まきちゃん(小説)



イジメは人を苦しめ悩ませます

そしてイジメは

大事なものを奪います











私には昔から友達と呼べる存在が一人も居なかった

ずっとずっと一人で

生きてきたんだ

そんな私が中学に入学して

初めて友達が出来た

ねぇねぇ,話さない?

と,気さくに声をかけてくれた



私と梓は誰が見ても仲良しだった

楽しい日々が続いてた

友達と過ごせる

楽しい日々が。


でも

そんな楽しい日々は

そう長くは続かなかった

「真紀ってさぁ,小学校のときイジメられてたんだって」

そんな噂は

たちまち学年中に広まった

もちろん,私の友達

梓にも。

「そんなの,昔の話でしょ?関係ないない」



笑顔でそう言った梓の顔が

今も嫌に瞼の裏に妬きついている


「ねー真紀,ちょっと一緒にトイレ行かない?」

分かっている

いつものことなんだ

トイレへ行こうとさそうクラスメイトの顔は

わくわく,といった気持ちでいっぱいだった

「死んでよ」

いつものことだ

そう

いつものこと

もう何年間も言われ続けてきた言葉じゃない

慣れっこでしょ

こんなの

「うぜぇんだよ!」

罵声を浴びせられ,頭上から水をかけられる

いつものことじゃない

前髪から滴り落ちる水が

妙に冷たく感じた

「凍死するんじゃないのーお?」

「やあだー,私関係ないよ」

「死にたい奴は勝手に死なせてあげようよ」

甲高い笑い声

語尾を引きずるような話し方

時々冷たくなる目

友達同士の目配せ

全部,全部

大嫌い

「大丈夫?」

後ろから声がして

私は慌てて振り返った

振り返る勢いが強すぎたから

後ろにたって私を見ている子に

私の髪の雫が飛んだ

汚い!

絶対,そう言われると思った

「ご…ごめん」

「真紀って言うんでしょ,貴方」

思いがけない返事に

私は一瞬戸惑った

「……そう,だけど」

「私もなの。私も,まきって言うの。平仮名で,まきって書くのよ」

「へぇ…そうなんだ」

顔をまじまじと見てみても

思い出せない

誰だろう

この子

「私も,同じなの」

まきちゃんの笑顔は

凄く,凄く

優しかった

「…何が?」

「私も,いじめられてるの。困っちゃうよね,全く。みんな暇なんだろうね。私なんてイジメても,何の得にもならないのに」

「……怖く,ないの?」

「怖いよ,すっごく。怖かった…」

怖かった

確かに今,そう言った

過去形?

今はもう,いじめられてないってことだろう

私はそんな風にしか思わなかった

「制服,濡れてたら,風邪引くよ。保健室に着替え,あったよね」

「…うん」

「じゃあ着換えて来なよ」

「…うん」

私は次の日も,その次の日も

まきちゃんに会って,話をした

まきちゃんは

私を裏切らない

たったひとりの

友達になった

そして月日は経ち

まきは

私の親友となった

「真紀に,大切な,話があるんだ」

そう

あれは忘れもしない

中学2年生になって

初めての夏休み

私はまきに連れられて

学校の屋上へと忍び込んだ

本来屋上へと続く階段は,不良と呼ばれる生徒の集まりの場で

屋上へ続く扉はカギがかかっていて,屋上へ行くことは出来なかった

「カギ,盗んで来ちゃった」

まきが鍵を得意げな顔で見せた

「屋上なんて,初めてだよ」

「私の思い出の場所なの」

「思い出?」

「此処が,私の最後の場所だった」

私は黙ってまきの言葉に耳を傾けた

私がなにか言える雰囲気じゃなかった

「……いじめられる,私達が悪いんじゃないんだよ。イジメが悪いの。全て,イジメというものがあるから,だめなの」

「…うん」

私もそう思う

イジメたりイジメられたり

イジメがあるから

私達は大切なものを失う

「…私のお姉ちゃん,自殺したの。イジメが原因で。私はイジメを恨んだ。大好きな,大切なお姉ちゃんを追い詰めた,イジメを。お母さんもお姉ちゃんの死が原因で自殺した。最悪だった,うちの家族。イジメのせいなの。全て。私はお姉ちゃんをイジメた奴らに会いに行った。そいつら,なんて言ったと思う?イジメられる奴が悪い,そういう運命だったんだ,って」

「ひどい…」

「私は仕返しをしなければならないと思った。でも,そんなことしたって,イジメがなくなる訳がないから。私は,イジメが原因で自殺する人を救うことにしたの。イジメなんかが原因で,死んじゃうなんて,可愛そすぎるもの」

「…だから,私と友達になってくれたの?」

「真紀はね,私に似てるの。私もあのとき…同じ状況だったし,ちょうど,私が自殺したのも真紀と同じ年。運命を感じた。真紀を死なせちゃいけない,って思った。真紀,私と出会った日,自殺しようと思ってたでしょ?」

まきの言う通り

私はあのとき

ビル屋上から飛び降りる自分を想像してた

もうこのまま死んでしまおう

そう決心した日だったんだ

「…思ってた」

「私,真紀を助けれたって…思っていいかな」

「まきが私を助けてくれた。もう死んじゃおうなんて考えた私を。まきが居てくれなきゃ,私は,今,確実にここに居ない」

「…有り難う…これで私,もう,思い残すことなんてない。ずっと黙っててごめんね。私,もうこの世の人じゃないの」

知ってた

そんなこと

出会ったときから気付いてたのかも知れない

でもまきは

私の

たった一人の友達だから

「行かないで」

「…真紀」

「私を置いて,行かないでよ!まきは私の大切な友達なの。まきがたとえ,幽霊でも,私の大切な友達には変わりないの。お願いだから,もう…一人にしないで。私,孤独なんてもう嫌。まきが居ないと,頑張れない。ここまでイジメに絶えてこれたのも,まきの存在があったからなの」

「私だって同じよ?でも,私,本当は悪い霊なの。成仏もしないで,ふらふらしてて…」

「悪くなんてないよ!まきは私を助けてくれた。ねぇ…私達,友達でしょ?親友でしょ?生きてるか死んでるかなんて,関係ないよ」

「真紀……ここまで私のこと思ってくれた人なんていなかったよ。有り難う…でも私,行かなくちゃ……」

「まき!」

まきの足が消えかかっているのを

私は気づいた

行かないで 

必死に願った

「真紀,私は永遠に,真紀の親友だから。それだけは忘れないから。私ずっと,真紀の側に居るから……」

「まき!」

私はあのときのことを思い出していた

出会ったときのこと

まきの笑顔は優しかった

私,まきと友達になれて

生きていたい,って思った

まきのぶんまで

生きいきたい,って思った



私はイジメ専門カウンセラーとなり

今でも

まきと一緒に

イジメが原因で自殺しようなんて考える子たちを救っている


ねぇまき

貴方がしたかったことを

私は一生をかけて

していくよ

貴方の悔いを

私は全て,晴らすからね



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