納得しなきゃ、諦められそうにないの」
「…わかった」
圭と俺は公園のベンチに座った
風が少し、冷たかった
「…好きな奴が、居るんだ」
圭の表情が少し、歪んだ
「…両思い、なの?」
「両思い、だったのは確かだ。今もそうだと思う。けど、それは確かじゃない」
「どういうこと?別れた、ってこと?」
「別れた訳じゃない」
「じゃあ、どうして今も両思いか、わかんないの?…私、全然わからないよ」
「これ以上は言いたくない…もう、いいだろ?」
「お願い、教えて?」
「言いたくないんだ、もう」
しばしの沈黙があった
俺はベンチから立ち上がった
「もう、帰るの?」
「これ以上話すことはないから」
「…帰らないで、って、言ったら?」
「お前、もう、ほかに好きな奴見つけろ。俺なんて好きでいたって、辛いだけだ」
「辛くなんて…ねえ、お願い…せめて好きで居ることは許して」
「…好きにしろ」
俺はその場から立ち去ろうとした
「勝也くん!行かないで」
圭が俺の腕をつかんだ
「っ、美紀!」
公園の前を、通り過ぎた
今、確かに、見えた
あれは…美紀だ
「美紀!美紀なのか?!」
「勝也くん!どこ行くの!」
「美紀!」
俺は美紀の腕をつかんだ
「きゃっ…何ですか?」
「美紀なのか…?本当に」
「私は美紀だけど…あなた、誰?」
「俺だよ!勝也だよ!なあ美紀…何で此処に居るんだよ?」
「勝也って誰ですか?私、本当にあなたの事知りません!離してください」
「…美紀?俺のこと、忘れたのかよ?」
後を追ってきた圭が、息を切らして俺たちの元へ来た
「勝也くん、誰?この人」
「なあ美紀…何で忘れたんだよ、俺のこと…美紀…戻って来たのか?俺の、元に、戻ってきてくれたのか?」
「何言ってるの。あなた、おかしいわよ。私は美紀だけど、あなたのことは知らないし、戻ってきたって、何のこと?」
美紀、だろ?
美紀なんだろ?
なあ…なんで、俺のこと、忘れたんだよ
「なあ美紀、話をしよう。そうすれば、思い出すかもしれない」
「私はあなたなんて知らないし、迷惑です。警察呼びますよ」
「美紀……あ、じゃあ、知哉のことは?知哉、覚えてないか?」
「知哉…?知りません」
「美紀…今から、どこ行くんだ?もう俺のこと、おいていかないでくれよ」
「家に帰るんです。もう本当に、これ以上しつこいようなら警察呼びますよ?」
「お父さんや、お母さんのことは覚えてるんだろ?なあ、何で俺のことは、」
「だから、知らないって言ってるじゃない。もう私、帰ります」
美紀…忘れちまったのかよ
俺のことだけ、俺との思い出だけ、全て、すっきりと
「勝也くん?ねえ、誰なの、あの子。もしかして、さっき言ってた子?」
美紀だよな
絶対、美紀だよな…
俺は遠ざかっていく美紀の後ろ姿を目で追っていた
「ねえ、勝也くんってば!あの子なに?ねえ、誰?」
戻ってきたのか?本当に
俺との、記憶だけを消して
「ねえ!答えてよ、勝也くん!」
俺は圭の声なんて耳に入っていなかった
何がなんだか分からなくて
知哉に電話した
「知哉?美紀が、美紀が居たんだ」
━「勝也?美紀ちゃんがいたって、どういう事だ?」
「美紀と今、話したんだ…戻って来たんだ。でも、俺の事、全く覚えてないんだ」
━「勝也、落ち着け。美紀ちゃんが居る筈がないって事は、お前もよく知ってるだろ?」
「でも、あれは美紀だった」
━「話したのか?」
「ああ…美紀だって言った。けど、俺の事は忘れてた。お前の事も」
━「勝也、今どこに居んの?今すぐ行くから、そこで待ってろ」
「西公園」
━「分かった。そこから動くなよ?」
「ああ」
俺は動揺していた
当たり前だ
美紀が、死んだはずの美紀が
ここで、俺と話したんだ
「勝也くん?知哉来るの?ねえどうなってんの?あの子、なんなの?」
「お前はもういいから、帰れ」
「なんで?どうしてそんなに焦ってんの?あの子、元カノ?」
「いいから帰れ」
「やだ。だって気になるんだもん!教えてよ、勝也くん。あの子誰?美紀っって、誰なの?」
「勝也!」
知哉が走ってきた
「美紀ちゃんは?」
「家に帰ったと思う」
「本当に、美紀ちゃんだったんだな?」
「ああ。絶対、間違いない」
「勝也のこと、分からなかったのか?」
「聞いたけど、何も知らないって」
「ねえ知哉!美紀って誰なの?勝也、何も教えてくれないの」
圭が知哉の腕をつかんで問いただした
「圭、悪いけど、今日はもう勘弁してくんねーか?」
「知哉、本当に美紀だったら……俺」
「ねえ知哉!何で教えてくれないの?勝也くんとあの子、どういう関係なの?」
「あの子、って、圭も見たのか?」
「見たって?勝也くんが俺の事覚えてないのか、って迫ってた子でしょ?見たよ?」
「じゃあ幻じゃないんだな……勝也、今から美紀ちゃんの家に、確かめに行くか?」
「…ああ」
「行けるか?大丈夫か?」
「ああ、大丈夫だ」
「圭、悪いけど、今日は帰れ」
「待ってよ、私全然話見えないんだけど」
「いいから。じゃあ、また明日な」
「ちょっと、」
知哉は俺の手を引いて走った
美紀…
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