ナ イ フ {小説



いけないと思ったんだ


このまま自分が

腐り、廃れてゆくのを

ただじっと

待つだけだなんて

もう、我慢ならなかった


理由はそれだけ

ただ、それだけ












ゆっくりと歩いてた

気が進まないのは

毎日のことだ

どうしても中学だけは

卒業しなくてはいけないって

父も母も言った

だから私は毎日同じ道を通う

こんなに苦しんでいるのは

誰のせいでもない

みんな、思春期で心が不安定なだけ

少しむしゃくしゃして、無性に暴れたくなって

誰かを、殺めてみたくなったりもして

でも大きなことは出来ないから

その不甲斐なさに、嫌気は重なって

小さなことでもよくなる

どんなことでもいい

ただ人を、少しばかり気に食わない人を

地獄へと追いやりたくなる

「寒くなって来たよね」

後ろから声がした

声を聞いただけでも、すぐに分かる

その声の主が誰だか

腹立たしいことに、すぐに分かってしまう

「ほんと寒い!手が悴んでメールうてない!」

たぶん、一緒に居るのは横山佐恵子

そして声の主は

佐伯奈緒

さ、え、き、な、お、

私の一番の敵

大人しくて優しくて頼りがいがあって

みんなからも先生からも好かれてて

成績もよくて運動神経は鈍いけど

そこがまた可愛いらしく、男子からも人気があって…

そんな奈緒が、私は、とてつもなく

憎らしい

本当はそんな子じゃないってことを

私だけが知っている

「ねえ奈緒、前に居るの結衣じゃない?」

「あ…ほんとだ」

「ねえ、荷物持たせてやろーよ」

「駄目だよそんなの…まるで私達がイジメてるみたいじゃない」

「いいじゃん!別に。私が頼んで来くるからさっ」

「…あ、佐恵子っ」

足音が近づいてきて、横山佐恵子が私に声をかけた

「なあ!」

私は足を止めた

「荷物持って欲しいんだけど」

何も言わず、無言のまま

私は再び足を動かした

さっきまでと同じスピードで歩く

「はい。机の上に置いてて」

佐恵子は私に鞄を二つ差し出した

私はそれを黙って受け取り、奈緒の顔をみた

目が合ってしまって私はとっさに目をそらした

奈緒が近づいてくるのが分かる

「…私の奴隷。みーんな、そう。ただの遊びのコマでしかない」

奈緒は耳元で囁いた

私は何も言えずにただ自分の足を見つめていた

「貴方もよ、結衣」

背筋がゾっとした

「結衣ちゃん、優しーね。大好き」

「奈緒はほんと、誰でも好きなんだね」

「みんな好き。大好き」

「なのにイジメるんだあー、大好きな結衣ちゃんのこと」

「イジメじゃないもん」

「うん、そうだよね。奈緒の場合」

奈緒と佐恵子が私の前を足早に去って行った

先に学校へ向かうのか

どこか寄り道をしてから登校するのか

そんなの知らないけど

「おも…」

みんな知ってるから、あえて

イジメだなんて言葉を耳にしたのは

久しぶりだった

イジメとかじゃなくて…否、やっぱこれは

明らかなイジメなんだけど

でももう自然化してる

怖いくらいに


結局学校に2人は居なかった

私は2人の机に鞄を届けて

自分の席に座った

周りはにぎやかで

男子も女子も、皆、皆

笑顔だった

ただ一人だけ、私だけが

笑顔だなんて言葉と程遠い顔をしていた

そんな私を見て影でコソコソ笑ったり

どこかに呼び出して暴言をはいたり

そんなことはもう、なくなっていた

ただ

貴方なんて居てもいなくても一緒なんだよ、って

言われてるみたいで

私は暴言を浴びせられたり、笑われたり、悪口を言われたりしてた方が

幸せだったんじゃないかと感じた

普通のイジメらしいイジメを受けてた頃より

ずいぶんと、死にたいと思う時間が増えていた

「奈緒!佐恵子!おはよー」

「おはよー!」

「おはよ」奈緒は佐恵子とは対照的に小さく挨拶をした

「何、あんたら手ぶらじゃん!」

「皆、聞いてよ。佐恵子ったらひどいんだもん」

「えーなになに?」

「結衣ちゃんにね、鞄を預けたのよ」

「奈緒はほんといい子だね。あんな奴、使うだけ使えばいいんだよ。そんくらいしか、存在価値ねーし」

「てゆうか、あたしらから忘れられたら、生きてる意味なくなるじゃん?もう忘れかけてるんだけど。奈緒ってさ、人間の嫌な部分全て抜けてる!」

「とりあえず、結衣ちゃんにお礼言ってくる!」

足音だけが大きく聞こえた気がした

「結衣?」

奈緒が私の目線と同じになるように

机の前にしゃがんだ

「…ほら、見て。皆、私の見方。私のこと天使みたいに思ってる。ねえ結衣、あんただけよ?私の事、よおく分かってるの。ねえ、辛い?死にたい?でもね、安心して。結衣ちゃん、もう、あんた、あたしらの中から、存在消えかけてるから」

私は奈緒の顔を一秒も見ず、下を向いてるだけしか出来なかった

「私の一言で、あいつら、あんたのこと使わなくなる。ねえ、どうしたい?どうして欲しい?使われなくなったらね、待つのは廃棄処分だけよ?」

「……忘れ、ないで…」

「え?なに?聞こえない」

忘れないで、私のこと

私は此処に居る

「ねえ、今から言って来てあげようか?奈緒ね、真紀に死ねって言われたの。結衣ちゃん使うのやめてあげよっ?奈緒、真紀と友達でいたいの。奈緒きっと結衣ちゃんに意地悪してたから、真紀に嫌われちゃったんだ。奈緒、真紀と友達じゃなくなるの、やだよお…、って泣いて来てあげようか?そしたらあいつら、馬鹿だから、すぐに真紀をイジメるよ?そしたらもう、あんたなんて、私達の世界から居なくなる。跡形もなく、消え去る」

「…やめて……やめて、下さい」

声が震える

「じゃあさ、結衣ちゃん、私の言う事、なーんでも聞いてくれる?」

私は返事をしなかった

「心の中で、いいよ、って言ってくれてるんだよね?」

何も、答えられない

「じゃあ今から、契約ね?結衣ちゃん、大好き」

私の存在理由は、なに?

「奈緒ー!何話してたのお?」

「結衣ちゃんね、奈緒のこと嫌いじゃないって言ってくれたのお」

「奈緒の事なんて誰も嫌いになる訳ないじゃん!」

チャイムがなっても

私の頭の中では、まだ

奈緒の甘い声が残っていた

放課後、奈緒が私を屋上に呼び出した

「もー、遅いよ結衣ちゃん」

笑顔の奈緒が怖かった

「お願いがあるの。何でも聞いてくれるよね、結衣ちゃんなら」

私は声が出なくなる

いつも、そうだ

「…欲しい物があるの」

奈緒は耳元でささやいた

よくないことを考えているのは、誰でも分かる

「」


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