S O S{小説





今日もたくさんの書き込みが来てる

私はそれを無表情でただただ見ていた

なれた手つきでマウスを動かす

そして書き込みに対して返事を書く

ネット上では、何だって言える

自分の意見も、自分の気持ちも、何だって

スラスラとキーボードを打ち、並ぶ文字を確認して

投稿ボタンをクリックした



学校を休み始めて

もう、何日が立つだろう

親も諦めてる

担任は馬鹿みたいに3日に1回は電話をかけてくるけど

それも、もうじき無くなるだろうと思う

私のことなんて、皆、どうだっていいんだから


「美希?ご飯出来たわよ」

「…はい」

私はパソコンの電源を落とさずに

そのまま部屋を出た

「美希、今日はもうじきお父さんも帰ってくるから、此処に居て頂戴ね」

「私、部屋で食べるから」

「今日はお父さんも一緒なの。お願いだから、此処で食べて頂戴」

「…じゃあ、お父さんが帰ってきたら呼んで」

「分かったわ」

私は足早に自分の部屋へと戻った

家は、おかしいんだ

母は父のことばかり気にして、私のことなんてどうだっていい

父は世間体を気にして、私を『いい子』に育てた

私は、成績も常にトップで担任にも好かれ

絵に描いたような『いい子』であった

父は完璧主義で、少しでも成績が下がると「なぜ100点じゃないんだ?」

って、そればかり

私は必死に勉強し、担任に愛想をふりまき

学校では『いい子ぶりっ子』と呼ばれ、いじめられるようにまでなった

もういやだ

私の中で何かがふっきれた

ある日を境に、私はまったく学校へ行かなくなり

部屋からもあまり出なくなった

そんな私を母は恥ずかしいと言う

父はこの事実を知らない

母が必死に隠しているのだ

「美希ちゃん?お父さんが帰って来られたわよ」

私は仕方なく部屋から出た

母は父の前だと話し方が上品になる

「おかえりなさい、お父さん」

「ああ、ただいま。学校はどうだ?楽しいか?」

父は、いつもこれ

『学校は楽しいか?』父の口癖である

私はいつものように笑顔で答える

「すっごく楽しいよ!」

父は自分の育て方を否定されるのが一番嫌いだ

前に、私が学校は楽しくないと言ったときに

父はものすごく怒った

学校が楽しくないのは、自分に責任がある

まるで、お父さんは何も悪くないんだと言わんばかりに

「今日ね、帰りに友達の家に行ったの」

「そうか、楽しかったか?」

「もちろん。また誘われちゃったから楽しみだなー」

「そうかそうか。よかったな」

父は嬉しそうにしている

私が父理想の『いい子』で居ることが

父の中での最高の幸せなんだろう

「お母さん、ご飯食べようよ!私おなか空いちゃった」

ぽっかりと、穴の開いたような家庭だ

父が居る間だけ、私は母から明るく居るように言われている

いっそ、全てをバラしてやろうかと時々思う

「いただきます」

私はおいしそうに食事をした

父も母も笑顔で食事を楽しんだ

周りからみれば、理想の家庭

明るくて、裕福で、幸せそうにみえる

問題など、何もない家庭に見える

「ごちそうさま。じゃあ私、勉強したいから部屋に戻るね」

「ええ、勉強、頑張ってね。あまり無理しちゃ駄目よ」

「うん」

私は席を立ち、部屋に戻った

もちろん、勉強などするはずがない

部屋に戻るなり、私はパソコンのマウスを少し動かし

真っ黒になっている画面に光を戻す

パソコンに触れている時間が一番長いからか

パソコンの前に座ると、ほっとする

私は更新ボタンをクリックし、書き込みが増えていることを確認する

私の行き付けのサイトには

ひとつの話題に沿ってみんなが意見を交し合う掲示板がある

そこに私は【不登校の私】というスレを立て

みんなからの意見に返事を書いている

内容は、こんな感じだ

【不登校の私】
私は1年ほど前から学校へ行ってません
家庭も、見せ掛けだけの幸せです
こんな私は、生きていても無意味だと思います
ただ今は、何事からも逃げるように毎日パソコンに向かう日々です

