目隠し(小説)







手で目を覆われ,私は意識を失った









「智美?」

「……ここ」

「智美?気が付いた?」

「…綾……どうして」

「智美が病院に運ばれたって聞いたから」

気付いたときには病院のベッドの上だった

私は,視界を覆われたあと

どうなったのだろうか

「智美,なにも覚えてないの?」

「なにも」

「地下鉄のホームで倒れたんだって」

「地下鉄?」

「うん」

確かに,私は電車に乗っていた

そして駅のホームを歩いていた

そこまでは記憶がしっかりとある

その後,私の目の前は真っ暗になった

あれは,なんだったのだろう。

「元宮!」

ドアが大きく開いた

そこには同じクラスの松下くんが居た

「…松下くん……」

私と松下くんはこれといって深い関わりはなかった

見舞いに来るほどの仲でもなかった

「松下?どうしたの,そんな急いで。て言うか…どうして?」

「ちょっと,席を外して欲しいんだけど」

「…うん,わかったけど……じゃあね智美。また来るね」

「あ…うん。ごめんね」

綾がドアを閉めた途端,松下くんが私に近づいてきた

「…なに……」

「お前,どうして倒れたんだよ」

「どうしてって言われても…知らないよ,そんなの」

「目隠し,されなかったか?」

「目隠し?」

頭の中で,あのとき顔にあたったた冷たすぎる手を思い出した

「あ…」

「されたろ?」

「…あれ,目隠しだったんだ」

「やっぱりな…」

「でも,どうして」

松下くんはうつむき,静かに話し始めた

「信じてもらえないかもしれないけど」

緊張した真面目な雰囲気に

私もベッドの上に座りなおした

「俺の姉ちゃんも,同じ目にあってる。つまり,目隠しされたんだ。」

「誰に…」

「それが,わかんねぇんだよ。監視カメラにも映ってないし,目撃証言もない。何故目隠しされただけで気を失うのかもわかってない。薬を吸ったような後もないらしい。それに,目隠しされた人は皆…」

「みんな?」

私はごくりと息を飲んだ

「死んでるんだ。決まって1週間後に」

「死…1週間後……うそ…」

目隠しされたときの手の冷たさが

頭をよぎった

死…ぬの?

私,1週間後に死んじゃうの?

「私っ……死ぬのなんて,いや…」

「元宮,大丈夫だ。落ち着け」

「…お姉さんは」

「3日前に…」

「嘘でしょ…私も,死ぬの?」

「目隠しの謎を解くんだ。何とかなるかもしれない」

「でも…1週間しかないんだよ?無理だよ…私,死んじゃうんだ」

「死なないよ!お前は,死なせない」

「…松下くん……私,死にたくない」

「大丈夫だよ…」

松下くんは私を強く抱きしめてくれた

私は恐怖と安心が入り混じった

不思議な気持ちを抑えて

絶対に死なない,と決意した。

「よし!」

「松下くん?」

「雅人でいいよ」

「…雅人」

「智美,これから目隠しの手の正体を探りに行くぞ」

「手?」

「おそらく,手は人間じゃないと思う」

「じゃあ…」

「せいぜい霊ってとこだろう」

相手が霊なら

供養してあげれば,もう悪さはしないんじゃないだろうか

でも,誰かを探してやっていることなら

その,誰かに会わせてあげなくちゃ駄目

でも,その手が誰なのかを突き止めないことには

何も始まらない

「姉ちゃんが最後に言ってたんだけど,狙われるのは女だけなんだって」

「何故だろう…」

「これ,見て」

雅人は鞄の中から新聞を取り出し

私にみせた

「原因不明の死。犯人はこの世の者ではないのでは…」

「目隠しの事件を取り上げた記事があった。此処の新聞社に話を聞きに行ったんだけど,もうこの記事を書いた人は辞めたらしい」

「その人に会えば…」

「今は青森に住んでるんだ」

「電話は?」

「新聞社は番号まで知らなかった」

「じゃあ…どうすれば」

「行くしかない」

「青森よ?遠すぎる。そんなことをしている間に私…居なくなっちゃう」

「俺が一人で行ってくる。今日の夜に飛行機で発つつもりだ」

「一人で?!そんな…私のためにそこまで,して貰えないよ…悪いよ」

「そんなこと言ってる場合じゃないんだ。姉ちゃんも殺されてる,俺も事件を解決したい。だから」

「…わかった。じゃあ私は雅人が調べてくれる情報を元にこっちで動いてみる」

「もう行かないと間に合わない。また連絡する。これ,俺の携帯番号」

「…うん」

私は雅人を見送ったあと,すぐに着換えて新聞社へ電話をかけた

じっとしては居られない。

私は新聞社に雅人のことを話し,他に記事はないのかとたずねた

「生憎そのことに関しての記事はもう無いようです」

「そうですか…」

「あ…でも,関わりがあるかどうかは分かりませんが,似たような記事があったはずです」

「取りに伺ってもいいですか!」

「はい。大丈夫ですよ」

私はすぐに新聞社へと向かった

病院を出る途中,看護士に止められたが

私はとまらなかった。

新聞社まではバスで15分

新聞社のビルの前で電話で話していた女性であろう人の姿がみえた

「元宮さんですか?」

「はい」

「こちらが例の新聞です」

女性は私にファイルを手渡した

ファイルには新聞が3枚ほど挟まっていた

「原因不明のこの事件のこと,なにか知ってますか?」

「私共は何も知りません」

「そうですか…あの,この記事を書いた人のことを知っていますか?」

「知ってますよ」

「教えて下さい,この人がどうしてこの事件のことを記事にしたのか」

「…立ち話じゃなんですから,近くの喫茶店にでも行きましょう」

私達は近くの喫茶店で話を始めた

「その記事を書いた佐藤さんはね,不思議な事件を専門に取り扱っていたの。でも,この記事を書いたときは…様子がおかしかった」

「様子?」

「早くこの記事を新聞に載せて,情報を集めないと,愛美は死んでしまうんだ,って」

「愛美?」

「愛美というのは佐藤さんの娘」

「娘さん…病気だったんですか?」

「いいえ。すっごく元気で,死んでしまうなんて考えられなかった。佐藤さんはしきりに呟いていた,1週間しかないんだ,って」

「1週間…」

私と同じだ

佐藤さんの娘も,きっと目隠しをされたに違いない

「独り言が多くなってね。兎に角この記事をかくことに集中してた」

「佐藤さん,どうして青森に?」

「東京に居る悪霊が娘を殺したんだ,だから遠いところへ行く。って」

「それで青森に…」

「そう。娘さんの死が,よっぽどショックだったのよ」

「有り難う御座いました。たくさんお聞かせ下さって」

私が席を立とうとすると,手をつかまれ止められた

「ねぇ。一つだけ教えて欲しいの」

「はい…」

私は立ったままでは失礼だと思い

席に座りなおした

「貴方たちはどうしてこの事件を調べているの?」

「…私達は,この謎をどうしても解かなければならないんです」

「どうして?」

「死ぬのが嫌だから」

女性が驚いたようで,なにも言えずに固まっていた

「今日は本当に有り難う御座いました。では…失礼します」

女性は何も言わずに私のほうをただ見ているだけだった

病院に戻り,病室のベッドの上でただひたすらに新聞を読んだ

「元宮さん!」

看護士が血相を変えて部屋に入ってきた

私が勝手に出て行ったことを知って怒っているのだろう

「どうして勝手なことするの!駄目じゃない」

看護士に遅れて,母も入ってきた

「智美,あなた何処行ってたの?心配するじゃない。迷惑掛けて…謝りなさい」

「…私,多分何ともないと思う。検査の結果,まだですか?」

「智美,あなた,それが心配掛けといて言う言葉なの!」

「私,こんな所でじっとしてた方が死んじゃう!」

「何言ってるの!」

私の言葉に母は驚いていた

看護士は私達の会話を見かねたのか

「兎に角,無事に帰ってきたことですし。これからは気を付けて下さいね」

「本当にすみませんでした」

母が頭を下げる

私は再び新聞に目を向けた

「智美…貴方,本当に何処へ行ってたの?」

「別に」

「何か用があるなら,お母さんが行ってくるから。もう勝手なことしないで頂戴ね」

「わかったから,悪いけど,もう出て行って」

母は何も言わずに部屋を出て行った

私は気にもとめず新聞から目を離さない

「被害者の家族の話…」

そうだ。

被害者の家族の話を聞こう

なにか分かるかもしれない。

私は新聞社に電話をし,被害者の家族の電話番号を訪ねた

電話に出たのは先ほどの女性で,女性はあっさりと教えてくれた

「個人情報だから,本当はいけないんだけど。貴方に協力したいから教えるわ」

「有り難う御座います」

私は被害者の家族に電話をかけることにした

4件のうち,電話に出たのはたったの1件だった

 ━「はい」

「もしもし。元宮と申します。娘さんの件で,お聞きしたい事があるのですが」

 ━「もうそのことに関しては何も言うことはありませんので」

「少しだけでもお話を伺えないでしょうか」

 ━「貴方は何なんですか」

「この事件を解こうとしている者です。娘さん,亡くなる前に何か言ってませんでしたか?些細なことでも結構ですので」

 ━「…目隠し…とか何とか呟いてましたけど…私には何のことだか」

「あの,他には?」

 ━「…私じゃない,私は違う,とか……何かにとりつかれたように呟いてました」

「そうですか…有り難う御座います」

 ━「貴方,この事件を解くだとか言ってましたけど,…貴方は警察じゃないですよね。新聞記者…にしては若すぎませんか?」

「私は個人でこのことについて調べているんです」

新たな被害者が出ようとしていることは

言わなかった

 ━「そうですか」

「では,本当に有り難う御座いました。失礼します」

私は違う。私じゃない。

一体どういう意味なんだろうか

やはり目隠しをする人は,誰かを探しているの?

それも女性ばかり。女の人を探しているの?

お母さん,恋人,兄弟,誰を探しているの?

「目隠し…私は違う…何かにとりつかれたように…」

目隠しをされた人はとりつかれるのだろうか

もしそうなら,今の私にも何かがとりついている…

「もし居るのなら教えて。どうすれば助けてくれるの?」

たずねたが返事がかえってくるはずもなかった

私は雅人にこのことを伝えようと思い,電話をかけてみた

 ━「もしもし。智美?」

「あのね,今,被害者の家族に話を聞いてみたの」

 ━「あぁ」

「呟いてたんだって。目隠し,私は違う,私じゃない,って…なにかにとりつかれた様に」

 ━「…私は違う?どういう意味だ」

「私が思うに,目隠しをする人は,誰かを探してるんじゃないのかな」

 ━「探してる?」

「あくまでも予想」

 ━「そうか…こっちは今話を聞き終えた所だ。記事を書いたのは佐藤という男だった」

「うん」

 ━「佐藤はその手が誰なのかまで突き止めていた。でも,何故目隠しをするのか,何が目的なのかはまだ分かっていない。」

「その手は,誰なの?」

 ━「東第2中学,あるだろう」

「近くじゃない」

 ━「あぁ。そこの卒業生らしい。名前は西田悟。高校へは行っていない。中学卒業後の西田を知る人はいなかった」

「じゃあ…中学卒業後に亡くなったの?」

 ━「それはまだ分からない。とりあえず今日の夜の便で帰るから」

「分かった。私は今から東第2中学へ行ってくる」

 ━「ああ」

私は電話を切ると,直ぐに中学へ向かった

「智美!何処行くの!」

母が私の手を掴んで行く手を阻む

此処で逃げることは不可能だろうと考えた私は

「飲み物買いに行くの」

という嘘を発した

「それならお母さんが買いに行くから。貴方は部屋に戻りなさい」

「…じゃあレモン系の物をよろしくね」

「さぁ,部屋に戻って」

私は部屋に帰された

こんなところで諦めてたまるか

私は窓の外からの脱出を考えて見たが

此処は6階

到底無理な話だった

私はエレベーターではなく,階段で外へ出ることを試みた

案外簡単に外に出る事が出来た

「元宮さん?」

外に出たときに,看護士が私のほうを振り向いたが

まるで私は元宮じゃありません,と言わんばかりに足早に立ち去った

私が中学校へ付く頃には,もう生徒は少なくなっていた

当たり前であった

時刻は7時

部活が終わり帰宅する生徒も少なく,校舎には教師だけだろう

私は職員室に行こうと思ったが,その前に一人の教師に声をかけられた

「君は…此処の生徒じゃないね?」

「はい」

「どうしたのかな?」

「はい…あの,お聞きしたいことがありまして」

教師は少し首をかしげ,何でしょうと言った

「此処の卒業生で,西田悟という生徒が居たはずなんです」

「西田悟…が,何か?」

「知りたいんです,西田くんのことを」

「此処じゃなんです。図書館へどうぞ」

「はい」

私は教師についていった

「僕は森山です」

「私は元宮といいます」

「ここの卒業生?」

「違います」

私達は図書館の机に向かい合って座った

「…僕は西田の担任だったんだ」

「えっ」

私は驚いた

あまりに偶然だ

でもよかった,これで話が聞ける

「今日は,西田の何を聞きたいのかな?」

「西田くんは今,どうしてます?」

「…死んだよ,5年前に」

「西田くんは,お母さんか恋人,お姉さんを亡くしていませんか?」

「…恋人が,行方不明になったんだ。丁度西田くんが卒業する年に。彼女は同じクラスの坂本美咲という真面目で愛らしい女の子だった。とても仲がよかった。2人の仲は教師からも認められる程だった。2人はいつも一緒で,学年一のベストカップルと言われていたんだ。ただ…」

森山さんの顔が突然くらくなった

「ただ,坂本は精神状態が不安定だったんだ。西田はそれを必死に支えていた。卒業の3日前,彼女が突然居なくなったんだ」

「どうして…」

「2日間捜索隊が探したが,見つからなかった。そして3日後,卒業式当日,彼女は遺体となって発見された。見るも無残な姿だったそうだ。」

「殺されたんですか?」

「いや,自殺だったんだ。水死だ」

「それで…西田くんは?」

「それがよほどショックだったんだろう。卒業式にはもちろん来なかった。それから西田は行方不明となった。西田の親御さんから聞いたんだが,坂本を探しに行くというメモが残されていたそうだ。見つかるはずのない坂本を,西田は必死に探したんだろう。だが,西田は1ヵ月後に捜索隊に発見されたんだ。西田は死んでいた。水死だったそうだ」

「美咲さんを追いかけたのかな…水死ってことは」

「水の中にまだ坂本が居ると思ったんだろう。坂本が発見された同じ川で死んでいた」

そんな過去があって,今でも美咲さんを探しているんだ…

だから女の子ばかりを…

「あ…目隠し」

「ん?目隠し?」

「あの…当時,目隠しが流行ったりしていたんですか?」

「ああ…そういえば,やっていたね。生徒は皆。もちろん西田と坂本も,目隠しで後ろの人を当てるゲームをやっていた。流行ったんだ」

「そうだったんですか…」

だから目隠しで美咲さんを探しているんだ

「…美咲さんの写真か何か,ありませんか?」

「卒業アルバムにならのっているよ」

「貸して頂けないでしょうか?」

「いいですよ」

森山さんは快く卒業アルバムを見せてくれた

西田くんと美咲さんの写真も見せてくれた

「でも,今更どうして2人のことを?」

「…知り合いなんです」

「そうか…」

まさか,西田くんが美咲さんを探して人を殺している,だなんて言えなかった

「西田は本当に坂本を愛していた…今では2人,天国で出会えているのだろうか」

「…出会えているといいですね」

私は森山さんに頭を下げ,病院に戻った

「智美!貴方は,また何処へ行ってたの!」

「お母さん…私,欲しい物が出来て,お母さんの後を追ったのよ。でも居なくて,入れ違いになったんだわ。それで帰ろうと思って引き換えしたら丁度
友達に会っちゃって,貸してた本を返して貰ったの」

そう言い,私は先ほど借りた卒業アルバムの入った鞄を見せた

「もう…そうならそうと,部屋で待ってればお母さん,もう1度買いに行くのに」

「ごめんね」

私は微笑み部屋に戻った

部屋に入ると直ぐに明日の計画を立てた

まずは2人の死体が見つかった川へ行ってみよう

その前に卒業アルバムにのっている美咲さんの写真をコピーして行こう

その写真を川の前に花と共に供えよう

それで2人が報われる訳はないけど

やらないよりかは全然いい。

「検査結果,なんともないといいわね」

母が静かにベッドの横の丸椅子に座った

「なんともないに決まってるじゃない」

「そうね」

母は私が何かの病気とでも思っているのだろうか

私はただ目隠しをされただけなのに

「ねぇ,もう出て行ってもらえる?眠りたいの」

「ええ,おやすみなさい」

明日は忙しい

今日はもう疲れた

西田悟と坂本美咲のことをもう少し考えたかったが

明日に備えなければならないことを考え

今日はもう休むことにした



次の日

「元宮,おはよう」

「雅人!今日帰ってきたの?」

雅人は静かにうなずいた

「何かわかったか?」

「西田悟は5年前に行方不明になった彼女,坂本美咲を探して,川で死んでたの。坂本美咲も水死。自殺だったんだって。今日はその川へ行こうと思うんだけど」

「そんな過去が…」

「大変だったんだね。苦しいんだよ,今でも。西田悟は今でも,彼女を探してる…2人は会えてないんだね」

「それで人を殺すのは違うだろ」

「でも,ちょっと同情する。私じゃ美咲さんの代わりは出来ないけど,2人を出会わせてあげることは出来るんじゃないかな」

「そこまでする必要ないだろ。智美は自分の体を一番に考えないと」

雅人の表情が強張った

私は着換えるから,と雅人に部屋の外で待ってもらえるように言った

「私は美咲さんじゃない。でもね,貴方と美咲さんに天国で幸せになって欲しい」

「智美?」

私は雅人に着替えが終わったことを伝え

2人で川へ向かうことにした

今日は母が仕事のため見舞いには来ない

こんな自由な日はない

「元宮さん!何処へ行くんですか」

看護士が慌ててこちらへ走ってくる

私は負けじと走り出した

「おい!」

雅人がどうすればいいのか戸惑っている

「走ろっ」

雅人が私の後を追い,走ってくる

雅人が私の隣に追いついたことを確認したら

雅人の手を取りスピードを上げた

「ふはっ…はははっ」

なぜかおかしくなって笑い出した私を雅人は隣でどうすることなく見ていた

「なんだよ」

「ははっ,違うの。可笑しくて。私,病院から抜け出すなんて初めてだから」

「昨日だって抜け出してたんじゃないのかよ」

「うん。誰かと抜け出すのが初めてだから。それも男の子。駆け落ちってこんな感じなのかなぁ?ねぇ,思わない?」

雅人はぽかんと私を見ていた

私はまたそれが可笑しくて

顔がにやけるのがわかった

私達が川に着いた頃には丁度日差しが一番強い時間だった

夏なら暑い時間だろうが

冬の今にしては,寒いと感じる気温だった

「おい,ここが」

「そうみたい」

橋から見下ろすような形で私達は川を見ていた

橋の下は雑草が生い茂っており,なだらかな坂を描いていた

この橋から川の端へ移動し,滑り込むように川に入ったのだろうか

それとも,この橋から飛び込むように死へと向かったのだろうか

西田悟は,坂本美咲は,

どんな気持ちで此処から川を眺めたのだろう

「…近づいてみよ」

「危険だろ」

「お花と写真を,側に置くの」

「おい,危ないって」

私は雅人の声なんて無視して

川へ近づいた

「悟さん,美咲さん,2人はもう一度出会わなきゃいけないの」

「おい,智美」

私は川の側へと来た

手を伸ばすと水が冷たく触れた

「智美!」

雅人の叫ぶ声が聞こえた

「おい!」

再び雅人の声が聞こえ,私は閉じていた目を開いた

「きゃあ!」

私は大きな悲鳴を上げた

私の手首をしっかりと,手が掴んでいる

手が,私を,川へと引きずり込もうとしている

その恐ろしい程強い力に

私は恐怖で体が動かなくなっていた

「嫌ぁ!」

あまりの恐怖で声がかすれる

「智美!」

雅人が私の体を思い切り引っ張った

私も動かない体を何とかして雅人の方へと動かそうとした

「離し…っ」

「何なんだよ!」

雅人が私の体をぐいと引っ張った瞬間

手が水の中へと消えてゆくのが分かった

「あ…雅人……手…」

体ががくがく振るえ,意識が朦朧としてきた

「ま……雅人…」

「智美,もう大丈夫だから」

そこからの記憶は,なかった

気付いたときには病院のベッドの上に居た

「智美?」

「……雅人…ごめん」

「それより,大丈夫なのかよ」

私は自分の手首を見てみた

あれほどの力で掴まれたのだ

赤くなっている,と思ったが

私の手首は何ともなっていなかった

「よかった…無事で」

「雅人,あの手…もしかして,西田悟?」

「そうかもしれない」

「私は…殺されそうになったの?」

「わからない」

「あの川には,まだ西田悟が居るの?」

「そうかもしれない」

「…成仏,してないんだね」

私はもう1度川へ向かおうとした

川へ行って,西田悟を成仏させてあげたい

「辛かったんだろうな…今でも,辛いんだろうな」

「智美,まさか…もう1度川へ行くなんて,考えてないだろうな」

病室から出て,周りに看護士が居ないかどうかを確認しながら歩く私に

雅人は尋ねた

「行くよ,私。行かなきゃ」

「智美,お前,正気なのかよ。あの川に引きずり込まれようとしたんだぞ?!お前は,西田悟に殺されそうになった」

「…でも,じっとしてても私は死ぬ。何もしないでじっとなんてしてられないよ」

「気持ちはわかるけど,もう川へは」

「雅人,ごめんね。本当に雅人には感謝してる。でもね,私は行く。行かなきゃいけないの」

「明日でもいいだろ。明日の,人通りが一番多い時間にしよう。夜になると危ないだろ」

「雅人はもう帰って?私,一人で行く。雅人まで危ない目に合わせられない」

看護士にも見つからなかったため

私達はすんなりと病院から抜け出すことが出来た

「待てよ」

「このままだと私,死んじゃうのよ!?」

「智美…」

「死ぬまでじっとしてろって言うの?そんなの嫌よ!何もしないで助かる可能性を見逃すわけにはいかないの」

「…わかったよ」

「雅人…ごめんね」

「俺も行くよ」

「駄目。雅人まで死んじゃったら,私,成仏出来ないよ?」

「死なないから。死なせないって言っただろ」

「…でも」

「ほら,早くしないと。追っ手が来るかもしれないぞ」

「……ありがとう」

私達は川へと向かった

川へ着いた頃には,外は薄暗かった

川は静かに流れている

川の流れる音が,静かに聞こえる

薄気味悪かった

「やっぱり…やめないか?」

「今更怖いなんて言えないよ…」

「…そうだな」

私達は橋の下へおりた

私が手をつかまれ,川へと引きずり込まれそうになった場所だ

私はごくりと息を呑んだ

「西田悟さん!居るんでしょ,まだ此処に!こんな所に居ても,美咲さんに会えないの。お願い,成仏して」

「おい…智美,下…」

明らかに雅人の顔が引きつっていた

私は雅人の視線が向くへと視線を移した

「…なに……」

私達の足元で,川が渦を巻いている

「何なの…」

「ヤバイんじゃないか?」

「…っ……」

私は逃げようと思い

後ろへ下がろうとした

だが怖くて,足が動かない

金縛りというものなのだろうか

全く体が動かない

「智美?どうしたんだよ」

「……悟………」

「え?」

「悟…私…は,ここ…よ」

「何言ってんだよ!智美?!」

「さぁ……私が美咲。だから,もう…探さなくていいのよ」

「おい!」

私は意識をなくしたわけではなかった

私が美咲となって

西田悟を成仏させようと思ったのだ

「ほら,悟…わかるでしょ。美咲よ。一緒に……天国へ行こう?」

「嘘だろ……智美!」

そう。私が美咲。

私と一緒に成仏して

そしたら

私で犠牲者は最後になるから

「連れてって…私を。美咲を。」

「智美!」

「…み,さき……」

かすれていて,小さくて

聞き取れないぐらいの声だったが

私には確かに聞こえた

西田悟の声だ

「悟,私よ」

「みさ…き」

私の前に,美しい女の子が現れた

坂本美咲だ

「智美さん,ごめんなさい。私がしっかりと,悟を,連れて行くから…」

「…美咲…さん」

「探した…愛してる…もう……どこにも行かないで…いっしょ,に…」

ふ,と

私の前から白い影が消えた

西田悟と坂本美咲が成仏したのだ

私は突然体から力が抜け

倒れた

「智美!」

目を開けたら,お母さんが見えた

「…大丈夫?智美?」

「私は…」

「まる1日眠ってたのよ」

「うそ…」

「もう…心配で……」

「お母さん…」

「よかったわ。…本当に」

「…雅人は?」

「あぁ。一緒に居た男の子ね。帰ってもらったわ」

「どうして!」

「だって……」

「雅人は助けてくれた人よ。今すぐ呼んで」

「……でも」

「いいから。恩人をどうして帰したりするの?そんな人だったの?お母さんは」

「……恩人だったの。ごめんなさいね。きっと外に居るわよ。今呼ぶから」

母が雅人を呼んできた

「智美!」

「雅人,ごめんね」

「倒れたから,吃驚したよ」

「西田悟は成仏した」

「え?!」

私はあのときのことを全て話した

雅人は驚いていて,表情が固まっていた

「でも…よかったよね」

「…あぁ……よかった」

「私も安心した。本当にありがとね,雅人」

「…ああ……」

「雅人のお姉さんにも報告しないとね」

「…そうだな」

数日後

目隠しをされてから1週間が立った

私は

生きている

あれからお世話になった青森の佐藤さんや

新聞社の女の人にお礼を言い

雅人のお姉さんのお墓に報告へ向かったりした

「私…生きてるんだよね」

「ああ」

「よかった…本当に」

私達は西田悟と坂本美咲のお墓へも行った

2人は天国で幸せだよね

それは分からないけど

私達は2人が天国で幸せに居ることを願った




あれから2年がたった

私達はあのことを忘れてなんていなかった

だが

2年の歳月が

私達を現実へと引き戻していた

私は雅人を松下くんをと呼ぶようになっていて

松下くんも私を智美とは呼んでいなかった

だが

あのとき芽生えた

かすかな恋心は幻じゃなかっただろう

西田悟と坂本美咲の熱い恋心に惑わされつつも

私達も確実にお互いを好いていた

時たま話はする

だが

あの時のことを話すことは一切なかった


































































ふみコ にこの小説を載せてみたところ

こんなコメントが来ました







亜姫 レスNO.3 12/30(金) 16:57 IP:211.0.241.183
おもしろいですww





亜姫 レスNO.19 12/30(金) 18:12 IP:211.0.241.183
すごい文才ですね”
めっちゃ面白いです♪





さーこ レスNO.25 12/30(金) 19:35 IP:219.171.244.227
こんばんは、さーこと申します。コメント失礼しますー。
とても面白かったです!淡々とした文章が逆に恐くて。
でもなんか純愛っぽくて、ちょっと感動してしまいました。
続きが気になって、一気に読んでしまいました…ほんと、面白かったです。
これからも頑張って下さいね!素敵な小説を有難う御座いました。








亜姫様,さーこ様から頂きました

有り難う御座いました


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