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記憶の中(小説)
あなたは私の何なのでしょう?
3日前まで、私はゴク普通の女の子だった。
3日前までは。
この3日間に何があったのかと言うと・・・・・・・
朝はいつも通りおきて、何もかわらず学校へ向かった。私はかなり用心深くて、信号が青でも左右確認してわたる。極端に死を恐れている。
そんな用心深い私がまさか、まさか事故に合うなんて。
周りの人もびっくりしてたけど、1番おどろいたのは私。 まさか私が?この私が・・・。
私はすぐ救急車で病院へ向かった。その時はもちろん意識はない状態。
病院について何時間かたった。目が覚めるとずらりと人が、私の周りを取り囲んでいる。
そして私は問う、「誰ですか?」と・・・。
そう、私は記憶をなくしてしまったらしい。・・・記憶喪失。
そんな事があり、今。3日たった今も私の記憶は戻らないのだ。
コンコン
「入るわよ」
「何ですか?」
「・・・あなたは、思い出してくれないのだけれど、私はあなたのお母さんなのよ?だから・・敬語は、やめましょうよ?」
「はぁ、でも・・テレビでは、親に敬語で話してましたよ?」
「テレビは、皆が見るものだから、そういうふうにできてるの。でも、ここではいいの。みんなお母さんには普通に話してるわ」
「そう・・・。じゃあ、丁寧に話さなくていいんですね?」
「ええ、もちろんよ」
おかしな会話は毎日、当たり前のように続く。こんな私に母もかなりあきれてるんじゃないだろうか?
いや、そんなことは有り得ないはずだ。この世の常識から言うと、親は子供を見捨てない・・はずだ。
「じゃあ、お母さんはもう行くけど、何か用はある?」
「いや、特に・・」
私はまるで他人を見るような目で言葉を返す。
「そう、じゃあ後でね」
ガチャ
私は私がこの世に生きて、この世で何をしてきたかさえ忘れてしまった。もう、これ以上忘れたくないと言わんばかりに必死に新しい情報を自分に詰め込む。いつか、パンクしてしまうのではないかと言うほどの情報が私の中に流れ込む。
コンコン
「どうぞ・・入って下さい」
ガチャ
「こんにちは・・」
「あなたは?」
「楓だよ?私の事まで・・忘れてしまったの?」
「楓さん・・・?すみません、今の私の中にそういった名前の方は・・」
「りさ・・・。本当に、本当に私の事を・・思い出せないの?」
「すみません。あの、どういう関係の・・・・?」
「・・同じ高校に通う、あなたの親友よ?楓と・・言うの」
「親友?」
「・・友達よりも、もっともっと仲が良くて、お互いに信頼してて・・私と、りさみたいな関係の事を言うの。」
この、楓さんが何を話しているか全くわからなかった。
親友、りさ、関係、分からない事だらけ。その分からない事をまた一つ、自分に詰め込んだ。
「あの・・あなたは、私の中から消えてしまっているけど、あなたの中に私はいるのですか?」
「・・もちろんよ。りさが思い出してくれるその時まで、私は待つわ」
自分でも、何を言ったかわからなかった。
そしたら、勝手に目からあふれるものを感じた。
「りさ?泣いてるの?」
「どうしてか、わかならいけど・・目から涙があふれる・・」
この感情をなんと呼ぼうか・・・。この目から、心からあふれ出すものをなんと呼ぼうか・・・。
「ゴメンネ、りさ。」
「どうして・・あなたが私に謝るの?」
「ううん、・・・また来るから、今日は帰るね」
「あ、」
ガチャ
声をかけたかったが、こういう状況の時にどういう言葉を発すればいいか、私にはまだとても難しかったんだ。
ガチャ
「楓ちゃんと、何かあったの?」
「・・・何も」
「そう、」
母は優しく微笑んだ。普通は怒るところなの?それとも・・それとも・・・・
次の言葉が思い浮かばない。涙と一緒に私の中に詰め込んだモノまで流れてしまったのか・・?
