Forbidden fruit is sweet. (小説)



駄目だって分かっています

無理言ってることだって

貴方を困らせていることだって

わかっているのです

でも

気持ちはもう

抑えられません

大好きなんです

人間として 女として

本当に

大好きです











私が先生に手紙を出したのは昨日のこと

教師専用の下駄箱に白い封筒を

生徒たちがみんな下校した所を見計らって

入れたのだ

私の好きな人

それは,担任の斉藤先生

23歳の独身

彼女は先生曰くいないらしい

私は先生のHRが大好き

私は先生の話が大好き

私は先生のお説教が大好き

私は先生が喜ぶ顔が大好き

本当に好きになってしまったのだ

生徒だから 教師だから

そんなこと

もう関係なくなっていた

気持ちはどんどん膨らんで

もう抑えられない



「おはよう」

「おはよーございます」

「おはよ,先生」

「うん,おはよう」

先生はいつも校門の前に立って

登校してくる生徒たちを迎えてくれる

「おはよう」

先生の声が小さくなった

「おはようございます」

私はいつものように挨拶を交わし

その場を足早に去った

先生の様子と,私の気持ちだけが

いつもと違っていた


「出席をとるぞ」

先生は教卓に立ち,名前を呼び始めた

出席番号1番の愛沢桃子から出席番号27番の渡辺健二まで

先生は私の名前を呼ぶときも,いつもと変わらなかった

「安藤亜紀」「…安藤?」「……はい」

私は1回目で返事をしてあげなかった

先生に

たくさん名前を呼ばれたくて

「亜紀ー,早く行こ」

「うん」

教室移動の時

先生とすれ違った

先生は私から目をそらした

「亜紀,今日先生おかしくない?」

「…どこが?」

「なんか,目がキョロキョロしてるってゆーか…挙動不審?ちょっと違うか…」

「そうかな」

私のせい?

私のことを考えてくれてるの?


気付けば放課後になっていた

薄暗い教室に,私は1人で居た

返事を聞きたい

私は先生の落としたハンカチを持っていた

「…あ」

「先生…どうしたんですか?」

「お前こそ,何やってるんだ?」

先生は私から目をそらしながら話した

「これでしょ」

私は先生のハンカチをひらひらさせた

「あ…」

「落としたことに気付いて,先生が教室に探しに来ると思って。待ってたの。あ,ハンカチを落としたのは先生だから,私は取ったりしてないからね。」

「ああ」

「返して欲しい?」

「ああ」

不器用に手をポケットに入れながら話す先生

「じゃあこっち,取りに来て」

私は先生を見つめる

先生は私の視線に答えてくれない

「ほら」

先生は手を差し出し,私がハンカチを返すのを待った

「まだ。これを返すのは返事の後ですよ」

先生は手を引っ込め,またポケットに突っ込んだ

「手紙…読んだんでしょ?」

薄暗く静かな教室に私の声だけが響く

「ああ」

「…私は本気」

「立場を考えろ。な?お前はまだ高校生だ。ほら,クラスにも,かっこいい奴いっぱい居るだろ」

「私…先生しか見れない」

「でもなぁ…生徒と教師だ。わかってくれるよな?」

「分かりません。生徒と教師だって,男と女なの。人間なの。惹かれ合っても,おかしくない」

「…だけどなぁ」

「じゃあ先生は私が嫌い?男として,嫌い?」

「否…嫌いじゃないけどな」

「じゃあ私達の恋は成立する」

私は椅子から立ち上がり,先生の前に立った

「恋に身長差が関係ないように,立場なんて関係ないの」

「…亜紀……」

先生の唇が私の唇に重なった

私の勝ち

「…ごめん」

先生は謝った

「どうして謝るの?」

「…生徒に,こんなことして」

「私,先生のこと,もう恋人だと思っていいよね?」

「……ああ」

先生は私を抱きしめた

もう立場なんて関係ない

もう生徒と教師なんて関係ない


それから私は先生に家の近くまで送ってもらった

「もう遅いから…送るよ」

先生が小さな声で言ってくれたとき

私は嬉しくて仕方がなかった

「…あのな」

「大丈夫,秘密にするから」

「…ごめんな」

「このことがバレて先生がクビにされて一緒に居られなくなるの,嫌だもん」

「不吉なことを言うな」

「…先生は,私のこと,好きだったの?」

「否…正直……可愛いとは思ってた」

「手紙を読んではまっちゃったってわけね,私に」

私が笑うと,教師を馬鹿にするな,と怒られた

でも顔はにやけてて

本当に幸せな時間だった


「おはよう」

「先生…おはようございます」

私は先生を見つめて挨拶をする

先生も私の目をちゃんと見て挨拶を交わしてくれた

昨日の放課後のことは

一生忘れないだろう

「にやけてる」

「…晴子,おはよ」

「何かあったでしょ」

「まさか」

「嘘。顔に書いてあるよ,嬉しいことがありました,って」

「バレた?」

「亜紀分かりやすいんだから」

「うん,あったよ。すっごくいいこと」

「えーなになに!」

「教えなーい」

「教えてよぉー」

ふと先生の方を振り返ると

先生はいつもの様に登校する生徒たちに挨拶をしていた

私はそんな先生の背中に微笑みかけた

「亜紀!」

教室に入るとみんなの視線が一気に私に注がれた

「…おはよ」

恐る恐る声を出してみると

みんなは駆け寄ってきた

「マジで,大変なことになってるよ!みてよ,これ」

私は目の前に差し出された一枚の紙に目を向けた

「…なに……これ」

そこに書かれてあった文字に私は背筋が凍りついた

━大ニュース!!安藤亜紀と斉藤先生の熱愛発覚!!!━

新聞形式で書かれたその紙

大きく書かれた文字の下に写真が印刷されていた

昨日の放課後の写真だ

━教師と生徒がキス!?禁断の恋━

「…誰が……こんなこと」

「亜紀,これ…ホントなの?」

教室中の視線が私を刺す

「……ち…がう」

私の頭の中は既に真っ白だった

何も考えられない

「そ…そうだよね,違うよね。こんなの」

「じゃあこの写真は何なのよ。どう説明すんの?」

「やばいよねぇ,教師と生徒なんて」「やだ,ドラマみたーい」「面白くなってきたじゃん」「マジかよぉ」「先生かわいそー」

いろんな声が私の耳に入る

みんな面白がっているのだ

「ちょっと!もう止そうよ!色々言うの。こんなの,合成で出来ちゃうんだから」

隣に居た晴子が私をかばってくれている

私は罪悪感でいっぱいだった

信じてくれている晴子にも嘘をついている

先生にも嘘をついている

なにより自分の気持ちにも嘘をついている

「なんだー,何の騒ぎだ?」

先生が教室に入ってくると,皆はいっせいに先生を取り囲んだ

「どういうことなんです,これ」「亜紀は違うって言ってるけど」「ヤバクない?先生,クビとかぁ!?」「やぁだー」「説明してよ,ちゃんと」

先生の表情が硬くなってゆく

「合成の可能性だって十分ありえるって!亜紀だって違うって言ってるんだから!」

晴子の声はみんなの声にかき消された

「何か知ってんじゃねーの!」「どうしてそこまで庇うの?」「実は先生と付き合ってんの晴子なんじゃないの?」「嘘ぉ」

「違うよ!」

私は思わず叫んでしまった

後先のことも考えずに

「やっぱ先生と付き合ってんじゃん?」「何が違うんだよ」「意味分かんないよ」

「みんな席に着け!」

先生の大声で一同は静まり返った

「ちゃんと説明してくれよな」

先生はうなずき,教卓の前に立った

「こんな記事を書く奴は,どうせ暇な奴だろ。それか,俺か安藤に何か恨みがある奴か?」

「うちらが聞いてんのはこの記事が本当かどうかって話なんだけど!」

クラス一の問題児,亜佐美が先生をにらみつけた

「先生と安藤は何の関係もない」

先生の口から,そう言われると

辛くて涙が出そうになった

「じゃあこの写真は何なんだよ!」

「だから合成でも出来るって!」

晴子が叫んだ

「どうやって作ったかは知らない。でもな,こんなことをするなんて,人間として,最低だ。俺か安藤に何か悪い点があって,恨みを持ってやった奴がこの中に居るなら言いに来てくれ。何か悪いことをしたんなら謝る。安藤も,謝るよな?」

