Complete secret (小説)



一緒だった













「ねぇ恵理。梨恵知らない?」

私の片割れ,恵理

私は梨恵

「梨恵は…此処に居るじゃない」

私は梨恵

母が探していたのも梨恵

母が梨恵を知らないか,と尋ねたのも梨恵

母は,私達を間違えたのだ

恵理と梨恵を,間違えたのだ

「ああ,ごめんね。梨恵ね。てっきり恵理かと思ったわ。だって貴方,恵理の服着てるんだもの」

「……うん」

「親でも間違える程似てるのに,中身は全く正反対なんだもの。不思議よね」

「それよりお母さん,話があったんじゃないの?」

「そうだわ。貴方,私立の中学へ転校しない?」

「えっ?…転校?」

「そう。せっかく頭いいんだもの,勿体無いじゃない。このままにしておくなんて」

「恵理は…?」

「恵理は駄目よ。恵理が私立になんて行けると思う?」

「お母さんは,私達を別々の中学に行かすつもりなの?」

「ええ。いいじゃない。貴方には期待してるのよ,梨恵」

「…考えとく」

本当は恵理

私は梨恵なんかじゃない

母の本当の気持ちを聞くために

梨恵のふりをして,母と会話をしたのだ

でも

今日で分かった

私は期待されていない。

昔からそうだった

梨恵ばかり可愛がられて

梨恵ばかり良い思いをするの

そして私は

いつも隠れて梨恵が笑っている姿を見るの

父も母も笑ってて

私だけが,笑っていない。

ずっとそうだった

比べられるの

顔は一緒なのに,中身が全く正反対なんて,不思議ですね

って

みんなが口をそろえて言うの

そして親もこう言うの

梨恵だけが望みなんですよ

「ただいまぁ。…恵理,何してるの?」

「ちょっと借りたよ」

「何を?」

「梨恵の存在」

「恵理?…意味が分からないんだけど」

「いいのいいの。さぁ,突っ立ってないで,早く入りなよ」

きっとバレるんだろうな

そして母は怒るんだろうな

自分の言ったことにも気付かないで

当たり前のように

怒るんだろうな

私の悲しみにも苦しみにも気付かないで。

「恵理!」

私が丁度着替えを済ませたころ

母の怒鳴り声が聞こえて来た

「…なによ」

「貴方,何なの!この点数は」

母が私のテストを机の上に広げて,怒っている

「え…何って,結構出来てると思うんだけど……」

母はその横に長谷部梨恵と書かれたテスト用紙を広げた

丁寧に書かれた字に,梨恵の性格が現れていた

「どうしてこんなにも差がつくの?同じ授業を受けてるんじゃないの?」

「でも私達,10点しか…」

「何言ってるの!10点がどれ程大きな差か…」

「お母さん,怒らないで。今回のテストは凄く難しかったの」

「梨恵,貴方はいいのよ。今回も90点以上。凄いわね」

母は97点と大きく書かれたテスト用紙を見て微笑んだ

「努力の証拠よ」

「恵理だって努力してたわ。それに恵理だって平均点は取れてるの。怒る必要ないじゃない」

「…梨恵がそう言うなら」

学年でもトップの梨恵と普通の私

どうして双子に生まれたのかな

どうして同じ家に生まれたのかな

「梨恵は優しいのね。恵理はもう行っていいわよ。梨恵だけ残ってくれる?話があるの。さっきのことよ」

「さっき…?何か話したっけ?」

「何言ってるの。中学の話よ」

「…ごめん,わかんないんだけど」

「え……恵理,まさか,あなた…」

「私よ。さっきの。私立の話でしょ」

「貴方,何考えてるの!」

「間違えるお母さんが悪いんでしょ」

「恵理!待って!」

梨恵が叫ぶが,私はその場を立ち去った

「あの子…本当になに考えてるのかしら。あ,それでね,梨恵…」

母は,私を梨恵だと思っていった言葉の数々を

覚えていないのだろうか。

私の頭の中では何度もフラッシュバックされる

「恵理が私立になんていけると思う?」

「貴方には期待してるのよ,梨恵」

梨恵…

梨恵さえいなければ,私は人並みの幸せを手に入れていたんだろう

梨恵さえいなければ,この家で贔屓が起こることなんてなかったのだろう

梨恵さえいなければ…

「恵理,さっき私のふりしたんだって?」

「だから?」

「勝手に人のふりして,いいことじゃないよ,そーゆーの」

「じゃあ梨恵も私を使っていいよ」

「私はいい。でも,恵理が私になってお母さんと話すのは,やめた方がいいと思う。いいことなんて言われないよ,私の前でもお母さん,恵理のこと良く言ってないから」

「そんなの知ってる」

「私を使うなら一声掛けて」

「じゃあ言う。今から3日間だけ,入れ替わらない?私達」

「…面白そうじゃん」

梨恵は恵理となり

また恵理は,梨恵となった

「おはよー」

「おはよう」

「ねぇ恵理,今日は一緒に学校行けるでしょ?」

「うん」

「今日は早いのね」

母は完全に気付いていないようだった

「あははははっ」

学校へ向かう途中

突然笑い出した梨恵を怪訝そうな顔で見る私

「全然気付いてないんだもん!おかしくて」

「私の名前名乗るんだから,そんな態度やめてよね」

「学校での恵理のこと知らないんだもん,どうやって演じよう?」

「静かにしてればいいの。話しかけられたら答えればいいし。私はむやみに人に声はかけない」

「じゃあ私と反対のタイプだ!私は丸っきり恵理とは反対。だから,出来るよね」

「梨恵になりすますことなんて簡単。愛想良くすればいいんでしょ」

「誰にでもね」

「分かってる」

梨恵は恵理になって楽しんでいた

恵理を楽しもうとしている

私には

そんな余裕はなかった

「おはよっ,梨恵!」

「おはよぉ!」

私は梨恵のような笑顔を浮かべ

梨恵のような高い声で挨拶をした

「今日は恵理ちゃんも一緒なんだ」

「一緒に家を出ただけだよ」

「…私,先に行くから」

梨恵も懸命に私を演じたのだろう

でもあまりに暗すぎて

梨恵の演じる私には,違和感があった

「今日は一段と暗いね,恵理ちゃん」

「そうかなぁ,いつもあんなだよ」

「ふーん。あ,そうだ。これさ,絶対に秘密にしといて欲しいんだけどねっ」

「うんうん,何なに!?」

「3組の田村が,梨恵のこと好きらしいの!」

「うそー,マジで?!」

「で,今日告白するって噂流れてんの!」

「やだーぁ,どうしよう」

「でさぁ,梨恵はどう思ってんの!田村のこと!」

「どうってー…友達?」

「じゃあ断るの?」

「うん…どうかなぁ。ははっ,困るなぁ」

私は確実に焦っていた

こんな話,されたこともなかったし

梨恵ならこんな返事をするだろうと予想で話しているのは

案外,とても疲れることだった

「あー…ごめん。なんだか急に,頭痛くなってきちゃった…」

「え!大丈夫?!」

「私,後からゆっくり行くから…ごめんね,先行ってて?」

「私も一緒に居るよ。何かあったら大変じゃん」

「でも…遅刻しちゃうから」

「何言ってんのよ,梨恵。いつも遅刻してんじゃん!」

「あー…,そうだよねぇ」

梨恵,いつも遅刻してるんだ

朝はちゃんと出て行くくせに

やっぱ真面目ぶってるだけじゃない

私の方がよっぽど

褒められなきゃならない

梨恵なんかより

私のほうが

いい子じゃない

「梨恵!おはよう」

「…おはよぉ」

後ろから梨恵と同じクラスの吉田が走ってきた

「梨恵,こんなとこで何してんの?」

「…別に」

「じゃあ一緒行こ」

「うん」

「あ,じゃあ私は先行くねー!」

梨恵の友達が走って私から遠ざかっていく

吉田と2人きりにされた私は

会話もなく,気まずいままだった

「梨恵さぁ…今日冷たい」

「そうかなぁ?普通だよぉー」

あくまでも私は梨恵

明るく

明るく

「…このままサボろーぜ」

「は…」

「え?」

「うん,いいよ」

私は吉田に連れられ,近くの公園へ行った

梨恵と吉田って,どういう関係?

