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妄想王国(小説)
幸せなことなんて何ひとつない現実から、私を救い出してくれる。
そんな私もやっぱり現実に生きる普通の女子中学生。
普通に学校にも行かなきゃいけないし、部活だって、強制ではないけどしてるのが普通。
今日もまた、普通に学校に通います。
「おはよー」「今日もだるい、もう駄目」「テストあるんだってよー」「私あの先生嫌い」
繰り返される会話の数々。楽しそうな言葉。
でも、そんなの私には必要ないの。必要なのは空想の世界だけ。それを作れる頭だけ。
「愛子、おはよ」
まだ私に話しかけてくる人がいます。もう私はこの世界の人じゃないの…そっと、1人にして
「愛子、愛子!」
「…なんですか?」
「なんですか、じゃないよ。何ボーっとしてんの?」
「只ボーっとしてる訳じゃないの」
「何か考え事?」
「そう、考え事」
私の考え事にはすごい力が込められているの。只の考え事じゃない。私が考えることによって、少し、また少しと国が作られていくんだから。
私の国、私だけの国…妄想王国が。
愉快で楽しくて、何の苦痛もない世界に迷い込んだアリスなの。私は。
「ところで、今日テストだよね」
「はぁ…そうでしたっけ」
「ミニテストとか言って、全然ミニじゃないやつ!皆結構勉強してくるんだよね、ミニテストの日って」
「へぇ、そうなの」
「そうなの、って…まさか勉強してないの?」
する訳ないじゃん。私は心の中で思いました。でも、それを返す事で会話が成り立っちゃう。この世界の人たちと会話してたら、現実の世界に連れ戻されそうで、私は現実世界の人達との会話を嫌います。
「ねぇ愛子、聞いてる?勉強…」
「これ以上会話をすすめる訳にはいきません。では」
「ちょっ、愛子…」
どうして私に構うの?貴方には、たくさんお友達という人が存在するじゃない。貴方さえ私に関わらなければ、私は完璧な妄想王国の姫なのに…。
授業は実に退屈です。
テストなんて、とんでもなく退屈。こんな時間、無駄。
「水無月さん」
「…なんでしょう」
「授業中に居眠りなんて、いけませんよ」
「居眠りをするのは貴方の授業がつまらないからです。人間は、つまらない事を嫌います。だから、私がつい居眠りをしてしまうのは仕方ない事なのです」
「授業につまらないも何もありません、そんなにつまらないなら帰りなさい」
あーあ、馬鹿みたい。こんな事でむきになっちゃって。全く、最近の大人は…
私は、仕方ないので先生の言いなりになってあげました。
「水無月さん、何処へ行くの!?」
「先生が帰れと言ったので、帰ります。さようなら」
「あ、ちょっ…水無月さん!待ちなさい!ちょっと…」
面白い人。自分で帰れって言った癖に、本当に帰ったら焦ってる。
でもこのまま帰ると、うるさい弟に出くわしてしまいます。だから私は近所の公園で暇つぶしです。
「愛子ー!」
うるさいのが走ってくる。
「愛子、皆ビックリしてたよ!どうしてホントに帰るかなあ…」
「あの人、私に何て言った?」
「でも、ホントに帰るのは違うじゃん。ごめんなさい、ですむ事なのに」
「どうして私が謝るの?私、ちゃんと指示に従ったわ」
「…先生怒ってたよ」
「だから?」
「皆、驚いてたよ」
「それで?」
「愛子、友達欲しくないの?」
「結構です」
私は足早に家へと向かった。
嗚呼、今日は何て日だろう。
「姉ちゃん、何してんの」
まあ、愛想の悪い弟だこと…
「こんな時間に何してんの」
私が「お散歩」と答えると弟は呆れた顔で「お母さんに知られてもしらないよ」とつめたい言葉を私に言い放ちました。
「学校は」
弟はまだ私に質問を続けます。いい加減、この嫌な雰囲気から開放して…
「…魔法使いだって事が皆にバレてしまったの。だから慌ててほうきに乗って帰ってきたのよ。お姉さまを見習って、弟子にならないかい?愛想のない弟くん」
弟は「呆れた」と言い放ち、さっさと何処かへ行ってしまいました。私は可愛い冗談を言ってあげたのに、ホント、可愛げのない子。
