ネコムスメ {小説



サミシイヨ サミシイヨ

ダレカアソンデ ダレカカマッテ



ネエ ダレカ …



イッショニ イテ ………




















「やだ…っ!来ないで!」

コワイ コワイ !

「いやあーーーー!」

ワタシ 死ンジャウノ ?

ネエ ミィチャン テンゴクデモ 遊ボウネ


















「ねえ知ってる?昨日も出たんだって!」

「何が?」

私は中学2年生

私達の学年では今、妖怪ネコムスメが大流行している

「3年の先輩が、襲われたんだって!…ネコムスメに」

「やめてよ!今日部活で帰り遅くなるのに…」

都市伝説、ってやつ?

私は信じていなかった

だって、ネコムスメだなんて、見たことも会ったこともないんだもん

「ねえ亜紀、どうしよう…今日一緒に帰ろ!」

「嫌よ。だって私今日部活ないんだもん」

「えーひどい!じゃあ真帆、一緒帰ろ!?」

「私帰宅部だよ?何時間もこの気味悪い教室で待ってろって言うの?」

「だって1人で帰るの怖いもん!」

真帆がにやりと笑った

「じゃあ赤井先輩と帰れば?部活一緒じゃん」

「無理だよ!何言ってんの真帆!そんなの絶対無理!」

「顔赤いよ」

「赤くないもん!」

都市伝説から、いきなり恋愛話に変わる

10代、一番楽しい時期

私達の心は、常に動いているのだ

「ねえ亜紀は最近どーなの?」

「どうって、何が?」

「近藤くんと!」

「別にどうもしないよ?別れてないし」

つまんないから、告白してきた男子と、付き合ってみた

ただそれだけ

中学2年生、青春真っ盛り

私には好きな人が居なかった

「亜紀はいいよねー。毎日近藤くんと2人で帰ってるもんね」

加奈が口を尖らした

「加奈には赤井先輩がいるでしょ」

「あれは…っ違うもん!私が一方的に…」

片思い

まさしく青春の味

「もう告っちゃいなよ!」

私は経験したことがないけど

「無理だよそんなの。絶対振られるもん」

私は、人を好きになれない

人間が、恐ろしい生き物だということを知っているから

「そういう真帆はどうなの?真帆だって松井くんに告白すればいいじゃん!」

「そんな簡単に言わないでよねー」

「真帆だって赤井先輩とのこと簡単に言ったじゃん」

「簡単になんて、」

「言った!」

「はいはい、喧嘩は止めなよ」

「喧嘩じゃないもん…」

「真帆も加奈も、男なんてそんないいもんじゃないよ」

「経験者は語るー?」

「経験者だなんて、そんな大げさなもんじゃないよ。私は」

ネコムスメの話はどこ行ったんだ

「あたしトイレ」

私は1人でトイレに入った

鏡を見て、リップを塗る

顔は、自分では可愛いとは思わないけど

肩書き上の彼氏は、私を可愛いと褒める

男って、嫌い

だらしなくて、下品で

だけど私は彼氏というものを作った

私が望んだんじゃないけど

イエスを下した理由もなかったけどね

「…あ!亜紀!」

「夏帆、久しぶりだね」

「ほんとだよー!また遊ぼうね?」

「うん、またメールする」

「……待って」

私がトイレのドアを開けたとき

夏帆に腕をつかまれた

「ん、どうしたの?」

夏帆の険しい顔に、私は嫌な予感がした

「……私、近藤くんに告白しようと思ってる」

近藤くん=私の彼氏

これは、所謂、修羅場というやつだ

「亜紀と付き合ってることは知ってる。だけど私、好きなの」

「ねえ夏帆…私達、友達だよね?今までも、これからも」

「…当たり前だよ」

「決断は、近藤に任せる。私は、それに従う。もしも近藤が夏帆を選んだら、私は大人しく身を引く」

「大丈夫。私は振られる。それを覚悟で、告白するんだもん」

夏帆は少しぎこちない笑顔で笑った

友達と、男を、天秤にかけたとき

はたして私は、どちらを選ぶだろう

私は近藤が好きじゃない

だけど、嫌いでもない

一応、彼氏という存在ではあるが

「…ごめんね亜紀」

夏帆は幼稚園のころからの友達で

とても優しくて頼りになる

「謝らないで」

敵にはしたくない

だけど、今ここで、近藤を譲る、と言ったところで

私達は笑顔でこれからも話せるだろうか

いや、それは無理だ

夏帆が本気で想っている人と、私はとても半端な気持ちで付き合っている

何も言わないのが、一番か…

「じゃあ私、行くね」

あくまでも笑顔

「またね」

戦いじゃないと思っているのは、私だけだろうか?

