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「だせー」
「きもい!」
皆が私に向ける言葉はこんな言葉だけ。
もう慣れたよ。あなた達の馬鹿らしい行為は、もう慣れっこですよ。
「ねぇ、死んでくれる?」
私に話しかけたのは、クラスで1番モテてる、可愛い女子。
「………」私は黙るしかないでしょ?
「もう純也くんには近寄らないで」
純也とは、こいつが好きな男なのだろう。
「どうして?」
馬鹿に聞いてしまった。負けた気がした。負けた気がした。
「どうしても何も、気持ち悪いんだもん、あんた。だから純也くんに近づいちゃダーメ」
可愛く言ったこいつが、ものすごく上から話していて、腹が立った。
「かずは、もう行こう。こいつと一緒にいると、気持ち悪い」
「だね、行こう」
さっさと散れ。私は心の中でそう思った。
いつもの事なんだ、こんなこと。だから慣れっこ。
朝、来ると下駄箱に「死ね」と書かれた紙切れ。いつもの事で、イジメられっ子の1日は始まる。
「何考えてんだろ、あいつら」
振り向くと、純也がいた。
「…何?」
「おはよう」
「………おはよ」
私は昨日言われた、「純也に近づかないで」というかずはの言葉を思い出した。
「ねぇ、もう私に関わらない方がいいよ」
「え、どうして?」
「かずはが、私と関わらしたくないんだって」
「関係ねぇよ、そんなの」
純也は私の幼なじみ。だから、仲良くするのも当たり前なのだ。でも、かずははそれが気に入らないらしい。
「あっ、純也くんおはよー」
「…おはよ」
純也は愛想なかった。
「どうしたのー?元気ないね。あ、そっか。こいつがいるから?」
「お前がいるから」
「えっ?」
純也はそう言って、私の手をひいて教室まで向かった。
「やめてよ、何考えてるの?」
「お前を助ける事」
私は何も言えなかった。
私たちはそのまま席についた。
「ねぇ、ふざけるのもいい加減にして」
周り見ると、かずはとその仲間。私に何のよう?
「何?」
「純也の事、スキなの?」
「…別に」
「ちょっと来て」
嫌、と言う言葉が出せなかった。
そのままかずはたちに連れられ、いつの間にかトイレの中。
「………何?」
「キモイんですけどー」
「死ね、雑魚が」
私は突っ立ってるだけ。
「いいよ、やって」
かずはの合図で私は頭からバケツの水をかけられた。
「つめたっ、」
「黙れ、そのまま死んでね」
「バイバイ」
私は突っ立ってるだけ。
かずは達の笑い声が聞こえてくる。寒い、冷たい。私の前髪から水が滴り落ちてくる。頭がおかしくなりそう。
「香奈、出て来いよ」
私の名を呼んだのは純也だった。
「香奈ー?いるんだろ、出て来いって。俺、女子便所には入れねぇし」
私は出れるわけもなく、ただ立っているだけ。
でもその空気に耐えられなくなって、スカートのポケットからカッターを出した。
血があふれ出す。そう、リストカット。
「え、何?」
トイレに入ってきた女子2人が、私を見て固まっている。
「ど、どうしたんですか?」
手首から血を出し、水浸しの私は化け物みたいで怖かったのだろう。2人は走って逃げていった。
「あ、オイ、中に誰かいたか?」
外から純也の声。
「あの……女が、」
「何か、あったのか?」
「血、流してて、水浸しで、早く助けないとヤバイよね」
「うん、ヤバイよ。でも、怖くて…」
「この事、誰にも言うなよ」
「……はい」
おびえたような声がする。きっとさっき私を見て逃げ出したあの2人だろう。
気付いた時にはベッドの上。
「ここは、どこ?」
「あ、気付いたのね。ココは保健室よ」
「どうして…」
「男の子が、あなたを担いで来たのよ。」
「純也…?」
「知らないわ、さっさと帰っちゃうんだもん」
「そうですか…」
「先生、会議あるから行くけど、大人しくしてなさいね」
「…はい」
ガラ
私の手首には、包帯が巻かれてあった。
ガラ
「あ…」
先生と入れ替わりに入って来たのは純也だった。
「よぉ、」
「……」私は黙ってうつむいた。
純也は私の座ってるベッドに腰かけ、私の手を持った。
「なっ、」
「あーあ。またやっちゃったな」
「……何よ」
「自分傷つけるくらいなら、無理して学校来なくていいじゃん」
「……もう、ほっといて」
「ほっとけないね、幼なじみだもん。香奈、1人じゃ何するかわかんないし」
「何よ、それ」
私は少し、ほんの少しだけど、嬉しかった。
キーンコーンカーンコーン
「チャイム、帰りなよ」
「いい、いるよ」
「居なくていいよ、もう切らないから、手。」
「本当?」
「…本当」
「やっぱ居る。」
「信用できない?私の事。」
「ううん、居たいからいるの」
「かずはが心配してるんじゃない?」
「知らないよ、そんなヤツ」
「あ、そうですか。」
「そうですよ?」
「…………何よ」
純也が私を見つめる。
「以外と可愛い顔してんのに、傷付けちゃ駄目」
「何言ってんのよ、いきなり。でも、以外は余計」
「今度、自分傷つけたら、俺、傷つけんのと同じだと思いなさい」
「え、何で?」
「キミが傷ついたら、俺も傷つくから」
そんな、照れるような言葉を、可愛く、すんなりと言った純也が好きだなぁ、と思った。
「わかったよ、」
「約束ね。俺の事、傷つけないでね。」
「……はい」
「良し」
「…もうとっくに授業始まってるよ、いいの?」
「この時間はサボるー」
「ふぅん。またかずはに怒られちゃうよ、私」
「怒られるなんて使わないの。香奈の先生でもないし、親でもないんだよ、かずはは」
「そうだね。」
「だからせめて、八つ当たりされる、ぐらいにしときなさい」
純也が笑ったから、私も微笑んだ。
「俺が守るよ、香奈の事。だから頑張りなよ」
「……守られるなんて、なんだかか弱いオンナのコみたい」
「か弱い女の子でしょ?」
「弱くない」
「弱いでしょ、この傷は」
純也は私の手をもって、包帯のまかれてる部分を見た。
「……ごめん、なさい」
「よろしい、では教室に帰りましょうか?」
「…はい」
教室に向かう間は一言も話さなかった。
ガラ
クラスがざわついた。まだ授業中なのに、堂々と入ってきた男女2人に驚いたのだろう。
「どうした?」
「保健室行ってたので遅れました」
「そうか、まぁ席につけ」
「はい」
私たちは席についた。
コソコソとかずは達が話している。また私をイジメる計画?
途中から入ってきたので、当たり前だが授業には全くついていけず、そのまま時間が過ぎ、チャイムが鳴った。
「きりーつ、れい」
ガラガラ…とイスをひく音。今から休み時間に入るので、皆は嬉しいのだろう。でも、私は嬉しくもなんともない。ただ永遠と長い、10分間を一人、過ごさないといけないのだから。
「香奈ー」
私が振り向くと、そこにはかずはではなく、違うクラスメイトが立っていた。
「……何ですか?」
別に敬語で話す必要など、全くないのだけれど、同レベルに見られたくないから、敬語で話す。
「香奈、私の事、もう、ただのクラスメイトとしてしか思ってくれてない?」
「ただのクラスメイトじゃないんですか?」
「誰?」
横を見ると純也がいた。
「…クラスメイト」
「かずは達、嫌いだよ、私」
「何のこと?」
「私は、香奈の見方と言うか、香奈は間違ってないと思ってる」
「……何、いきなり」
「ごめんなさい、本当にいきなり。でも、私は香奈が嫌いじゃないって事を覚えていて欲しいの、ただそれだけなの。」
「本当に、何のことかわからないんだけど、とにかく覚えときます」
「じゃあ、私行くね」
「あ、はい」
その子は走り去った。何だったのだろう?
「ねぇ、あの子何?友達?」
「まさか、知らないわよ、あんな子。だいたい私に友達なんているわけないでしょ」
「…昔の友達、とか」
「有り得ない、知らないもの」
「ふぅん。まぁ、あの子は香奈の見方だね」
「意味が分からないんですけど」
「…まぁいいや、行こう」
「どこに?」
「次、教室移動」
「あ、そっか。」
「用意、できてんの?」
「まだ…」
「早くして、待ってるから」
「いいよ、先行ってて」
「どして?待ってるよ?」
「一緒に行く意味がわからない。」
「心配だから」
「先行って。純也といた方が、私の身が危険なんです」
「じゃあ、先行くよ?」
「理科室だったよね?」
「迷うなよ。」
「子供じゃないから」
「じゃ、後で。」
ガラ
純也が出て行った後、私はさっさと用意をし、教室を出た。
「こんにちは」
そこにはかずはがたっていた。
「……何か?」
「最近、純也くんも嫌気がさしてるよ、お前に。離れなよ」
「……どうしてわかるの、純也が私に嫌気がさしてる事」
私は挑発してしまったらしい。
「どうしてって、あんた態度見ててわかんないの?!あんたもつくづく馬鹿だねぇ」
「………直接聞いたわけじゃないんでしょ」
「ハ?何、その態度」
かずはが私を押した。私は倒れた。
「イタッ、何…」
私は言葉が出なかった。
「生意気なんだよ、お前。さっさと死んでよ」
「…じゃあ殺してよ、そんなに死んでほしいなら、殺してよ」
「馬鹿じゃん、あんた。私が自分の手、汚すわけないでしょ」
「……殺せもしないのに、死ねなんて簡単に言わないで。本当に死んでほしいなら、殺せばいい!」
「何、頭おかしいんじゃない?」
「ねぇ、かずは、死まで追い詰めちゃえばいいんじゃないの?」
「追い詰める…」
かずはとその友達がなにやら話してたけど、私は理解できない。
「ねぇ、香奈ちゃん、屋上行って、頭冷やそうか?」
かずはの仲間と思われる1人が私に話しかけた。私は黙ってついて行った。ついて行けば、また何されるかわかんないけれど、ついて行くしかなかったんだ。
「香奈ちゃん、頭冷やそうか?」
私はずぶぬれ。屋上にはホースがあって、その水をそのままかけられた。息が苦しくて、私はじべたに座り込んだ。
「や、やめて」
「頭冷えたー?」
「キャハハ」
その時、私には笑い声しか聞こえなかった。
「よく冷えたんじゃない?ねぇ香奈ちゃん、調子乗んなよ」
「水びたしー、よく似合うよ。」
そのままかずは達は帰って行った。
私はどうする事もできず、ただ屋上から空を見つめているだけ。
「死にたいなぁ」
私は、スカートのポケットにカッターが入っている事を確認し、周りを見て、カッターを出した。
ギュッと目をつぶって、いつもより深く、たくさん切った。そのまま私は地べたに寝転び、何故か微笑んでいた。
「香奈、おい、香奈!」
目を開けると純也がいた。
「………純也」
その時、初めて、まだ自分が生きている事を知った。
「香奈?大丈夫かよ」
「私、生きてる…」
「当たり前だよ、生きてるよ」
「なんだ……」
「とっ、とにかく保健室。俺、負ぶってってやるから、背中につかまれよ」
「……あ、もういいよ。ほっといてくれても私、大丈夫だから」
「何言ってんだよ、早く乗れって」
「いいってば、何か疲れたし」
「良くねぇって」
「少し、寝かせてくれない?私、眠いよ…」
「ちょっ、ちょっと待ってろよ。先生呼んでくっから。動くなよ」
「……うん」
そこから私は記憶がない。
遠くから声が聞こえる。
「ーん、なさーん、」
誰…?
「香奈さーん、起きて下さい。もう帰らないと」
「……純也?」
「そう、純也ですよ。さぁ、起きなさい」
「………頭痛い」
「そりゃそうだよ、頭から水ぶっかけられて」
「あ、そっか。私…」
「もう帰ろう?下校時間とっくに過ぎてんだけど」
「待っててくれたの?」
「待ってた。」
「ごめんね、いつも。迷惑かけて…」
「ねぇ、俺の事傷つけないって約束したじゃん、どうしたの?」
「え……あ、うん」
「うん、じゃ分からない。」
「…ごめんなさい。」
「もうしないで」
「……分からないの、切るのは、自分じゃなくて…自分で切ってるんだけど、何がなんだか分からなくなって、気付いた時にはもう、遅いの」
「じゃあ香奈が辛いめにあわないように、俺がいつも側にいてもいい?」
「それじゃ、純也までおかしくなっちゃうよ。いいの、私は」
「よくないよ。キミが傷つくと…?」
「純也が、傷つく…?」
「分かってるじゃん」
「でも、駄目なの。かずは達、何するかわかんなくて…」
「……じゃあさ、かずは達、殺しちゃおっか」
「何言ってんの、駄目だよ、それは。警察に関わるような事は駄目、」
「わかってるよ、ただ言ってみただけ」
違う。純也は、ただ言ってみただけ、なんて目じゃなかった。
「……ね、帰ろう?」
「荷物、教室だろ?」
「とって来るよ、」
「待って、俺が行く」
「いいよ、大丈夫だから」
「じゃあ一緒に行くか、俺も荷物教室だし」
「うん」
私たちは教室に向かった。教室までの階段、廊下は薄暗くて、不気味だった。
「暗いな、大丈夫?」
「うん、平気」
ガラ
教室に入り、電気をつけた。
誰もいない教室は、ただ広くて、空気も綺麗で、いつもと全く正反対。
「教室って、こんな広かったっけ?」
「…純也も同じ事考えてた。」
「えっ、何?」
「何もないよ、もう行こ?」
「うん、電気消すぞー」
「はーい」
電気が消えた教室は、真っ暗で、どこか不気味で、怖かった。
「純也、」
「大丈夫?」
「どこ?」
「ここ、ちゃんといるよ」
純也は私の手を握り、教室を出た。
「もう真っ暗だな」
「うん、」
そのまま沈黙。私は2人きりの沈黙が苦手だ。
「…先生に一言言って帰る?」
「あ、そうだな。香奈が保健室で寝てる事は伝えてあるし…」
職員室までの沈黙はあまり長く感じられなかった。
ガラ
「失礼します、佐野先生、」
「あ、もう帰るの?」
「はい。…失礼しました」
ガラ
もう、外は真っ暗だった。時刻は、午後8時。
「外、真っ暗だね」
「ホント、暗い」
「私、家こっちだから、じゃあね」
「送ってくよ」
「いいよ、悪いし」
「親に見つかると大変?」
純也は少し笑って言った。
「まさか、それに今日親いないよ」
「え、なんで?」
「旅行中」
「へぇー。じゃあ迎えに来てももらえないじゃん、やっぱ送るよ」
「大丈夫だって、子供じゃないんだし」
「可愛い女の子の夜道の一人歩きは大変危険です、よ?」
「…可愛くないから、無事に家までつくと思うけど」
「さ、家はどっち?」
「知らないよ、遅くなって、親に怒られても。」
「俺んちも今日親いないよ」
「旅行?」
「ううん、ばぁちゃん家行ってる」
「ふぅん。一緒に行かなかったんだ」
「学校あるからね」
「そっか…」
また沈黙。気まずい、気まずすぎて息がつまる。
「もうこの辺でいいよ」
「え?家、どこなの?」
「あそこ、」
私は目の前にある、家を指差した。
「そっか、じゃあ、また明日」
「うん、またね」
そのまま純也は背を向け、帰っていった。
ガチャ
「美香、今何時だと思ってるの?!」
「…ごめんなさい、友達と話してたら長くなって、」
長く話せる友達なんていない。第一、友達と呼べる存在もいない。
「遅くなる時は電話ぐらいしなさい」
「はい…」
本当は嘘。親が旅行中だなんて、大嘘。だって、純也と離れたくなかったんだもん。何故親がいないと離れなくてすむのかとか、わかんなかったけど、口が勝手に嘘ついてた。
「美香、晩御飯食べた?」
「食べてない」
「机の上においてあるから、食べなさい」
「…はい」
私は食事を済まし、部屋へ入った。
ガチャ
「純也…」
私は呟いた。この感情は何?熱いものが私に覆いかぶさって、苦しくなる。上手く言い表せない感情がこみ上げてくる。恋愛?まさか、純也に対して、ましてや人に対してそんな、特別な感情を持つはずがない。
もう寝よう…。そう思い、そのままベッドに倒れた。
気がつくと朝になっていた。
コンコン
「美香、いるの?」
「………何、」
「美香?」
「…はい?」
ガチャ
「…お母さん、どうしたの」
「どうしたもこうしたもないわよ、あなた今日学校でしょう?」
「……えっ、今何時?」
「10時。もう行ったのかと思ったけど、気になって見に来たらやっぱりまだ寝てたのね。どうするの、今日は休むの?」
「………休む」
「…学校には連絡しとくわ」
「………うん」
「全く、寝坊なんて珍しいじゃない」
「昨日そのまま寝ちゃって、気付けば朝でした…」
「明日はちゃんと起きるのよ」
「はい」
ガチャ
学校休むのは久しぶりだった。休めば、登校拒否だと騒がれるに違いない。負けた気がして、逃げてる気がして、学校はなかなか休めなかった。いや、休まなかった。でも、こんな時はもういいやって思ってしまい、休む。
明日行けば、かずは達に登校拒否だとか、いろいろ言われるんだろう。でも、私は学校へ行く事を嫌がらなかった。何故ならば、純也がいてくれたからであろう。
それから何時間かたった時、純也が家に来た。
「純也…どうしたの?」
と言いつつも、内心嬉しかった。
「どうしたの、今日」
「うん、ちょっとね」
「ちょっと、何?」
「…寝坊、しちゃって」
「寝坊?!」
「寝すぎて、気付けば10時だった」
「そっか。それなら良いんだけど」
「どうして?」
「いや、かずは達のね、事で、休んだのかと思ってたから…」
「まさか、私そんな弱くありません」
「ごめんな、勘違いでした」
「大きな勘違い、明日はちゃんと行くよ」
「うん、あっ、それと明日は国語が体育に変わったから、体操服がいる」
「わかった、わざわざありがとね」
「いえいえ、じゃあ明日ね」
「うん、ありがと」
純也は優しい。
「美香、誰だったの?」
「…クラスの人」
「そう。明日は寝坊しないように、ちゃんと目覚まし時計合わしとくのよ」
「わかってる」
トモダチと言う言葉がすぐに出てこなかった。私は、純也の事どう思ってるんだろう?ただのクラスメイト?友達?それとも…それとも……
それから私は夕飯の時も、お風呂に入っている時も、眠りにつくまでその事を考えていた。
私たちって、どんな関係…?
「おはよう」
「あ、おはよ」
「何、どうしたの?元気ないじゃん」
「別に。純也がテンション高すぎなんだって…」
「そうかなぁ、うん、そうかもしれない」
「そうかも?何か良い事でも?」
「美香が来た」
「え、何?」
「だから、美香が学校に来てくれたから」
「それが?」
「それが、良い事」
また、私が本気にとってしまう事を言う。私、純也を好きなのかもしれない。ううん、好きなんだろう。純也が、大好き。
「どうしたの?」
「何もなーいよ」
「何、良い事あった?」
「あった」
「嘘、いつ?」
「今」
「今ぁ?何あった?」
「言わない、教えてあげない」
言えない、教えてあげられない、よ…。
ガラ
「何だよ、これ」
教室に入るなり、純也が大声で、…
「純也、どした、」
私はそれを見ると、唖然としてしまい、この空気に耐えられなくなった。
私の机は、教室の隅っこによせられていて、机の上には花が入った花瓶。その花はどこか寂しげに、こちらを向いている。
「あっ、おはよー、純也くん」
「かずは…お前がやったのか」
「何の事?かずは、全くわかんないなぁ」
「嘘だ、お前だろ、美香の机に、」
「あぁ、お花の事?だって、死んだ人の机には花を置くでしょ」
「美香は死んでないだろ」
「体は生きてても、感情とか、神経死んでたらねぇ」
「生きてるだろ、美香は」
「純也くんまで何言うの?純也くん、そいつの見方なの?」
「関係ないだろ、見方とか、」
「嘘、嫌だ、純也くん、美香の事好きなの?」
私はその言葉に、思わず叫んでしまった。
「うるさい、黙って!私が死んでれば、かずはの行為は正しいんでしょ、私が死ねばいいんでしょ、だったら私が死んだらいいんでしょ」
「おい、美香!待てよ」
私は走った。もう前なんか見ていなかった。それぐらい、全力で走った。
「美香!」
私は後先の事なんて考えず、ひたすら走った。後ろから聞こえてくる純也の声なんて、無視して。
いつの間にか屋上にいた。私は力が抜けてしまい、地べたに座り込んだ。地面が冷たかったのだろう、手が反射的に足をさする。でも、そんな事考えてる余裕なんてなかった。
早く死にたい。私の頭の中にはそれしかなかった。
パッと前を見たときに見えた、屋上からの景色。そうだ、飛び降りよう。私は決心し、くつを脱ぎ、いつも腕を切っていた血のついたカッターと一緒に地面に置いた。
「さようなら、カッターさん。さようなら、はきなれた靴。さようなら、お母さん、お父さん。さようなら、純也…」
私はフェンスを乗り越え、飛び降りれるところまで来た。後は飛び降りるだけ。勇気はある、決心もついている。だけど、何かが私を生かしていた。早く楽になろうよ。という私の気持ちと、死ぬのは早い。とい気持ちが戦っていた。でも、その気持ちが重なり、ぐずぐずするな、早く死になさい。という一つの気持ちになった。
私は覚悟を決め、ふらっと前に倒れた。
あぁ、もう死ねるんだ。と思ったその時、誰かが私を抱き寄せた。
「美香!何やってんだよ、危ないとこだった」
「何するの、離してよ、余計な事しないで。死なせてよ!」
「死ぬなよ!なぁ美香、死ぬなよ!」
「嫌っ、死ぬの!私なんて誰からも必要とされてないの!」
「必要だよ、俺、美香が絶対居なきゃ駄目なんだよ」
「嘘!そんなの、そんな言葉イラナイの、必要ないの」
「まず、話そう、美香、俺と話そう」
「話す必要なんてない!」
「死ぬなよ、美香」
純也は私を強く引っ張った。
「キャッ、」
そのまま一緒に座り込んだ。
「もういいだろ、死ぬなんて言うなよ…」
「やめて、離して」
私も少し落ち着いたのか、純也がものすごく近くに居る事に気付いた。
「離してっ、」
今度は私の心臓がヤバイ。
「なぁ、美香。俺が守るから、死なないでくれよ」
「離して、嫌ッ…」
「美香、ここは危ない。ほら、フェンス上って」
「やめて、触らないで」
「美香、俺好きなんだよ、お前のことが。だから死なないで、お願い」
純也は私を強く、強く抱きしめた。
「……美香、好きだ」
私は何も言うことができなかった。
「美香、フェンス上って?」
「…離して」
「危ないから、先行けよ」
「……先行って」
「駄目、美香が行くまで俺動かないよ?」
「…分かったから、離して」
純也は私の腕をつかんでいた手を離した。
「さぁ、行って」
私は黙ってフェンスを乗り越えた。私がフェンスの向こう側に行ったのを確認して、純也もコッチに来た。
「美香、」
純也は私を見つめた。私は恥ずかしくて、目を見る事ができなかった。
「ねぇ、今日の事、忘れよ、お互い」
私はうなずいた。
「美香、…俺どさくさにまぎれて告ったんだけど」
「…………うん」
「美香、俺、美香が好きだ。大好きだ」
「……うん」
「付き合ってくれ」
「……私、も…………好き」
「マジ?やった、俺断られたらどうしようかと思った…」
「…うん」
「本当に?」
「……うん」
「コレ、夢?」
「…うん」
「うん、だけじゃわかんねぇよ」
「……うん、…………好き」
「やべぇ、」
「…うん」
私は「うん」としか返事できなかった。私は本当に、幸せすぎて言葉を失った。
「俺、本当幸せなんだけど」
純也は私を強く抱きしめた。
強すぎて、苦しかったけど、それもまた幸せだった。
「…………私も、」
「ん、何?」
「…幸せ、………私も幸せ」
「…んー、もう、大好き!」
私は、さらに強く抱きしめられた。
「…もうそろそろ、苦しい」
「あっ、ゴメン」
「…えっ、ゴメン」
何?この沈黙。でも、この沈黙は嫌なモノじゃなかった。幸せな沈黙もあるんだと、今日初めて知った。
「私、初めて…」
「えっ、何が?」
「こんなに強く、ギューってされたの…」
「初体験かぁ、良かったね」
「良かった?」
「相手が俺で」
「…バカじゃん、」
「ねぇ、放課後までココいよっか?」
「…うん。でも、放課後までの時間、何するの?」
「恋人同士だし、恋人らしい事」
「…恋人」
「どしたの?」
「恋人って響き、なんか照れます…」
「ハハ、結構可愛トコもあるんじゃん」
「…無いよ、可愛いトコなんて、1ミリも」
「やっぱ帰るか」
「え、どうして?」
「お昼になったらココ、人いっぱいになるじゃん。そんなの嫌だし、どっかでサボろうよ」
「うん」
私は、初めて命の大切さ、ありがたさに気付きました。こんなに幸せでいれるなら、もっともっといっぱい生きようと、私は思った。
「どこ行く?」
「どっかのビルの屋上がいいな」
「屋上?!」
「うん、高いトコロで、強い風に当たるのがすきなんだ」
「わかった、どびっきり高いトコロ行こう。現実逃避しちゃいましょうか、2人で」
「賛成」
周りから見ると、私たちは幸せいっぱいで、とびきりのバカップルなんだろうな。そんな事を思いながら、校舎を出た。
「見つかりそう」
「いいよ、見つかった方が楽しい」
「美香さん、変わりました、ね?」
「殻から抜けたの、あなたのせいです」
「それは、良い事をしたのですね、俺は」
「今の私と昨日の私、どっちが好き?」
「昨日も好きだったけど、今の方が好き。でも、明日はもっと好きだと思う」
「私も、です…」
「あっ、お前ら、何してんだ!授業中だぞ!」
「あっ、ヤベ、先生!」
「走ろっ、」
「逃げるぞ!」
「あっ、待て!」
「はぁ、疲れた」
「あんな走ったの久しぶりかも」
「それより、どうします?」
「何が?」
「今からも、明日も」
「今はいいじゃん、そんなこと。」
「じゃ早く、連れてってよ、高いトコロ」
「あ、そうだ。屋上じゃないけど、俺んち来ない?」
「えっ?」
「俺んちの屋根裏。あそこ結構落ち着くよ」
「うん、行きたい」
「親いないし、のんびりできる」
「いいね、ソレ」
「もうすぐそこなんだ、俺んち。」
「何処?」
「そこ」
純也が指差した先には一軒の家。
「さぁ、上がって」
「おじゃまします」
そのまま階段を上り、部屋に着いた。
「ココ?屋根裏」
「違うよ、ここからはしご上んの」
「いいね、私好きだな、こういうの」
「ハシゴ?」
「うん、ハシゴも好き」
「じゃあ良かった」
ハシゴを上り、屋根裏に到着。
「せまいけど、ゆっくりして」
「こういうの好きだなぁ、落ち着くね」
屋根裏部屋は、上に窓があり、広さは人が5人、入れるかぐらい。
「空が見えるのって素敵…」
「いいでしょ、天窓。俺もそれ結構気に入ってんの」
「へぇー」
「その窓ね、開けれて顔出せるよ」
私は窓から顔を出した
「屋上よりいいね、最高」
「でしょ、眺めは微妙だけど…」
「ううん、好き。こういう町並み見るの」
「町並み?ずいぶんせまい町並みだけど」
「ありがとね、お家にまで招待してもらっちゃって。」
「いえいえ、コチラこそ、楽しいし。」
「ゆっくり、のんびりするのっていいね」
「明日もココでサボろう。もう学校なんてどうでもよくなってきた」
「明日サボったら、明後日は行かなきゃ駄目よ。勉強遅れるし、バレタラややこしいでしょ?それに、また変な噂立っちゃう…」
「いいじゃん、その噂は本当な訳だし」
「全てが本当じゃないでしょ」
「噂されたらその噂、本当にしてあげるよ。良い事ならね」
「じゃあ物凄い噂させなきゃ、贅沢で、幸せな」
「例えば?」
「うーん、2人は旅行中とか?」
「いいね、いつかソレも実現させるよ」
「後は…いつまでも一緒にいました。とか」
「そうなると、もう噂じゃないじゃん、昔話みたいだ。でも、ソレも実現できるよ?」
「そんな、根拠もない…」
「悲しい事言わないでよ、一緒にいようよ」
「……じゃあ、少しも離れないで。」
「少しも?」
「一秒も。」
「美香はオンナノコだね、やっぱ」
「どうして?」
「そんな事、オンナノコしか言わないよ、それも可愛い」
「…やめて」
「照れる?」
「とても」
「…離さないよ、って言うか、離せないよ」
「離せない?」
「そう、愛しすぎて」
「……照れます。」
「照れて下さい」
「十分照れてます、もう顔が見れません」
「夢みたいですね」
「何が?」
「こうやって、一緒にいる事。しかも屋根裏部屋で」
「…もう無理」
「へっ?」
「恥ずかしすぎて、死んじゃう」
「それで死ぬんなら、いいよ?そのかわり、俺も同じだ」
「純也も恥ずかしいの?」
「当たり前じゃん、同じ空気の中にいるんだし」
「…このまま、どこか遠くへ、行きたい。」
「ここはもう遠くだよ、2人の世界だもん。」
「甘いね、」
「何が?」
「この世界」
そのまましばしの沈黙。
「あっ、兄ちゃん」
「春樹、何でココに?!」
「俺だけ学校あるから帰って来た、んだけど…ヤバカッタ?」
「やばかった」
「でも兄ちゃんたちがこんなトコで、いるから悪いんだよ」
「…美香、行く?」
突然の事で、どうすればいいか分からなかった。
「母さんたちは?」
「まだばぁちゃんち。俺、どうしよう?」
「自分の部屋居ればいいよ」
「…何、兄ちゃんの彼女?」
「そうだ、可愛いだろ?」
「こっ、こんにちわ。美香です。純也の、弟さんですか?」
「弟です」
「あ、あの…私が帰ります、」
「良いよ、美香は居て」
「でも、」
「いいですよ、居てください。」
「…すみません」
「あ、彼女さん、手、どうしたの?」
「手?」
「傷、」
「あっ、あの…」
「関係ないだろ、下行けよ」
「暇なんだよね、悪いとは思うけど、入れてよ」
「無理」
「ねぇ、美香さんだよね?」
「はい」
「いいでしょ?」
「…いいです、どうぞ」
「美香も、何言ってんだよ」
「いいじゃん、美香さんがいいって言うんだし」
「はぁ…」
「ねぇ、話聞かせてよ。まずその傷、どうしたの?」
「…どうも、しないですよ?」
「あ、兄ちゃんにされたの?」
「オイ、何言ってんだよ」
「そうです、違いますよ」
「リスカ?」
「関係ないだろ、いい加減にしろよ」
「わかったよ。じゃあさ、2人はどういう関係?」
「だから、恋人同士」
「ふぅん。美香さん、結構可愛いじゃん」
「あたりまえだろ?」
「俺好みですよ、美香さん」
「あっ、はい…」
「照れてる?ますます可愛い。なぁ兄ちゃん、俺のものにしちゃってもいい?」
「絶対取られねぇ自身あるけど?」
「ねぇ、美香さん、僕と付き合いませんか?年下との恋も、なかなか良いですよ」
「…あの、」
「春樹、生意気言ってんじゃねぇよ」
「美香ってよんでもいい?」
「はい…」
「あっ、困ってる?」
「いえ、そんな事は…」
「いいよ、冗談だから。」
「春樹、これ以上美香困らせんなよ、」
「まぇいいや、俺、もう行くわ」
「さっさと帰れ」
「じゃあね、美香さん」
「はい、また…」
「会えるかな?」
「会える…と思います」
「敬語やめなよ、俺の方が年下な訳だし」
「はぁ…」
「俺も気ぃつかう、敬語で話されると」
そんな事言われても、人と接する事に慣れてない私は、どうすればいいか、ワカラナイ。もっと人との関わり方を勉強しておくべきだった?
「美香困ってるだろ、生意気言ってないで、早く出てってくれない?」
「わかったよ、じゃあね」
「さよなら、弟くん」
「次会う時まで美香さんと兄さん、付き合っててよ」
「えっ、」
「だって、別れちゃったら会えないじゃん?俺はまた兄さんの新しい彼女と美香さんと今日した会話と全く同じ事を繰り返さなきゃいけなくなる」
「お前にそんな心配されなくても、俺らは壊れない」
「本当かな」
「俺は絶対美香を離さないから」
「兄さんは何事にも絶対をつけちゃうよね、それ、やめた方がいい。この世に絶対は有り得ないよ?」
「有り得ない事を現実にするのが俺らだから」
「うんうん、そうか。まぁ頑張りなよ」
弟の春樹くんはそのまま下へ戻った。
「…純也?」
「あ、…ごめん。」
「どうしてあやまるの?」
「…俺の弟、生意気だろ?」
2人に冷たい空気が当たった。
「ううん…」
私は首を振り、うつむいた。
「ごめん、な…」
「あやまらないでほしい」
「ごめ、…」
その時、私はすごく純也を困らせてる事に気付いた。
「あっ、ごめんね?困るよね、こんな…私」
「悪くない、美香は」
「…私、どうすればいいの?こんな時。」
「困らしてごめんな、こんな空気にしちゃって…」
「ううん、」
次の言葉が見つからない。
「私、居ても大丈夫?」
「えっ、」
「私、こういう時は帰るべきなの?」
「いや、居てくれた方がいい」
「…いいの?私で」
「何が?」
「純也に相応しくないよ、私なんて…駄目だよ」
「美香は、俺の事嫌い?」
「ううん、好き」
「それでいいの、私なんて、なんて言わないで」
「…うん」
「相応しいよ、十分、美香は。俺には美香がもったいないぐらいだ」
「…ここは、否定すればいい?」
「本当の事は否定しちゃ駄目」
「…私ね、全然人と接してなかったからか、答え方とかね、人との接し方、わからなくて」
「いいよ、俺に聞いて」
「…ごめんね、迷惑ばっか。」
「迷惑だなんて思ってないよ、美香のためだもん」
「嬉しいです、そんな事言われるの、初めて。」
「うん、美香可愛くなったよ」
「え、」
「前も可愛かったけど、出てるオーラが違う!」
「オーラ…?」
「前は、どよんとしてたんだよね」
「どよん?」
「うん、暗いような…上手く言えないけど。でも今は違う、綺麗で輝いたオーラが出てる」
「…オーラ」
「美香は、確実に良い方に向かってるよ」
「良いほうに…」
「だから、勇気出して。負けちゃ駄目だ」
「頑張るね、私」
「確実に昔とは違うよ。本当は明るい子なんだよ、美香は。」
「…うん」
「もしこの先、辛い事や悲しい事があったら俺に相談して?」
私は頷いた。
「それと、絶対に、自分を傷つけないって約束して」
「……もう手は切らないよ」
「まず相談!相談する相手がいるんだから、ね。」
「…うん、ありがとう」
「良い、良い。良い子だね、美香は」
「何、それ」
私たちは笑い合いました。
私は確実に純也に救われた。もし、純也があの時、飛び降りる私を止めてくれなかったら、今の幸せも、自分もなかったんだと考えると、怖い。
私は純也に抱えきれないほどの感謝と、愛情を持っています。そして、これから何年もかけて、純也に負けないほど強くなろう、優しくなろう、と心に誓った。
「ありがとね、純也」
「えっ、何?」
「何もなーいよ」
「何さ、気になるじゃん」
「一度しか言えない」
「聞いてなかったの、言って?」
「嫌。聞いてなかった純也が悪いのよ」
「何ー、教えてよ!」
いつか、音で聞こえなくても、心で通じ合う仲になりたいな、と考えているのです。
そして、私は一分、一秒でも、感謝し、行き続けています。
<終>
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