あなたのために(小説)



なんでもします

全て

あなたのためなんです










あ な た の た め に









足元はフラフラしていた

頭もズキズキする

俺はその日いつもより何時間も遅く自宅に着いた

俺は学生のくせに酒を飲んでいたのだ

真っ黒な空を見上げて

深い深呼吸をした

すると

俺の前にふたつの目が現れた

俺はその目を見つめていた

その目もまた,俺から目をそらさなかった

「おかえりー」

妹が俺を出迎えた

俺は挨拶を交わすこともなく部屋へ向かった

「お兄ちゃん?!またお酒飲んだの?この前あれほど,駄目だって言ったじゃない!」

ベッドに飛び込むと

俺の体はバウンドして

それがまた頭に響いた

次の日

俺の記憶は曖昧だった

ズキズキする頭を抑えながらリビングに行くと

妹がテレビの前でぺたんと座っていた

「あー,起きたの?」

「あー…」

「昨日お母さんたちがいなかったからよかったけど,居たら大変なことになってるよ。お父さんに殴られるよ。私が言ったら2人共,お兄ちゃんのことすっごく叱ると思う」

「叱られるような歳じゃねーよ」

「何言ってんの,お酒も飲めない歳のくせに」

妹はまたテレビの方を向き

俺に背中を見せた

「今日は友達と遊びに行くからね」

一気に飲んだ水が頭を冷やした

「そうそう。美雪,って人から電話あった」

奥歯が痛む

そういえばまだ歯医者へ行っていなかった

「ねぇー…彼女?」

「…美雪?」

「電話なら携帯にすればいいのにね」

「美雪,なんて?」

「用件を伝えましょうか,って言ったら,またかけ直します,って切られちゃった」

俺はおもむろに携帯を取り出し

美雪にメールを打つ

美雪とは

以前付き合っていた女だ

所謂,モトカノという奴だ

「ねぇ彼女?」

「元彼女」

「元彼かあ!まだ未練があったりしてぇー!こわぁー」

妹の甲高い声が頭に響き

奥歯が痛むような気がした

「じゃあ私行くからぁー」

「あー…」

美雪から返事が来たのは

妹が家を出て10分ほど立った頃だった


FROM 美雪
sub 美雪です
本文
昨日は電話しちゃってごめんね
どうしても伝えたいことがあって…
新しい彼女さん,すっごく綺麗だよね
私よりも断然綺麗
あの彼女さん,昨日,男の人と2人で歩いてたよ。
ぴったりくっついて,手つないで歩いてた
驚いてとっさに写真をとったの
添付してあるから。見るか見ないかは貴方の勝手だけど
私は見たほうがいいと思います

