輝きを取り戻して{小説




私は、冴えない


ただの女子中学生だった


















「43番、モリタイチコ」

それまで、何の取り柄もなく

みんなからは馬鹿にされ

時にイジメられたりもした

印象は、いつも、『暗い子』だった

変わりたいだなんて思うことすらなかった

あの子の人生は明るいんだろうな、とか

あの子は私とは違って毎日楽しいんだろうな、とか

あの子に生まれて来ていたなら、とか

人を羨ましく思うことや

人を恨むことしか、出来なかった

今までは

これからは、もっと、違う人生を歩む

そう決意した日

5月27日、この曖昧な日が

私の運命を大きく変えた、奇跡の日になったのだ

興味なんて全くなかったし

もちろん自身もない

いとこがどうしても、と、進めるので

仕方なく一緒に受けた、アイドルオーディション

大手プロダクションの、大きなオーディションだった

いとこは受かる気満々だった

私は単なる心細いと言ういとこの付き添いだった

まあ絶対に受かることもないだろうし

どうしても、と言われたら断れない人間だったので

仕方なく私はオーディションに参加した

周りの子達はみんな着飾り、ばっちりメイクをし、

こんな子達が芸能界という輝かしい世界に行くんだろうなと私は思った

場違い

それが一番あう言葉だった

むしろその言葉しか見つからないくらいだった

私は43と書かれた番号札を胸元につけ

いとこの隣で不安そうな顔をしているいとこを励ましていた

「自己紹介なんて言うのか忘れちゃった…」

「大丈夫だよ、…きっと。自身持って」

「適当なこと言わないでよー。あたし本気なんだから」

「うん…受かるよ、絶対。自信持って、堂々と…ね?」

いとこの番になって、いとこが壇上に立ち、自己紹介を始めた

「42番、中学1年生、森田桃香です!得意料理は肉じゃがで、特技はフラフープです!」

そう言い、いとこの桃香は用意していたフラフープをまわし始めた

審査員の人が、次の人と言い、私は壇上に上がった

「ええと…43番森田一子です。中学3年生です。特技は…ないです。あ、我慢強い所が長所です。…終わりです」

審査員の人が規則的に、また、次の人、と言った

「一子そんなんじゃ絶対受かんないよ!?」

「あたしは別に、受かる目的で来てるわけじゃないし…ただの桃香の付き添いだから」

「まあ一子は地味だから受からないだろうけどさー」

そのまま私達は待合室で20分ほど待たされた

係員のような人が入ってきて、室内がざわついた

「今から呼ぶ番号の人は、着いて来て下さい。38番、43番…以上です」

「…は?」

桃香が立ち上がった

「あの、43番って、42番の間違いじゃないですか?」

「いえ、43番の方です。次の審査を行いますので、着いて来て下さい」

私は自分の番号をもう一度確認した

43…

「うそでしょ!なんで?なんで一子なの?こんな地味で…こんな…っ」

「桃香…なんかの間違いだよ。あたし、次の審査の時に聞いてくるよ」

「当たり前でしょ。一子が受かる筈ないじゃん」

私は係員の人に連れられ、別室に来た

「ここでお待ちください」

そこにはいろんな番号の子が、10人居た

「ここまで来れただけでも、私、満足かも…」

隣の子に話しかけられた

「そう思いません?」

「あ、ええ…そうですね。ここまで来れただけでもいい思い出です」

私は、夢をみているのではないかと疑った

明らかにおかしい

私が?この冴えない私が1次審査を通過した?

「でもまだ私達には道があるわ。がんばりましょうね!ライバルだけど」

「あ、…はい」

周りを見渡すと、可愛い子ばかり

「では、次の審査に参ります。番号の早い者順で、並んでください」

私達は係員の指示に従った

「では今から、2次審査に移ります」

次々と番号を呼ばれていく

私の番まで、あと3人

緊張は全くと言っていいほどしなかった

プレッシャーもなかった

受かるつもりで来たわけじゃなかったから

「43番」

「はい」

思わず返事をした

案内された部屋に入ったら、審査員と思われるおじさんが4人居た

「あ…はじめまして。43番森田一子です。中学3年生です。」

「では、質問に答えてもらいます」

私は頷いた

「どうしてこのオーディションを受けたのですか?」

「いとこに、ついて来てほしいと頼まれまして…」

「では、受かっても芸能界デビューするつもりはないということですか?」

「いえ…っ!芸能界に興味はあります。ですから、合格したらアイドルになりたいです!」

自分でも、自分が何を言っているのか分からなくなっていた

このチャンスを逃したくない

本能が、そう言っていた

「では、写真写りのチェックをしたいので、写真を取らせて頂きます」

私はその場で何枚か写真を取られた

あまり写真なんて取らないから、どんな表情をしていいのか分からなかったが

一応、笑顔という言葉にふさわしい顔をした

「はい。ありがとうございました。結果は後ほどお伝えします」

私は再び待合室へ戻った

受かるわけない、と、思っていたけど

少しずつ、受かるかもしれない、という期待が芽生えてきた

受かってほしい、という気持ちも

自然と、芽生えた

芸能界に入ってどうするつもり?

大体、親が許してくれないんじゃないの?

友達は、……

私は、考えを停止させた

見返してやりたい

そんな思いが、ふつふつとわきあがってきた

今までの辛かった思い出や、過去が、よみがえってきた

ここでもし、私がアイドルになれたなら

あいつらを、見返すことが出来る

私は息を呑んだ

お願い、受かって……

次々と待合室に戻ってくる子達

私は、ただ固く目を瞑って、その時を待っていた

心臓の音が聞こえてくる

どうして?受けるつもりもなかったのに

審査員の人が入ってきた

部屋に沈黙が走る

ぴんと張り詰めた空気の中で、審査員の人の声が

大きく聞こえた

「43番、森田一子」

「え…」

泣きだす子や、私に「おめでとう」と言ってくる子

私は、まだこの現状が、理解出来なかった

私はそのまま別室に連れて行かれ、いろいろな話を聞かされた

数日後、親と一緒に事務所に呼び出されて

そこで様々な契約をした

私の頭の中で、ずっと、審査員の人の声がこだましていた

43番、モリタイチコ

43番、モリタイチコ

オーディションから何日たったのだろう?

私は、今までと何ひとつ変わらない生活を続けていた

今日は、親や親戚がたくさん集まっていた

私の、合格祝いをするそうだ

「信じらんない。一子が受かるなんて」

桃香が私をにらんだ

「どうしてこんな暗くて地味でだっさい一子が受かるの?あのプロダクションおかしいんじゃない?あたしもっとまともな事務所のオーディション受ける。一子なんかより何倍も売れてやるんだから」

桃香は前から私のことが好きじゃなかったようだが

私がオーディションに合格してから、私の事がもっと嫌いになったようだ

「僻むなよ、もも。一子こうみえて実は可愛いんだからな」

桃香の兄、健一が口を出した

「どこが!?」

健一は私よりふたつ年上の高校2年生

「一子がんばれよ。応援してっから。」

「健にぃ有り得ない!あたしより一子を応援するんだ!?」

「一子、諦めるんじゃねーぞ。根性だ、根性!」

「…ありがとう」

「ちょっとお兄ちゃん!?聞いてんの!」

桃香ごめんね

でも私、遠慮する気もないし

絶対有名になってやるから

今まで私を散々馬鹿にした奴らを、見返すために

ただ、それだけのために

その日、私は思い切り笑い、思い切り楽しんだ

「一子ちゃんも芸能人かー。遠い世界にいっちゃうのね」

「まさか。やめて下さい、遠い世界だなんて」

「頑張ってね。私達いつでも一子ちゃんの見方よ」

「はい!」

私はそれから歌のレッスンやダンスレッスンを受け

写真撮影の練習もたくさんした

2ヵ月後、事務所から、デビューの話を聞かされ、

私は、デビューした

森田苺という名前になって

私はグラビアの仕事をたくさんこなした

デビュー写真集はとても売れ行きがよく

私の名は瞬く間に世間に知れ渡った

ファンも増え、イチゴマニアというファンクラブまで出来た

イベントをしたり

グラビア雑誌に乗ったり

深夜のアイドル番組に出たり

アイドル、森田苺の人気は止まることがなかった

「今日のゲストは人気アイドル、森田苺ちゃんです!」

司会者に名前を呼ばれ、私は元気よくカメラの前に出た

「こんにちはー!」

私は手を振るファンに笑顔で手を振りかえした

「今日はデビュー曲を披露していただけるということで」

「はい!」

「歌を出すと聞いた時は、どんな気分でしたか?」

「はい。まさかアイドルになれるなんて思っていなかったのに、CDまで出させて頂けるなんて、ファンの皆さんのおかげです!本当に、ありがとうございますっ!」

客席から「苺ちゃーん」の声

ファンのみんなの声援が、私は大好きだ

「では、疲労していただきましょう!森田苺で、あなたのために」

私のデビュー曲は、TOP10入りし

森田苺の名を知らない人は居ない程になっていた

「苺ちゃん?ドラマ、本当に断るの?」

「だって、私演技なんて出来ないですし」

困り顔のマネージャー

「でもこれ、かなり有名な脚本家の先生なんだよ?こんないい仕事、もう来ないかもしれないし、このドラマがきっかけでもっと人気上がるかもしれないんだよ」

「でも私、自身ないです」

「何言ってんの苺ちゃん!せっかくのチャンスなんだよ!?」

「……どんな役なんですか?」

「学校ではイジメに合い、家庭は最悪な状態で、そんな不幸な女の子が、一人の男の子に出会った事で、変わっていく物語なんだけど、その不幸な女の子の役が苺ちゃん。ちなみに相手の男の子は今大人気の相原卓也」

イジメられる、不幸な女の子…か

過去の映像が、ふと過ぎった

このドラマをすることで、あいつらを、見返すことが出来るかな

イジメられて馬鹿にされて

こんな私が芸能界で人気アイドルになった

主人公の女の子も、幸せになる物語…

「やろうかな」

「え!?それ、ほんと!?」

「私の役、なんて名前なの?」

「西岡麻衣だよ」

「…その仕事、OKしておいてね」

私が西岡麻衣になることで、世間の私みたいな子達に

少しでも勇気をあげられたなら…

私の演技で、誰かに、勇気を与えたい

キレイゴトかもしれない

そんなうまくいかないことは分かってる

だけど…

「西岡麻衣役の森田苺ちゃんです」

「よろしくお願いしまーす」

ドラマ撮影1日目

「苺ちゃん?」

「はい!」

「俺、相原卓也。よろしくな」

テレビで見たことのある顔だった

相原卓也は19歳

天才役者の肩書きを持っている

ドラマもこれで5本目だそうだ

ちなみに映画は7本出演しているそうだ

「はい!よろしくお願いします!」

私は笑顔で頭を下げた

「でさー、苺ちゃん。俺デビューからの苺ちゃんファンなんだけど、サインくれない?」

「サイン…ですか?」

ファン?

私の?

「苺ちゃーん!監督に挨拶しに行くよ!」

「あ、はい!」

「またあとでね」

相原卓也は私にウインクしてみせた

嫌いなタイプだな、なんて思った

「ねえ山口さん」

山口、私のマネージャーだ

「なに?」

「相原卓也さんにサイン頼まれたんですけど、どうすればいいですか?」

「サイン?」

「私のファンだって言ってました」

「サインくらいはしてあげたらいいよ」

「分かりました」

「でもプライベートでは会わないようにね。誘われても仕事があるので、って断るんだよ」

「はい…でもどうしてですか?」

「日本のマスコミは怖いからね」

私はすぐに、毎日見ていた芸能ニュースのことを思い出した

そっか

私もあのコーナーで紹介されてもおかしくない人間なんだもんね

「はじめまして!森田苺です!よろしくお願いします!」

私はマネージャーと監督の前で挨拶をした

「よろしく」

監督からの返事はそれだけだった

「ねえ、監督さんって怖い人なの?」

「怖いっちゃー怖いかな。厳しいみたいだよ。がんばってね!苺ちゃん!」

私は山口さんの笑顔が好き

私のために一生懸命お仕事をとってきてくれたり

いろんなことをしてくれる

「西岡麻衣役の、森田苺です!一生懸命頑張りますので、よろしくお願いいたします!」

出演者やスタッフの顔合わせ

「林太一役の相原卓也です。よろしく」

顔はとびきりかっこいい

でも、テレビで見てたときとイメージが全然違った

「小森彩役の羽山涼香です。全力で頑張りますので、よろしくお願いします」

麻衣の親友の、小森彩

羽山涼香は、新人アイドルだ

「橋田敦子役の星野ミホです!よろしくお願いしまーす」

麻衣のライバル、橋田敦子

星野ミホはアイドルグループの一人で

顔も声も雰囲気もとにかく可愛い

そのあとも続々と共演者、そしてスタッフの挨拶が続く

そんな中、私は考え事をしていた

芸能界は、思った以上に厳しい場所だった

私は軽い気持ちで芸能界へ飛び込んだけど

体力的にも、精神的にも、とても疲れていた

弱気じゃ、見返すどころか、また馬鹿にされてしまう

私は絶対に諦めるわけにはいかないんだ

「苺ちゃーん?何ぼーっとしてんの?」

「…え、」

相原卓也は、どうも苦手

昔、私をからかって告白してきた男子に似ている

「俺、あのミホって子にアピられてんだけど、どうしようか?」

「え…どうしよう、って言われましても」

私はイジメられてたから

告白されて、とても嬉しかった

それが私を馬鹿にするエサだとも知らずに

私は本気で、喜んでしまった

「次話しかけられたら、苺ちゃんと付き合ってるって言っちゃってもいい?」

「…え!?」

「苺ちゃん、俺達付き合っちゃおうよ」

やだ、似てる

本当にあの時と同じ

「…冗談、ですよね!仲良くしましょうね!相原さん」

過去の映像と重なる

私が喜んで、はい、と返事をしたあと

物陰から数人の男女が出てきて

本気にすんじゃねえよ、バーカ。って

「冗談じゃないよ?俺、本気だよ」

私を

「駄目ですよー、相原さん。私、本気にしちゃいますよ」

散々、罵った

「本気だってば」

涙さえ出なかった

「苺ちゃん?聞いてんの?」

最悪の、思い出

「あっ…ごめんなさい!」

「卓也さんっ、苺さんっ、よろしくお願いしますね!」

星野ミホが甘ったるい声で話しかけてきた

どうやら挨拶は終わったようだ

「こちらこそ、よろしくお願いします!」

「さっきから2人で何話してるんですかあ?ミホも仲間にいれて?」

「あ、はい!どうぞ。私は台詞の確認して来ますので」

敵は、作りたくない

たとえそれがどんな相手であっても

嫌われるのは、もう、嫌だ

「あ、苺さん!」

私は振り返った

「卓也は私のものだから。邪魔したら許さないわよ」

さっきとは、全く違う声

「邪魔だなんて…っ」

「そういう事です!よろしくね、苺さんっ!」

「待って下さい!私、あの人苦手なんです。だから、邪魔だなんてしませんし、星野さんと仲良くしたいです」

「でも卓也はあんたを狙ってるみたいよ?」

「だけど私…本当に困るんです」

「そうやって私を油断させる気?無駄だわ。私、本気よ。撮影以外で卓也に近づくのはやめてね、じゃあ」

「ちょっ、星野さん…」

嫌われるのは、怖い

敵視されるのも、怖い

「どうして…」

人間が、怖い

信じてもらえない事が怖い

言葉が届かなくなる

まるで、私は、そこに居ないかのように振舞われる

みんなの目線が怖くて

一人が怖くて

孤独になりたくないのに

私はもう、そこには居ない

「ミホねっ、卓也さんと仲良くなりたいです!」

遠くで聞こえてくる甘ったるい声

「お前、俺のこと好きなわけ?」

「はい!大好きですよっ」

女が男に接するときの態度が

私は、大嫌いだ

「あんたうざい。俺、狙ってる奴いんだよね」

「苺さんですか?」

「関係ねーだろ」

「苺さんなら諦めた方がいいですよ?あの噂、知らないんですか?」

あの噂…?

「あの子、いじめられてたんですよ。すっごく暗くて、ださくて。性格悪いって。だからそんな子と卓也さんはつりあいませんよー!整形だって噂まであるし。そんな子より、私っ!私は卓也さんのためなら、何だってしますよ?」

私の心臓が、ドキンと音を立てて鳴った

「お前、うぜぇ。そんなにあいつが気に入らないなら、潰せば?あいつが芸能界やめたら、お前と付き合ってやってもいいけど?」

「ほんとっ!?じゃあミホ、本気で頑張っちゃうよ?」

潰す?私が、芸能界を、やめる?

私は昔の映像が、まるで走馬灯のように流れた

ヤメテ ヤメテ モウイヤダ アンナオモイハ モウ

「いやあああああ!」

私は全力で走り出した

行く当てなんて、あるはずもない

「苺ちゃん!?」

後ろから、山口さんが叫んでいる

撮影がもうすぐ始まるっていうのに

私はどこへ向かおうとしているのだろう

戻らなきゃ

戻って、何事もなかったかのように演技しなきゃ

だけど、足が、言うことをきかない

私の指示など、まったく無視している

きっと私の脳が、過去の私が、指示を下しているのだろう

モウ、アンナメニハ、アイタクナイダロウ?

周りを見ると、たくさんの人が歩いていた

どうやら私は、都会の真ん中にいるらしい

「ねえあれ、森田苺じゃない!?」

「うそ!?」

「苺ちゃん?俺超ファンなんだよね!握手してよ」

「きゃー!苺ちゃん可愛い!サイン頂戴!」

「森田苺!?まじで!?本物?」

私の周りにはいつの間にか人がたくさん集まっていた

あ、そっか

私、芸能人だったんだ

たくさんの人が私を取り囲む

身動きが取れない

『握手して!』『サイン頂戴!』そんな声がたくさん聞こえてくる

私、有名になったんだ

本当に芸能人になったんだ

「…一子?」

一人の声だけが、やけに大きく耳に届いた

「一子じゃない?ねえ、そうでしょ?」

本田明日香 私を、イジメていたグループの1人

「…明日香」

そして、

「一子がテレビに出てて、皆吃驚してたよ」

元友達

「まさかあのださい森田が芸能人になるなんて思わなかったって、皆本当に驚いてたよ」

やめて

「イジメられてただなんて、全然わかんないくらい、明るくなったよね」

昔のことは

「昔はあんなに、ださくて暗かったのに」

それ以上聞きたくない

「それマジ!?」「森田苺って芸名なの!?」「てゆうか一子って…本名?」

明日香が人だかりの真ん中に来た

そして、大きな声で叫んだ

「こいつ、森田一子って言うの!苺ちゃんだなんてキャラじゃないし、イジメられてたのよ!ださくて暗くて、嫌われ者!」

私は人だかりの中から抜け出して

全力で走った

もう、終わりかもしれない

パニック状態だった

「あ!苺ちゃん!」

山口さんが走ってきた

「どこ行ってたの!?探してたんだよ!誰にも気づかれなかった!?」

私は無意識にスタジオへ戻ってきていた

「ごめんなさい…」

「撮影、苺ちゃんのシーンだけ飛ばしてやってもらってる」

「私、終わるの?」

「何言ってんの苺ちゃん!これから監督さんに謝りに行くよ!あと共演者の人たちにも」

スタッフの人が、「苺ちゃん戻りました!」と叫んだ

山口さんが、気分が悪かったのだと説明した

「本当に申し訳ありませんでした」

「ねえ苺ちゃん…仕事なめないでね?」

星野ミホの視線が、怖くなっていた

「じゃあ撮影スタートします!」

私は台詞をただただ口から発した

演技をした、だなんて言ったら

怒られてしまう

今日の撮影は、主人公の麻衣がイジメに合うシーンだった

今の私にはぴったりのシーンだったようで

今日の撮影は順調に進んだ

「やけにリアルじゃん。演技うまいんだな」

相原卓也は、私がイジメられていたことを知っている

ひとつひとつの言葉が、胸に突き刺さる

私はとても

弱いから

「それとも実体験があるとか?」

「……お疲れ様でした」

ダメダ 私

「苺ちゃん、今日はどうしたの?」

帰りの車の中は、張り詰めた空気が流れていた

「いきなり出て行くから、驚いたんだからね。もうあんなことしちゃ駄目だよ?」

「…………ごめんなさい」

負けたくない

負けない

絶対、負けてたまるもんか



「」


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