創作人間(小説)




そんな看板に引き寄せられ、足を踏み入れた

怪しい店。一体何の店なんだよ。


「いらっしゃいませ」

「…看板みたんですけど」

「お客さん、運がいいですね。今丁度新しい品物が入ったところなんですよ」

「人間ありますって、どういう意味ですか?」

「…退屈している人の為に作られた、新しい人間ですよ。きっと貴方を楽しませてくれることでしょう」

作られた人間?

「お話だけじゃ理解出来ませんよね。サンプルありますが、どうですか?」

「サンプル…」

「もちろん無料です。気に入らなければ捨てていただいて結構ですので」

「はぁ…」

こうして俺は人間をサンプルとしてもらうことになってしまった。

初めは何のことだかさっぱり分からなかった

もちろん今も、全然わからないが。

「よろしくね。お名前何ていうの?」

「…栄司」

「栄司くん?いい名前だねぇ!私はなんて名前?」

「え…そんなの知るかよ」

「あ…待って、これ渡すの忘れてた」

俺は1枚の紙を渡された


説明書
このたびはサンプルをご利用いただき誠に有り難う御座います。
今お使いのサンプル人間は、まだ名前をインプットされていません。
貴方がお好きな名前を教えてあげて下さい。
お気に召さなかった場合は、捨てていただいて構いません
「帰れ」の一言で、人間は店に戻ってきます。
この人間たちはお客様の楽しみの為に作られています
人間たちを不快に感じたときは、未完成とみなし、直ちに処分いたします。


「なんだよ、これ」

「私たちの取り扱い説明書」

「お前ら何で売られてんの?」

「なんで、って…?」

「嫌じゃねぇの?直ちに処分、って、まるでモノじゃねぇかよ」

「うん」

「うん、ってなんだよ…」

「処分されてもまた新たに生まれ変わるから、平気なの」

「処分、って、まさか殺すって意味じゃねぇよな?」

「人間で言えばそうなるね。私達で言えばスクラップかな」

スクラップ…

なんだよ、それ。

なんで人間をスクラップするんだよ

なんなんだよ。この店も、この商品も、訳わかんねぇよ

「体の一部ぐらいは新しい人間に使ってくれるもん」

「お前らってさ、一体なんなんだよ?なんでモノみたいに扱われてまで、こんな店で働いてんだよ。やっぱ金か?給料がいいのかよ」

「何か勘違いしてない?私たち、モノなんだよ?生身の人間じゃないよ?」

「お前は人間だよ!頭大丈夫かよ」

「そんなに怒んないで?」

「意味わかんねぇんだよ!」

「私たち、ロボットなの。これは業務秘密だったのになぁ…このこと、秘密だよ?」

「…ロボット?そんな訳ねぇだろ。こんな人間みたいなロボット、居る訳ねぇだろ」

「信じてくれないから業務秘密なのにぃ…」

「だっておかしいだろ!ニュースとかでやってっけど、そんな完璧なロボット、見たことねーよ!機械ってのが分かるだろ、普通」

「博士はすごいの。私達みたいなロボットつくっても、世間に言わないだけ。そこらの奴らとは訳が違うの。見せびらかせたりしないのよ」

「博士って、店にいた、あいつ?」

「そう」

「…お前、ホントにロボットなのかよ」

「うん」

「……志穂」

「え?」

「お前の名前だよ」

「志穂…」

「そう。志穂」

「志穂ね!可愛い名前」

「気に入った?」

「すっごく」

まだ理解してねぇけど

全然納得してねぇけど

志穂といるのも、悪くないな、って。

人間型完璧ロボットなんて、おもしろいじゃねーか。

「なぁ志穂、お前らっていくらぐらいなんだ?」

「値段は博士が決めるのよー。博士が気に入った人にならサンプルとしてただで譲るし、気に入らなかったら高い値段で売りつけるの」

「高い値段って、いくらぐらいなんだよ」

「うーん…志穂のお友達は150万で売られたけどぉ」

「150万?!まじかよ。じゃあ俺は気に入られたのかよ」

「そういうことになるね」

「買っていく奴は金持ちってことか…」

「大半はお金持ち。メイドとして使われてる子もいるんだって。」

「メイドなんて雇えばいいじゃねぇかよ」

「一生一緒にいてくれる子がいいんだって。買っていく人は私たちがロボットってこと知らないからね」

「ばれないのかよ。ロボットってこと」

「私たちは完璧だから、バレないの」

絶対ヤバイ店だと思われてるよな…あの店。

「もの食えんの?」

「飲食わ自由です。食べて欲しかったら食べるし、食費かかって困るんなら食べないよ」

「腹へらないって訳か」

「美味しいとか不味いとかは分かるけど、おなか空いたとかは思わないの」

すげぇよな

すげぇもん作るよな、博士も

そんなすげぇ奴がこの世に存在したんだな

「いいこと教えてあげよっか?」

「いいこと?」

「博士の秘密」

「面白そうじゃん」

「博士ね、改造人間なの。この前自分のおなかを開けて、何か取り替えてた。きっと永遠に生きられるように改造したんだと思うの」

「永遠に?!そんなことが出来んのかよ」

「だって私達も永遠なのよ?寿命はないけど、ご主人様が死ぬときに自らバッテリーを取り出すの。そしたら死ぬわ」

「何年たってもずっと変わらず綺麗なまま…か」

「そう」

「じゃあいつかはバレるよな、ロボットってこと」

「バレても全然いいんだもん。ただ、言わないだけ」

不思議だよな

博士も、こいつらも。

永遠に生きることが、決して幸せなわけじゃないのに。

「お前ら、処分されるって書いてあったけど、あれってマジ?」

「うん、マジマジ。大マジ。」

「スクラップされることってまれにあるのか?」

「不良品は作り直される。また新たな自分に生まれ変わるだけだよ」

「痛いとか苦しいとか感じる?」

「体は全然平気なの…ただ」

「ただ?」

「涙が出るんだって。このままで居たいって思うんだって。すごく、怖くなって悲しくなるんだって」

「でも志穂は大丈夫。俺が処分なんてさせないから」

「…ありがとう、栄司」

完璧に出来すぎて、感情までもってしまったロボットは

絶対に幸せなんかじゃない。

痛くないのに、意識はあるのに、悲しくて、怖い

そんな思い、させていいのかよ。

「憧れてたんだぁ、人間に」

「え?」

「いつか本当の人間になりたいなぁ、って、思ってたの。今でも思ってる」

「志穂は人間だよ」

志穂の手にそっと触れてみた

少し冷たかった

志穂は「冷え性なの」と笑った



