記憶の扉{小説



人間というものは

案外脆いものだ

忘れてしまいたい、と強く願えば

何もかも、消えてしまう

死んでしまいたい、と強く願えば

私達人間は、死に向かう


あまりに簡単な構造で

あまりに単純な思想である




人間、なんて

所詮、そんなものなのであろう


















昨日までの友達が急に悪魔に変わった

「あんたさ、まじうざいから」

昨日まで、あんなに仲良くしていたのに

どうして

「まじ死ねよなー」

そんな疑問に返事など返ってくるはずもなかった

「なあ、あんた自分のした事分かってんの?」

イジメ

簡単な3文字で片付いてしまうのは

とても、残念だ

「もう学校来ないでね。もう学校に麻美の居場所はないよ」

私の心はすぐに折れた

現在中学3年生

今まで、とても恵まれた環境の中で育ってきた

友達も、いなかった事などなかった

両親も優しくて、友達もたくさん居て、毎日が楽しかった

彼氏も居た

本当に好きで、私から告白して

付き合えることになった

幸せだった

毎日が本当に輝いて見えた

人生、そんな甘いもんじゃないんだよ

誰が言った言葉だったか

そんなことはもう、記憶にないけれど

私はその台詞が頭から離れない

今の私に、あまりにぴったりだからだ

中学3年生になり、何もかもが今までどおり、順調だった

悲劇は突然やってきた

長谷川麻美

私の名前が書かれた名札が、ある朝

ぐちゃぐちゃに落書きされて、机の上に放置されていた

言葉なんて出なかった

教室が、あまりにも冷たく感じたから

いつもと明らかに違うことに気づくまで、そう時間はかからなかった

「何も分からないの?」

「葵…」

私を取り囲むのは、昨日までの、友達

「麻美は鈍感だから…自分のした事すら、忘れちゃった?」

教室中が笑いに包まれた

「馬鹿じゃん!頭大丈夫?相当イカれてんじゃないの?」

「私…」

「は?聞こえない」

萌が私の肩をドンと押した

「…何か、……私何もしてない」

保奈美が突然笑い出した

「何もしてないのに、私達がいきなりこんな事するとでも思ってるわけ?本当に何も心当たりがないとか言うつもり?ふざけないでよね。あんた、無意識に人傷つけるんだ。よく分かったよ。だからもう、友達終わりね。ばいばい」

ト モ ダ チ オ ワ リ ?

「私本当に何も、」

もう、私の言葉は空気と同じ

何を言っても聞こえないし、信じてもらえない

人を、初めて憎んだ

人間というもののおろかさを、初めて思い知った日

その日私は、自殺をした

学校の屋上で、カッターで手首を切った

気づいたときは病院にいた

ああなんて惨めなんだろうと、心から自分を責めた

結局私は死ねなかった

だが、私は大切なものを失った

命の代わりに私が失ったもの、それは、記憶だった

医者は精神的な大きなショックから、記憶が一時的になくなったのだろうと言っていた

でも今の私には

その大きなショックというものが、何なのか分からない


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