私の弟の達也は可愛げがありません。本当に私の弟なのか、と疑うぐらいに。おまけに現実しか見てなくて、夢もない。そんな楽しくない人生、私は絶対に嫌。弟くんには悪いが、私は弟くんの人生を最悪な人生の代表としてあげるよ。最悪に、楽しくない人生。終わり無い現実…考えるだけでもめまいがする。
私が家に入ると、リビングで弟が、否、達也がテレビを観てました。
「おかえり」のひとこともないのね。やっぱりキミは私の弟としてふさわしくないわ。
「達也、弟子になる覚悟は決まった?」
私が珍しく話しかけてあげました。
「…俺、お前みたいな奴が自分の姉だと思うと情けない」
「現実の世界に住んでる人の考える事はわからないわ」
「さっさと散れ」
まあ、お姉さまになんて言葉遣い?弟くん、いつかキミも私の世界に来たいと願う時が来る。その時は、遠慮せずに申し出るのよ。もちろん、断るから。
そんな事を考えていると、お母さんの声がしました。
「あら…愛子、もう帰ってたの?」
「姉ちゃん、サボってたんだぜ、学校」
「そう…サボるのは自由だけど、達也に影響を及ぼさないでね」
「母さん、俺、こいつといると頭おかしくなりそう」
私の母は、私の事なんてどうでもいいのです。達也が唯一の望み。私はもう、捨てられています。でも、悲しいなんて思った事ありません。私の母は、現実世界だけでの母。私の国の母は、もっと綺麗で優しいの。
「姉ちゃん、居場所ねーな」
達也、ホント何もわかってないのね。私の居場所は、ここじゃないの。
私は、最近から 嘘日記 という物をつけています。
日記は日記なのですが、その内容、全てが嘘で固められているのです。
妄想で出来上がった世界で起こる、幸せな出来事。それをこの日記に綴っています。
この日記の内容が、嘘では無くなる日は、いつくるのでしょうか。
「愛子、友達が来てるわ」
「友達?…お母様、とうとう幻覚まで見え初めているのですね」
「早く行って頂戴」
私の友達というと…お花かしら。
「おはよう、愛子」
「…こんな所で何してるの?」
「へぇ…姉ちゃん、友達いたんだ」
「達也、この方の何処が私の友達?」
達也はさっさと家を出ました。私の事が気に食わないなら、話しかけていただかなくても結構なのに。
「学校、行こ」
「貴方にそんな事言われなくても、私は行くつもりよ」
「あ、ホントに」
「…昨日のことがトラウマで、学校に来れないかと思ったの。だから心配で、迎えに来たのよ。なんて…言わないでね」
図星、だったのでしょうか。工藤麻衣は黙り込みました。
「工藤さん、どうして私に話しかけるの?」
「友達だからに決まってるじゃない」
やっぱり、友達なんだ。でも私に友達なんて必要ないの。
「わら人形でも、作ってあげましょう」
「え?わら人形って…」
「貴方、私を友達と思ってるんでしょ?それは大きな間違いなの。だから、貴方には明日にでもわら人形を買って、差し上げるわ。そして、そのわら人形を私だと思って付きまとえばいい」
「どうして…」
「私を友達と思ってるのは間違いなの。間違いは格好悪いの。だから、私は貴方を救おうとしてるの」
「わら人形は、貴方じゃないよね…愛子じゃなきゃ意味ないじゃん」
本当に、つくづく、駄目な人ですね。
工藤麻衣、あなたは私の友達じゃないの。あくまでも、私は1人。この世界での私は、私じゃないんだから。
「愛子、この際だから言うけど…友達いないよね」
「はい」
「寂しくないの?友達、欲しくないの?」
「全く」
「どうして…」
「腐ってるからじゃないの?実はね、私…秘密よ?」
「え……うん」
「腐ってるのよ、根っこから。どうしてかというと、私、お水をもらえなかったの、長期にわたってね。だから枯れてしまったの。そりゃ当たり前よね。暑い中も寒い中も、水を1滴も与えてもらえないなんて。でも、仕方ないわよね…私は、誰からも知れらて無い…木なんだもの」
「木?」
「そう、私は木から人間へと変身したの」