「…はい」

「この中にこれを作った奴が居るなら,よく聞け。今後一切,こういうことはするな」

「なーんだ,結局出鱈目じゃんか」「つまんねーの」「こーゆーことする奴って,腐ってるよな」「どうせ暇なんだよ」「クラス騒がせて何が楽しいんだろ」「最低だよね」「亜紀,疑ってごめんね」

「…ううん……」

私はみんなの顔がみれなかった

先生の顔も,見れなかった

「…じゃあ,出席取るぞ」

その日1日はこの話題で持ちきりだった

学校中に噂は広まり

私が廊下を歩いているだけで

後ろ指さされていた

「亜紀,気にすることないよ」

晴子の優しさが身に染みた

私は嘘をついているのに

「もし…あの記事が本当なら,晴子…私の事嫌いになってた?」

「ううん。もしも本当だったら,亜紀は先生を本気で好いているってことでしょ。好きな人が誰であろうと関係ない。教師と生徒だって,人間だし,その前に男と女なんだから,恋をするのもキスをするのも当たり前だもん。亜紀が先生を好きなら,私はそれを受け止める。それは亜紀が同級生の男子と恋をするのと同じことなんだから」

「……晴子…」

私は友情ってここまで暖かいものなのだと

初めて実感した

「ありがとう」

晴子は微笑んでくれた

本当は

ごめんね,と

そう言いたかった。

その日の放課後,私は先生に話がしたいと言われ

先生の家まで来てしまった

「……もう…こうやって会わない方がいいですよ」

「ごめんな…辛い思いさせて」

「……迷惑掛けてすみませんでした。私が先生に告白なんてするから。立場を考えればよかったんです」

「…亜紀……」

「もう…そう呼ぶのもやめて下さい」

「でも…まだ俺は」

「先生,言わないで…私,先生から離れられなくなっちゃうから」

「もう亜紀と一緒に居られないなんて,耐えられない」

「子供じゃないんだから…お願いだから…そんなこと,言わないでよ」

「亜紀を失いたくない。亜紀を失うぐらいなら,学校なんて,辞めてもいい」

「……な,何言ってるの?どうして本気になってるの?私なんて,好奇心で付き合ってくれてるだけなんでしょ?私ならもういいよ。私だって,先生と結婚出来るなんて思ってないし。ちょっとからかっただけ。やだなぁ。こんな子供に本気になるなんて」

「亜紀…?」

「学校辞めてもいいだなんて,辞めてどうすんの?就職なんてそんな簡単に出来るもんじゃないんだから,たかが遊びで付き合った相手に,そこまでしなくてもいいじゃん。仕事の方が大事に決まってるでしょ。大人なんだから,もう少しよく考えてよね」

「それ…本気で言ってるのか?」

「じゃ,私はもう帰るから。明日からはまた一生徒と一教師として,よろしくね」

「ちょ…亜紀!」

私は先生の部屋から出た

これでいいんだよね

私,ちゃんと,出来てたかな…

「亜紀…どうしたの?」

「晴子…」

「ど…何があったの?」

泣き崩れる私をみて

晴子は戸惑っていた

「なに…なにがあったの?」

「私…酷いこと言っちゃった……す,好きなのに……私だって…離れたくないのに」

「……亜紀…」

「晴子ぉ……これで,よかったんだよね…」

私は晴子に全て話した

先生のこと

今日のこと

ついさっきのこと

「そうだったんだ…」

「私,最低だよね」

「先生のことを思ってやったことでしょ?亜紀がそんなだったら,先生も悲しむよ」

「…本当は好きなの。すごく,ものすごく,大好きで……」

「亜紀は偉い。亜紀は偉いよ。先生のこと思って,自分の気持ち抑えて…普通は出来ないよ。私なら一緒に居たくて,我侭言っちゃう」

「…間違えてないよね……」

「でも,亜紀はこの恋を,先生への気持ちを,しっかりと吹っ切る事が出来る?先生は亜紀を想ってる。その気持ち,無視して,亜紀は絶対に先生を諦めれて,次の恋にいける?」

「それは…」

「出来ないでしょ」

「……わからない」

「半端な気持ちじゃ,お互い辛いだけだよ。ずっと引きずっちゃうだけだよ」

「…でも……もう,後戻りは出来ない」

私は晴子と別れて,家へ戻った

先生のことが頭を離れない

忘れなきゃ 早く 忘れなきゃ

私が忘れなきゃ

先生だって,忘れられないよ

「おはよう」

先生の声が聞こえてくる

私は俯いて足早に立ち去った

いつもは挨拶を交わすのに

「亜紀,おはよ」

「晴子…おはよ」

今日は

先生の顔がみれないだろうな

「別れたんだってね」

「…え?」

廊下でクラスの女子3人に声をかけられた

「何の話よ」

晴子がすかさず答える

「昨日,亜紀と先生,別れたんでしょ?散々もてあそんで」

「話が通じないんだけど」

「うちら,亜紀に話してんの」

「亜紀と先生は付き合ってもなかったんだから,別れるもなにも,ないじゃない。さ,どいて。邪魔」

「ねぇ亜紀,何とか言いなよ」

「……そんなこと,誰から聞いたの」

「やっぱ別れたんだ」

「…答えて」

「学校中みーんな知ってるよ。誰かが亜紀たちを見てたように,詳しく書かれた紙が出回ってんの」

「………私は先生と何の関係もない」

「へぇ。じゃあ何で目はれてんの?泣いてたんじゃないの?別れて」

「ちょっと,度が過ぎるよ」

「晴子…もういいよ」

「もう隠すのも限界なんじゃん?」

「亜紀,もう行こ」

私は晴子に手を引かれ,教室に入った

「亜紀さぁ,振られたの?」「それとも振った?」「昨日は2人して嘘付いてたってわけね」「先生も最低だよな。生徒に嘘つくかよ」

「…この中に居るんでしょ……こんなこと書いた人。名乗り出てよ。どうしてこんなことするのか,説明してよ」

「どうしても何も,真実じゃん。嘘書かれてんなら怒ってもいいけど,本当のこと書かれてんのに,お前がキレる意味わかんねぇよ」

「亜佐美,貴方なの?こんなことしてるの」

「何言ってんだよ,あたしそんな暇じゃないから」

「…亜紀,席すわろ?落ちつこ?こんなことする奴なんて,腐ってるんだから。亜紀はもう,何も言わなくていいよ」

「悔しいの。何処かから私たちのこと,笑いながら見てるんでしょ。こんなこと書いて,最低じゃない」

「うん」

晴子が唯一の支えになっていた

友達っていいな

恋は崩れやすいけど,友情は永遠なんだね

その日の放課後

私は教室で先生と会ってしまった

「安藤…」

私は先生から逃げるように教室から出た

「ちょっと,待て!」

私は一目散に走った

もうこれ以上,先生に迷惑かけれない

「待ってくれ」

先生に手首をつかまれ,私は足を止めた

「……なんですか」

息を切らしながら私は先生の方を向いた

「…お前,演技……下手すぎる」

「…何のことですか」

「昨日。本心からじゃないだろ,あんなこと…お前は言う奴じゃないだろ」

私,ちゃんと出来てたはずなのに

先生の言葉で

私の中で何かが音を立てて崩れた

「…っ…ご,ごめんなさい」

私は溢れる涙をこらえることが出来なかった

「好きなの…本当は,まだ,大好きなの」

「亜紀…」

「辛いのぉ……一緒に居たいのに,嘘つくの,辛いの…」

「もう嘘なんて付かなくていい」

「先生に,迷惑…かけたくない」

「迷惑なんかじゃない。俺だって,亜紀がいなくなると思うと,耐えられなかった…」

「我慢なんて…したくない」

その日,先生は私を家まで送ってくれた

付き合えることになって,初めて送ってくれたときのことを思い出した

あの時となにも変わっていないんだよね

気持ちだって,変わってないもんね

「これからは,何があっても守るから」

不器用にポケットに手を突っ込みながら話す先生を見て

幸せを感じた気がした

次の日

