オト(小説)


私に孤独が降りかかってくると、誰かが私に話しかけてるように音がなる。ピーと、かん高い音。表現しにくい音。
いつか、テレビで心霊スペシャルを見た。「ピーと言うような高い音は神に近い存在があなたの周りに居ると言う証拠です。」って、言ってた。
でも、私に近づいて来るのは神に近い存在なんかでなく、むしろ悪い霊だ。私の孤独を喜ぶ、悪霊。
霊感?まさか、そんなモノありっこない。まともに人間さえ見れない私なのだ、霊まで見えるはずがない。
もし、見ていたとしても気付かないだろう。いつも下を向いて、前向きに歩いたことなんてないのだから。
 ピンポーン
どうやらインターホンがなったようだ。でも私には関係ない。親が出るし、親が居ない時でも出たことがない。私は人と接触する事を極端に嫌がる。
「せいら、友達よ」
・・友達?私に友達なんて呼べる存在はいないはずだが。
私は恐る恐る玄関に向かった。
「友達、玄関で待ってるわ」
私はうなずき、母を見た。母は目を合わせなかった。
玄関に行くと人が立っていた。
「おはよ、せいら」
「どうしたの?」
「どうしたの、じゃないわよ。ずっと学校来ないんだもん。迎えに来たのよ、さぁ、行こう?」
「遠慮しとく。」
「遠慮じゃないわよ、行くのが当たり前なの。さぁ、早く用意して来て」
「私は行かない」
「どうして来なくなっちゃったのよ、何かあったらな相談してくれてもいいじゃない?」
「何かってほどの事でもないし、相談なんてする意味ない」
「どうして?学校、前はちゃんと行ってたじゃない」
「理由なんてない。とにかくもう行きなよ、遅刻するよ」
「・・じゃあ明日は来て。また来るよ、私。せいらが学校行けるようになるまで付き合うから、じゃあね」
「もう来なくていいよ」
「また明日ね」
 ガチャ
美香。美香は私の幼い頃からの友達。いや、知人といった方が正しいのかもしれない。私は友達となんて思ってないんだから。
美香はきっと明日も来るんだろう、でも明日も学校へ行く気はない。
私が何故学校へ行かなくなったのか、理由は簡単だ。ただ疲れたから。もう人間とかかわりを持ちたくなくなったんだ。
「せいら、あなた学校へはもう行かないつもりなの?」
「・・そうなるかもしれない」
「いい加減、しっかり決めて、もうやめるの?」
「・・うん」
「行くなら行くで、しっかり行ってちょうだい」
「・・・・はい」
私と母との仲は最悪。
でも、もうこれでいいと思ってる。親子なんて、しょせんこんなもんなんだ。
いつもはずっと部屋にこもって、パソコンをしているか、テレビを見ているか、寝てるか。食事はあまりとらない。しかし、今日は何故かおなかがすいてしまい、全く部屋から出ない私が、リビング見に行ってみることにした。
冷蔵庫を開けても何もなかった。仕方なく、自分で買いに行く事にした。
久しぶりの外出。久しぶりの景色、ちゃんと学校へ行ってた頃と少し変わっていた。
「こんにちは」
見知らぬおばさんが私に声をかけた。が、私は少し頭を下げ、足早にその場をさった。
昼は人通りも少なく、歩きやすい。
私は近くのコンビニについた。
「いらっしゃいませ」
私はすばやくパンを買い、店を出た。
「ありがとうございました」
これだけでも私にとっては疲れる。精神的に。
「あっ、田村じゃん」
誰かが私の名を呼んだ。が、私は早足で逃げた。
「待てよ、」
「・・誰ですか?」
私の事を知っていると人言うと、私のクラスメイトしかいない。しかし私はこいつを全く知らない。
「誰って、俺の事忘れたのかよ」
「何のようですか?」
思い出した。たぶん、クラスメイト。私が学校に行ってた頃、1番後ろの席に座ってたやつだ。たぶん・・・
「ようなんてねぇよ、久しぶりに見かけたから声かけただけ」
「そう、じゃあ」
「待てって、何で学校来ねぇの?」
「行かないから、行かないだけ」
「いい加減来ないとやばいじゃんよ、お前。」
