空白の時間(小説)



「嘘ぉ,だって昨日言ったじゃん」

「ほんとに?」

「別にいいけどさぁ,理穂,最近変だよね」




私には,私が知らない,私の時間がある


それはまるで私の中のもう一人の私が


勝手に私を操作しているように








でも,あの頃の私は


私の中のもう一人の私と


上手く接することが出来ていなかった。






「理穂,明日どうする?」

「駅前に新しく出来たカフェに行こうよ,私一度行ってみたかったの」

「いいね!じゃあ決まり,明日は10時にそこで待ち合わせね」

「うん」

周りからは天然と可愛がられ

女子の前でも男子の前でも変わらないその性格から

私の周りにはいつでも誰かが居てくれる

だから全然寂しくない

昔のように,孤独な時間なんていらない。


「理穂ぉ,ノート見せて欲しいんだけど」

「理穂ちゃん,放課後一緒に遊び行こーよ」

「理穂,バレーしよ!」


私が人気者になるために

どれ程努力してきたかなんて,誰も知らない。

私の過去を知る人なんて誰もいない

私は一番賢い生き方を学び,そして得た。

もう寂しい思いなんてしなくてもいい

もう孤独なんて味合わなくてもいい

心配や不安や絶望なんて,私の人生には無くていい。


「どうして昼休み来てくんなかったの!バレーするって,約束したじゃん」

「バレー?」

「忘れてたの?」

「ううん,私ちゃんと行ったの。でも皆居なくて…入れ違いになっちゃったのかなぁ」

「嘘ぉ,私らずっと居たけど?」

「うーん,でも運動場の隅から隅まで探したんだけどぉ,会えなかったぁ」

「運動場?!体育館だよ,体育館!誰が運動場でバレーすんのよ」

「あぁ!体育館?そっちだったのぉ。ごめんねぇ,私,てっきり運動場かと思い込んじゃってたぁ」

「もぉ…理穂は天然だなぁ。普通体育館でしょお。」

「ごめんねぇ,次は必ずしようね!」

「じゃあ次は一緒に体育館まで行こ!連れてかないと,迷子になるよこの子ぉ」

上手くすり抜けられる

こいつらの感情や気持ちなんて,私には見えている。

経験の差だろうか

過去の失敗から得たものの差だろうか










「ねぇ,あんたまたうちらの悪口言ってたんだって?」

「わ,私は…そんなこと」

「嘘ついてんじゃねぇよ。うぜぇんだよ,お前」

「死ねよ」

「…っ……ご,ごめんなさい…もう言わない,もう言いませんから」

「なんだよ」

「と,…友達で居て下さい。せめて一緒に居て下さい。周りから見る限り友達に見えるだけでいいんです」

「なんだよ,気持ち悪い」

「お願い,お願いします!何だってする,利用してもらって構わない!だから,せめて一緒に」

「きもいよぉ,行こうよ」

「待って,待ってください,お願いします,何でもします」

「ホントに何でもするんだぁ」

「…は,はい」

「じゃあ奴隷として側に置いてやるよ」

「あ…ありがとう」

「ありがとうございます,でしょぉ」

「ありがとうございます」










私の過去なんて

消えてなくなればいい。


「理穂,理穂ぉ?」

「はへっ」

「えー,今のなにぃ?はへ,って何よぉ」

「ごめん,ぼぉっとしてたよ」

「ねぇねぇ,今からさぁ……」

そこから先の記憶は,まったく無かった


「意味わかんないんだけど!」

「…っ………え?」

「え,じゃねぇよ!」

「な…何?」

いきなり頭が痛くなって,…それからどうしたんだろう,私

「それが本性?猫かぶってたんだ,うぜぇ」

「…待って,なんのこと言ってるのか…分からないの」

「はぁ?記憶喪失?お前の方がわかんない」

「待って,ねぇ!」

…何があったの?

私は確かに此処にいて,話しかけられて…それから

それから,…それからの記憶が全くない

「ねっ,ねぇ!」

もう遠くの方に居た真知子が振り返った

「私,何か言っちゃったの!?ほんとぉにごめんなさい,私おかしいの,ぼぉっとしちゃってたみたいなの!独り言だったんだと思うの!」

「独り言?」

「そうみたいなの,私…変なこと言っちゃったんだよね?!ホントにごめんね,私,本当に,なんて言えばいいの…」

「本当に何も覚えてない訳?」

「…ごめんなさい」

風邪がスゥっと通った

真知子の頬が緩んだ

…上手くいった?

「まるで人が変わったみたい,さっきの理穂といつもの理穂」

私は申し訳なさそうな顔でうつむく

「気持ち悪いよ」

真知子はそのまま歩いていった

私の中で,何かが崩れ落ちた気がした

「……どうして…」

このことを境に

私は

人気者から一気に

いじめられっ子へと変貌した

「よく此処まで落ちたよねー」

「マジ笑えるんですけどぉ」

今まで仲良くしてたのに

過去は

無意味なんだよね

ぷつりと私の中で何かが切れるような気がした

目を閉じて

リラックスしている…

誰かが

ものすごく

優しくしてくれてる

「きゃあ!」

悲鳴で目が覚めた

今まで私

何をしてたの…

「何すんの…」

「あんたマジで,おかしいんじゃねーの!」

「…え」

目の前に倒れている元友達

頬から血が流れていた

「ど……どうして」

「…気持ち悪い」


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