やはり私たちのことが書かれた紙が出回っていた

写真まで付いていた

「亜紀…また,こんなのが……」

朝,教室に入ると晴子が俯きながら私の方へ寄ってきた

「うん…いいの,もう」

「え……」

「晴子,私ね,もういいの。何を書かれても大丈夫」

「じゃあ……先生と」

「みんな!聞いて。私,先生と付き合っています!もう何も怖くない。私は幸せ」

「亜紀…」

「そんなこと言っちゃっていーのかよ!」「マジでやべーじゃん」「先生のことも考えろって!」「自分のことしか考えないなんて最低だよ」

「私から言えるのはそれだけ」

「あ……亜紀,いいの?」

「うん」

晴子は驚いて私を見ていた

「ごめんね,ずっと黙っててくれたのに」

「ううん…そんなのはね,いいんだよ」

「晴子には感謝してるよ」

「…ううん……私,何もしてないからさ」

笑顔の私をよそに

晴子の表情が強張っているように見えた

錯覚だよね

「でも…よかったよ,亜紀がすっきりしてるなら…ね」

その日,先生からも正式に話があった

私と付き合っていること

全て,言ったのだ

クラスのみんなはただ黙っていた

学級委員長の愛子が

「安藤さんも,先生も,真剣なら,いいんじゃないですか」

と同意したのをキッカケに

クラスの女子たちがいっせいに私と先生の付き合いを認めたように口々に意見を言い始めた

「うちら,亜紀のこと勘違いしてたよ」「真剣な恋に悪いことはないね「先生も本気なら許されるんじゃねぇ?」「暖かく見守ろっか」

「でも!」

大きな声で晴子が叫んだ

「どうしたの?」

みんないっせいに晴子の方へと視線を向ける

「先生は,大丈夫なの?校長とかにバレて,クビなんて,有り得るんじゃない?ほら。教育委員会とかが,許さないよね…そういうの。厳しいから」

「そんなのこれからじゃん!どうにかなるって。なぁ,先生?」

「ああ…どうにかなるように,努力はしてみる」

「ほら。大丈夫だって」

「そ…そうだよね。亜紀も,頑張ってね」

晴子の笑顔が

いつもと違ってみえた

放課後に,私は先生と公園で話をした

私達のことが広まるのは早くて

朝のHRのあとすぐに先生は

校長室に呼び出され,話をしていたそうだ

処分はまだ決まっていないらしい

「大丈夫」

そう言う先生の顔に

笑顔はなかった

 ━カシャ

何処かからカメラのシャッター音が聞こえた

それと同時に,誰かが走り去る音が聞こえた

「誰だ!」

もしかしてこれまで私達の事を書いて

みんなに広めていた犯人かもしれない,と

私達は追いかけた

「待て!」

先生の足は以外に早く

犯人はあっさりと捕まった

「何してたんだ!」

「あ……」

私は先生が捕まえたシャッターを押した張本人の顔をみて

息が詰まった

「え……なん…で…」

「何してたんだ」

「あーあ…バレちゃった。亜紀も馬鹿だね,今まで気付かないなんて」

「まさか……違う,よね」

「そうよ。2人のこと,ずっとバラしてたの,私」

晴子が私達の方を見て笑っている

嘘だよね

嘘って言ってよ

「晴子…どうして。私たち……友達じゃない」

「友達?馬鹿にしないでよ」

先生は唖然と私達の会話を聞いているだけだった

「友達だなんて,綺麗事言わないで。亜紀は,私から大事な人取ったじゃない。あっさりと,私の,大好きな人を」

「それって…」

「そう。斉藤先生」

「うそでしょ……」

「だから,取り返そうと思ったの。じゃああっさりと亜紀は私の罠にはまり,別れてくれた。あの時会ったのは偶然なんかじゃないよ。先生の家の窓から,2人の姿,しっかりと見えてたの。それでね,亜紀。貴方の鞄の中に,ボイスレコーダーが隠されてあるの,知ってた?声はそれでしっかりと聞こえるし。毎日楽しかったわ。2人の会話が,まる聞こえなんだもん」