※添付ファイル


俺はメールに添付されてあったファイルを開いた

そこには

俺の彼女,美紀と俺の後輩の拓也が写っていた

ぴったりと肩を寄せ合い,手をつないでいる

まるで恋人同士のように

友達とは思えないだろう

俺は怒りを押さえ,美紀に電話をかけた

プルルルル─プルル

コールが鳴り響く

2回…3回…

 ━「もしもし?春樹?どおしたの?」

出た

「あのさ,今から会えない?」

 ━「うん,大丈夫だけど,どうしたの?突然」

「兎に角2丁目の三角島公園に来て」

 ━「わかった…じゃあ,すぐ行くね」

美紀も,何かを察したのだろうか

俺の態度がいつもと違っている

だから

不安になっているのだろうか

美紀はちゃんと

俺に愛想をつかされないか,心配しているのだろうか

それとも

別の恋人が居るから

俺との仲なんでどうなってもいいと考えているのだろうか

「春樹?」

俺が公園に着いて5分ほどすると

美紀が小走りでやってきた

「もお,いきなりすぎるよー!服とか考えないまま出てきちゃった」

その割には

メイクも髪型も

服装だって

乱れはなかった

きちんと考えてきたのだろう

デートの時となんら変わりはなかった

「で…話ってなんなの?」

「まあ,座ろ」

美紀はゆっくりと俺のあとを着いてきた

俺がベンチに腰掛けると

美紀も一つ遅れて腰掛けた

「昨日なにしてた?」

美紀に微笑みかける

この笑顔はもちろん

心の底からのものではなかった

「昨日は…智香と遊んでたけど」

「ふーん…それだけ?」

「うん」

しばらく沈黙が続いた

「これ,見て」

沈黙を破ったのは俺の方だった

切り出さない訳にはいかない

「なに…」

携帯の画面に写る昨日の自分の姿に驚きを隠せないようだった

美紀に

罪悪感はあるのだろうか

「とぼけてんなよ。昨日のお前だろ?」

「どうして…なんで,なにこれ。春樹が撮ったの?」

「友達から送られてきた。これ,お前だよな」

「…うん」

「隣は拓也だよな。2年の高橋拓也。俺の後輩。何なんだよ,これ」

「……うん」

「うん,じゃねーだろ?お前ら付き合ってんの?浮気してんだ,お前」

「そんなんじゃない!」

「じゃあなんなんだよ」

ついカッとなる

美紀が泣き出した

「泣きたいのは俺の方だろ…」

「拓也のことは好きじゃないの!お願い,信じて!」

「何が信じてだよ!お前なんか信用できると思うかよ!馬鹿じゃねーの」

俺は立ち上がり

元来たほうへと歩き出した

「ねぇ待って!お願い!私には春樹しかいないのお!」

俺は美紀に見向きもせず,歩き続ける

「待ってよ!別れるなんていわないよね!好きなの,春樹!拓也なんて好きじゃないの!」

「二股掛けといて好きじゃないって,最低だな,お前」

泣き崩れる美紀を無視して

俺は家へと戻った

イライラする

いつの間にか,貧乏ゆすりが止まらなくなっていた

美紀からメールが入った


FROM 美紀
sab ごめんなさい
本文
ごめんなさい
私,最低な女だよね
自分でも分かってる
でもこれだけは信じて
私が好きなのは春樹だけなの


信用なんて

馬鹿らしい

俺は冷蔵庫から水を取り出し

勢い良く飲んだ

すると玄関のドアが開いた

「可憐?」

妹は勢い良く階段を駆け上がった

「おい!」

確かに泣いていた

部屋のドアがしまる音がきこえた

俺は妹のことが気になったが

あえて触れないでおこうと思い

家から出て,近くのコンビニに足を運んだ

「いらっしゃいませー」

コンビニ特有の雰囲気が

俺は好きだった

徐にリンゴジュースとプリンを手に取り

レジへ向かった

「320円です」

俺はおつりを貰うと

ふらふらと近くのベンチに座った

一息つき,コンビニの袋からジュースを取り出した

ストローをさしたと同時に

妹の声が聞こえた

「可憐?」

「なんで話きいてくんないの」

「なんでって…触れない方がいいかと思って」

「あえて触れてよ。誰かに話さなきゃ落ち着けないから」

妹は俺の隣に腰掛けた

どことなく

手の形が美紀に似ているように思った

「おいしそ」

妹は袋からプリンを取り出した

「で。何があったんだよ」

「浮気してた,あいつ」

「あいつって?」

「彼氏」

「お前,彼氏なんて居たんだ」

「まあね」

「で,浮気って?」

「メール,見ちゃったの。彼氏が部屋からちょっと出た時,携帯鳴ったから見てみたら,画面に美紀って書いてあった。気になって中見てみたら,今日は楽しかったよ,ありがとう。大好き。…だってさ」

「美紀?」

「彼の先輩。可愛くて綺麗で,全然勝ち目ない。問い詰めてみたら,別れようって言われた。私が振るぶんにはいいけど,あっちから振られたんじゃ…もうどうしようもないよ」

まさか

美紀って…

「お前の彼氏って,高橋拓也?」

「知ってるの?」

妹は少し吃驚したようで

目を大きくしていた

「俺の後輩。お前,拓也と何処で知り合ったんだよ」

「合コン」

「中学生が合コン?」

「今時珍しくもなんともないよ」

「あのさぁー…俺も実は今日,浮気されてたことが分かった。俺から振ったけど。彼女の名前は美紀。浮気相手は拓也」

「まさか…」

「その通り」

「嘘でしょ…私達,兄弟で騙されてたの?」

「偶然か必然か…」

「偶然に決まってんじゃん」



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