朝、目覚めても私の中にあるモノは数えるほどしかない。
このまま記憶が全て消えて、いつか自分まで消えてしまうかと思うと、怖くて怖くて仕方なかった。
コンコン
「入るわよ」
「・・・はい」
「おはよう。昨日はよく眠れた?」
「・・いつも通り」
「そう、それなら良かったわ。」
「あの、用はなに?」
「喜んで、りさ。家に帰れることになったの。」
「家・・に?」
「そう、私たち家族の家に。帰るって言っても少しの間なんだけどね」
「家?家に帰るとどうなるの?」
「あなたの記憶が戻るかもしれないじゃない、うれしくないの?」
うれしいとか、悲しいとか言う感情はなかった。ただ、「家に帰れる」うれしそうに言う母の顔を見て、なんとなくとても良い事なのだとわかった。
「あの・・いつ帰るの?」
「今日よ、今から。だから、用意して待っててね?」
「・・用意?」
「帰る用意よ。」
「・・・」
「いいわ、お母さんがするから。あなたは・・そうね、庭でも散歩してきたら?」
「・・・はい」
ガチャ
家に帰るらしい。
とにかく母は嬉しいらしい。でも・・私の記憶は戻らないと思う。戻った瞬間に、とてつもなく怖いモノが私の中に入り込んできそうな気がして・・怖くて、思い出せない。
「りさちゃん?」
肩をたたかれたから私の事なのだとわかった。
「・・はい」
「やっぱり、りさちゃんよね?」
「あなたは・・・?」
「あ、覚えてないかな?ほら、昔家が近くて、よく遊んだじゃない?」
「はぁ・・・私の記憶はあいまいで・・。」
「そっか・・。あ、そういえばどうしてココに?」
「病院のことですか?・・入院してるんです」
「えー。どうして?」
「・・わからないんです」
「わからない?・・お母さんは?」
「母は部屋にいますけど?」
「ちょっと会いたいな。部屋の番号、教えてくれる?」
「確か・・203だったと思います」
「そう、じゃあ今から行くわ。りさちゃんも部屋に戻らない?」
「いえ、私は・・」
「うん。じゃあ、またね」
どうやら昔、近所に住んでた子で。よく遊んだらしい。私より少し年上だった。背も少し高くて、どことなく大人っぽくて・・・。
でも、私にはそんな記憶などなかった。不思議に話は進んで、母に会うらしい。
それにしても外は冷える。
寒かったり、暑かったり、季節はめぐるみたい。でも、その中に私はいたのだろうか?いや、いたのだろうけど・・。記憶がないだけで、上手く言い表せないけれど、私は今この世に生まれたような気分である。
「冷えますねー」
「・・?」
「季節が変わるのは早いですね」
「・・・・そうなんですか?」
「そう、感じませんか?」
「分からないんです。私には、季節がどういうもので、・・私はこの寒い季節にしかまだ生きてないのですから」
「あなた・・今、生きてますか?」
「・・はい」
「・・・・私は、もうあの世に行くのですよ。」
「あの世?」
「そう、あの世へ。・・だから、あなたの楽しかった過去の話は聞けませんね?」
「・・・」
「さようなら。あなたはきっと良い人でしたよ。何事も恐れず、前向きに考えて下さい。そうすれば答えはきっと、あなたに、宿ります」
「・・・おじいさん?」
ふっと、風とともに消え去った。
ひげの生えた、優しそうなおじいさん。誰だったのだろう?私に、何を伝えようとしてたのだろう?
「りさ、用意が出来たわ。部屋に戻って着替えなさい?」
「・・はい」
ガチャ
部屋はきれいだった。
生まれたての感じ。何もなくて、私のいた気配さえない。
「着替えはそこに置いてあるからね。少ししたらまた来るわ、それまでココで待ってるのよ?」
「・・この部屋は、いても大丈夫なの?」
「ええ、あなたが家に帰ってる間も誰も入らないみたいだからね」
「そう・・」
「じゃ、待ってるのよ」
ガチャ
この部屋は、何人の患者を見送ったのだろう?そのつど、そのつど、記憶は残るのだろうか?