「なぁ梨恵」

まぁ大体察しはつく

「何かあった?」

せいぜい彼氏ってとこだろう…

「おい,梨恵」

「何もないよ,ぜーんぜん」

「…お前,恵理だろ」

私はその一言で頭が真っ白になった

ばれてる

「…そんな訳ないでしょ」

動揺している

自分でも分かるぐらい

「理由があって梨恵になってるんだろうけど,全然出来てない。俺は騙せないよ」

「私は梨恵だよ?信じてよ。ねぇ,吉田く…」

しまった

彼女が彼氏のことを名字で呼ぶなんてありえない

「梨恵は俺のこと正弘って呼ぶんだ。それぐらい調べとかなきゃ。ね,恵理ちゃん」

「……どこで分かったの?」

「初めから」

「見たときから?」

「そう」

「…親も騙されてたのに」

「俺は無理だよ。誰よりも君をみてるから」

「梨恵を,って言ってよ。私は恵理なんだから」

「違うよ。君を見てたんだ,俺は。恵理ちゃんを」

「は?…梨恵と付き合ってるんじゃないの?」

「付き合ってるよ。君に近づくためにね」

「…どうして,わざわざそんなこと」

「恵理が好きだから。それだけ。梨恵のことは利用させてもらってる。恵理ちゃん,告白しても付き合ってなんてくれないだろ?」

「…だから同じクラスだし,双子の梨恵と付き合えば,私と会えるかもって?」

「でも俺は甘かったよ。家には全然連れてってくれないし。恵理ちゃんも会わせてくんない」

「梨恵は私のこと恥ずかしいって思ってるから。そりゃ会わせてくれないよ」

「今日は吃驚した。恵理ちゃんがいたんだもん」

「…付き合って,とか言わないの?」

「言ったら付き合ってくれる?」

「別にいいよ」

「ほんとに?」

「うん」

「梨恵とは別れるよ」

「別れなくていいよ,そのまま梨恵を好きだって言い続けて」

「じゃあ浮気になるよ?」

私はうなずいてその場を去った

もう家に帰ろう

「ただいま」

「梨恵?どうしたの?」

「私…私立行く」

「本当に?!」

「公立の勉強なんて,簡単すぎてやってられないよ」

母は馬鹿みたいに喜んだ

私はそれにあわせて笑った

母の笑顔を久し振りにみたような気がした

私は母と喜んだふりをした後

恵理になっている梨恵を学校の屋上に呼び出した

「梨恵?」

「もういいよ。もう終わり。お疲れ様」

「…もう終わるの?」

「うん。もう,私は完全に梨恵になるから」

「…どういうこと?」

「これからずっと,一生,私は梨恵として生きてゆく」

「え?」

「恵理にはいなくなってもらうの」

「……話,わかんないんだけど」

「…恵理は初めからいなくてよかったの。うちには,梨恵という真面目で優秀な娘だけでよかったの。恵理なんて,生まれたのが間違いだった。でも私は,恵理は,生まれてしまった。そして梨恵より不出来に育ってしまった。もう,全てが間違い。恵理は,存在することが間違いなの」

「そんなこと…」

「じゃあ私の存在理由,言える?」

「…私には,恵理が必要」

「比較されて,自分が褒められるため?そんなのもう御免。」

「そんな…」

「だから,梨恵…ううん,恵理…死んで」

「えっ…」

私は力いっぱい梨恵を押した

屋上のフェンスがやぶれて

梨恵は地上へとまっさかさまに落ちていった

梨恵は,ううん…恵理は,死んだ。

そのあと私は梨恵として母に会った

母は泣いていなかった

「恵理…どうして………あの子は…」

「私達のせいよ。みんな私と恵理を比較して,恵理を悪く言ったわ」

「……そんな…」

「一番悲しかったのは恵理よ」

私は涙を流した

そしてその涙と共に

恵理という人間を捨てた

死んだのは紛れもなく梨恵だ

だが

これからは私が梨恵

死んだのは,間違いなく恵理

私はその先の人生

梨恵として生きていった


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