ワタシとワタシ{小説



「私、美咲がいるから頑張れる…
  もし1人だったら、もうとっくに死んでたよ」









私は走った

現実から少しでも離れたいと願いながら

1分でも1秒でもいいから

はやく、田崎あすみと

さよならをしたくて


「美咲ちゃーん?準備出来た?」

「はい!」

「じゃあ今日も頑張ってね」

「はい!」

私は笑顔で手を振った

このときだけ、美咲になるときだけが

私の生き甲斐

私の生きる意味

私の、存在理由なんだ






「ちょっとあすみ!」

「…なに?」

「これ、林先生に出して来て」

私に突きつけられたのは橋本エリカと書かれたプリントだった

「私忙しいの。あんたどうせ暇でしょ?」

「…うん、私、暇だからいいよっ!出しとくね」

私はそのプリントを受け取り

職員室へ向かった

イジメじゃない

ハブられてもない

友達が、みんな悪魔なんだ

「先生、これ…橋本さんのプリントです」

林先生にプリントを手渡した

「橋本の?」

「…失礼します」

「田崎」

私は後ろを振り返った

「はい」

「最近、どうだ?何か悩み事とかないか?」

「ありません」

「友達とはどうだ?上手くやってるのか?」

みんな、そう言うね

友達と上手くやらないと

何かいけないことでもあるの?

私はそうは思わない

友達なんて、必要ない

「大丈夫ですよ。心配要りません。私、毎日楽しいですから」

また嘘をついた

でも平気

この姿は仮の自分だから

ニセモノの自分

本当の、本物の自分はもっと輝いてる

美咲は、素敵な人間だ

「失礼します」

私は職員室を出て、教室に戻った

「あすみお帰り!明日みんなでカラオケ行こうって言ってたんだけど、あすみも行くよね?」

「ごめん、明日はちょっと、用事あるから」

「あたしらと遊ぶの嫌なの?」

「違うよ。明日は本当に、用事なの」

「用事って何?」

エリカの隣でパックのジュースを飲んでた元木涼香が口を出した

「お見舞い。親戚の」

「へえ…まあいいや。あすみが居なくても全然楽しいしねー!」

「ちょっとエリカ!それ禁句だから!」

エリカと涼香が笑っていた

私もそれと同じように笑う

笑いたくなくても、笑えるようになったのは

もう何年前のことだっただろう






「美咲ちゃんは、恋してますか?」

「えー?してませんよお、だって、今はファンの皆さんが恋人ですもん!」

「なるほど」

雑誌の取材

これも慣れっこ

だけど楽しい

学校で居るときなんかより、何倍も

これが本当の私

美咲が本当の私

「初恋は何歳のときでしたか?」

「幼稚園だったかな。クラスで1番かっこいい、皆が憧れてた男の子に恋してましたね。素敵な思い出ですねっ」

「学校の友達とは、よく遊んだりするんですか?」

「うーん…あんまり遊びませんね。今はお仕事が一番楽しいんです。寂しいですけどね。だけど長いお休みを頂いたときはよく遊んでますよ」

遊ぶ、というより、遊ばれてるという言葉の方が正しい

私は皆の玩具だ

そして、ストレス発散の道具でもある

いいパシり

皆は私のことを、友達だなんて思ってなどいない

もちろん私も

「学校は楽しいですか?」

「はい!凄く楽しいですよ」

イメージのために、嘘をつくのは珍しいことじゃない

だけど学校のことは思い出したくない

私にとって学校は

単なる地獄でしかないんだから

「新曲のアカネゾラが発売されましたが、この曲のどういったところがオススメですか?」

「歌詞がとても可愛らしくて素敵なので、歌詞にも注目して聞いて頂きたいですね。あとカラオケでも歌いやすいようになってるんで、是非歌って頂きたいですね!絶対盛り上がるので!」

雑誌の取材のあとは、歌番組の収録だ

多忙が嬉しい

なにより仕事をしているときが1番幸せ

何もかも忘れられる

美咲が私の全てなんだ

学校の皆は私がアイドルの美咲だということには

気づいていない

話題に出てきたりもするが、私に似ている

なんて言葉は一度も出てきたことがない

ここまで気づかれないと、少し寂しい気もするけど

どうだっていい

実際学校の中での私は美咲じゃなくて

田崎あすみという人間なんだから

「」



© Rakuten Group, Inc.

Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: