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残像 {小説
そして、時に、残酷だ
そして時間は、誰にでも平等だ
それが、たまに、すごく痛い
平等すぎて、痛いよ…
私は、ただの高校2年生
何処にでも居る、普通の女の子
これからもたぶん、ずっと、何処にでも居る普通の人間
ドラマみたいな恋をしたいとか
映画みたいな事件に巻き込まれてみたいとか
時には、誘拐されてみたいだとか
奇跡を起こしたい、とか
そんな、物語みたいな話を、ずっと、ずっと、待ち望んでいた
もしも私が魔法使いなら、とか
想像を膨らますだけじゃ満足出来なくなっていた
だって、私の住む現実世界は
魔法とか、宇宙とか、超能力とか
そんな、素敵なお話とは、程遠い世界だから
「守山杏子」
「はい」
先生に名前を呼ばれて、我に返った
いつものことだから、何も考えずに返事をしていた
次々と呼ばれてゆくクラスメイトの名前
今日もまた、つまらない1日が始まる
何も変わったことの起きない、退屈で、楽しくない、1日が
「杏子、知ってる?近々、転校生来るんだって」
先生の目を気にしながら、隣の席の、青山麻里子が
私に話しかけてきた
「そうなの?どんな子?」
「聞いた話によると、超かっこいい男子だって!」
「いつ転校してくるの?」
「分かんないけど、近々!」
「へー…私も久しぶりに、恋でもしてみようかな」
「えー!ずるい!私も好きになっちゃうかも!」
「何言ってんの。麻里子には超かっこよくはないけど、彼氏居るじゃん」
「まあね」
得意げな顔をして、麻里子は姿勢を整え
手紙を書き始めた
退屈
みんな、同じ
1の話題で、10盛り上がる
そうでもしてないと、私達、退屈で死んじゃう
全然詰まらない話で、大爆笑してみたり
特に好きでもない相手と、お試しで付き合ってみたり
興味のない部活に入っては、すぐやめたり
かっこいい先輩の試合を応援しに行ったり
学校帰りにクレープ食べたり
全部、ただの暇つぶし
学生なんて、そんなもんでしょ?
何か、こう、度肝を抜かれるような
ドーンと大きな事件、おきてくれないかな?
「麻里子、ねえあれ!見て!」
私は窓の外を指差した
「ちょっと、杏子!声でかいよ」
麻里子は身を乗り出し、窓の外を眺めた
校門の前で殴り合いを始めた男子生徒3名
1対、2の喧嘩だ
「先生ー?喧嘩してるよ」
すると担任は窓から顔を出し、やめろー、と大きな声で叫んだ
「ねえ麻里子、どっちが勝つか賭けない?」
「じゃああたし2人の方」
「えーズルくない?まあいいや。あたし、1人の方で」
「いくら賭けんの?」
「販売機の100円ジュース」
「決まりね」
私達は窓の外を一心に眺めた
死んじゃえばおもしろいのにな、なんて考えながら
「ちょっと杏子、あの人超強くない!?」
「この賭け、あたしの勝ちかもね」
「嘘マジー?頑張れよ2人も居るのに」
「て言うか、あいつ誰よ?」
私は1人で2人に立ち向かっている男を指差した
「3年の小林くんかな?」
「あんたほんと男に詳しいね」
「リサーチしてますからね」
麻里子は得意げな顔をして、また窓の外に目をやった
しばらくすると、2人の教師が走って喧嘩をしている3人の元へ来た
必死に止めようとしてるけど
「ねえ杏子、あれ森と田中?」
全然、喧嘩の勢いは収まるどころか、増していった
「あ、森殴られた」
私達は教師を呼び捨てにする
一種の反抗でもあるけど、馬鹿にしている
もう昔のように、先生が偉い時代は、終わったのだ
「あ」私達は同時に間抜けな声を出した
「だっせーな…」
と、麻里子が舌打ちをした
私が賭けた小林という男子のパンチが