この投稿に、みんなは毎日のようにレスをくれる

そのたびに私はそのレスへ対しての返事を書く

時には喧嘩になったり、分かり合ったり

自分の意見を、手が語る

ここでなら、全て言える

ここでなら、何だって言える

ここにだけ、本当の私が居る

ここにはたくさんの仲間がいて、たくさんの友達が居る

寂しくなんてない

ここに居れば、いつだって誰かが居てくれる

一人ぼっちじゃない

ひとつため息をついて、たくさんの書き込みを読む

その中に、ひとつ、気になるものを見つけた

投稿者:匿名男子
君はここに助けを求めているんだね
なんて可哀想な子なんだろう
今の君は惨めだよ
学校から逃げ、親から逃げ、世間からも逃げている
そして、自分からも
全てのことに目を閉じ、そして怯えている
君は、このままずっと、そうして生きてゆくつもりか?
どこかで変わらなければ、君は一生一人だ
寂しく、孤独な人生を歩むことになる
今だって、もう、一人になりかけている
周りを見てみな。君の側には誰も居ないだろう?

「なに言ってんの…馬鹿じゃない」

私は返事をすぐに書き込んだ

投稿者:アリサ
匿名男子さん、ご忠告どうもありがとう
でも私は一人じゃない
いつだって、ここには誰かが居る
それに私は元は人気者だったの
世間に出れば、友達なんてすぐに出来るの

ここでの私の名前はアリサだ

私は投稿ボタンをクリックした

一人?馬鹿じゃない

母だって、父だって、一応私の親なんだから

私が心を開いた振りでもすれば、すぐに態度だって変わる

今は、それをしないだけで

返事はすぐに返ってきた

投稿者:匿名男子
アリサ、目をさませ
よく見てみろ
お前の居場所はもう、この掲示板だけになっていないか?
この掲示板なんて、すぐにでも壊れてしまうような存在なんだぞ?
ここに居る奴らだって、この掲示板が閉鎖すれば
もう話すことも出来ない
いくら友達だと思っていても、連絡手段がなくなったらすぐに終わる
それにアリサ
お前が今から世間に戻ったとしても、見せ掛けの友情しか出来ない
見せ掛けの友情は、この掲示板と同じで
すぐに壊れる
その証拠に、お前の友達は、今、お前の敵じゃないのか?
お前は一人だ

何こいつ

いやな奴

更新ボタンをクリックすると、意見がたくさん来ていた

投稿者:萌
そうだよね、匿名男子さんの言う通りかもしれない
アリサ…私達は今、仲のいい友達だけど、このサイトが閉鎖したら
もう終わりなんだもん
私は、現実世界でアリサに会おうとは思わない
アリサもそうだよね?
私達はここでだけの関係なんだもんね…

投稿者:ハルキ
匿名男子って、すげー腹立つ奴だと思ったが
確かにお前の言う通りだよ
アリサも、修復不可能になる前に、気づかないとな

投稿者:敦子
アリサ!私はアリサの友達だから!
アリサは一人なんかじゃないんだよ!
って、言いたいけど
匿名男子さんの投稿をみて、そう言えない私が居るよ…
ごめんね、アリサ

投稿者:桃子
ねえ みんな アリサを見捨てるつもり?

投稿者:萌
見捨てるなんてしないけど
じゃあ、明日、アリサとここに居るみんなで、会おう?って言ったら
みんな、会ってくれるの?会えるの?

投稿者:佳代
無理だね。私、現実世界では皆と会う自身ないし

投稿者:KAONASHI
この危険なご時世何が起こるかわかんねーもんな

投稿者:桃子
そう言う私も、地方に住んでるから会えないんだけどね

待ってよみんな

昨日まで、あんなに仲良くしてたじゃない

仲良く、…してた、つもりだったのは私だけ?