俺は志穂と生活してゆく中で

なにか新しい気持ちが芽生えて始めているかもしれない。

志穂に対しての、特別な気持ち。


俺は恋をしていた

志穂にではなく、薄汚れた人間に。

「あのさ、俺…ミキのこと好きなんだ。付き合って欲しい」

「嬉しい。私、栄司のこと大好きだよぉ。でもねぇ、もう孝と付き合っちゃったの。昨日。もうちょっと早かったら栄司でもよかったのになぁ」

栄司でも、ってなんだよ

俺でも孝でもどっちでもいいってことかよ。

今までの俺は馬鹿だったな

こんな女、ちっとも良くないじゃないか。

「目、おかしかったわ、俺」

「えっ?」

「…本物の人間もなぁ、いいものじゃねーぞ」

「えっ?なんて?」

「なんでもねぇ。じゃあな」

「私に振られたからって自殺しちゃ駄目だよーぉ!」

俺は叫んだ「今日のことは取り消せ!」


「…ただいま」

「おかえりー、栄司!」

「俺さぁ…馬鹿だった」

「…なにか、あったの?」

「人間なんていいもんじゃねぇよ」

「…どうしたの?」

無性にイライラする

あんな女に勇気出して告白なんかして

俺、ホント馬鹿だよな

「なぁ志穂、付き合えるなら俺でも孝でもどっちでもいいか?」

「孝?」

「いや…ごめん。なんでもない」

何志穂にあたってんだよ

「最低だな、俺」

「…栄司……」

「志穂はさぁ、俺のことどう思う?」

「どうって?」

「好きか嫌いか」

「好きだよ?」

ロボットでも感情あるっつーのに

付き合うのは誰でもいいなんて人間が

この世にいていいのかよ。

「ねぇ栄司…」

「なんだよ」

「なにか悲しいことがあったの?」

「悲しい?馬鹿馬鹿しい。なんで俺があんな女の為に悲しまなきゃいけねぇんだよ」

「…あのね、私のお友達に、恋をしてる子がいたの。その子の恋は実らなかったんだけど、その後すっごくいい人と巡り合えたの」

「だから?」

「だからねっ、今の恋が実らなかったおかげですごくいい人と出会える可能性が出来たのよ、栄司も」

なんでわかるんだよ…

見透かされてるのかよ

人間の心を見透かすぐらい優れてんのかよ、こいつ

「どうしてわかったんだよ、失恋したって」

「…わからないけど、悲しいことがあったのは分かるよ?」

「俺の気持ちまで分かるっつーのかよ」

「…全部は分からないけど……一緒に居るんだから、少しは分かってるつもり…だよ?」

「…ただの機械に生身の人間の気持ちなんてわかるかよ!しょせんは機械仕掛け。ロボットなんだからよ!」

俺は、言ってしまった言葉に気付き、慌てた

なんて酷いことを言ったんだ

心配してくれてるのに

「…志穂……っ」

「…ごめ、んなさい……栄司の気持ち、分かったふりして。私は…人間じゃ、ないのに」

「志穂…ごめ、」

「っ…私、不良品だよね」

「志穂?!」

志穂が勢い良く家を飛び出した

「志穂!待て!」

お願いだ、志穂

戻ってくれ

悪かった。つい口が滑っていってしまっただけなんだ

許して欲しい

俺は志穂がいなくなったら、もう、駄目なんだ

俺は志穂が好きなんだ

これはもう、恋なんだ

今気付いたって、遅すぎるのか?

「…志穂!」

いつしか俺は志穂を見失っていた

悲しみか?悔しさか?

否、自分の哀れさにあきれている。

俺は本当に馬鹿だ

志穂がいないと、俺はもう、駄目なんだ…

「…志穂……」

俺は志穂を探し続けた

まとわり着く孤独と絶望

志穂は、処分されてしまうのだろうか

博士の所へ行くまでに探さないと…

「おや、君は」

「…あ!」

俺の目の前に博士が現れた

偶然か。必然か。

「あの、…志穂、みませんでしたか?」

「志穂?あぁ、サンプルのことですか。名前をつけている、ということは可愛がっていると思っていいですか?」

「大切なんです!志穂は。俺にとって志穂は、機械なんかじゃない!」

「…もう知っているんですね」

「志穂は…」

「志穂は、不良品でしたか…」

「そんなことない!」

「でも、貴方を傷つけた」

「傷つけたのは俺の方なんだ!」

「落ち着いてください。スクラップの機械は私の研究所にあります。でも、自力でそこまで行くことは、志穂たちには不可能です」

「じゃあ志穂は、無事なんですね」

「でも、恐らく自らを処分しようとしているのではないかと」

「……知ってるんですか?志穂の居場所を!」

「知りませんよ、私は」

志穂…何処行ったんだよ

お願いだから、処分なんてやめてくれ

「…工場」

「工場?」

「工場なら近くにありますし、工場なら自分を処分できるでしょうね」

「いるんですか?!」

「あくまでも予想です」

「志穂を見つけても、絶対に処分しないでください!」

博士は、俺たちのことをわかっていたのか…

じゃあ何だ。俺たちはずっと見られていたってことか?

否、でも志穂にカメラなんてついていなかったはずだ…

でも、…

頭の中でいろんな思いがごちゃごちゃになる

俺の家から一番近い工場でも車で15分

走れば…どれくらいかかるんだろうか

「志穂!」

周りを見ながら走る

時折こけそうになるが、そんなことは気にならない


「志穂!どこだ!」

工場の中を隅から隅まで探す

「志穂!」

だが志穂は見つからない

もしかして。という不安と、そんなことを考える自分へのイラダチが交差する

駄目だ。焦れば焦るほど周りがよく見えない

冷静になれ、きっと見つかる

「志穂!居るんなら出て来てくれ!」

一向に志穂の姿は見えない

焦りが頂点に達したときだった

「志穂?!」

志穂の着ていた服の布が落ちていた

千切れたのか?

志穂は、自らを処分したのか?

「志穂ー!」

膝が砕け、俺は地面に手をついた

志穂はもう、戻ってこないのか?

不安とイラダチと後悔と悲しみと

いろんな気持ちが交じり合った水が目から流れ落ちる

志穂。俺は志穂が、今でも大好きなんだ…

そのとき

何処かから物音がした

俺は志穂が居ると思い、急いで駆けつけた。

「…志穂?」

「あ…栄司。ご、ごめんなさ…」

「志穂!」

志穂が自分の片腕を抑えて泣き崩れていた

確かに泣いていた。涙は出ていなかったが。

「志穂…よかった……本当によかった」

俺は志穂を抱きしめた

「…栄司?」

「スクラップ、されてたらどうしよう、って…」

「栄司…私を心配してくれてたの?」

「…俺が悪かったんだ。志穂を傷つけて。本当にごめん」

「栄司ぃ…」

志穂は泣いていた

「私ね、もう消えようと思ったの。役立たずで、栄司を傷つけて…最低だと思ったの。本当にごめんね、ごめんなさい、栄司」

「志穂は何も悪く無いよ……」

「…嬉しい」

「志穂…腕、押さえてたけど、どうかしたのか?」

「あ…」

腕を抑えていた志穂の手をどけ、腕をみた

腕が、ない…

「志穂、どうしたんだ?!」

「…そこに、……飛び込もうとしたの。」

志穂が指差した先には、スクラップの機械が

「でもね…怖くて、私、出来なかった。でも、腕が取れちゃって…」

「ど、どうすれば…」

「そんなの簡単ですよ」

俺でもなく、志穂でもない誰かが話した

それは博士だった

「治せばいい話ですよ。人間の風邪を直すよりたやすいことだ」

「お、お願いします!」

「かしこまりました」


2日後、志穂は無事俺のもとへ帰ってきた

「おかえり」

「栄司!ただいま、栄司!」

「志穂…よかったな。これからもよろしくな」

俺は志穂をみて思った

何年たっても綺麗なままの姿のきみと

一生暮らしてゆくことは無理だと決め付けていたが

そうではなかった。

一生、心は、人間も、ロボットも、変わらない

大切なのは、外見ではなく中身だと。

志穂はずっとこのままの姿で俺の隣で微笑んで

俺は日に日に歳老いてゆく。

だが、2人共今より深いなにかでつながってゆく

人間であろうと、機械であろうと

心を持つことには変わりない

俺はずっと志穂を好きでいるし

志穂もきっと俺を好きでいてくれる。

変わりないよ

心はいつまでも

2人だけのモノなんだから。


いつかロボットと人間が

自然にともに暮らしてゆける世界がくると思う

そんな世界が来ても

忘れないで居て欲しいことがある。

それは

僕等は同じだってこと。

機械であること

生身の体であること

そんなことは関係ない

境界線でもなんでもない

一緒に居て幸せであればそれでいい

一緒に居て楽しければそれでいい


きみは変わらない姿で

ぼくは成長して

でも気持ちはいつまでも同じで

素敵なことだと思う


いつまでも一緒だよ

俺が人生を終えるまで

きみは隣に居てくれる

ぼくも隣に居てあげる


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