「お前,何やってるのかわかってるのか?!」

「わかってるわよ,ちゃーんと」

「信じられない…」

「それでも人間か!」

「先生が悪いんですよ,私のものだったのに。どうして亜紀なの?私,亜紀のこと嫌いじゃなかった。でも,取られたものを取り返すのは当然のことでしょ。亜紀だからって,手加減なんてしてあげない」

「ねぇ……もう,やめてくれるよね?」

「返してくれるのならね」

「…それは」

「返せないよねぇ?幸せだもんね,亜紀は。先生はもうクビだから,私は先生が次に行く学校で会えるけど,亜紀は先生の為に転校まで出来ないでしょ?」

「……まさか,晴子…」

「なに?私は先生を本気で好いてるの。愛してるの。亜紀の愛なんて,私の愛に比べればちっぽけなの。私は何処までも着いてゆく覚悟が出来ている。ねぇ亜紀,貴方に出来る?そこまで,できるの?」

「……私達の愛は,遠く離れたって,壊れないから」

晴子が突然

声を上げて笑い出した

「ほんとに,馬鹿じゃないの」

「…晴子……もうやめてよ。全部,嘘だって…冗談だって…ねぇ,言ってよ」

先生が私を抱きしめた

「人前でやめてよ。いちゃつくなら家でやって。迷惑なの。大体,遠距離で成功した人なんてみたことない。それも生徒と教師よ。馬鹿じゃないの。愛なんてね,すぐに枯れてなくなるの」

「…晴子なら………私のこと,これからも…友達だって,言ってくれるよね」

「何言ってるの?」

「晴子が言ってくれた言葉,すごく,心に残ってる。晴子がいなきゃ,私は先生と幸せを感じることは出来なかった。今こうして,私の隣に先生が居るのは,晴子のおかげなの。ねぇ…お願いだから,友達で居て?また私に,いろんな言葉,聞かせてよ。春子の存在,大きかったの」

ショックが

大きすぎて

私は頭の中が真っ白だった

真っ白な状態から出た言葉

これは

紛れもなく本心だった

「亜紀…私のこと,許すつもり?」

「…先生のこと,私も好きだって…言ってくれればよかったのに。晴子も,先生に告白すればよかったのに。そしたら,同じ立場で勝負で来てたのに。卑怯だよ。そんなことして,先生が自分を好いてくれないことぐらい,わかってるんでしょ」

「何も知らないくせに…分かったような口聞かないでよ!私だって…先生に告白して,戦おうと思った。でも,無理だったのよ。亜紀には魅力がある,先生にも好かれてるんだろうな,って…思ってた。自分に自身がなかったの。…それに…亜紀に悲しい思いさせてまで,先生となんて付き合えなかった……先生より,亜紀をとったのよ。私は。馬鹿だよね,笑いなよ。でも…結局先生を諦め切れなかった私は,せめて亜紀と先生を困らせたかった。亜紀の幸せが嬉しい反面,憎かった…」

私は晴子に駆け寄り

晴子を抱きしめた

「晴子は優しいよ。晴子は最高の友達だよ」

「やめなよ……私は……亜紀の幸せを潰そうとしたのよ」

「過去だよ,そんなの」

「……どこまで優しいの…?どこまで…お人よしなの。本当に,亜紀は…馬鹿だよ」

「晴子の言葉に嘘はなかった。私を思ってくれてる気持ちにも,嘘はなかった。私達,最高の親友だよ」

晴子

涙が枯れるほど泣いていた

その涙と一緒に

全ての悪い気持ちを流し去ったんだろうな

晴子は

綺麗だよ








「亜紀,おめでとう」

「晴子…有り難う……ほんと,嬉しいよ」

「先生も,おめでとうございます」

「ああ。有り難う」

「亜紀,綺麗だよ」

次は

私の大切な親友

晴子にも

幸せが訪れますように

ブーケは

晴子に渡した





© Rakuten Group, Inc.

Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: