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空の果てへ…(小説)
何気ないひとことだったが、僕らは本気だった。
あの頃と何一つ変わらないことがある
それは
僕 は 生 き て い る
ということ。
何度も、何度も、自殺を試みた
だが、案外難しいものだった
気のもちようで、すぐに逝けたり逝けなかったり…
僕らの気持ちは、まだまだ死には達さなかったのだろうか。
僕らは、小学校、中学校へ行くことを義務付けられているように
生きることを義務付けられているのだろうか。
そうでないなら、誰がどこでどうやって死のうが
その人の勝手ではないか。
僕らは普通の中学生だ
彼女もごく普通の中学生。
もちろん僕も、よく居る普通の奴。
「真子…俺、ずっと……」
真子と付き合い始めたのは約半年前。
「あのさ……その、…ずっと好きだったんだ」
「…うん」
「俺と付き合ってもらえませんか?」
僕はぎゅっと目を瞑った。
目玉が、つぶれてしまわないかと心配になるほど
「うん、…私もちょっと気になってた、真治のこと。よろしくね」
真子の笑顔は、人一倍可愛かった
そんな笑顔の、僕は虜になった。
あれからもう半年か…
否、まだ半年、といったほうがいいのか?
でも、1ヶ月前からはもう1ヶ月もたったのか、と言った方がいい。
真子が始めて、僕を呼び出した。
一緒に帰る誘いも、デートの誘いも、ずっと僕からだった。
真子から誘われたのが嬉しくて、僕は急いで約束の場所まで向かった
「真治!こっちよ」
僕は駆け寄った
「ごめん、待った?」
「ううん、全然。それより…今日は大事な話があるの」
まさか…別れを切り出されるのではないかと、不安になった。
「ねぇ、一緒に死んでみない?」
僕の予想は大ハズレ。
真子の口から発された、思いもしなかった言葉に
僕は頭の中が真っ白になった。
「真治は、生きる理由がある?」
何を答えればいい?こんなとき、クラスで1番モテる男なら、何て言う?
「……ない」
僕は、真子の目をみて答えた。
きかれると、僕が生きる理由なんて、なかった。
「あ、でも…真子と一緒に居ることが、…生きる理由、かも」
真子は、笑顔で
「嬉しい」
と答えた。
「真子は…生きる理由がないの?」
「うん、ないよ。」
キッパリといわれてしまい、僕は何も言えなかった。
本当は、真治と一緒に居ること、と答えて欲しかったのだろう…
「真治は全然汚れてないのね」
「汚れて…」
「綺麗。まるで生まれたままの心で大きくなったみたい」
「子供、ってこと?」
僕はちょっとムッとした。否、かなりムッとした。
「私ね、真人と付き合ってるの」
「えっ!」
真子はにやりと微笑んだ
「………うーそ。ねぇ、今、死にたいと思った?」
「………え…と…」
僕は、状況を飲み込むのが遅いみたいだ
「嘘だよ、冗談。真治、今、死にたいと思った?」
「死に、たい…?よく分かんないけど、絶望っていうのを感じた、気がした」
「絶望は死の第一歩だってこと、知ってる?」
「…そう、なんだ」
真子の言う意味が、よくわからない
「私が洗脳したら、真治はすごく死にたくて仕方なくなるわ。真治、素直なんだもん」
「…俺は、真子が死にたいなら、今すぐにでも死ねる」
ちょっとかっこつけてしまった。
本当は、死ぬことなんて出来ない。僕は、臆病だから。死ぬ勇気なんてない。
「今日、私の家泊まりに来て?旅行で親いないの」
「え…いいの?」
内心、ものすごく嬉しかった
「私達、今日、一緒にいきましょ」
「いく…」
「逝く、あの空へ…」
真子は、本気なのか?
「行こ、真子の家」
僕らは真子の部屋へ入った。
「リストカット?窒息死?それとも、大量に薬飲む?」
「…真子、本気で死ぬのか?」
「駄目?」
「死ぬ理由が、あるのか?」
「生きるのにさえ理由なんてないのに、死ぬのに理由がいるの?矛盾してるよ、そんなの。」
「…でも、家族の気持ちとか考えたら」
「私の親、ホントは旅行なんかじゃないの」
「え…」
「親、離婚してるの。母親が私を引き取ったんだけど、毎日遊んでる。今日もたぶん男のとこ」
真子は、そんな家庭環境の中で育っているから、死にたいなんて思うのか?
「真子は…」
「違うよ、親のせいで死にたいんじゃない」
「じゃあ…なんで」
「面倒になっちゃった、生きてるの」
「面倒って…」
「いいじゃん。疲れたの。理由があるだけマシでしょ」
死ぬことに、良いも悪いもあるのか…
「でも、自殺なんて」
「あーもー、うるさいなあ!私が死ぬなら真治も死ねるんでしょ?」
「ああ…死ねる」
「じゃあ死のう?こんな私を好きになったのは真治なんだよ」
真子に、何があったんだ。
どうせ死ぬなら、それを知ってからでもいいだろう。
「明日、美穂イジメるの。死ぬほど」
野田美穂。平凡な奴だ。
「1人でイジメても意味ないから、真治にも協力してもらう」
「なんで俺が」
「真治が死ねとかウザイとか言えば、アイツすぐ死ぬよ」
女が男にイジメられても、効き目無いんじゃないか…
「美穂ねぇ、真治のこと好きなのよ」
「えっ?!まさか…そんな素振り、ちっとも」
「そういう奴なのよ。うじうじしちゃって、ずっと告白も出来ないでいんの」
「…真子は、野田が嫌いなのか?」
「好きよ、殺したい程」
「協力してもいい、でも一つ条件がある」
「条件?なに?キスならしてあげるわよ」
「…真子が死にたい理由を教えてくれ」
「ないの、ホントに。吃驚しちゃうでしょ、意味もなく死にたいなんて」
ほんとに、吃驚する。
無意味に死にたがる人間がいるのか……
「何かあったなら俺が聞く、なんでも」
「ごめん。聞いて欲しい事が思い浮かばない」
「……明日、いつやるんだ?」
野田が本当に自殺をするか
僕はわくわくしていた。
「ねぇ、美穂、死ぬかどうか賭けてみない?」
「俺は死なないに一票」
そうだ。そんな簡単に人が死ねるはずがない。
「そう。私は死ぬに一票」
本気で、死んだらどうする?
僕は責任とれないぞ。キミだって、とれないだろ?
「実行は昼休みよ」
そういい残し、真子は部屋を出た
ホント、不思議な子。
前は、あんなだっけ…
次の日、昼休みまでなんてあっという間だった。
「真治ーぃ!」
真子は変わらず元気だった。
美穂が何も知らずに話しかけてきたことが、可笑しくて仕方なかったらしい
「美穂、屋上に来るように言っておいたから」
「もし本当に死んだら、どうする気?」
「美穂が死んだとしても自殺だもん。私達に罪はないよ」
微笑んだ真子が、一瞬怖く思えた
「真治、びびってるの?」
「まさか」
本当は、びびっているのかもしれない
自殺してしまったら、呪われないかとか
ほんとうに、僕は臆病だ。
「真子ーお?」
「来た」
「何?話って…真治くんも、一緒?…どうしたの?」
「私達ね、半年前から付き合ってんの」
「え…」
「美穂、真治の事好きなんでしょ。でもね、真治は私が好きなの」
「…うそ」
「そういうことだから、真治の事諦めてね」
真子が満面の笑みで美穂に言った
女って、怖いな。
真子に背中をたたかれ、僕は頼まれていた台詞を言う
「…ウザイんだよな、お前」
明らかに傷ついた野田の顔が目にはいる
「あーあ、嫌われちゃったねぇ。アハハ、おもしろー」
「真子…」
「なに?私の事最低な女とか思ってるんでしょ?どんどん思って、私にとっては最高のホメ言葉」
「そんな……ひどいよ…」
「明日学校来るの憂鬱でしょ。辛いでしょ。何年も片思い続けてきたのに、あっけなく振られるもんねぇ」
「ひどい…」
野田は今にも泣きそうだった
本当に死にそうだ…
「辛い?」
「…当たり前じゃない」
「じゃあ、死ねば?」
野田はうつむいたまま
何も言わないし、動かない。
「じゃーね、美穂。バイバイ」
真子の放った バイバイ は物凄く意味深だった
「真治、行こっ」
「ああ…うん」
真子は微笑んでた
「楽しいか?」
僕はきいた。
「すっごく」
真子は笑顔だった。
次の日も、その次の日も、野田は1週間学校を欠席した
真子は、絶対引きこもってる、と嬉しそうだった。
「なぁ真子…野田の家に謝りに行かないか?」
「どうして?」
「このままじゃ、きっとアイツ、登校拒否児になる」
「そして最後は自殺する。いいじゃん、別に」
真子の予想は的中だった。
「えーと…みなさんに悲しいお知らせがあります」
朝から全校朝礼がひらかれた。
校長がマイクの前に立ち、深刻な顔をしている。
「2年3組の、野田美穂さんが、…お亡くなりになりました」
「えーっ?!」「うそ…」「美穂が?!」「どうして」
全校生徒がざわつきだした。
「マジかよー…病気かな。なぁ、真治?」
本当に…死んだ。
真子をみると、かすかに微笑んでた。
「おい、真治?」
「えっ…ああ、…驚いたよ。病死かな?」
「自殺だったりして」
教師たちは「静かに!」と叫んでいる
でも俺たちはそんな言葉、耳に入らなかった。
「えー、みなさん驚いたと思いますが、…静かに!」
校長のデカイ声に、俺たちは静まり返った
一人の生徒が、大きな声で「自殺ですか!?」と叫んだ
校長は慌てて、「違う!」と答えた
でも野田は、確実に自殺だ
1週間前まではあんなに元気だった。
「野田さんは、不慮の事故でお亡くなりになりました」
それから、俺は呆然と突っ立っているだけだった
本当に…死んだぞ。真子?死んじまったぞ。
1間目の休み時間に真子に会いに行った
「真子!」
「…ね。言ったでしょ?死ぬって」
「何言ってんだよ。アイツは俺らのせいで死んだんだぞ?」
「やだなぁ、不慮の事故だって言ってたじゃん、校長」
「自殺だ。そのぐらい分かってるんだろ?」
「美穂は、自ら命を絶ったの」
「俺らがあんなことしなかったら、野田は今も生きてた」
「へーぇ…真治は美穂のこと好きだったんだ」
「何言ってんだよ!」
「じゃあそんなにムキになんなくてもいいじゃん。アイツがいたところで私達、何か変わってた?」
「アイツにだって家族は居るんだよ!真子にはわかんないだろうけど、親は子供が死んだらどんなに悲しむか」
俺は言ってしまってから、はっとした
「…別にいいけど。でも美穂は死にたくて死んだの。望みが叶ったの」
俺はやっぱり真子がわからない…
「賭けは私の勝ち」
「…ああ」
「悔しい?」
「ああ。俺は絶対に勝たないといけなかったからな」
「責任感じることなんてないよ。どうせ私達も死ぬんだもん」
「真子は、本当に死ねるか?」
「死ぬわ」
「そうやって言ってる奴に限って死なねぇんだよ。お前は生き続ける」
「じゃあ今日死のうか。一緒に」
俺は…死ぬ理由なんて、ない
でも、行き続ける理由もない
家族は悲しむだろうか 友達は悲しむだろうか
「来て」
俺は真子につれられ、屋上へ向かった
「一緒に死のうね、せーので」
真子は僕に薬の入ったびんを手渡した
「ただの睡眠薬。死ぬほど飲むの」
このびん1本分の薬を飲めば、僕も、真子も、死ぬ
「水がなきゃ飲み込めないよね。買ってきてあげるよ」
真子は、本気なのか?