私の可愛い冗談が通じなかったのか、工藤さんは少し困った顔をしました。
「どうしてなんだろ、どうしてなの…」
工藤さん、そんなに悩む必要は全くないのです。
人の為に悩むなんて、そんな馬鹿げたまねしなくてもいいのです。
他人の為に頭を悩ますなんて、そんな無意味な事しなくていいの。只、自分の為だけに頭を使う、それでいいのに。でも、そんな事工藤さんに言ったところでこの人は理解してはくれなさそう、なので、言いません。
「麻衣、こんなトコで何してるの?」
「志保…」
「水無月さんじゃない、何してるの?」
「丁度良かった、足止めをくらってたの」
「愛子、待ってよ」
「麻衣、水無月さんと友達だったんだ」
あーあ、また勘違いされてる。
どうして友達を欲しがるんだろう。いなくても私の人生に何の差し支えもないのに。友達なんて、しょせんは他人なの。人間なんて、裏切る生き物なの。友達なんかを信用しちゃって、裏切られて落ち込むなんて、そんな格好悪い事、ぜったいご免よ。喧嘩とか、絶交とか、友情とか、信頼とか…格好悪い。
今日の嘘日記には、何を書こう。
学校の人が皆ハエになった事?それとも、おかしのお家が今日出来上がった事?なんて楽しい世界だこと。
結局私は、弟が弟子入りした事を書きました。
今日は、弟がついに弟子入りを申し出てきました。嗚呼、神様、どうすればよいのですか?弟を、弟子にし、魔法を教えてよいのですか?
魔法使いなんて、そう簡単になれるものではないのです。だから、達也には数々の試練を与えなければならないのです。達也に、絶えることが出来ましょうか…。
達也が本当に弟子入りを申し出た訳ではありません。それに、私が魔法使いだと言う事も嘘です。でも、これが正しいのです。だってこれは、嘘日記なんだもの。
次の日、達也がおかしくなりました。頭のねじがとれたのか…それとも、とうとう私を見習うことにしたのでしょうか。
「あのさ…姉ちゃん、……俺」
「何なの?私、時間がないの」
時間など、有り余っています。
「すぐ、終わるから。ちょっと聞いて欲しい事がある」
うーん…達也がこんな事言うなんて初めて。なので、私は得意の意地悪をせず、聞いてあげる事にしました。話なんて、珍しい。
「俺、姉ちゃんの言う事全然信用なんてしてないけど…言わないと駄目っつーか…言わされて、ないんだけど…あーもー…あのさ」
「何よ、じれったい!私の事が好きなの?あ、兄弟なのに付き合う訳にはいかないもんね…でも気持ちに嘘はつけない。仕方ないわ、秘密の関係って事で」
「違うよ!何言ってんだよ…だから……弟子になる、決めたから」
ででで、で…弟子?あら、とうとういかれちゃったんだ。いかれ帽子屋に、洗脳された?
「弟子…って、」
私は人並みにうろたえました。だって、弟子だなんて。本当に魔法が使えるとでも思ったのかしら。弟くんが?まさか…からかってる?
「本気だから」
「何処から持ってきたの?!毒キノコ、食べたんでしょ!」
「食ってねーよ」
態度は、いつも通りなのに。
「…魔法使いになる決意を固めたわけ?」
「あーもー、意味わかんねぇ。こんな事口にしてる自分も、お前も」
意味が分からないのは貴方よ、達也。
でも大丈夫。人は、1度や2度、道を踏み違えたって、生きていけるの。だから、1度や2度の失敗ぐらい、さっさと忘れた方がいい。でもこれで分かった。誰にだって、夢はあるんだ…って事。
「失敗は繰り返すと格好悪いの。達也、お姉さんを見習うのはいいけど、ちゃんとした道から外れた生き方は、苦労するのよ」
「馬鹿らし。俺、何言ってんだろ…」
「あ、現実世界に戻ったの…」
私はしばし呆然として、ふと我にかえり、とりあえず今からどうしよう…等と色々動揺してしまいました。
そういえば、日記にこんなこと書いたっけ…ふと思ったことが、私に大きな衝撃を与えました。もしかして、日記に書いたことが本当になったの?
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