見事1人に命中し、続けてもう1人に蹴りを食らわし
2人は倒れた
「小林やるじゃん!」
「小林、かっこいいかも」
「麻里子はすぐそれだね。彼氏のこと、好きなんじゃないの?」
「大好きだよ?愛し合ってるもん。でもさー毎日同じ相手じゃ、飽きるじゃん?たまにはねー」
麻里子が100円を財布から取り出し
私に渡した
「昼休み、放送委員の集まりがあるから自分でジュース買って」
麻里子は再び、だっせーな、と窓の外に目をやった
3人の男子は先生に連れられて
おそらく、職員室でお説教を受けるのだろう
4階上の教室で、まさか、自分達が賭けの対象になっているだなんて
全く知らずに
「ねえ、負けた方の2人は誰?」
「たぶん1組の相馬と4組の富永」
「4組の富永って、富永勝?」
「そうだけど、知り合い?」
「まさか。なんとなく、名前、聞いたことあっただけ」
「ふーん。もしかして、初恋の相手だったり!?」
「馬鹿」
私は麻里子から視線をはずし、窓の外へ目をやった
教師も、生徒も、馬鹿ばっか
みんな、馬鹿ばかりだ
だって、退屈なんだもん
馬鹿やってないと、退屈すぎて、自分の存在さえ危ぶまれてくるんだもん
私はもう職員室、もしくは生徒指導室につれていかれたであろう
小林と、相馬と、富永のことを考えていた
今頃、つんとした顔で、そっぽを向いて
うるさいな、とか
だりいな、とか
思いながら、かっこわるい自分を必死に否定してるんだろうな
殴られた傷に触れて、いって、とか言って
喧嘩したあと独特の雰囲気に包まれて
男だらけの中で
先生のうるさいお説教を右から左に受け流して
どこまでも不良気取ってるんだろうな
富永勝…あんなに弱弱しくて、痩せていて、背も低くて
おまけに声も高かったのに
どこであんな男らしく変身したんだろう
どこで何があって、あんな髪色にしようと思ったんだろう
どこで、あんなパンチ、覚えて
どこで、喧嘩の仕方を、学んだんだろう
「男ってさ、変わるもんだね」
「へー?」
「背も、顔も、髪も。それに性格まで。どこでどうやって、あんな男らしさを得るの?」
「成長すんのよ、男は急激に。女と違って、背も馬鹿みたいに伸びるし。体もデカくなる」
「顔は、どこでかっこよくなるのかな?」
「それ、小学校の時の男友達に会ったら、まず思うよね」
私は軽く頷いて、また富永勝のことを思い出していた
今の富永じゃなくて、昔の
私と富永が同じ学校に通い、同じクラスだった頃の
弱弱しい富永勝
あの頃の富永は、私のことをアンちゃんと呼び
ずっと私の命令に従っていた
私達は小学1年生の頃に出会った
アンズちゃんって言うの、可愛い名前だね、って
あいつから声をかけてきた
それから私達はよく一緒に居た
アンちゃん、アンちゃん、って私に付きまとうあいつが
無性に可愛くて
幼なながらに、母性本能とやらを、刺激されていたのかもしれない
好きとか、そんな感情はなかった
ただの友達
本当に、ただ、それだけだった
私の記憶に富永勝が鮮明に残っているのは、ある事件がきっかけだ
私が小学6年生のとき、近所のゲームセンターで変な中学生に絡まれていたとき
富永勝は、私の彼氏だと言い張り、その中学生たちに
やめてください、お願いします、と頭を下げた
私はただあっけに取られていた
そのあとその中学生たちは、可愛いカップルだな、と私達を冷やかし
笑いながら去っていった
私は富永に、どうしてあんな嘘ついたの、と
彼氏と言い張ったことを、問い詰めてみたところ
俺の願いだから、とだけ言い、走り去っていった
あの頃の私は、変なやつ、と思いながら家に帰り
その後も、富永との関係は、今までどおり平行線を辿っていたが
今、よく考えてみると
あれは、富永勝からの、告白だったのかもしれない
「悪いことしたな…」
「え?なんか言った?」
「ううん、なんでもない」
チャイムが鳴り響いて、先生が教室から出て行った
「1限、なに?」
麻里子が加山美里に問いかけている隙に
私は教室を出た
足は思いのほか軽々と進んだ
行き先は、思い描いてはいなかった
だが、行き着く先は、もうなんとなく分かっていた
職員室
私はドアをそっと開け、中の様子を確認した
お目当ての相手はいない
次に私は生徒指導質の前に行った
中から声がしないことを確認して、恐る恐るドアを開けた
すると、1人の男子が椅子にだらしなく座っていた
「…あの、」
私の呼びかけに、その男子はギロっと私を睨み付けた
「富永くん?」
「あんた、誰?」
私の知っている富永勝とは、全くの別人だった
声も違うし、態度も
「…喧嘩、弱いの?」
「はあ?」
少し怒ったような顔で、私を睨んでいる
「…ごめん。傷、痛い?」
「なんだよテメー」
不良なんだ、と確信した
「まああんたのおかげで、あたしは100円儲かったんだけどね」
「だから、なんなんだよお前」
私は教室に入って、ドアをしめた
「前、座っていい?先生来るの?」
「もう来ねーけど?大体お前、なんなんだよ。何の用だよ」
「用はないんだけど…て言うか、喧嘩って楽しいの?」
「楽しいわけねーだろ。まあパンチ食らわしたら最高に気持ちいいけどな」
「今回は食らわされたけどね?」
「うっせーなお前、殴んぞ!?」
「女に手上げちゃ駄目なんだよ。そんな男って、さいってー。て言うかあんた、どこでどう変わったの?家庭で何かあった?それとも友達の影響?」
「テメーまじボコんぞ!?」
「まあまあ落ち着いてよ。少し話そうよ?ね。せっかく、久しぶりに会えたんだから」
「は?」
富永は不思議そうな顔で私を見た
「…杏子。守山杏子。忘れたの?」
あ、と言わんばかりに
富永は少し驚いた表情を見せた
「アンちゃんって呼んでね」
「…久しぶりだな」
何を言っていいのか、分からなかったのだろう
その言葉に力は全くなかった
「でさ、何で喧嘩してたわけ?」
「しらねーよ」
「理由もなしに喧嘩してたの?理由もなく殴られたんだ?相手の小林も最低な男ってわけか」
「小林、知ってんのかよ」
「知らないけど」
「…肩がぶつかった。ただそれだけだ。」
「そんな理由で殴り合ってたの?」
馬鹿じゃん、という言葉を、のどの奥に引っ込めた
「すみません。で終わる事じゃないの?まあ男子の世界は分からないから、口出しは出来ないけどね」
「十分してんじゃねーかよ。お前、何で俺の事分かったんだ?」
「お前じゃなくて、アンちゃんでしょ」
「いい歳して、アンちゃんはねえだろ」
「ま、いいけど。友達に名前きいて、ピンと来たってわけ。見た目だけじゃ、分かるわけないよ。変わりすぎ。」
「それに比べて、お前は全然変わんねーな」
「大人っぽくなったでしょ?あと可愛くもなったし、セクシーにもなった」
「どこがだよ」
富永勝は私を見て鼻で笑った
「アドレス、教えてよ。携帯あるんでしょ?」
「なんで教えなきゃなんねーんだよ」
「友達じゃん、あたし達。しかも超仲良し」
「過去だろ」
私は富永のズボンのポケットから少し顔をのぞかせている
携帯を奪おうと近づいた
「ばっ!やめろよ」
馬鹿、やめろよ、そう言いたかったのだろう
あまりに突然だったかな?
性格は、昔と変わらないみたい
からかったら、その分、反応してくれる
「アドレス、おとなしく教えればいいんだってば」
「わーったよ」
分かったよ、って意味だと思う
全く。世の男子は、ちゃんとした言葉が使えないわけ?
私は富永から携帯を奪い、アドレスを自分の携帯に登録した
「はい。私からメールするから。アドレス登録しておいてよね」
「…うっせーな」
うるさいな、って意味である
「じゃあね勝」
「呼び捨てにすんなよ」
「いいじゃん、あたしら、仲良しなんだから。あたしの事は杏子でいいよ。アンちゃんはもう嫌なんでしょ?」
私はそのまま部屋を出た
いつもとは少し違う、ほんの少しだけだったけど、刺激的な1日だったかもしれない
富永勝との再会
昔のことも、色々思い出したし
それに、男同士の殴り合いの喧嘩も見れた
「杏子!どこ行ってたのよ!授業サボるなんて、珍しいじゃん」
「まあね。昔の友達と会ってたの」
「男?」
「麻里子はすぐそれだね」
「あー!図星か!で、何してたの?」
「言っておくけど、友達だから。男だけど男としてみてないから。ただの友達。男女とか関係なく。て言うか、幼馴染。だから麻里子が期待してるような話は全くないの」
「つまんないの」
慣れないよね、どれだけ経っても
退屈には、慣れない
私は席に座り、富永にメールをした
杏子 登録しておいてね
たった、それだけのメール
最後にハートマークをつけておいたけど
そっけない内容だった
送信ボタンを押して、携帯をポケットに押し込んだ
ああ、気だるいな、と、突発的に思った
私はいつもそう
いつだって、常に気だるい
「由美ちゃん、次、何?」
前の席でメールを打っていた由美に声をかける
「体育。着替えて体育館集合だって」
「ありがと」
今日はサボろう
気分が乗らない
私達はいつだって、気分で動いている
大人になれば、そうはいかない
仕事を気分で休んだり
やらなければならないことを、気分ですっぽかしてみたり
そんなことは絶対に許されない
だから、せめて今の時期だけでも
気分で動かせて
自分の思い通りに わがままに 自己中心的に
だって、それは今だけの、一瞬の休みだから
人生において、ほんの少しの
充電期間だから
「あれ?杏子、体育サボるの?」
麻里子が教室に入ってきた
「あーうん」
「じゃあ私もサボろー」
そう言い麻里子は携帯を取り出し、ゲームを始めた
「今日こそこのステージ、クリアしたいんだよね」
と、ゲームに没頭している
「あたし、ジュース買ってくるね」
「うん」
そのまま屋上に行った
風が気持ちよくて、私は大きく深呼吸をした
トントン、と軽く肩をたたかれ
私は後ろを振り返った
私は首をかしげた
見たことは、あるのかもしれないが、名前が思い出せない
ましてやクラスも、同じ学年だったかも、何も思い出せない
「3年4組の、安西省吾です。君は2年の守山杏子ちゃんだよね?」
「はい…そうですが」
「初めまして。君は僕を知らないよね」
「すみません。あの、どうして私のこと…?」
「好きだから」
「…は?」
その人はにっこり微笑んだ
「君が好きだから。なかなか話しかけられなくて…でもいつか気持ち伝えるつもりだったし。丁度いい」
何がなんだか分からなかった
「君が好きだ。僕の事は、これから知っていけばいい。兎に角僕は、君が好き。よかったらお付き合いしてもらえないかな?」
好青年、と言ったところだろうか
制服もきちっと着ていて、富永とは大違い
「…すみませんが私、全く知らない人と付き合う気にはなれません。まずは友達からで、いいですか?」
その人は、微笑んだ
「大丈夫だよ。今君が僕を好きじゃなくていい。嫌いでなければ、OKの返事をくれたらいいよ。絶対に僕を好きにさせてみせる。自身があるんだ」
「いえ、でも…」
「僕のことが、嫌い?」
「いえ決して、そんな事はないんですが。全く知らない者同士がいきなり恋人同士として付き合うだなんて、考えられません」
「これから知ってくれればいいよ。きっと君は僕を好きになる。もしも嫌になったら、その時はきっぱり振ってくれればいい」
それなら、友達から始めればいいんじゃないか、という疑問を残したけど
「…分かりました。じゃあ、本当に嫌なら、きっぱりお断りさせて頂くと思いますが、よろしくお願いします」
まあいいや、と軽い気持ちでOKを出した
「よかった。でも君は僕を必ず好きになるよ。あと、敬語なんて使わないでいいからね。僕のことは省吾でいいから。君の事は杏子って呼んでもいいかな?」
「はい」
好きでもない相手と付き合うなんておかしいよね
でも世の中、おかしいことだらけじゃない
まあ外見は悪くないし
性格はちょっと、いや、かなり強引だけど
嫌ならきっぱり断ればいい話だし
退屈だし
「杏子は、この時間、確か体育だよね?」
「え、あ…はい」
「そっか。サボりか。この前もサボってたもんね。杏子は運動苦手?」
「まあ…」
「あ。何で知ってるんだ、って思った?」
「ああ…はい。すみません」
「いいよいいよ。それはね、僕がずっと君を見てたからだよ」
「は…?」
それってストーカーじゃん
「好きだからね」
笑うしかなかった
これはもう、お断りだな…
せっかく退屈しのぎになるかと思ったのに
「杏子?」
「富永!何してんの?」
富永がだらしなくポケットに手をいれて
歩いてきた
「お前こそ」
「サボり。富永も?」
「自習になったから」
「そう。あ、アドレス登録してくれた?」
「ああ忘れてた。それより、誰さん?」
富永は先輩を見た
「こんにちは。3年の安西です。杏子の友達かな?」
「彼氏です」
「何言ってんの、馬鹿!」
私は思わず大声になった
「彼氏?ははっ。冗談はやめてくれよ」
「あんたはなんなんだよ」
「僕は杏子の彼氏ですが?」
富永は少しむっとした
「お前、彼氏居たのかよ」
「…まあね。あんたはいつでも、すぐそうやって、彼氏ですって言うね。あの時も…」
富永は先輩のほうに向き直った
「杏子の彼氏さん?こいつ、やめといた方がいいっすよ。馬鹿だし性格悪いし、ブスだし」
「ブスって何よ」
「ほんとのことだろ」
先輩が一歩前に出た
「君、人の大切な彼女を、」
「先輩!」
私は先輩の言葉を遮った
ここで喧嘩されても困るし
みんなに色々聞かれるのは面倒だ
「いいですから。富永も、冗談で言ってるんです。私はいいですから…すみません」
私は富永を少し睨んだ
「富永も人のことブス呼ばわりしないでよね!先輩、もう行こう?」
私は先輩の手を引いて、階段を下りた
ズカズカと、早足で
「すみません先輩、私、ハンカチ落としたみたい。屋上見てくるから、先輩はもう教室に戻っててください」
「え、あ、」
私は走って屋上まで戻った
屋上では富永が缶ジュースを飲んでいた
「ねえ」
「あ…ブス」
「あんたに弁解しても何の意味もないけど、あの人、正式に言うと、彼氏じゃなくて、彼氏候補なの。今、お試しでもいいから付き合えって言われて、付き合ってる。だから正確に言うと、まだ友達の段階なんだよね」
「それ、俺に言ってどうするわけ?」
「誤解されんのが一番嫌いなの。彼氏でもない人を、彼氏って思われるのもね」
私は富永の隣に座った
そして、寝転がった
「屋上ってさー、気持ちいいよね」
「声でかいぞ」
「心配した?私に彼氏が出来たかと思って」
「馬鹿か、お前。なんで俺がそんなこと思うんだよ」
「だってあんた、また、彼氏ですって言ったじゃん」
「ちょっとしたジョークだろ。真に受けんなよブス」
私はそのまま目を閉じた
太陽と、心地よい風が、私を眠りに誘っていた
「おい、寝るなよ」
「いいじゃん。ちょっとだけ」
「俺、教室帰んぞ」
「待って。少しだけ、」
私はしばらくの間、眠っていた
夢を見た
富永と過ごした、小学生時代の夢
だけどそこに富永の姿はなかった
いくら探しても、見当たらなかった
変な夢
目が覚めたら、横で富永が寝転がっていた
「…寒い」
「お。起きたか」
「あたしら、何でこんな所で転がってるわけ?」
「お前が寝てたんだろ」
私は少しボーとしていた
「もうすぐ昼だから、皆屋上来んぞ」
富永が立ち上がった
「どこ行くの?」
「教室戻る」
「なんで?いいじゃん。お昼も此処で食べようよ」
「何でお前と2人で昼食べなきゃなんねーんだよ」
「いいじゃん。今まで一緒に寝てたくせにさ」
富永が私に手を差し伸べた
「起きろよ。彼氏でもねー奴を、彼氏って思われんの嫌なんだろ。一緒に昼飯食ったら、俺と付き合ってるって誤解されんぞ」
私は差し伸べられている富永の手をつかんで
一気に立ち上がった