「特にようがないなら私、帰ります」
「待てって、」
「いそいでるので」
私はその場を走り去った。
母以外の、生身の人間と会話するなんて久ぶり。
気持ちが悪い。きっと人間と会ったせいだ。
 ガチャ 
家の玄関から見た家の中も意外に広く思えた。
そのまま部屋に入り、パンを食べ、寝た。
「せいらー、せいら」
遠くから私を呼ぶ声。誰・・・?
「せいら、いないの?」
この声、母だ。寝起きからいやな声。
 ガチャ
部屋から出て、リビングへ行った。
「何?」
「何、じゃないわよ、友達が来てるわ」
「・・誰?」
「知らないわよ」
玄関に行くと、美香が立っていた。
「遅いっ、」
「・・何のよう?」
「今日、学校で配られたプリントとか、持ってきたのよ」
「何よ、いきなり」
「せいらが学校に戻ってきた時、より早くなじめるように、少しは学校の様子、知っておかないと」
「私、学校なんて行かないから、その行為、無意味よ」
「無意味なんかじゃないわ、せいらは学校へ行くの」
「行かない」
私はきっぱり言い切った。
「・・これ、プリントよ。勉強のプリントも入ってるから、出来るか試してみたら?」
「いい、いらない」
「受け取りなさい。せっかく持ってきてあげたのよ?」
「・・・」
私はしぶしぶ受け取り、プリントを見た。
-家庭訪問のお知らせ-
「まだ家庭訪問とかやってるの、」
「そうよ。せいらの家にも来るように、先生に言っておくから」
「やめて、そんな余計な事しないで」 
「余計じゃないわ、あまりにも余計じゃない。」
美香は強く言った。が、私は力が抜けた。
「疲れた。もう帰って」
「・・せいら、やせたでしょ」
「・・・いいから帰りなよ」
「ちゃんと食べなきゃ駄目よ」
「どうでもいいでしょ」
「今日はしっかり食べて、明日に備えて」
「どうして?」
「明日は学校へ行くのよ」
「もう帰って」
「わかった。また明日ね」
 ガチャ
うるさい。
皆うるさい。
ピー、また音がする。今、わたしは孤独の中に、1人立っている。
どうして学校というものができたのだろう?学ぶなら、1人でだって出来るはず。
前に学校で、-どうして学校に来なくてはいけないのか-と言う、とても馬鹿らしい疑問について、皆で意見を出し合った。
「学校とは、学を学ぶためにあるものであって、深い意味などない」と言ったような、真面目なのか、真面目すぎるのか、わからない意見が出たり、「学校は、友達をつくるために来ている」と言う、幼稚な意見が出たり。学校への思いは人それぞれで、いろんな意見が出た。そんな中、私は「学校なんて無意味なもの。友達なんて、生きて行く上で全く不必要なモノで、勉強なんて、生きて行く上での必要な分だけを自ら学べばいい」と言う、冷めた意見を出した。
そんな私の意見に賛成した人も中にはいたが、反対した人の方が多かった。反対というより、私の意見に耳をかさないやつらもいた。そんなやつらもきっと、心の中ではそんな事わかっているのだが、そんな事を口にでもすれば、やつらにとって、大切な大切な友達は減り、自分は孤独へと追いやられる。そんな恐怖が嫌だから、周りから納得を得れるような意見を出す。
そんな無意味な行為が、私は大嫌いだった。
しかし、だからこうして登校拒否時となり、人との接触も拒むのかと言えば、また別になるが。私の心はかなり複雑で、誰もわからない、出口の見えない、めいろのようなのだ。
 ガチャ
しばらく玄関に突っ立っていた私はリビングへと戻った。
「友達、朝から学校へ来るように言っているようだけど、行く気がないなら出なくていいわ。余計な手間は嫌なの」
母は私の事を余計な手間だと思っているのだろうか・・?
「・・・明日は出ない」
「私から、もう来ないように言っておくわ。だからあなたはもうあの子と話さなくていいわ」
「・・・・・わかった」
なんだか寂しい気がした。
私はそのまま部屋に戻り、夕食をとらないまま眠りについた。

気付いた時には朝になっていた。かなり長い時間眠ったせいで、ひどい頭痛に襲われた後、少し呆然としていたら、外から声が聞こえてきた。
「お願いします、せいらに会わせて下さい!」
私は、窓のカーテンの隙間から外を除いた。そこには美香がいた。母と美香が、大きな声で・・・・・
「お願いします、いるんでしょ、せいら」
「いい加減にしてちょうだい、せいらは出れないの」
「どうしてですか、あなたの娘でしょ?学校へ行って欲しいと思いませんか?」
「とにかく、今日はいけないの。話があるならまたにして」
私の事、みたい。
美香が必死に私に会いたいと、母に言っているのだが、母はそれを断り続ける。そんな光景をみた私はたまらなくなり、つい叫んでしまった。
「やめて、うるさい」
「せいら?」
「せいら、部屋に入ってなさい」
「ねぇ、せいら、話をしたいの、おりてきて」
「私は話もしないし、学校にも行かない。」
「せいらもああ言ってるの、あなたも学校へ行かなきゃいけない時間じゃないの?あなたはあなたでしっかり学校へ行ってるんだから、文句はないはずよ。他人の事なんて考えてないでいいじゃない。もう高校生なんだし、自分の事を考えたら?」
「他人じゃない、せいらは他人じゃない!幼なじみで、私の大切な友達なの。その友達の将来に光をあげたいの」
「放っておいてくれない、もう。私の事なんて」
「・・せいら?」
「・・・・もう、わかったわよね?あの子の事を考えてくれるのは嬉しいけど、度が過ぎるとね、わかるでしょ。」
「分かりません、友達の事を考えて、考えすぎて、悪い事なんてない!」
そう言って美香は走り去った。母は呆れたように家の中に入った。
なんだろう?この感情は。今までに感じたことのない、不思議な感情。
「・・・・美香」
私は小さくつぶやいた。友情の素敵さを、友情の大切さを、そして何より、人とのつながりを。
 コンコン
「・・はい」
「入るわよ」
 ガチャ
「ねぇ、せいら。もう学校、やめる?」
「・・・・」
私はうつむいたまま、答えなかった。
「もうね、しっかり決めないと。」
「・・・はい」
決めれないよ、無理だよ、この難しすぎる感情に、答えを出すなんて。
「はい、じゃ分からないの。私もそろそろ疲れて来たわ」
「・・・もう少し、考えてもいいですか?」
「考えてみても、学校へは行けないんでしょう?」
「・・・・・・考えたいの。ゆっくり」
「ゆっくりしてる時間なんてもうないの、しっかりしてちょうだい」
「はい」
 ガチャ
私から、希望が消えている。
中学生の頃には、確実にあった、将来への希望、が、今私の元には少しもない。
そんな自分を見た私は、死にたいと言う感情に囲まれ、自分の死を想像した。楽になった自分、もう悩みのない自分をうらやましく思いながら、そっちへ行きたい。と、本気で思ってしまった。
ドバッと、足元に真っ赤な血が落ちた。一瞬の間に、私は何をしたのだろう?自分でも分からなくなっていた。
パッと手首を見ると、深い傷。あぁ、リストカットをしたんだ、と、その時初めてわかった。そしたら、何故か私は慌てて、ティッシュで血をふき取り、うでをおさえた。そして、薬箱から包帯を取り出し、手首に巻いた。そして、その上から、昔流行った時に買った、リストバンドをし、そのままベッドに倒れた。
「あぁ、死ねなかった」
と私は微笑んだ。弱い証拠。この手首の傷が、私の弱い証拠。

寝起きはとても悪かった。昨日、そのまま寝てしまったようだ。
 コンコン
「入るわよ」
「・・・はい」
 ガチャ
「あなた宛に手紙が入ってたわ。」
「・・・誰から?」
「知らないわ。朝食はリビングにおいてあるから、勝手に食べなさい」
「・・・・わかった」
 ガチャ
封筒には、-田村せいら様-とだけ書いてあった。

せいらへ
昨日はごめんなさい。でも、もう大丈夫。あなたを学校へ行かせようとする人はいなくなったわ。私はもうせいらに学校に行くよう、言わない。
私、目が覚めた。確かに、せいらは変わりなく、私の大切な友達。でも、せいらが嫌がるのを無理に連れて行こうとしたのが間違い。そんなふうに思うことにしたの、本当はね、まだせいらに学校に来てほしいと思うよ。せいらの事を大切に思うから。
もし、せいらが私に心開いてくれるなら、とても嬉しい。
頑張ってね、せいら。
             美香


美香からの手紙。その内容は、なんだか寂しいものだった。
もう、美香には会えない気がして、すごく遠くに行っちゃう気がして・・。
そんな事、私にとってはどうでもいい事だった、前は。
いつからこんなふうになっちゃったんだろう?いつから・・・
そんな事を考えていると、またピーと言う、あの音。もう嫌だ。何もかも。こんな自分も、私に関わった全ての人も。
それからの意識はない。気付いた時には朝だった。
フと、時計を見たらもう朝の10時。やっぱり美香は、来なかった。これからも、ずっと、来ないのだろう。そう思うと、なんだか寂しくて、置いてきぼりにされたみたいで、何も考えられなくなった。少しの金縛り、そしてあの音、ピーー。
私は無意識に、ロッカーにかけてある、制服を取り出した。懐かしい、セーラー服。私、これを着て毎日学校へ行ってたんだよね。私は、制服を着て、鏡を見た。
「まだ可愛いじゃない・・」
うっすら微笑んだ。その顔は、妖怪じみてただろう。死相出てて、痩せすぎてて、久しぶりに見る自分の顔は、いつかテレビで見た、無人島に残されたおじいさんみたいだった。
そんな自分を見た私は、急に外の空気を吸いたくなった。私は制服を着たままリビングへ行った。
「あなた、制服。どうしたの?」
「・・・ちょっと、着てみたくなっただけ」
「そう。」
母は私に関心を持たない。もっと、心配してくれてもいいじゃない。
 ガチャ
私は外の空気をいっぱい吸いこんだ。すると、前から人が歩いてくるのが見えた。遠すぎて、誰だかなんて分からなかったけど、近づいてくるたび、うすうす感づいた。・・高校生?
紺色の制服。アレは、男子だろう。こちらに向かって歩いてくる。私はじっと、彼を見た。
「田村?!」
「あ、」
その彼は、私のクラスメイトだった。前にコンビニに行った時にあった、あの男子。
「田村、・・その制服」
「・・着てみただけ」
「うん、まだお前高校生だよ。学校来いよ」
「当たり前、まだまだ私は若いわ」
「・・・来いって、学校。まだ間に合うから」
彼は私をまじまじと見た。
「・・名前、何だっけ?」
「俺?・・河田だよ、忘れた?」
「あぁ、河田。思い出した」
「学校、来ねぇの?」
「・・昔と環境は変わってる?」
「いや、特には。でも、転校生が来た。」
「へぇ、女?男?」
「女。ごく普通なやつだよ」
「その子はさぁ、私の事、知らないんでしょ?」
「女子たちが教えてると思う」
「そう。めずらしいもんね、私みたいなのって」
「そうか?」
私が、そうじゃないの?と聞こうとしたら、声がした。
「せいら?」
「・・美香」
「それ、制服」
「・・・・うん」
私はうつむいた。
「学校、来てくれるの?」
「・・・今からでも、大丈夫かな?」
「大丈夫よ、私がいるわ。・・よかった、よかったよ、せいら」
「・・迷惑かけて、ごめんなさい」
「せいらっ、」
美香はガバッと私に抱きついた。
「良かった、本当に嬉しい」
「がんばれよ、田村」
「ありがと」
美香はパッと私から離れ、私を見つめた。
「うん、かわいい」
「えっ?!」
「制服も似合ってる。まだ大丈夫だよ!」
「・・・頑張る、私、頑張るね」
極端に人と接触する事を嫌がっていた私が、今、人と強い絆で結ばれた。こんなに気持ちがいいもんなんだね、人と会うことって。
「そうと決まれば、明日から大変だな、地獄の勉強が待ってるぞ!?」
「それは禁句よ」
美香が笑った。河田も笑った。私も、微笑んだ。
「あっ、せいら、笑った」
「え?」
「せいら、全然笑わなかったんだもん。」
「顔の筋肉を、動かしただけよ」
「もーう、せいら大好き」
私は、ものすごく嬉しかった。私の元に、希望があふれた瞬間。
そして私は2人と別れ、家へと入った。
 ガチャ
「・・今日、夕飯食べる」
私は母にいきなり言った。
「分かったわ」
母は言った。その顔は、いつもと少し違って見えた。
私はそのまま部屋に戻り、制服姿の自分を可愛く思いながら、ずっと鏡を見
ていた。そんな行動自体が、もう、異常児だ。
明日は学校だ。と思うと、何故か物凄く緊張してきた。私は今まで全く学校へ行ってないから、明日いきなり行けばもちろん注目の的。もはや転校生扱い。そんなことを考えていると、ワクワクして来て、こうしてはいられない!と、私は部屋でジャンプしてみた。落ち着かない、この気持ち。何?
・・・いい事ばかりじゃない、そんな事ワカッテル。
明日の用意をしなければ、と私は押入れの中に押し込まれていた鞄を引っ張り出した。一応机にならべてあった、教科書を全て鞄に入れ、持ってみた。重い。その驚くほどの重さに私は腰が抜けた。この鞄の重さが、私が今まで無駄にしてきた時間の重さと一致する。
私はふらりとベッドに座った。こんな重いものを持つのは、すごく久しぶりだったので、力が抜けてしまったのだ。全ての力を使い果たした気分。
そんな事をしていると、リビングから声がした。「せいら、夕飯が出来たわよ」なんだか前に戻ったみたい。タイムスリップしてるようだ。
私は慌てて着ていた制服を脱ぎ、ベッドにほったらかしにされていた部屋着に着替え、急いで部屋を出た。
リビングに行くと、しっかり夕飯が用意されてあった。嬉しい、物凄く嬉しい。
「いただきます」
私はもくもくと食べ始めた。久ぶりのまともな食事。
そして、食べ終わり、「ごちそうさまでした」と言い、お茶をごくりと飲んで、部屋にモドッタ。
 ガチャ
「はぁ」何故か、異常に緊張した。
そのまま私は眠った。

ピピピピ・・ピピピピ・・ピピピピ・・ピ・・・・
朝が来た。私は勢いよく目覚まし時計をとめ、おきあがった。
私は、「何故?」と思いながらしばらくたっていた。「あぁ、学校へ行くんだった」と思い出し、制服に着替え、部屋を出た。

「おはよ。朝食は出来てるわ」
「・・・・あのね、」
「お弁当はおいてあるわ。仕事だから、行くわね」
「知ってたの?」
「頑張りなさい」
「ありがと・・」
私は母の優しさを素直に受け入れた。
 ガチャ
母が行ったのを確認し、朝食を食べ始めた。久しぶりの朝の空気はとても気持ちが良いモノだった。
 ピンポーン
誰だろう?こんな朝から・・と思いつつ、ドアを開けた。
「・・・はい?」
「せいら、おはよ」
「美香、どうして?」
私は大きくドアを開けた。
「どうしてじゃないわよ、迎えに来たの」
「あ・・そっか。ちょっと待って、まだ用意が」
「うん」
「あ、中で待ってて」
「はーい」
「すぐ来る」
私はそう言い、少し残っていた朝食の食パンをかじり、部屋にある鞄をとりに行った。
 ガチャ
「うっ・・」
鞄は昨日持った時と全く変わってなかった。ただただ重い。
そしてその重い鞄を抱え、ドアを閉め、リビングへ向かった。途中で扱けそうになりながらも、なんとか鞄を玄関まで持ってきた。
「重そうね」
「すごいよ、これ。もはや鞄じゃない」
「うわっ、本当」
美香は私の鞄を持ち、言った。
私は水を一口飲み、玄関へ走った。
「慌ただしそう」
「ほんと、疲れた」
「でも嬉しそうですよ?」
「・・嬉しいんだよ」
そう、私はこんな慌ただしい朝が嬉しかった。
「さぁ、もう良い?」
「うん、完璧」
「あっ、待って。カギ・・」
「探して来なさい?」
「うん、ゴメン」
そう言ってまた私はリビングへ戻り、カギを探した。でも、どこを探しても見当たらない。
「な~い」
「ね、これじゃないの?」
「えっ、どれ?」
「これ、カギだよ」
そう言って美香は私にカギを見せた。確かに、それは昔使いらなしていたカギだった。
「どうして、そんなとこに・・・」
「お母さん、置いて行ってくれやたんじゃない?」
「あ・・・」
私は朝の母の顔を思い出し、笑みを浮かべた。
「幸せ?」
「・・少し」
「さ、行こうか?」
「うん」
私はドアのカギを閉め、楽しそうに歩いた。学校までの道のりを、2人で。

                <終>





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