僕は、遊びだということを願った。
何分かして、真子が帰ってきた
「真治、かって来たよ」
「授業、始まってただろ?」
「うん。先生にバレないように隠れながら行った。ドキドキして楽しかったよぉ」
「死んだら、もうそんなドキドキ、味わえないんだぞ」
「私は死までのドキドキを味わうために死ぬんだもん」
「それが…真子の自殺の理由か?」
「そうだとしても、そうじゃなくても、私は死ぬ」
「遺書だけでも書かないか?」
「いいよ」
真子は、どうしてそこまで死にこだわるんだ…
僕が紙と鉛筆をとって来ようと立ち上がると、真子が僕の手をつかんだ
「ねぇ、私、本当に死んじゃうから、心残りのないようにする」
「…うん」
「真治も、私に言い残したこととか、ちゃんと言って?」
「わかった」
真子は、本気で死ぬつもりなんだ。
「あのね、私、真治に隠し事してた」
「隠し事?」
「…私、死ぬの。自殺じゃなくて、殺人でもない、誰のせいでもないの」
自殺じゃないんなら、この行為をなんというのか、僕にはわからない
「私、死ぬ運命なの」
死ぬことが、運命なのか?
そんな、病気でもないのに…
病気……真子は、…まさか
僕は嫌な予感を無理やりかき消した。
死ぬ運命なんて、あるはずがない。
「私ね、何かに殺されるのは嫌なの」
その、何かが、僕を絶望へとおとしいれるのか?
何か、が、人であることを願いたい
そうすれば、僕が、何か、を殺してやれる。
「…私ね、病気なんだぁ」
真子が空を見上げてつぶやいた
…病気?
「助かる見込みはないんだって。医者と親が話してるの聞いちゃったの」
「な…何の病気なんだよ」
僕は激しく動揺した。
助からないのか?自殺のように、やめることはできないのか?
「病名とかは聞かされてない。だからわかんない。」
「…嘘だろ?真子は、いつも俺を騙すんだ。そうだろ?冗談、きついって」
嘘だって、笑ってくれよ
いつもみたく、本当は理由なんてないって、僕を馬鹿にしろよ。
「なぁ!」
つい、声が大きくなる
真子は、黙ったまま
「真子?」
「嘘じゃないから、死ぬ前に言ってんの。馬鹿だなぁ…真治は」
「どうしてそんな、平気で居られるんだよ。冗談だからだろ?」
はやく。冗談だと、言ってくれ。
早く言わなかったら、俺はいつまでも、馬鹿みたく叫ぶから
冗談だと言われたとき、恥ずかしいだろ。今の俺。
「なぁ真子、言っていい冗談と悪い冗談くらい、分かるよな?」
「わかってるよ?世界には病気で苦しんでる人、いっぱいいるもんね。でもね、嘘じゃないんだぁ…私、死んじゃうから」
…嘘じゃない、真実、これが真子の、真実。
「真治は、死ななくていいよ」
「え…」
僕は何かを悟った
真子は、本気で死ぬつもりなんだ。
病気に殺される前に、自分で。
「真治まで道連れにするなんて、彼女として最低だもん。その代わり、私を忘れないでね」
「…真子……」
「今まで、死ぬのが怖かったの。でも、真治が一緒に死んでくれるって思うことで私は救われてた」
「じゃあ…俺も一緒に、」
「駄目」
僕の言葉は、あっさりと真子にかき消された
「真子が死ななきゃいけない理由なんてないんだ…」
「理由が無くても、人は死ぬの。死ねるの。私は死ななきゃいけない」
「死ななきゃいけないなんてことない!助かる見込みがないって言った医者はどこの医者だよ!?真子は助かるんだ」
「ありがとう…真治、……私、もっと一緒にいたい」
「真子、…死ぬなよ。」
僕は気持ちをこめて言った。
真子は、本当に死んでしまうのだろうか…
そう考えるだけで苦しい。真子が死んでしまうならいっそ、僕も殺してくれていい。
「自殺なんてやめよう。医者に行こう。大きい病院に行くんだ、きっと助かる」
「…もう、いいよ。気持ちは嬉しいけど、私、死ぬんだよ。大きな病院に行っても同じことなの」
「絶対死なない。賭けてもいい。俺は、死なないに一票」
「私、…自分の死に一票入れたくない」
「じゃあ真子も信じて生きろよ。賭けなんてしないよ。2人共信じてるんだ、お前が生き続けることを」
「…私ね、真治がそう思ってくれて、言ってくれるだけで十分だよ。ありがとう。すごく嬉しい」
「早く、病院行くぞ。」
「行かないよ。私、ここで死ぬ」
「何言ってんだよ!お前はまだまだ生きるんだよ!ここで死んでも意味ねぇんだよ」
「…真治……私…怖いの。すごく、すごく怖くて。寝るときも、明日の朝はもう目覚めないんじゃないかとか思うの」
「大丈夫だよ、真子は死なない」
「……あ、もうそろそろチャイム鳴っちゃうよ。ねーえ、真治?今日はサボろうよ。このまま2人でどっか行っちゃお」
「…真子……」
目の前にいる、何も変わらない、僕の愛する彼女
もう少しすると
この愛らしい顔も、細い腕も、綺麗な唇も、全てが、僕の目の前から居なくなる
そんなこと、考えるのも嫌だ。
真子は僕の目の前で、永遠に生き続けるんだ
僕は、何度もそう願った
僕には、願うことしか出来なくて。
力なさに、悲しくなる。
「真子が死んでしまうなら、僕の生きる意味なんて、本当になくなってしまう」
「真治…?」
「真子が死ぬのなら、僕も死ぬ。一緒だ、いつだって。そんな君を好きになったのは僕だ。死ぬ運命の君を愛したのは僕だ」
「死なないで…真治は、生きてよ。」
「真子は死ぬ理由があるのかよ!俺の生きる理由は真子だよ。その生きる理由がいなくなれば、俺は死んだも同然なんだよ」
イラダチと悲しみが大きくなるほど、苦しくなる。
僕はどうするべきなんだ?僕は何をしなくてはいけないんだ?
「忘れよ?ね、真治。忘れようよ。今日のことは。そしていつも通り2人で居ようよ」
いつ消えるか分からない恐怖と戦いながら、僕は毎日を送ることなんて出来ない
そんな強い人間じゃないんだ、僕は。
「忘れるなんて…無理だよ」
「じゃあ別れちゃお?」
「えっ…?!」
「私が居なくなった時のことを考えて?真治、冷静にいられる?毎日、学校これる?」
「…真子が、いなくなるとき」
そんなもの、なくていい
「私は生きて真治と別れる。死が別れなんて、寂しすぎるもの」
「…俺は、無理だ。真子と今すぐ別れるのも、何年か先に別れるのも」
「私の病気、進行してるみたいで、いつ死ぬかわかんないの。ホント。何年か先かも知れないし、明日かもしれない」
「明日…」
「わからないの!…真治、今日は帰ろっか。明日、また会おうよ」
明日、会えるのか?
真子は絶対に、僕と会ってくれるのか?
本当に、僕は、君がいなくなってしまったら、生きてゆくことなんて、無理なんだ。
「離れないでくれよ…なぁ、真子。離れないで、ずっと側にいてくれよ」
「もし、奇跡がおこったら、私は真治から離れない」
「真子…遠くへ行こう。もう、誰もいないような所がいい」
「無人島?私が死んだら、真治は本当の1人になるつもりなの?」
僕は真子がいなくなってしまったとき
本当の1人になるんだ。
どう足掻いても、どう転げても、無駄なんだ
運命は、僕らを見放しはしない。
しっかりと、最後まで、運命は運命を変えない
イメージは、意思を変えない頑固な親父。
あれから
2ヶ月がたった。
あっという間、本当に、時間は流れているのか?
「真治」
真子はまだ居てくれる。
ちゃんと、僕の側に存在している。
でも、2ヶ月前より
確実に5キロは痩せた。
腕が、細くなっている
此処は病室。
206号室。
真子は、倒れた。
僕が2人で住める無人島のような家を探していた時のことだった。
病室からは学校が見える
そう遠くはない。電車で1駅。
僕は毎日、学校へ行かずに
真子の側にいる。
たまに担任が呼びに来るが、僕は頑固に動かない。
真子が、学校へ行くように急かすが
僕は1週間に1度ぐらいしか登校はしない。
今日は土曜日。
部活なんて、とっくにやめた。
「真治…」
真子が弱弱しく話し始めた
確実に弱っている。真子は力なく言った。
「私が死んじゃったらね…私の部屋にある、机の、引き出しを見て?手紙があるから」
僕は真子の死を否定しなくなった
死ぬことを信じているわけじゃない
あくまでも、僕は真子が生き続けることを信じている。
だが、僕も疲れてきたのだろう
真子の死を絶対に否定する自分と
真子の死が真実に近いのではないかと半信半疑な自分が
戦うことに。
「真治宛ての手紙、お母さん宛ての手紙、いろんな人に書いたから。届けて?そして読んで」
「…真子?」
「私、生きてるよね。ちゃんと、生きてるよね?話せて、聞けて、大丈夫だよね?」
「当たり前だよ。ちゃんと生きてる」
「よかったぁ…私、今も怖いの。毎日の消灯時間。朝食の時間。私はちゃんと居るのかな、って」
「居るよ」
「真治…家に帰って。疲れてるでしょ?毎日会いに来てくれて。ちゃんと学校へも行かなきゃ駄目よ?勉強、遅れちゃうよ」
「いいんだよ、僕なんて、どうでも」
「よくない、よくないんだよ。真治は、これから何十年も生き続けるんだから。今の時期って、結構大切なんだよ」
僕も本当は恐れている。
真子がいなくなってしまったと同時に
僕までいなくなるのではないかと。
真子がいなくなり、僕は存在していけるのかと。
時間は残酷だ。
僕らに時間を与えてくれよ
どんどん進まないで。1日24時間なんて決めないで。
もっと、永遠にくれたっていいじゃないか。
「真治…大好きよ」
「俺も、大好きだ、真子…ずっと一緒に居るって、約束してくれ」
「ずーっと一緒。指切りしよっか?」
「約束を破ったら、どうする?」
よく、僕が、約束を破ったらどうする?ときいていた
真子は、笑って、死ぬ、と言っていた
その代わり真治が約束破ったら殺すよ、と、笑っていた
今のきみは
もうそんな冗談言ってくれないのか?
冗談にならないから、言わないのか?
死ぬなんて、殺すなんて、冗談だと、笑い飛ばしてやりたい。
「死ぬ」
「え…」
「その代わり、真治が約束破ったら殺すよ」
「…あ、」
僕は声が出なかった。出せなかった。
出す言葉を見つけられなかったんだ。
まさか真子が、前のように、笑ってくれるとは思ってもみなかった。
「縁起でもない…」
「本気ですよ?あー、真治は約束破るつもりなんだぁ!他の女と遊んじゃうつもりなんだぁ」
真子の、せめてもの、僕への気づかいだったのだろうか
前と変わらないのよ。私は約束破らないよ。死なないよ。
真子が言ってくれているようで、僕は涙を堪え切れなかった。
頬をつたう一筋の涙は、生きている証拠なんだな。
「真治…?」
真子はわざと明るく居てくれてるんだ
それなのに、僕は…情け無い。
「真子も…約束破ったら殺すからな」
「破る訳ないよぉ。真治以外の男はみんな虫だよ」
「虫って…ぷっ…ははっ、はははっ…」
馬鹿じゃん、俺ら。
バカップルって奴だよな、いわゆる。
あー、おかしい
可笑しくて、涙出るよ。
「なにぃ?急に笑出してぇ、不気味ー!真治不気味だよぉ!」
僕らは思い切り笑った
もう、なにもかも忘れてしまいたいと願う気持ちが
笑いを思い出させたんだ。
「ははっ…あー……俺ら馬鹿だ」
看護士に「コラー、静かにぃ!個室だからって、廊下にまで声きこえてるわよぉ」と怒られた。
でも何故かそれが、初々しく、楽しくて嬉しくて仕方なかった。
こんな時間が、永遠に続けばいいと、願った
永遠に続くと、信じていた。
「私、今、すっごく楽しー」
「うん、俺も」
「今思い返すとね、私、真治と居るときが一番楽しかった」
「俺も」
「ありがとうね、本当に。」
「何言ってんだよ、しみじみと…」
「私、真治に告白されたとき、すっごく嬉しかったの」
「俺だって、OKされたときはもう、嬉しくて」
「一緒に死のうなんて言ったとき、真治が一緒に死ぬって言ってくれたこと、うれしかったよ」
「ちょっと吃驚したけどな」
「俺の生きる理由は真子だって言ってくれてありがと。本気で嬉しかった」
「本当のことだから。今も思ってる」
「私の生きる理由も真治だよ。真治がいなくなっちゃうと私も消えそうだもん」
「…でも……俺は、残されるんだろ?」
「真治?今その話はなーし。考えないで?私達の時間をゆっくり生きようよ」
本当に辛いのは真子なのに
僕は自分が言ったことに気付いて、はっとした
僕がもっとしっかりないと駄目なのに
本当に、僕は、臆病で弱虫。
否、本当に強い奴も
僕と同じ状況になると、臆病で弱くなるのかもしれない。
大好きな人を失うという恐怖は
ごく一般的な恐怖なんかと、格が違う。
なぁ真子。一緒に死んだら、駄目なのか?
言いそうになった言葉を思い切り飲み込んだ。
駄目なんだ。僕が今弱気なことを言えば
真子にまた不安を与えてしまい
また頑張って、辛いのを我慢して、笑顔をみせる。
無理なんてしないで。せめて、僕の前だけでも、無理はしないでほしい。
「真治、みて。虹が出てる」
「虹…」
虹なんてみたのは、何年ぶりだろうか。
僕が気付かなかっただけで、虹は出ていたんだろうな。
綺麗な物に気付かないのは
本当に損なことだ。
「綺麗…私、虹をみるのはこれで最後になるのかなぁ…」
真子のふと出た弱音、本音に、真子が本当に辛いことがわかった
「…っ……」
「真子?」
真子がぽろぽろと涙を流している
「っ…あ、れ…おかしいな?虹、すっごく綺麗なのに。素敵なのに…」
「真子…無理しないで、泣きたいときは思い切り泣いてもいいんだ」
「…っごめ、んね…私、…っ…真治…」
「大丈夫、俺は此処に居る」
不安になんてさせたくない
怖い思いなんてさせたくない
俺が此処に居る。俺はいつでも真子の側に居る。
「私……嫌だよぉ!…っ…死に、死にたくなんてない…ぅ」
真子がしゃっくり混じりに本音を話す
僕も同じなんだ。死んでほしくなんてない。
死なせるもんか!死なせるもんか!死なせてたまるか!
「真子っ」
俺は強く彼女を抱きしめた。
か細くて、ぎゅっと力を強めたら、壊れてしまいそうだ。
強気な真子はどこへいった
俺をからかう真子はどこへいったんだ
「……真治…」
真子が、聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、ありがとう、とつぶやいた。
「真子…ずっと俺、着いてるからな」
「真治、…私、眠くなっちゃった。寝るね?」
「うん…おやすみ。また明日、来るからな」
「うん。」
僕がドアを開けようとしたとき、真子に引き止められた
「真治」
「ん?」
「本当にありがとうね。真治、大好きよ」
「ああ。俺も大好きだよ、真子」
「真治…本当に感謝してる。愛してる。これからも変わらず大好きよ」
「俺も、ずっと変わらず愛してるから」
「じゃあね。真治…」
「うん。また、明日な」
「真治ぃ…」
「真子?どうしたんだよ」
「ううん。何でもないよ…じゃあね。」
「…じゃあ」
僕はいつもと何一つ変わらず部屋を出た
次の日、真子の母親から連絡が入った。
「はい、もしもし?」
「貴方が…真治くん?」
「はい…そうですが。どちら様ですか?」
「真子の母親です」
「えっ…真子の、」
真子を放って、男と遊んでいたっていう…真子の母親?
「あのね。落ち着いて聞いてね。」
「はい……」
僕らの間に、少しの沈黙がながれた
「真子が、今朝、死にました…」
真子が。今朝。死にました。
真子が。今朝。死にました。
死にました。死にました?死んだ……死、…
「真子が…」
「落ち着いて?」
真子が、死んだ?
嘘だろ。何言ってんだよ、この母親。
自分の娘なのに、縁起でもない…
嘘だろ。嘘だよな。嘘だって。嘘に決まってる。
「真治くん?」
「…冗談、きついっすよ」
「…冗談じゃ、ないのよ」
「まっ…真子!」
「真治くん?!えっ…あ、し…」
━ツーツーツー
僕は家を飛び出た。
嘘だろ。嘘に決まってるじゃないか。
馬鹿言うな。昨日、あんなに元気だったじゃないか。
昨日、あんなに…
僕は病院まで走った。
電車で行ったほうが、確実に早いのに
電車を待つ時間がもどかしくて、仕方なかった。
一刻も早く、真子の死が嘘だとききたかった。
「…真子!」
病院に着くなり、叫び続けた。
何してるの?と驚く真子の顔をみたい。はやく。みたい。
「真治くん?」
「…真子は、どこだよ」
「真子はね、」
「死んだなんて言うなよ!」
「真治くん!落ち着いて!」
真子…どうして、いないんだよ。
僕は膝の力が抜け、がくっと床に膝をついた。
「どうして…真子には死ぬ理由なんてないだろ」
「真治くん…真子ね、苦しまずに死んだのよ。少し微笑んでた。手紙が置いてあったわ」
差し出された手紙をみる
ありがとう、真治。手紙にはそう書いてあった。
「真子、本当は生きているんじゃないですか?」
真子の母親は僕から目をそらした
真子は死ななくていいはずなんだよ。死ぬのはおかしいんだよ。
もっと、好きだといいたかった
もっと、愛しているといいたかった
もっと、抱きしめたかった
もっと、見つめていたかった
ずっと、永遠に、一緒に居たかった。
いつも今以上、これ以上を求めていた
でも、もうこれ以上なんていらない
僕の幸せをなくしてくれていい。
だから、お願いだから、真子だけは取らないでくれ。
神様に一生のお願いをする
真子を、返してください。
あれから何時間ここにこうしているだろう。
僕は真子のいた病室をはなれようとしなかった。
1時間、否、もっと居た
離れたくない。真子の居た場所。そして、真子の最後の場所。
そういえば昨日
真子はありがとうを繰り返していた。
離れるのを拒んでいた。
真子はきっと、自分の死がそう遠くはないことを
悟っていたのだろう。
僕は何も気付いてやれなかった。
何もしてやれなかった。
…何も、出来ない。
否、できる。
真子は僕に頼んだ。
机の引き出しの手紙を…届けて、そして読んで欲しいと。
そうだ。手紙…
「あの…」
「あ…真治くん。どうかした?」
「家の鍵を貸して下さい。真子の頼みを受けます」
真子のお母さんは、僕に鍵をわたした
「すぐに、戻ってきますので。此処に居て下さい」
「ええ」
僕は走った。
真子、手紙は、ちゃんと届けるからな。
そして、ちゃんと読むからな。
真子の家まで全力疾走した
僕は、何も考えず、無心で、真子の家へと向かった。
真子の家のとびらをあけ、真子の部屋へ行く。
机の上には、引き出しがあった
その中には封筒が3枚あった
1枚は僕宛に。1枚は母親宛に。1枚は学校の友人に。
僕は自分宛の手紙を読んだ
真治へ
今まで、本当にありがとう。
この手紙を真治が読んでくれてるってことは
私はもう空の遠くの方にいっちゃったってことなんだよね。
真治といた時間、本当に楽しかった。
私にとって、真治との時間は宝物です。
死んでも、忘れないよ。
真治、私がいなくても、学校ちゃんと行きなさいよ
勉強おくれるなよ
私のこと、忘れるなよ
本当は、すっごく寂しいです
真治と別れて、遠くに行ってしまうなんて、ものすごく悲しい。
でもね
私、ずっと真治を見守ってるよ。
ずっと真治の側にいるよ。
約束は、守るからね。
でも、もし真治に好きな人が出来たなら
私は応援するから。
私は永遠に真治の味方です。
真治、大好きだよ
真治、愛してるよ
ずっと、永遠に。
真子より
真子…
俺も、愛してる。
ずっと、永遠に。
僕は泣いた
もうこれ以上ないほどに。
真子と居た時間
最高の宝物だった。
真子、ありがとう
僕は真実により近いものを真子からもらった。
僕は生きます、真子のぶんまで、懸命に。
真子のお葬式の朝
空に輝く虹をみた
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