「あんた、彼女居んの?」
「居たらお前とこんな所で一緒に寝転んだりしねーよ」
私は笑った
「じゃー、好きな子は?協力してあげてもいいけど?なんたってあたしら、凄い友情だからね!」
「居ねーよ、そんなもん」
「つまんないの」
私はそのまま屋上を後にした
「じゃあね富永!好きな子の一人や二人くらい、作れよ!青春男子!」
「バーカ」
私は軽い足取りで教室へ戻った
ドアを開けると、みんなはもうお弁当を食べていた
「あー!杏子!どこ行ってたの?」
麻里子は声が大きい
「屋上居たら、気持ちよくて。寝てた」
「寝てた!?屋上で?誰と?」
「誰って…友達?」
「なんで疑問系?」
私は少し笑って、その質問を軽く交わした
そして麻里子の隣に座った
私は私を含めて6人居るグループに所属している
うちのクラスには4つのグループがあり
私や麻里子が居るグループ、
ギャル系や少し派手な子達が集うグループ、
大人しいグループ、
そして、どのグループにも入ろうとせずいつも1人で居る人が数名
「屋上で寝てたって、地べたに寝転んでたの?」
色白で顔もかわいくて、男子に人気がある、萩原愛理
「うんまあね」
「屋上で寝るとか猫じゃん!」
桃井綾香は中学校の頃からの友達だ
「杏子は猫並みにマイペースだけどね」
森彩夏は特別美人だ
少し芸能界に足を踏み入れているらしいが
CMや、ドラマなど、そんなことはしておらず
グラビア雑誌に少し載っていたり、夜中のアイドル番組に出ていたり
アイドルをしている
「ねえ、早くお弁当食べて、バレーしない!?」
桜井恵理は元気な優等生
得意科目は体育、好きな科目も体育
そしてテニス部に所属している
運動がとても好きな、明るくて活発な子だ
「いいね!バレー!やろやろ!」
私はこの中で、どんな存在で
どんな役割を果たしているのだろうか
そんなこと、知りもしないし、聞こうとも思わないが
本当に私は
みんなにとって必要な存在なのか
この世の中で、誰か、1人にでも必要とされているのか
そんな、思春期みたいな悩みとまで言わないけど
小さな疑問を、常日ごろ抱いているのだ
「杏子もやるでしょ!?」
「あ、うん。やるやる」
学生って、ほかにあまり考えることがないから
そんなどうでもいいことが気になってしまう
私の存在理由は何?
私に価値はあるの?
ねえ、私、こんな詰まらない人生で、いいのかな
私は思い立ったように富永にメールを打った
あたしの寝顔、可愛かった?
「ねえ杏子、誰か来てるよ?」
「え?」
私は麻里子の視線の先に目をやった
そこには、私の彼氏、いや、彼氏候補の省吾先輩が居た
「さっきからずっと杏子のこと見てんの。知り合い?」
「うーん、まあね」
後で面倒なことになりそうだな、と
直感的に思ったから
麻里子には曖昧な返事で返しておいた
「省吾先輩、どうしたんですか?」
「ちょっと気になって」
私は首をかしげた
先輩は爽やかな笑顔をみせた
先輩の笑顔の先では
麻里子達が目を輝かせてこちらを見ていた
「先輩、ちょっと…」
私は逃げるように教室を出て、誰もいない踊り場まで
先輩を連れてきた
「どうしたんですか」
「さっきのこと」
「さっき?」
「あの人とは、どういう関係なのかなと思ってさ」
あの人、とは
富永勝のことだ
私は直感的に分かった
「ただの友達…には、見えなかったけど?とても親しいみたいで」
「ああ…幼馴染なんです。小学校の頃からの友達で。腐れ縁?ってやつです」
「へー…」
先輩はにこりと笑った
「じゃあ、信じてもいいんだね?君達は恋愛感情の上で親しくしているわけではないと」
「ああ、それはもう…全然。恋愛感情とか、有り得ないんで」
「へぇ、そっか。ならよかったよ。君達がとてもお似合いのカップルに見えたから、不安で」
「心配しないで下さい。私達、ただの友達なんで」
ただの友達、
自分が発した言葉が、妙に突き刺さった
私達、あんなに長く一緒にいたのに
ただの友達だったんだ
「杏子にその気がないのなら僕は安心なんだけど」
「え?」
「いや。彼、杏子のことがとても好きそうに見えたから」
「まさか、それは絶対ないです」
「そっか」
富永が私を好き?
笑えちゃう
そんなこと、有り得ないよ
でも、その有り得ないことが
何年か前は有り得てたんだよね
そう考えると不思議だな
「あの、私友達とバレーする約束してるんで、もういいですか?」
「ああ、ごめんね。じゃあまた連絡するよ」
私は教室へ戻り、先輩も自分の教室へ戻った
教室に帰ると、麻里子からの質問攻めが待っていた
「ねえねえ!さっきの人って、安西先輩でしょ!?」
「うん」
なんとなく、予想はしてたけど
「どういう関係なの!?まさか付き合ってるの!?」
私の予想をはるかに超えるペースで
麻里子は私に次々と質問を投げかけてきた
「お試しでね。とりあえずお試しで半ば強引に付き合わされてるの。嫌なら断ってもいいからって条件で」
「何それ!?そんなに自分に自身があるってこと?で、杏子はどうするの?もちろんOKよね!?あの安西先輩だもんね!」
「先輩には悪いけど、断るつもり」
教室中の女子が、声をそろえて
「えー!?」と、叫んだ
「どうして!?もったいないよ?だってあの安西先輩でしょ!?」
麻里子は机から身を乗り出している
「だって…軽いストー、……兎に角、無理なの」
ストーカー行為をされていたことは、黙っておこう
安西先輩も悪気があってやっていた訳じゃないんだし
「どうして?みんなの憧れなんだよ?安西先輩って」
教室の後ろの方で喋っていた女子も
私の机の周りに集まりだした
「だって…」
「もしかして杏子、好きな人いるの?」
「えー!?聞いてないよ!酷いよ杏子!」
麻里子が立ち上がった
「ちょっと落ち着いてよ!私は好きな人も居ないし、安西先輩と付き合う気もないんだってば!」
私の大声に、教室が一気に静まりかえった
「兎に角、私は先輩とは付き合わない」
それから、私はすぐに放課後時間を空けておいて貰えるように
先輩に伝えるため、3年の教室まで足を運んだ
「あの…安西先輩居ますか?」
私が声をかけたのは、
ズボンを腰まで下げてはいている
髪の毛を立てた男子だった
「居るけど…省吾の彼女?」
「…いえ」
返事に少し戸惑った
「何年生?」
「2年です」
「へー、可愛いね!省吾に告白でもすんの?」
「いえ、ちょっと用がありまして…」
「あ、アド教えてよ」
初対面なのに、いきなりアドレスを聞くなんて
まあ最近は、こんなもんなのかな…なんて
おばさん臭いことを考えていたら、
省吾先輩が後ろから声をかけてきた
「杏子?どうしたの?」
「あ…先輩」
「杏子ちゃんって言うんだ。アド、教えてよ?」
「藤井お前は誰にでもアド聞くよな。これ、俺の彼女だから、手出すなよ」
「やっぱ彼女なんだ?」
「あの!先輩…ちょっとお話があります」
先輩は屋上行こうか、と
お馴染みのスマイルで私に微笑みかけた
「…話って?もう断られるのかな?」
「すみません。やっぱり、付き合うとか考えられなくて」
放課後にきちんと話すつもりだったけど、
早い方が気が楽だ、という理由で
私は話をはじめた
「もう少し時間をかけて考えて欲しかったな」
「でもやっぱり私、先輩のこと、彼氏とか…恋愛感情で見れなくて」
「…そっか。分かったよ。でも僕は諦めない。きっと好きにさせてみせるよ」
「……すみません」
「でさ、一つ教えて欲しいんだけど」
「はい?」
「やっぱり原因は例の彼?」
私はポケットの中で携帯が震えるのを感じた
「…あいつは関係ないです」
「本当?実は好きだったりして?」
「そんなこと、全然ないです。本当にただの友達だし、恋愛対象としてなんて有り得ません」
「へぇ…そう。分かった。じゃあ、またね。」
先輩はあっさりと教室へ戻った
私はそのままその場に座った
授業はサボるつもりだった
なんだか力が入らない
私はポケットの中から携帯を出した
新着メールが、1件
富永からだった
可愛い訳ねーだろ、バーカ
でもまあ、ブスでもなかったかもな
「何よそれ…」
私は少し笑った
そしてメールを打ち始めた
今屋上に居るの
暇だから、相手してやってもいいけど?
送信ボタンを押して、そのまま寝転がってみた
富永は来ないような気がしたから
私達は、特別な関係じゃないんだから
「素直に言えよな!寂しいから来て欲しいって」
その声に私は飛び上がった
「富永…!?」
「何びびってんだよ。また寝てたのか?」
「…授業は?」
「抜け出してきた」
「どうして?」
「お前が呼んだんだろ?」
「ほんとに来てくれるなんて思わなかった」
「呼んでおいてそれかよ。もっと可愛いこと言えねぇのかよ?」
富永は私の隣に座った
「私…屋上、好きなの」
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