モノにだって記憶があるのなら、私にだって記憶が・・・。
コンコン
「どうぞ」
「早いわね、さぁ、行きましょうか?」
「・・うん」
家までは車で15分ほど。家まで行く間、何も考えなかった。お母さんは、いろんな話を私にしてたけど。今思い返すと、「大丈夫よ。記憶なんてすぐ取り戻せるわ」と言う、何の根拠もない発言だけが残っている。
「さぁ、ココが家よ?どう、何か・・思うことは」
「特には・・ただ、もっと・・病院に似た感じの家かと」
「あぁ、マンションのことね。違うわ、家は一軒家なのよ」
「・・・家には誰かいるの?」
「いいえ、誰もいないわ。」
「じゃあ、お母さんは病院からここに帰ってきても誰もいなかった、ってわけ?」
「そうよ。・・入りましょ」
「・・うん」
ガチャ
「ほら、ココが我が家よ。先に入って」
「・・・広い」
「病室はせまかったものね」
「はぁ・・・」
「どうぞ、私たちの家なんだもの、自由に見て回って」
この家に来たからって何も思い出せそうにない。
ただ、家の中はたくさんの写真が飾られてあった。
「この小さい子、私?」
「そうよ」
「あっ、あのときの」
「えっ?!何、何か思い出したの?」
「昔のことじゃなくて、ついさっきの・・。」
「つい・・さっき?」
「このおじいさん・・私さっき会ったの、病院の庭で。」
「えっ?でも・・・」
「本当よ?私話したもの。しっかり覚えてる。よく意味の分からない事言ってたけど、私に何か伝えたかったんだと思う・・」
「・・写真の、おじいちゃんはね・・2年前に亡くなってるのよ。でも、あなたはおじいちゃんに会ったのかもしれないわね。おじいちゃんが、少しでも何か思い出してくれるようにって、心配してくれてたのだと思うわ」
「おじいちゃん・・。そういえば、もうあの世に行くとか言ってた。きっと、帰らなくちゃいけなかったんだ」
「さ、おじいちゃんにも挨拶しましょうか」
「おじいちゃんは、どこ?」
「来なさい」
「ほら、おじいちゃんよ。お線香あげてね」
「はい」
私は心の中で、「おじいちゃん、ありがとう」とだけ言った。このありがとうには深い意味が込められているのだ。
「りさ、」
「どうしたの?」
「見て、あなたの服よ」
「・・私の」
「そう、で、これはあなたの写真」
「これが私?」
「中学の頃よ、コレは・・小学生かしら」
「・・・」
なぜか、すごく懐かしかった。写真に写ってるのが私で、何をしているときにとったのかはわからない。でも、すごく懐かしい気持ちになった。
「どう?何か、覚えてない?」
「ごめんなさい」
「誤る必要なんてないわ。ゆっくり、ゆっくりとね?」
「・・はい」
お母さんはこう言ってくれるけど、私は内心少し焦っている。このままずっと記憶が戻らなかったら、楽しかった事も、思い出も、何も思い出せないまま人生が終わってしまったら・・・と、とても不安になる。
「・・部屋に、行きましょうか」
「部屋?」
「あなたのね」
「・・私の部屋?」
ガチャ
「ほら、ココがあなたの部屋よ、すごく可愛くしているのね。お母さんはあなたの部屋をあまり見たことがなかったから・・それに、最近は掃除をしてなかったから、少しホコリがたまってるわ」
「どうして私の部屋、あまり見なかったの?」
「どうしてって、あなたが入るなぁ、って言ってたじゃない?」
「そうなの・・・・」
「ええ、そうなのよ。あなたは部屋に入られる事をすごく嫌がったのよ」
「・・・・私、少し部屋を見たい」
「ええ、あなたの部屋ですもの。どこでも見ていいのよ?あ、お母さんはリビングにいるからね」
私は軽くうなずいた。そして部屋へと入った。
まず目に飛び込んできたのは、壁に貼られてあるポスター。そして、可愛らしいイラスト、人形。
ポスターに写っている人間は誰なのか、私がこの人を好きなのか、なぜ貼ったのか、全くわからなかった。
イラストや人形はきっと私の趣味なのだろう、と思った。
部屋をまじまじと眺めていると、小さな引き出しがあることに気づいた。あけてみた。中は手紙、手紙、手紙・・と、たくさんの手紙がしっかり透明のファイルにはさまれて入っていた。その中でひときは目立つピンク色の派手なねこのキャラクターの封筒を手にとって、よんでみた。
DEAR りさ
こんにちは!
最近どう?学校とか、楽しい?
コッチは全然。勉強もだんだん難しくなっていくしね、大変だよ。
この間のテストは最悪でした・・。また怒られたよ。ホント、うるさいよね。親って。
りさは小学校の頃から頭が良くて、勉強、出来てたから余裕カナ?
この間は楽しかったね!りさは相変わらず盛り上げ役だね。結構頑張ってくれてたもんね!ありがとね。
またメェルちょーだいっ♪
じゃあ、またね。
FROM 由愛香
由愛香・・・誰だろう?
この手紙にも何の覚えもなかった。ただ、私とこの、由愛香は遊びに行ったのだということだけわかった。
私の記憶を取り戻す何の手がかりにもならない。
一つ、気になる手紙を見つけた。ほとんどの手紙は落書きがされてあったり、キャラクターものの封筒であったりと、ハデで目立つ感じのものなのに、一つだけシンプルな茶色の封筒を見つけた。
一つだけシンプルだったので、何か手がかりになりそうだ、と読んでみた。
りさへ
いきなりお手紙ゴメンネ。びっくりした?
私はりさと仲がギクシャクしだしてから毎日が楽しくなくて、ユウウツなの。りさは暗い私に明るく話してくれたり、楽しい話、いつも聞かせてくれた。私は、そんなりさが大好きだった。
そんな、大好きなりさからも嫌われた私に生きる意味なんてない。毎日、楽しい話を聞かせてくれる人がいなくなったから。私には学校へ来る楽しみもなくなった。同時に、生きてる意味さえもなくしてしまいました。
いきなりこんな事言われてりさ、すごく困ると思うんだけど、りさと私がおかしくなりだしたのはりさのせいだよ?りさが、他の子と仲良くするから。りさが、他の子に楽しく話しかけるから・・・。私はやきもちをやいているのだと思うのね。りさが私だけに話してくれるなら、私はもう一度生きてみる。もし、りさが私の事、友達と思ってくれてるなら・・電話下さい。電話番号は、090-6*7*-****です。
じゃあ、りさの事信じてます。
ハルミ
えっ?何この手紙。この後・・私どうしたの?
あー。思い出せない、そうだ、この番号・・かけてみよう。
私は電話の受話器をとり、ゆっくりと番号を押す。
プルルルルル プルルルルル
「・・はい」
「もしもし?」
「りさ?」
「そうです、・・あの、ハルミさんですか?」
「そうだけど?・・りさ、大丈夫なの?」
「大丈夫」
「記憶は・・ちゃんと戻ったの?」
「いえ、全く。」
「じゃあ、私の事・・なぜ?」
「あなたからの手紙を見つけたんです」
「・・そうですか」
「あの、この手紙を読んだ私はどうしたの?」
「ちゃんと来てくれたわ。りさは私に、生きていく意味なんてなくていい、生きる意味はちゃんとハルミの中にある。生きていくために生きるんだよ。って、言ってくれた・・・」
「私が・・そんな事を」
「そう、だから私は救われたのよ」
「・・あっ、ありがとうございました、では失礼します」
「あっ、り」
ツーツーツー
切った。
覚えは全然なかったけど、とりあえずホッとした。
辺りを見回してみると、パソコンがあった。
電源のスイッチを入れて、見てみる事にした。
出てきた画像がなんだったのかはわからなかった。可愛いクマのキャラクター。
いろいろ見ているうちにインターネットつながった。
お気に入りに入ってるHPにいってみることにした。開かれたページには、たくさんの画像があった。
可愛いなぁ、と思いながら見ていた。
インターネットのやり方など忘れてしまっていたから、何がなんだかわからないうちに、メールがたくさんあるところにたどりついた。たくさんのメール、きっとどれも私宛。
いくつか読んでみる事にした
DEAR りさサン
初めまして、こんにちは。
りさサンのHPは可愛くて、和みます。りさサンの小説や詩も大好きで、よく訪問していたのですが、今回初めてメールさせていただきました!
いつも勇気がなく、メールできずにいたんですよ・・・。
もしよければメル友になりませんか?
では、返事まってます。
DEAR 健一
HP?私って・・自分のHPもってるの?!
・・見たい。
メールの最後にアドレスがあった。
ここにあるアドレスがそうなのかな・・。
私はアドレスをクリックしてみた。すると、 エンター という文字が出てきた。そこをクリックしてみると、背景はピンクで、ようこそ と書かれた文字が出てきた。その下に、*日記* *写真* *プロフィール* *詩* *小説* と書かれたプレートが出てきて、まず日記を読んでみる事にした。
○月○日
今日は金曜日。
今から学校☆今日は、朝に日記書いてみました!
では、今から行ってきまーす!!
<終>
この日・・・
パッと部屋に張ってあるカレンダーを見た。
私が事故にあった日だった。
この日記を書いた後すぐ、私は思いもしなかった事故にあったのだ。事故にあっただけじゃない、大切な記憶までなくしてしまった。
この日、全てが始まった日。
この日、全てをなくした日。
コンコン
「・・・・はい」
ガチャ
「あら、パソコンなんてしてるの?使い方分かった?」
「分からないうちに使えてたよ・・・」
「何か・・見つけたの?」
「見つけた、私のホームページ」
「あなた、ホームページなんて作ってたの?!」
「そうみたい」
「見てもいい?」
「・・・この日記、私が事故に合った日の朝に書いたみたいなの」
「えっ、この日記が?」
「ほら、見て。日付・・」
「・・・書いてみたらどう?また、こんなふうな日記を。日記なら、過去がわからなくたって書けるじゃない?」
「でも、キーボード・・打てないよ」
「この本、キーボードの打ち方とか乗ってない?」
母は 簡単パソコン入門 と言う本を手に取った。
「ほら、ここにのってあるわ。この本を見てやればわからないことはたいていわかるんじゃない?」
「・・うん。」
「何か趣味になることを見つけないとね、毎日が楽しくないわ」
「・・やってみるよ」
「ええ。でも、あまり長い時間しちゃだめよ?疲れるからね」
「はい」
そう言い残して母は部屋を出た。
キーボード、昔はちゃんと打ててたのかな・・。記憶もちゃんと、あったんだよね。
私は昔の自分をうらやましく思った。
早くもパソコンに飽きた私は部屋にあるピアノに触れた。
ドーレーミーファー
と、音を鳴らすしか出来ない。
ピアノの横の本棚には ピアノで弾くディズニーの名曲集 や、 簡単ピアノ教室 など、本がたくさんあった。
1冊手にとって中を見た。
私はこれを弾いていたのだろうか?・・いや、本があって、ピアノもあると言うことは絶対に弾いていたんだろうけど・・・。
その時私は、 昔の私ってすごいな と、昔の私を想った。
パソコンも出来て、ピアノも弾けて、自分のHPまで持ってて、手紙をたくさんもらって、メールもたくさんもらって・・・。
どんな人だったのか、ますます記憶が恋しくなった。
ふっ、と時計を見たらもう午後5時。
この部屋に長いこといたなー。などと思いつつ、リビングへ向かった。
話し声が聞こえたのでそっとのぞいてみた。
母が電話で話してた。
会話の内容はあまりよくわからなかったけど、「大変」や「記憶が戻れば・・」などと言う言葉から、きっと私の事を話しているのだ、とわかった。
母が私に気づき、電話を切った。
「あら、いたの?」
「・・・電話、切らなくったっていいのに」
「話はもう済んだのよ。それよりどうしたの?もう部屋はいいの?」
「・・どうもしないけど、部屋はまた明日にでもゆっくり見ようかと思って」
「そう。あら、もうこんな時間。夕飯作らなきゃね」
「・・・・」
「あっ、そうだわ。りさ、何か食べたいものある?久しぶりに病院のごはん以外のものを食べるの、何かスキなもの作るわ」
「・・私、好きな食べ物とかわからない」
「・・・りさは、そうね・・パスタが好きだったかしら。」
「パスタ?」
「まぁいいわ。何か、美味しいもの作るわね」
「・・うん」
「出来たら呼ぶから、それまで好きにしてて」
「外へ出てもいい?」
「いいけど・・・戻ってこれる?」
「大丈夫よ、そう遠くへは行かない」
「気をつけるのよ」
「うん、」
「あっ、待ちなさい。携帯持って行きなさい。道に迷ったら電話したらいいわ」
「どうやって使うの?」
「ココを、ほら。こうすればすぐ電話はかかるわ」
「ありがと・・じゃあ、すぐ戻ってきます」
「いってらっしゃい。気をつけてね」
「はい」
ガチャ
外の空気は冷たかった。新鮮な空気、気持ちよかった。
少し近所を歩いてみた。初めて見る景色、人、建物。
不安は全くなかった。ただ歩いた、記憶を取り戻せるかもしれないと言う希望を探して。
「りさー?」
振り返ってみると全然知らない人。また私の友達?
「やっぱり、りさだ。どうしたのよー?大丈夫なの?」
「えっと・・誰ですか?」
「やっぱり、記憶はまだなんだ・・」
「まだ?」
「まだ戻ってないのか、って事よ。」
「戻りそうにないんです」
「いつか戻るよ。もしもどらなくったって、また1から始めればいいじゃない」
「1から・・・?」
「そう、今この時も、りさの中で記憶は作られてるんだから」
「過去が欲しいの」
「いらない過去だってあるよ?それを思い出した時、りさは、耐えられないよ」
「耐えられない?」
「あっ、ううん。そういう過去もあるかもしれないって言う、例え話よ」
「私にはそんな過去あるの?」
「ないわよ、うん。ナイナイ。きっとないわよ」
「あなた・・何か知ってるの?」
「何か・・って?」
「私の過去。友達なんでしょ?私と、あなた」
「友達よ。でも・・知らなくていい過去を知ろうとするのも変よ」
「変?どうして?自分の過去なのに?」
「・・とにかく、りさにはそんな過去ないわ」
「・・・それなら、いいけど」
「りさは、過去を思い出したいの?」
「うん」
「じゃあ一緒に来て、いい所、教えてあげる」
「いい所?」
「そう、過去を思い出せるかもしれない、思い出の場所よ」
「思い出・・・」
私たちは少し歩いた。すると大きな川が見えてきた
「ここよ、ここでりさは一つ、いい過去を作ったの。」
「・・ここで」
「思い出せない?」
「すみません」
「ううん、やっぱり、思い出せないよね・・・。なんだか、無理やり連れてきちゃったみたいで、ゴメンネ」
「ううん。全然、あなたがあやまる必要なんてないです。私も思い出せればと、思っていましたので・・・」
「そっか・・・時間をかけて、ゆっくり思い出せればいいじゃない、頑張ってね」
「・・・うん」
「じゃあ、私はここで」
「うん。また記憶が戻ってあなたの事思い出せたら会いましょ」
「そうね、じゃっ」
あ、名前聞き忘れた
その子の姿が見えなくなったぐらいで思い出し、少し後悔した。
その数分後、私はかなり焦ることとなった。
「あっ!」
そう、ここまで来たのはいいが、帰り道が全くわからない。
どうしよう・・・。
そうだ、電話。
プルルルル プルルルル
「はい、りさ?」
「あの・・道が」
「今どこ?」
「・・大きな川が見える」
「わかったわ。そこにいなさいね」
「来てくれるの?」
「ええ、動いちゃダメよ」
「いいよ、そんなの。悪い。どう行けばいいか、言ってくれればわかると思う」
「いいわ。どうせ買い物行かなきゃいけなかったし、待ってなさい」
「・・はい」
ガチャ
また迷惑をかけてしまった。
こんなんじゃ、本当に見放されてしまう時が来るかも・・・
数分後、母が来た。
「りさー。大丈夫?」
「・・・はい」
「よかったわ。でも、どうしてこんな所まで?」
「ココね、記憶が戻るかもしれない思い出の場所なんだって。あの子が言ってた。名前聞くの忘れちゃって、誰だかわからないけど、きっと私の友達。」
「そう。で、何か思い出したの?」
「全く」
「そう、焦ることないのよ」
「わかってる」
ううん。本当はわかってない。
私はかなり焦っているのだ。
その後、家までカナリ長い沈黙が続いた。
静まり返る事がこんなに気まずい事だと、初めてわかった。また一つ、詰め込むものが出来た。たくさん、たくさん、詰め込んで行って、いつかは昔と同じぐらいの知識をもてたら・・なんて、思っている。
「あっ、」
「えっ?どうかしたの?」
「買い物、忘れたわ」
「あぁ・・・」
「いいわ、今から買いに行くわ。あなたは家で待ってなさい」
「はい」
そして、私は母と別れて家に入った。
薄暗くて気味が悪い。こんな暗い所にいたらおかしくなりそう。
それから数分後、母が帰ってきた。
「ただいま。電気もつけないで・・何してるの?」
「あ、おかえりなさい。電気・・ついてなかった?」
「ついてないわよ、暗いのに」
「忘れてただけよ、何もない」
「・・・そう」
会話が消えてゆく。
こんなに気まずいなんて・・・。親子ってこんなもん?
