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青い呼吸{小説
目を覆いたくなるようなニュースが続いて
地球そのものが破壊され行く中
私たち人間は、何をしているのだろう
何を考え、何を企み、一体何をしたいのだろう
私は、何をすればいい?
朝目覚めるときいつも祈ることがある
地球が元気になりますように、と
私のこんな願いは、届きますか?
私の祈りは、誰か、1人にでも、届いていますか?
「飛鳥!飛鳥!もう8時よ!」
「…分かってる。今日は学校、行きたくない」
わがままで自己中で、自分に嫌気がさす
だって私、人間なんだもん
人間って、そういうものでしょう?
自分のことしか考えてない
地球の裏側、そしてもっと弱い者のことなんて
全然眼中になくて
いつかやってくるその恐ろしい出来事にさえも、目を逸らす
今の幸せのために
今だけの、幸福のために
「飛鳥!いい加減起きなさい」
私はその重い瞼を開いた
朝の光に目が痛くなる
そしてまた、祈る
「お姉ちゃん遅いよ。私先に学校行くからね」
私は偽善者だ
「じゃ、いってきます」
「桃花、お弁当持ったの?」
「うん、持った」
そして矛盾している
「飛鳥も早く食べちゃいなさい」
私は人間が大嫌いだ
自分のことしか考えてなくて、人を簡単に傷つけられる
むしろ、傷つけることに快感を覚える
「お母さん、今日遅くなるかもだから」
「部活?」
「うんまあ。そんなとこ」
嘘ばかりついて、人を騙して、微笑みさえ浮かべて
「お母さんもう行くから。お弁当、持っていきなさいよ」
人間は汚い
私も、
「わかった。いってらっしゃい」
食事を済ませて、着替えて、カバンを持ち、いつものコースで学校へ向かう
学校では、好かれる人間を演じて
本当は大嫌いな人達を、大好きと言い
大人に媚を売って、自分の株を上げる
最低な人間
私だってそうだ
みんなだって
「おはよー!」
嫌われたくない
みんな、その一心で動いている
だから、嫌われ者をイジメて、それをみて嘲笑う
そうすれば、自分の愚かささえ、見えなくなるような気がして
私はまだまだ子供で
もちろん今大人と呼ばれる人達だって、本当は子供なのだ
「飛鳥遅いーまた寝坊?」
「あたしマイペースだから」
教室に笑い声が響いた
「馬鹿じゃん」
「馬鹿だもん」
再び笑いが起こる
そんな光景に、時々、殺意さえ芽生えてしまう
こんな心理で、人は人を殺すんだな
「梅沢は?」
野田朝美が教室の一番後ろの席を睨んだ
「知らない。また屋上じゃない?」
相沢那津子が足を組み替え、指を天に向けた
「行く?」
「落としちゃおっか!」
「馬鹿、そんな事したら犯罪者だよ。でもまあ、あんな奴死んでも誰も悲しまないか」
梅沢敦子
所謂、イジメられっ子だ
「あの子は一人が好きな、マゾなんだよ」
「じゃあイジメてあげてる私達、神様じゃん!」
笑いが起きて、みんなが微笑んだ
いっせいに席をたち、屋上へ向かう
私はイジメをしている
加害者だ
認めている
だって、本当のことだから
死ねばいいのにな、と、思った
梅沢敦子もそうだけど
今一緒に階段を上っている
野田朝美も相沢那津子も菅野愛華も黒木紗枝も
みんな、死ねばいいんだ
もちろん、私も
「ねー!きもいのが居るよー」
きゃはは、と、女の子特有の笑い方をした
「生きてて楽しい?あんた居ても何の利益もないんだよね」
「て言うか、居ない方が断然世界のためだし?」
「世界規模?すげー!」
笑い声が、追い詰めている
私だって、そうだったから
「…死んでよ…あたし、あんたのこと、嫌いなんだ」
「飛鳥直球!きびしー」
「……私が、死ねば……死んだら…」
「は?聞こえないんですけど」
「………満足、なんですか?死ねば…いいんですか」
「きもちわりーんだよ!死ね」
「行こ」
私は、言い返せなかった
あのとき…
何を言われても、何をされても、どんなに辛くても
一言も、言い返せなかった
「梅沢さ、本当に死んだらどうする?」
「イジメ自殺流行ってるもんねー。あたしら犯罪者?」
「本当に死ぬわけないよ。あいつ、弱虫だから」
まだ皆は話していたけど、私の意識は、そこで途切れていた
たまに、昔にタイムスリップすることがある
昔といっても、いつも同じ時代
私が、小学6年生の頃
今から、2年前
私は、今の梅沢敦子と同じだった
イジメられていた
1年間、ずっと
フラッシュバックする、あの頃の映像、笑い声、言葉
死ねとか、そんな言葉、日常茶飯事になっていた
あの頃の私は、今の梅沢と全く同じだ
私は梅沢のように、言い返したりは出来なかったけど
ただ言葉がスーと入ってきて、心を刺激するのが分かった
死にたい
そう思ったのは、一度や二度の話じゃなかった
怖かった 辛かった やめてしまいたかった、何もかも
消えたかった 消して欲しかった 存在が、恥ずかしかった
梅沢敦子を見ていると、あの時の私と重なる
あの頃の自分を消したはずなのに
最近、妙に出てきて
恐怖が、よみがえる
あのとき言われた言葉、されたこと、全部全部、
私は今、梅沢敦子にしている
私は、大嫌いだったあいつらと同じ
同じことをすることで、自分の中の傷を癒しているのかもしれない
誰かを傷つけることで、自分の傷を
癒したいだけなのかもしれない
梅沢敦子が死ねば、あの頃の、大嫌いな自分も
一緒に消えてくれるかもしれない
いつの間にか、授業が終わって、放課後になっていた
「飛鳥ー?今日一緒に帰る?」
「あーうん、帰りたいんだけど、ちょっと用あって」
「そっか、分かった。じゃあまた明日ね」
「ばいばい」
あの頃の私にとって、友達と普通に会話をすることすら
憧れの対象だった
私も、屋上が好きだった
梅沢と同じように、いつも一人で、屋上で空を見つめていた
いつか、何かが私をこの世界から
連れ去ってくれるんじゃないかって
いつも、淡い期待を抱いて
久しぶりに、屋上へ行こうと思った
なんとなく、自然に思った
足が動いてて、気がついたら、屋上のドアの前だった
あの頃、扉を開ける時、私はいつも、泣いていた
ぶわっと強い風が吹いた
屋上には、誰もいなかった
ベンチに座って、遠くを眺めた
空は夕日に染まっていた
少しの間、意識は、遠い空の向こうにあった
ふと、われに返って
もう帰らないと、という衝動にかられ
ベンチから離れた
屋上のドアを開けると、梅沢敦子がいた
「…あ」
梅沢は目に涙を浮かべて私を見ていた
まるであの頃の、私のように
「……どう、したの?」
私はまるであの頃の自分を見るような目で
梅沢を見ていた
「…っ」
梅沢は泣き出した
「座れば?」
私はベンチを指さした
「…ごめんなさい」
本当に、そっくりだった
まるであの頃の私そのものだった
「私のこと、怖い?」
梅沢は小刻みに首を横にふった
「……私は、怖かったけど」
「…え」
「私があんたみたいに………ごめん、なんでもない」
梅沢は、ただ泣くだけで
何も話さなかった
ねえ教えて
私なら、どう思う?
まだ小学生だった私なら、この状況を、どう感じる?
「私……イジメられてるの」
「え?」
梅沢が、ゆっくりと話し始めた
「…イジメられてる。学校で。毎日。さっき、クラスの子2人に呼び出されて、かばんの中の物を、全てゴミ箱に捨てられた。それからトイレにつれて行かれて、閉じ込められた。いつものことなのに、なんだかもう、限界が来たみたい…死ぬために、今、ここに来たの」
「そんなこと私に言って、死ねとか、ひどいこと言われると思わなかったの?」
「少し、思った。期待、してる。あと少し、勇気…欲しくて。誰かの一押し、欲しかったから、打ち明けたの」
「私があんたの自殺を一押しするわけ?」
「そうしてくれたら、もう、私…死ぬから」
そう言い、うつむいた梅沢敦子をみて
私は急に、無性に腹が立ってきた
それは、私が、昔の私を消したがっている衝動に似ていて
「悪いけど私、あんたの事止めたり、感動するようなセリフ言って、ここで仲良くなったり、そんな事出来ないからね。でも、ここであんたに死ねって言葉は言わない。言ってあげない。そんな簡単に発する方が間違いなの。そんな言葉…だから私は、本当に消えてほしい人に、消えてほしい時にしか、そんな言葉、使わない」
「……どうして、私のこと、嫌いなの?」
「…………似てるから」
ぽかんとした顔で、私のことを見ていた梅沢に
その先の言葉は出て来なかった
出したくなかった、と言ったほうが正しいかもしれない
認めたくなかった、って言葉のほうがもっと正確かもしれない
私は、あの頃の自分の存在を、認めたくなんてないんだ
今の存在さえ、憎らしいと思うのに
「あたし、もう帰るから。あと、ひとつ言っておくけど、ここから飛び降りるのは止めてね。あんたと一緒で、あたし、ここ、好きだから」
梅沢はただ黙って私を見ていた
その瞳の奥に、昔の私が住んでいる
いつまでも、私は、あの頃の私に縛られている
いい加減、もう、いいでしょう
もう、解放してくれても、いいじゃない
「…森田さん!」
振り返ると、こっち向かって走ってくる梅沢敦子が居た
「…何?」
息を切らして、走ってきた
梅沢が走っている姿を見たのは初めてかもしれない、と
そんなどうでもいいことを思いながら
梅沢を見ていた
「森田さん…っ」
息を荒くしながら、私の前までやってきた
「なに?」
「私……っ、死にません。私はずっと、たぶんあと何十年と、生き続けます。これからずっとイジメられ続けたって、私は、生きます」
「…何、言ってるの?」
「私は、生きるから……森田さんも、生きて下さい」
私は何を言えばいいのか
どうすればいいのか
まったくわからなくなっていた
「私、分かるんです。同じだから。森田さんの気持ちを、理解、出来ないけど…でも、同じだから、私達」
何を言っているのか、分からない事もなかった
「意味わかんないこと言わないでよ」
「意味、わかんないです。私も、今、どうして森田さんを追いかけ、こんな事を言っているのか…まったく、分からない。だけど、森田さん…自分は、消えない。自分の中の、たとえ、遠い昔の自分であっても、それは、その自分も含めて、大嫌いな自分も含めて、今の自分になるんです。それが、今の、自分なんです」
「…今の、自分?」
「私、昔の森田さんを知らないけど、なんとなく、感づいていました。それは、私達が、とても似た人間であるから。そして、同じだから。もしも私が森田さんのように、何年後…自分がイジメる側に立ったら、どう思うか、何をするか、何を考えるか…想像だけど、でも…少しは、分かるんです」
気づかれていたんだな、と確信した
私が昔、イジメられていたこと
そして今の気持ち
昔の自分を、とても嫌い、そして、消えることを望んでいたこと
「…理解、し合いたいとは思わないけど……だけど私達、このままじゃいけない」
梅沢と、あの頃の私が重なる
あの頃の私が、消えたくない、消さないで、消えないで、と
必死で私に願っているのが見える
そして、ともに、生きていく事を願っているのが、わかる
「…愛してあげて下さい……それが、どんな自分であっても」
心の中が、いきなり、変わるわけではないけど
その言葉が
心に届いたのは、本当だった
「私、罪深い人間だね」
「どうして?」
「辛さを知っているから、何が一番辛いかを知っているから、その辛い事を、人に、押し付けた。あんたに、押し付けた…私を。あの頃の、自分を」
「私…変わります。私が変わることで、森田さんの心の中の自分が、少しでも、変わればいいと、願いながら…」
「…あんた、馬鹿だよね。馬鹿で御人好し。そんなんだから、」
「イジメ、られるんです」
「…私も」
その日、私達は
そのまま一言も言葉を交わすことなく
途中の道まで一緒に帰り、分かれ道で、さよならをした
明日はまた、違う自分で、会えるといいな、なんて
馬鹿みたいな事を思いながら
次の日、教室に
梅沢敦子は居なかった
「あいつさー、いきなり消えたよね」
「何の前触れもなく。つまんねーの」
「どうせなら最後にすごいことしたかったな」
「ま、うざい奴が消えてくれて、清々したじゃん?」
「私達、あいつの中に、どういう風に残るんだろ?もっと先の未来に、昔を思い出したとき、私達は、あいつの中に…どんな風に、残ってるんだろ」
「超いやな思い出として、残るんじゃない?悪の組織的な?」
どっと、笑いが起きた
「飛鳥は?」
「そういえばさっき屋上行ってくるとか言ってたよ」
「えー、梅沢みたい」
「馬鹿なこと言わないの」
最後に私は
過去の自分からのメッセージを聞いた気がする
ねえこれからは愛せたらいいな
そんな風に思いながら
私は冷たくて寂しげな
青い空気を吸って深呼吸をした
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