「亜紀っ!近藤くん来てるよ!」

教室に帰ると、真帆が走ってきた

「近藤くん?なんで?」

「話があるんだって!早く行って来な!」

夏帆のことだろう、と、直感的に思った

「…話って?」

「あのさ…前沢に、呼び出されたんだけど」

前沢夏帆

やっぱり、告白するのは、本気らしい

「ああそう。行ってらっしゃい」

「告られるって噂なんだけど」

「うん、そうみたいだね。自分の気持ちに正直に返事を出せばいいと思うよ」

「相変わらず冷てぇな」

「……冷めた?」

「そんなわけねぇだろ。ちゃんと断ってくるから」

「…大好きだよ?」

「俺も」

恋人みたい…

まあ、恋人なんだけど

「じゃあ、授業始まるから、ばいばい」

「ああ」

微妙な距離感を保つ

人間関係に大切なのは、そこだ

距離感が、縮まりすぎても駄目だし

遠すぎても駄目

いいところで、お互い、保つのが

人間関係のあり方だ

「私、今日は帰る」

「え?気分でも悪いの?」

「うん。そうなの。じゃあまた明日ね」

私は早退した

気分は、悪くない

もちろん近藤のことで、早退しているわけでもない

気分で動いた

それだけだ

足元に、暖かさを感じた

「…猫」

1匹の猫が、私の足にくっついて、なついてくる

「かわいっ。どこの子?ノラ?」

私は動物と話すのが好きである

人間嫌いの私は、なぜか、動物が大好きだ

「ちゃんとお家に帰るんだよ」

本当の笑顔を見せるのは、動物の前だけかもしれない

「ばいばいっ」

ずーっと、ついてくる

その猫は私の足に纏わりついて、ずっとついて来た

「お腹すいてるの?」

私は鞄の中からパンを出し、ちぎってその猫にあげた

「おいし?」

にゃー、と鳴くその猫を、私はとても好きだと感じた

真っ黒の、子猫

とても綺麗で、だけど、首輪も何もしていない

「ノラ猫かな…?」

家に連れて帰ろうかと考えた

飼い主が居るならば、返してあげるまでだ

「…君、飼い主さんは居るの?」

もちろん猫は無言だ

「………寂しいの?」

でも私は、わかってしまう

「…私の家、来る?」

動物の気持ちが、直感でだけど、わかるんだ

「じゃあおいで!」

私は歩いた

その猫は私の後ろをついてくる

家の前まで着くと、その猫は、玄関で止まった

「おいで?入っていいよ?」

猫は私の様子を伺っていた

「おいで?」

私が手を伸ばしたら、その猫は走り去って行った

「あっ…」

塀に登って、こちらを見ている

「寂しくなったらまたおいで!」

寂しい、寂しい、寂しい、

動物は素直だ

人間とは違って

いつからだろう、動物の気持ちを感じ取ることが出来るようになったのは

いつから、人間の心を、知り尽くしてしまったのか

いつからなんだろう、人間を、信用できなくなったのは

「ただいま…」

返事は返ってこない

この時間は、家がしんと静まり返っている

親は仕事で、兄は学校

私はこの静かさが好きで、たまにこうして学校をサボり

この静か過ぎる家で、1人で過ごすのだ

ふと、夏帆の顔が頭によぎった

今頃、告白してるのかな

あいつは、どんな顔で、その言葉を聞いてるんだろう

ま、どうでもいいか…

私は階段を上がり、自分の部屋のドアを開けた

「え!?」

さっきの黒い猫が部屋の中にいた

「あれー?どっから入ってきたの?」

その猫は、じっと私の目を見ていた

「…寂しくなったの?」

猫は、返事をしない

だけど私には聞こえる

心の声

「いいよ。ずっとここに居ていいよ?ミルク持って来ようか?パン食べる?」

…ヤサシイネ ヤサシイネ ドウシテ ドウシテナノ

「あなたが、好きだから」

私はにこっと笑った

私の気持ちはちゃんと、届いてる

「名前なんていうの?」

猫は返事をしない

だけど私には、私だけには、聞こえるんだ

「…名前つけてあげるよ!何がいいかなー」

周りから見れば、おかしいことなのかもしれない

だけど私には普通のこと

聞きたい、と思えば、聞こえる

話したい、と願えば、話せる

この力を、私は特別な能力だとは思わない

人間誰しもが持つ、当たり前の力だと思う

だけど人間は、固定観念でものを見る

猫は喋れない

動物とは喋れない

そんな勝手な決めつけから、人間は、動物と話すことが出来ない

「クロ…!黒いから、クロ!単純でごめんね。嫌かな?クロ」

猫はにゃーと鳴いた

「よし!じゃあ今日から君はクロね」

猫は再びにゃーと鳴いた

「…どうして寂しいの?お母さんと逸れちゃった?それとも迷子?飼い主さん、探そうか?」

チガウ チガウノ ワタシハズットヒトリナノ

ムカシカラ ワタシハズット ヒトリボッチ

サミシクテ サミシクテ 遊ンデホシクテ

ダケド人間ハ ミンナワタシヲ 嫌ウノ

「…どうして、みんなクロを嫌うのかな。こんなに可愛いくて、いい子なのに」

ホントウニ カワイイトオモウ ?

ホントウニワタシヲ スキダト オモウ ?

「……まさか、」

私は真帆達の話を思い出した

ネコムスメ って、 知ってる ?

「まさかね。馬鹿みたい私。ごめんね。変なこと思って」

クロは俯いた

そして、私は自分の目を疑った

クロが、人間になった

人間の姿 だけど 耳としっぽが生えてる

鋭い牙 つりあがった目 愛らしい表情

「優しくしてもらって、嬉しかった。人間はみんな、同じだと思ってた」

「…ねこ、むすめ?」

「私、何もしないのに…私、ただ遊んでほしいだけなのに」

私は、不思議と、その状況をあっさりと受け止めた

「……そっか。そうだったんだ。ほんとに居たんだね。ずっと寂しかったの?一緒に、遊ぼ?」

「遊んで、くれるの?」

私は微笑んだ

「うん。クロ、何して遊びたい?」

「…ううん、もう、いいの。こんなに優しくしてもらったの初めて。ありがとう。ありがとう。…嬉しい」

「散歩…しよっか」

クロは微笑んだ

そして、猫の姿に戻った

「行こっ、クロ」

アリガトウ アリガトウ

クロはずっと、お礼を言っていた

「あ!亜紀!」

真帆が走ってきた

クロはとっさに私の後ろに隠れた

「その猫、亜紀のペット?」

「うん」

「黒猫…ネコムスメも黒猫なんだって」

「へぇ…だからどうしたの?」

「亜紀、猫なんて飼ってた…?」

「今日飼ったの」

私はクロを抱き上げた

「まさか、拾ったの?」

「そうだけど、何?まさかこの子をネコムスメだなんて言わないでね」

「…ネコムスメにとりつかれたら、感情がネコムスメの思い通りになるんだよ。亜紀、その猫…危険だよ」

「…真帆、黙っててごめんね」

「え…」

私は真帆をにらんだ

「私がネコムスメよ。ネコムスメの正体は私。信じないならそれでいいわ。だけど真実よ。私がネコムスメ。何も危害は加えないわ。勝手な噂作られて、腹が立ったのよ。だから最近ここらに出没してみたの。私はただ、遊んで欲しかっただけ。かまって欲しかっただけなのに……さようなら、もう、会うことはないでしょう」

「ちょっ…亜紀!?」

「この女の体を借りたのよ。明日には、何もかも忘れてるわ」

「え…嘘でしょ、冗談言わないでよ亜紀」

「ただ、遊んで欲しかった……それだけ」

私は走った

ひたすら、走った

「はー。あんな嘘ついたの始めて」

ドウシテ 嘘 ツイタノ ?

「クロのため。って言ったら、まるで私がいいことをしたみたいだけど。言いたかったの。クロの本当の気持ち。誤解されたままじゃ、嫌なの。みんな勝手に噂作って、本当の気持ち、知らないくせに」

「………ありがとう」

クロは再び人間の姿になった

「優しいんだね、ありがとう」

「寂しいなら、ずっと家に居ていいんだよ?」

「ううん…私、帰らないと」

「そっか」

「…本当に、嬉しかった。また、遊びに来てもいい?」

「もちろん」

「ありがとう…」

クロは猫の姿に戻った

そして、走り出した

アリガトウ アリガトウ と、

私にお礼を言いながら























逃げなきゃ!逃げなきゃ!殺されちゃう!

「やだ…っ!来ないで!」

コワイ コワイ !

逃げないと でも足が 動かないよ

せめて、ミィちゃんだけでも逃げて…

こんなところで一緒に殺されちゃうなんて、嫌だよ

ミィちゃんだけでも、逃げて

ミィちゃん駄目だよ

一緒に居ちゃ、殺されちゃうよ…!

「……ミィちゃん、一緒に居てくれるの?だけど、」

 イツデモ イッショ

ありがとう

「いやあーーーー!」

痛い 痛いよ 私、死んじゃうの…?

「ねえ……ミィちゃん、天国でも、遊ぼうね」


























































「おはよう」

真帆の顔は引きつっていた

「何?どうかした?」

「亜紀…本当に覚えてないの?」

「だから、何のこと?」

「…ううん、なんでもない」

いつもと変わりない朝

クロ…元気かな

「亜紀、前に居るの、近藤くんじゃない?女と…手、つないで歩いてるけど」

「あー、夏帆だね。付き合うことになったんだ。あの2人」

「え!?亜紀、いいの!?なんでそんなに冷静なの!?」

「いいのいいの。もうどうでもいいの」

「え!?意味わかんないんだけど!」

私は近藤と目が合ったけど、目を逸らした

夏帆は私と目も合わそうとしない

人間なんて、そんなもんだ



















アリガトウ アリガトウ アリガトウ …





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