「明後日、病院に行くわよ」
「えっ?そうなの?」
「でも、入院はしなくていいそうよ」
「そうなの・・」
「用意は何もいらないわ」
「・・じゃあ、これからずっとこの家で暮らすの?」
「そうよ、今までだってそうだったもの」
「・・・・そう」
「嫌なの?」
「そういう訳じゃないの、ただね・・」
「ただ?」
「ううん、何もない」
「・・少しすれば学校にも戻るのよ。まだ少し先の事なんだけど」
「・・・うん」
「頑張るのよ、お母さんも一緒に頑張るから」
「頑張るって、」
どう頑張ればいいのよ。という言葉をあわてて飲み込んだ。こんな事言うと、どうなるのかなんて分からない。けど、その言葉がすごく悪い言葉のように感じたんだ。これを言う事によって、すごく悪いことがおこるような・・上手く言えないけど、親子の仲がおかしくなったり、頑張ってくれてるお母さんに悪い気がしたから。
「頑張ればきっと、いい事があるわ」
「頑張れば・・記憶は戻るの?いい事って、記憶が戻る事?」
「記憶の事もあるけれどね、頑張る事は大切なのよ?」
「記憶が戻るように頑張ればいいの?」
「記憶は、頑張ったところで戻るものじゃないけど・・・それ以前に頑張る事はたくさんあるわ。あなたには、頑張らないで、くじけるような子にはなってほしくないの」
「私は・・すぐくじけるようなダメな子だったの?」
「いいえ、そんな事ないわ」
「じゃあ、どうして?もともと私はそんな悪い子じゃなかったんでしょう?じゃあ、今頑張っていい子にならなくても、記憶が戻ればまた前のようないい子に戻れるんじゃないの?」
「でもね、」
「お母さんは・・私のこと信じてないんじゃない?私の記憶が、戻らないと思っているんじゃない?」
「そんな、違うわ。あなたの記憶はきっと戻るわ、」
「そんなのわかんないじゃない、もしこのままの状態だったら、私は、」
見放させちゃうの?と言いそうになった。でも、その言葉が自分でも怖すぎて、必死に押し込んだ。見放されるという恐怖が、私の中にはあったんだ。
数分間の沈黙。
この沈黙。次の言葉がなかなか見つからずに焦っていた。
すると母が口を開いた。
「・・お母さんのこと、信用できない?」
「そんなこと、」
「・・・部屋に戻ったら?」
「どうして、私・・お母さんの事、信用してます、だから、」
「もういいわ、無理しないで。少し、休みなさい」
「・・・」
私は部屋へ駆け込み、もうないってほどの涙を流した。
ずっと、ずっと、たまってた物を一気に出すように私は泣いた。
泣きつかれて、涙もかれた。
私の心にはもう、残るものはない。
コンコン
「入るわよ」
「・・・」
ガチャ
「暖かいココア飲まない?」
私はただ、うつむいていた。
「ここにおいておくわね、体が温まるわよ。・・・さっきはごめんなさいね、大人気なかったったわ。」
私は心の中で、「私こそゴメンナサイ」と言った。
「じゃあね」
ガチャ
むなしさ、孤独、絶望。
この部屋には私1人しかいない。もちろん、心の中にも、誰1人住んでいない。
どれだけうつむいてただろう?
顔をあげたら、周りは真っ暗だった。
リビングへ行ってみる事にした。
母がいない。辺りを見回すと、置手紙が残されてあった。
少し出てきます。
すぐ戻るわ。
と、だけ書かれていた。
ピーンポーン
インターホンが鳴った。
出るべきか、出ざるべきか、悩んだが出て見ることにした。
「・・・はい」
「中山です、」
ガチャ
「りさ・・・久しぶりね。私の事、わかる?」
「どちら様でしょうか?」
「やっぱり、分からないか・・・。りさの友達の中山可憐よ」
「可憐さん?・・・あの、御用は?」
「りさが帰ってるって聞いたからね、会いに来たの」
「そうですか・・、今、あいにく母がいないのでどうすればいいかわからないので、とりあえず上がって下さい」
「あっ、お母さんいないの。・・いいわ、また明日にでも来る」
「いえ、せっかく来ていただいたのに、」
「・・でも、悪いよ。なんだか、」
「あら、こんにちは。お友達?」
「あっ、お母さん」
「あっ、こんにちは。中山です」
「ああ、可憐ちゃんね。遊びに来てくれたの?」
「はい・・・」
「さぁ、上がって」
「あっ、はい。おじゃまします」
「りさ、部屋に行きなさい」
「はい」
「可憐ちゃん、ゆっくりしてってね」
「はい」
「2階が私の部屋です」
「・・ねぇ、敬語はやめない?」
「・・・えっ、」
「私たちさ、友達なんだから。りさは忘れちゃってるかもしれないど・・」
「はい、わかった・・」
「うん、りさは敬語なんて似合わないよ」
「・・ここです、私の部屋」
「知ってるわ、何回か遊びに来たもの」
ガチャ
「どうぞ・・・」
「おじゃまします」
ガチャ
「・・・」
「変わってないなー、りさの部屋」
「・・私って、どんな人だったの?」
「りさ?りさはねぇ・・明るくて、元気で、今が嘘みたい。大人しかった時なんてなかったかもね。いつもみんなの中心にいて、人気者。男子にもモテてたのよ?りさ、可愛いくて、優しいから」
「・・そんな、いい人だったんですか」
「ええ、いい人だったわ」
「今の私は・・どう?」
「今?・・ちょっと暗くて、大人しくて、りさじゃないみたい」
「そんなに、今の私は・・私らしくない?」
「うん、らしくない。もっと元気でいてよ、りさらしくないよ」
「元気が出ないの。もう、大人しくいる事しかできなくなってるみたいで、」
「そのうち戻るよ。なんとかなるって、だから落ち込んじゃ駄目よ?」
「私、落ち込んでる?」
「落ち込んでる・・ように見える、かな・・・」
「落ち込んではないんだよ、ただ・・」
「ただ?」
「そんな気分にどうしてもなる・・だけ」
「それは、・・いつか治るわ」
「記憶がないせい?今の私が、私らしくないのは」
「・・それもあるのかな」
「私、どうすれば私らしくなる?」
「えっ、うん、まず記憶かな」
「記憶が戻れば私になるの?」
「・・ゴメン、わかんないよ」
昔の私も、記憶と共に消えた。?記憶が消えれば、自分らしさも消えてしまうの?分からない事だらけ、この世は。
「私、もう帰るね」
「気分を、悪くした?」
「私がいたら、りさ、疲れるかなと思って。」
「・・・じゃあ、また会いましょう」
「学校来れば?何か思い出すかも・・」
「近いうちに、行くと思う」
「うん、頑張ってね」
「うん」
頑張る事で、記憶は戻るの?
「じゃ」
ガチャ
「あら、可憐ちゃん、もう帰るの?」
遠くで話し声が聞こえる。
「はい、おじゃましました」
「りさは・・?」
「部屋だと思います」
「ごめんなさいね、見送りもせずに」
「いえ。りさ、放心状態でしたので」
「・・また、会ってやってね」
「はい、では・・」
ガチャ
見送り、とはどういう意味なのだろうか?
ガチャ
「お母さん、見送りってどういう意味?」
「見送るって事よ。上手く説明できないけど、」
「いいよ、難しそうだから」
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