私は本当に、孤独なの?

投稿者:匿名男子
アリサ、明日、会えないか?
俺はアリサを悲しませるためにここに来たんじゃないんだ

投稿者:アリサ
どういう事?

投稿者:匿名男子
明日、1時に渋谷駅前で待ってる
俺はアリサを孤独から救える存在だ
明日、待ってるからな

投稿者:アリサ
ちょっと待ってよ、匿名男子さん
あなたは私の顔も何も知らないじゃない

投稿者:匿名男子
わかるんだ。俺には
アリサを救えるのは、もう、俺だけだから
明日、待ってる。じゃあ、もう落ちるから

投稿者:萌
アリサ、行くの?

投稿者:桃子
危ないよ!危険すぎるよ
アリサ、行っちゃだめだよ?

投稿者:ハルキ
気味の悪い奴だったな

私はそのままパソコンの電源を落とした

明日、1時に、渋谷駅前

さっきの文字が頭に浮かぶ

あいつは、私を救ってくれる?

馬鹿らし…

私はそのままベッドに入り、眠った

目がさめたのは朝の8時だった

1時まで5時間か…なんて思いながら

私はシャワーを浴びた

父はもう仕事に行っており、母は部屋に居るのだろう

考える暇もなく、私は学校の制服に着替えた

制服なんて、来たのは何年ぶりだろう…?なんて思いながら

私は鞄を持って家を出た

朝の電車は通勤や通学する人でいっぱいだった

その中で私は一人、違う存在

渋谷駅に着くと、電車を降りて、駅前に言ってみた

時刻は9時になっていた

自分でも、なぜ来てしまったのか分からない

足が勝手に動いていた

私はキョロキョロと周りを見渡した

もちろん私は、匿名男子の顔なんて知らないから

どこかでそいつを見つけることも出来なかったけど

相手も、私を分からないだろうな、と思った

私は制服で、不登校の奴が制服を着ているだなんて思わないだろうし

顔も見たことがないんだから

私は近くの喫茶店へ入った

とりあえず、何も考えず家を出てきたから

時間を潰そうと思った

いつもならネットをしているから

時間がたつのなんてあっという間だから

この喫茶店だけ、時間が止まっているように思えた

退屈

その2文字だけが頭にあった

「ご注文はお決まりですか?」

「あ…ああ、ミルクティー」

「ホットですか?アイスですか?」

「あ…ホットで」

「かしこまりました。少々お待ち下さい」

家族以外の人間と会話するなんて久しぶりだった

顔を見て話すということは、以外に、緊張するものなんだ…

しばらくして、頼んだホットミルクティーが来た

私は少し飲んで、外を見た

駅前には、まだ、匿名男子は来てなかった

…ような気がした

私が制服を着てきた理由のひとつに、

相手に見つからないためというのがあった

渋谷の駅前には制服を来た女の子達がたくさん居て

私がその中で立っていても

せいぜい、誰かと待ち合わせをしているようにしかみえないだろう

会いたい気持ちと、会うのが怖い気持ちが交差している

時計が1時をさす頃、私は渋谷の駅前に立てるのかな…

ずっと外を見ていた

あいつは、来ないだろうかと、少しわくわくしながら

顔も分からないのに

しばらくすると、一人の男が渋谷の駅前に立った

時計を気にし、周りをキョロキョロと見ている

あいつかな?なんて思っていたら

その男の元にワンピース姿の女の子が走ってやって来た

なんだ…と、私は少しガッカリした

平日なのにデートかよ、なんて思ったりして

私はまたミルクティーを一口飲んだ

時計の針は、10時を過ぎていた

私はミルクティーを飲み干し、会計を済ませ

外に出た

行き先なんてあるはずもないから

渋谷の街をぶらぶらとただ歩いた

1時になるのが、少し怖かった

もしも来なかったら?誰にも声をかけられずに、2時が来て、3時が来て

もしも、昨日の言葉が、ただの、冷やかしだったら?

私は馬鹿だ

馬鹿としか言いようがない

第一、少し考えたら分かることだったのかもしれない

あんな奴、ネットの世界にはよくいるじゃないか

私はあんな奴に踊らされ

こんなところまで来てしまった

まったく、馬鹿らしいにもほどがある

でも、もしも、来たら?

渋谷駅前に突っ立っている私に声をかける男が現れたら?

私は、どんな反応をすればいい?

私は何と無くコンビニに入った

学校へ行っていたとき、毎日のように買っていたパックの紅茶を手にし、

レジへ向かった

あの頃を思い出す

馬鹿真面目に毎日学校へ通い

だけど、馬鹿みたいに楽しかった時期もあって…

お金を払い、おつりを受け取り、私は再び駅前に戻った

11時にはまだなっていなかった

私の中では、もう、1時を過ぎていてもおかしくないくらいだった

時間というのは、案外、ゆっくりと流れていることに気づいた

毎日同じことの繰り返しだったから、気づかなかったけれど

人間に与えられた時間って

こんなにもたくさんあったんだ

ふと風を感じ、周りを見てみると、制服を着た女の子が走り去って行った

あわただしいなあ、なんて思いつつ下を向くと

ハンカチが一枚、落ちていることに気づいた

すぐにあの子だと思った

でもその子はもう居なかった

私はそのハンカチを何気なくコンビニの袋に入れた

1時にはまだならない

私はぐるりと渋谷駅の周りを歩いてみた

たくさんの人が、忙しそうに歩いている

私が毎日どれだけゆっくりとしているかが分かる

それから私はただ歩いていた

時刻は12時になった

渋谷駅に戻ると、人が少し増えていた

私は駅前に立って、ただ通りすがる人達を見ていた

すると、肩をたたかれ、私はびくりとした

後ろを振り向くと、黒のジャケットを着た男が立っていた

「…なんですか?」

男はにっこり笑った

私はただ無言で、その男の顔を見ていた

決して、不細工ではない

どちらかというと、かっこいい分野に入るだろう

「匿名希望ってわけにも行かないから、自己紹介をするね」

こいつが、匿名男子?

「俺は本田晃。君は?」

「…あなたが、その…っ…」

「君を救えるただ一人のヒーロー、とでも言おうか?クサイ?匿名男子、って言えば、もう分かるよね?」

「…どうして私がわかったの?」

「アリサのことなら何でも分かるよ」

「…本名、知りたい?」

「美希ちゃんでしょ?」

「え?何で知ってんの?」

「だってほら。鞄に名札がついてる」

私は鞄を見た

ファスナーのところに、美希と書いた名札がついてた

これは、私がちゃんと学校に行ってた頃、皆でおそろいで買った

キャラクターものの名札だ

「どうして制服?学校帰り?」

「そんな訳ないでしょ」

「制服着ればバレないと思った?無駄だよ。だって俺、美希のことなら何でも分かるって言っただろ?」

「あなた、年上だよね?」

「見るからにそうだね。美希は中学生だろ?」

「美希って呼ばないでよ」

「気強いねー、そんなんじゃモテないよ?あ、今ツンデレってやつが流行ってるから、逆にモテるのか」

「馬鹿にしてるの?私、帰るから」

男は歩き出した私の腕をつかんだ

「だめ。帰さないよ」

そう言い、にこっと笑った

「どこ行こっかー?今日はデートだよ。思い切り楽しまなきゃ駄目だよ?俺のことは晃でいいからね」

「デート?」

「そう。俺、美希のこと好きになっちゃったから」

「は?何言ってんの?」

「ほら。もう美希は一人じゃない。俺がいるだろ?」

馬鹿馬鹿しい

「離してっ」

私は掴まれていた腕を振り払った

「約束の時間、1時じゃなかったの?」

「待たせたら可哀想だと思って、早めに来たんだ。そしたら、美希が居た。早めに来ておいてよかったよ。美希は何時から来てたの?」

まさか、9時にはもう着いていた、だなんて言えなかった

そんな事言ったら、まるで私が期待して来たみたいじゃない

「さっき。ほんとに、たまたま気が向いたから来たの。まさか、本当に来るなんて思わなかったから」

「俺は来るよ。だって昨日、俺から誘っておいて、行かない訳にはいかないだろ?」

「……なんで私を誘ったの?昨日、ネットで話すのも初めてだったよね?」

「この子は俺にしか救えないって思ったから。直感、ってやつ?」

「馬鹿じゃない」

そんなの絶対に信じない

「俺達は巡り会わなければいけない運命だったんだ」

「そんなの、あるわけないじゃん」

「美希は運命を信じない?俺は信じるよ。何事も、信じることから始まるんだ」

大嫌いなタイプ

運命とか、そんな迷信を信じたりして

第一、信じること自体、私にはあり得ない

何かを信じて、誰かを信じて、いいことなんてひとつもなかった

信じたら、待つのは裏切りだけ

「朝食は食べた?」

「…食べてないけど」

「3食はちゃんと取らなきゃいけないよ?規則正しい生活は、全てを上手く運ぶ」

「……食事は、あまり好きじゃないの。家族が、唯一そろう時間だし。私、そういうの大嫌い」

「美希は天邪鬼だね。美希が嫌いって言ったら、それは好きの事なんだね」

「どうして?」

「見てたら分かる。君は、そんな子じゃないよ」

私は黙った

もう、何を話しても無意味だ

「私やっぱ帰る。あんた、おかしいよ。しかも赤の他人とこうして同じ時間を共有するのって、不気味。もうネット上で見かけても声をかけないで」

私は歩き出した

「分かった。じゃあね、ばいばい」

「え?」

振り向いたら、そいつも反対側に歩き始めていた

「ちょっ、ちょっと!」

「どうしたの?」

「止めないの?」

「なぜ止める必要があるの?美希はもう帰りたいんでしょ?」

「そう、だけど…」

すると男は笑い始めた

クスクス、と

いやな感じ

「何?」

「だって美希、あまりにも素直じゃないから…っでも、意外と可愛いとこあるね。本当は帰りたくなんてないんでしょ?美希は天邪鬼だから。止めてくれると思った?ははっ…これで美希の心が分かったよ。大丈夫、安心して?俺は最初から帰す気なんてゼロだから」

見透かされてる

「さあ、行こう?」

そいつは私の手を握った

「何すんの!」

「手、つないだ」

「そんな事は分かってる!」

「だめだった?いいじゃん。デートなんだからさ」

私はなぜか恥ずかしくて、下を向いて歩いた

「ねえ…」

「晃でいいよ」

「……晃?」

「何?」

「どこ行くの?」

「カラオケBOX」

「カラオケ?どうして?」

私は晃の顔を見上げた

「美希はカラオケ、嫌いじゃないでしょ?」

確かに昔はよく行った

ストレスの発散場所にもなっていた

最近は、めっきり行かなくなったけど

て言うか、一緒に行く人が居なくなった

「美希の笑顔が見たいんだ」

「…え?」

「美希、会ってから全然笑ってくれないから」

そういえば私、笑ってなかったっけ?

昔はよく、『美希っていつも笑顔だよね』って言われてたのに

私、笑ってなかったの?

そういえば最近は、父親の前での作り笑いだけで

ずっと部屋に居るし、誰にも会わないから

笑顔を見せる必要もないもんね…

晃に手を引かれるがまま、私達はカラオケBOXに入った

部屋に入ると、晃はすぐに証明を暗くした

「カラオケはね、暗い方が楽しくなるんだ」

「…うん」

晃は私にマイクを手渡した

「どうぞ?美希が先に歌ってよ」

「…私、歌わない」

「美希の歌声、聞きたいな。だって美希、歌上手じゃん?」

「…だから、何で知ってんの?」

「あ、上手いんだ」

「上手く…っ、昔は、…皆は上手いって言ってたけど……私は全然」

「ほら、歌いなよ?ね?」

「でも私、今流行の歌とかわかんないし」

「童謡でもいいんじゃない?」

私は画面を操作し、歌を選ぶ

ピピピっと、センサで歌が送り込まれた

私は息を深く吸い、はいた

それと同時に音楽が流れ始めた

カラオケに来ると、いつも、一番に歌わされてたな…なんて

昔を少し、思い出した

歌が終わり、晃の拍手で目を覚ました

私は歌っている間、別世界に行く

「…っ」

急に恥ずかしくなり、マイクを机に置いた

「…次は、晃の番!」

晃は何も言わずに、歌を送り込み、歌いはじめた

私はその歌声に聞き入ってしまった

上手い…

思わず、眠ってしまいそうだ

久しぶりに聞いたかも、こんな、心が休まる歌

「…美希?」

「あっ!え、なに!?」

「ボーっとしてたから」

「思わず…っ、ごめん。上手くて、聞き入ってたら、なんか…違う世界、行ってた」

「ははっ。美希はほんと、可愛いよね。ちなみにさっきの歌、美希の事考えながら歌ったんだけど?」

「私の、こと?」

歌詞なんて、全く見ていなかったから

すぐに思い出せなかった

メロディーと、歌詞が一体して私の体の中に吸い込まれて

私、少しの間、意識を失ってた?

「君を愛してる…」

「えっ?」

「さっきの歌詞の一部だよ。美希の事、思いながら歌ったって言ったろ?」

「かっ…からかってるの!?」

「まさか。俺は大真面目」

「……私の事、好きなの?」

「うん。好きだよ?」

「……なんで、そんな、初めて会った人のこと、好きになれるの?」

「俺、ずっと前から美希の事知ってた」

「……ネット上で?」

「…まあ、そういう事にしておく?」

「何それ。曖昧。まさかストーカーなの?」

「ははっ…もしそうだったら、どうするの?今すぐ此処から逃げ出さないと、大変なことになるよ?」

晃は私の腕をつかんだ

「ちょっ…え?何?まさか本当にストーカー…」

背筋がぞくっとして、晃の笑顔が怖くなった

「やっ…冗談でしょ?」

「ははっ…冗談だよ。だからそんなに怯えないでよ?」

私は一気に力が抜け、ソファに崩れるように座った

「そんなに気抜いちゃ、本当に危険だよ?俺だって、一応男なんだし。まがいなりにも、美希の事、好きなんだよ?」

「いいの…私も、晃の事、嫌いじゃない……」

「それって、両思いだと思ってもいいの?」

「…誤解しないでよ。別に好きなんかじゃないもん。て言うか、むしろ大嫌い」

「美希の大嫌いは、大好きって意味だよね?」

「…っ違う!…っ」

突然、晃が私にキスをした

「ちょっと!…何すんの」

「キスだけど?」

「有り得ない!私はあんたの彼女でもないんだからね!?」

「俺、美希のこと結構本気なんだよね。だからどうしても、恋人になって欲しいんだ」

「ばっ…馬鹿にしてるの!?」

「ううん、本気」

「…なんで?て言うか、私達、さっき会ったばかりだよ!?」

「ははっ、いいよいいよ。気にしなくて。それより歌いなよ?」

「いい。もう歌いたくない。晃歌っててよ」

すると晃は黙って歌い始めた

何曲も、私に話しかけることなく

ずっと

私は、ずっとこの時間が続けばいいな、なんて思った

すごく居心地がよかったし、何より安心できた

人と居て、こんな感覚になったのは久しぶり

ずっと、力を入れて生活してきたから…

「…ねえ、今時の若い子って、どんなデートするの?」

急にマイクを置き、晃が私の隣に座った

「…カラオケとか、プリクラとか?」

「へえー…じゃあさ、プリクラとりに行こう」

「なんで?」

「久しぶりじゃない?美希、プリクラとか。そういうの」

そういえば、そうだ

前は何気なく、当たり前のように放課後遊んで

プリクラをとったり、カラオケへ行ったり

今じゃそれは、当たり前じゃなくなっていて

ああ…なんかむなしい

私は、なんて孤独になってしまったんだろう

なんだか急に、泣きたくなってきた

「美希?」

泣くもんか

絶対、涙なんて、見せてたまるか

「…肩の力を抜いて生きてみれば?」

私は晃の顔をみた

晃は微笑んでた

「美希はさ、少し頑張りすぎたんだよ、皆より」

…だって……頑張らないと

いけなかったんだもん

勉強も、友情も、私が幸せに生きるためには

どれも無くすわけには行かなかったんだもん

「今もどこかで毎日、勉強のことや友達のこと、将来のこと考えて、悩んでるんでしょ?」

「そんなの…当たり前じゃない。不安に思うよ…そりゃ。だって私、不登校なんだよ!?勉強も全くしてないし、友達だって…もう、…なくした。家族だって、もう…ほんとは、戻せないんじゃないかって…私のことなんて、本当にどうだっていいから、親は…わかってくれないから…っ私、一生一人で…孤独で…」

あれ?おかしい

目が暑い

涙が、止まらない

「もういいよ、うん、分かった。美希の気持ち、俺は、受け止めるから」

「どうして…?どうしてそんなに、私なんかに…優しく、」

晃は私を引き寄せて、抱きしめた

「美希…やり直せるよ、まだ」

「…っネットの世界だけが、居場所だった……皆が居るから、って…思って、どこかで安心してた…それだけが、私をこの世に引き止めてた…っ……本当は、死んでしまいたかった。こんな私、消したかった」

「うん、うん…」

晃は私の頭を撫でた

そんなに優しくしないでよ

私、本当は、すごく、弱いんだから

「…もういいよ。ありがとう。私、帰る。今日はありがとう。もう、私のことは忘れて。じゃあね」

「美希待てよ!」

「…もうやめて。これ以上優しくされたら、離れられなくなる。私、晃が居ないと、だめになっちゃう。私、一度誰かに頼ったら…もう、一人ではいられなくなっちゃうの。寂しくて、悲しくて、仕方なくて…」

「俺、消えないよ?美希の親や、友達みたいに、美希のこと一人になんてさせないよ?寂しいのは当たり前だよ。人間なんて、一人じゃ生きていけない、弱い動物なんだから。俺を信じろよ…美希」

私は晃に抱きついた

「本当に、離れられなくなっちゃうよ!?」

「いいよ」

「晃…っ」

私は泣いた

子供みたいに、声をあげて

「…なあ美希。本当の事言うと、俺、美希の事、美希が小さい頃から知ってるんだ」

「えっ?」

「幼稚園の頃、近所に住んでた、あーちゃんって覚えてる?」

「あーちゃんって、晃くん…年上のお兄さんが居た。よく遊んでくれて…」

「それ、俺なんだよね」

「え!?うそ…」

「で、俺、一度引っ越したんだけど、中学の時、戻ってきたんだ。そしたら、まだ小学生だった美希が居た。声をかけたかったけど、すれ違っても気づかなかったから、俺はずっと、影からみてた。まるでストーカーみたいにね。その頃から、俺は美希が好きだったのかもしれないね」

私はいろんなことを思い出していた

どんどん、色んななぞが解けてくる

「でもっ、どうしてあの掲示板に、私が居ることを?」

「それはね、本当に偶然。文章と名前見て、美希じゃないかって思った。アリサって、昔美希が飼ってたウサギの名前でしょ?」

「うん、アリサ…」

「それで、賭けたんだ。もし駅に美希が来たら、それは運命。もしも美希がずっと来なかったら、人違いだと思おうとした」

「顔、よく覚えてたね」

「だって美希、小さい頃からあまり変わってないから」

「そうかなー…少しは大人っぽくなってない?」

「なってるよ、ほんの少しね。だからまた、惚れ直した」

晃は笑った

その笑顔は、とても安心できる

私の、新しい、居場所

「ネットの皆にさよならしなくちゃ…このままじゃいけないのは、分かってるの」

「そうだね。新しい中学のことも、考えなくちゃいけないよね」

「ううん…今まで行ってた所でいい。私、もう平気。イジメられても友達居なくても、もう学校に居場所作る必要がなくなったんだもん」

私は笑った

久しぶりに、笑ったような気がした

「あ、笑顔」

なんだか嬉しかった

「あのさ、正式に言うね。俺、美希のことが好き。だから、付き合って下さい」

「…はいっ!」

私はもっと、素直だった

いつも笑顔で明るくて、自分を作るなんて出来っこなかった

私のままで、自分のままで居よう

「私、がんばるね」

晃と約束したから、なんだか、頑張れるような気がした











「………おはよう」

声がうまく出なかった

だけど、こんなところでくじけている場合じゃないと思った

「美希…制服?学校、行くの?」

「…今まで、ごめん。もうテストで100点は無理かもしれないけど、持ってる実力はすべて出したいと思ってる。今は…毎日学校へ行くことを頑張りたいと思います。色々と、満足はさせてあげられないと思うけど、こんな私を許して下さい」

「美希………よかった…」

「お父さんには私から、全て話そうと思ってるの。…いい?」

「……ええ。お母さんも一緒に、誤らなきゃね。あとあなたにも。ごめんね、美希」

「…ううん。……行ってきます」

「いってらっしゃい」

…話せた

ちゃんと、話せた

私は嬉しさで、足が軽かった

前まで普通に歩いていた通学路

今は、一歩一歩が重くて仕方ない

意外と長くて遠いんだな、なんて思った

まるで、入学式のときのような気分だった

教室の前に立った

立つだけでも、精一杯

今すぐ、逃げだしたい

だけど足も手も動かない

前に…進まなきゃ

前進、しないと

何も……変わらない

「おはよう」

私は教室に入った

「美希!?」「うそまじで。久しぶりじゃん」「もう来ないかと思ってのにねー」

何を言われても、怖くない 気にしない

「美希…おはよう。待ってたよ」

「…仁美」

仁美は、私の親友…だった

「美希ごめんね。私も怖くて、美希の味方出来なかった。だけど私、決めたの。次、美希が学校へ来たら、一番に声をかけようって。…ごめんね」

「ううんっ…」

「許してくれる?」

「当たり前だよ……仁美のこと、友達だと思っていい?」

「違うよ美希。私達、親友じゃん」

私達は笑った

来て、よかった


それから私は毎日学校へ行くようになった

お父さんには、ちゃんと、全てを話した

そしたら、意外にも、怒らなかった

『本当は怒っているんだぞ』と言っていたけど

私は、親というものも、信じようと思った


私はネット上の、いつもの掲示板にも

お別れを言いに行った

投稿者:アリサ
私、変わろうと思うの
だからもう此処にはきません
みんな、今までありがとう
大好きでした

その後の返事は、見なかった







「あ!もしもし?晃?聞いてっ…私ね、居場所が3つも出来ちゃった」

━「嬉しそうだな」

「あのね、私、素直に生きようと思うの」

━「うん」

「晃、大好きっ!これが私の素直な気持ち。」












1年後、私は高校生になった

今でも晃とはよく会っている

高校には、たくさんの居場所があった

そして、ひとつ驚いたことは

ずっと掲示板で話していた萌が

今、同じ高校にいること

そして、あの時、渋谷で拾ったハンカチが

萌のものだったということ

ちなみに萌の本名は萌子だった





人は、誰かと

どこかでつながっている

だからいつでも、私達は、一人じゃない


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