束縛(小説)






それは

ほんの些細なことから始まった




「ねぇ…さっき話してたのって,誰?」




初めはこんな奴じゃなかった

俺の彼女は

豹変していった
















「俺,お前のこと好きなんだ」

「え…」

「だから,付き合って欲しい…んだけど」

「…絶対浮気しないって約束してくれる?」

「する!約束する!絶対浮気なんてしない!」

「じゃあいいよっ,私もちょっと気になってたの」

「ははっ,まじでか」

「マジだよ」


俺は唯奈にほれていた

唯奈は学年でも人気があって

何人もの男子が恋をし

ふられているのであった

そんな唯奈は

学年でもさほど人気もなく

女子からモテる気配もない男と付き合い始めた

唯奈は幸せそうだった

俺は悔しかった

明らかに自分より顔もスタイルも良くない男が

俺の大好きな唯奈と付き合い始めたのだから

当たり前だ

だが,俺はどこかで安心していた

一時期,唯奈には変な噂があった

 ━リアルに恋が出来ない女

唯奈は芸能人にしか恋が出来ないと

そんな噂まで出ていたのだ

だから理想が高すぎて

何人もの男がふられたのだと

でも

それは全くの出鱈目だった

それがわかっただけでも

俺にとって安心だったのだ

だって

相手が芸能人じゃあ

どんな男も叶うはずがないから



「唯奈がね,ずーっと誰も好きになれなかったのには理由があるの」

ある日,唯奈は俺に語り始めた

「唯奈ね,高橋くんに振られちゃったの」

高橋とは,唯奈が付き合っていた,元彼のこと

「高橋くんったら,酷いの。唯奈って彼女がいながら,浮気してたの」

「浮気?高橋が?」

顔も性格もスタイルも

人並み,もしくは人並み以下の男が

こんな可愛い唯奈をほおっておいて

浮気だと?

「高橋くんモテるからなのかなぁ…唯奈が浮気はやめてって言えば,別れるって…だからそれ以来,男の人を信用できなくて,誰も好きになんてなれなかったんだ…」

「そうだったのか…」

「でもね,雅之は違うんだよ」

「俺?」

「雅之は誠実そうで真面目で,授業も真剣に受けてて。それにね,好きな本が同じだったの。たまたまなんだけど,なぜか,すごく運命感じちゃって…」

「本?」

「そう。時空を超えて…って本。原野さんの作品。私,大好きなんだよね」

「時空を超えて,唯奈も好きだったんだ」

「そうなの。とりあえずその話がしたくって,雅之と親しくなりたかったの。でも見つめてるうちに好きになってた」

「俺はさ,唯奈のこと,ずっとずっと,唯奈が高橋と付き合う前から好きだった」

「早くいってよね。そおゆうことはさっ」

「あのときの俺にはまだ,そんな勇気も根性もなかったからな」

「今が幸せであるのなら,過去や未来のことは,そのときの自分に任せればいいのである」

「時空を超えて,君と共に居られるのならば」

時空を超えての名台詞

俺たちの大好きだったセリフ




いつからか俺は

唯奈とは別の女に恋をしていた

橋野萌莉

萌莉は特別可愛いわけでもなく

人気があるわけでもなかった

好きな本が同じなわけでもなく

声が好きなわけでもなく

ただ一瞬の

淡い恋だったんだ

萌莉と俺は

付きあい始めた

もちろん俺には唯奈が居た

だから萌莉とは

浮気という形で付き合ってゆくことを決めたのだ

萌莉と俺は何度も会い,何度も愛を確かめ合った

いつしか俺は

唯奈への愛以上の愛を

萌莉に注ぎ始めていたのかもしれない

「ねぇ…最近変だよね」

「なんで?」

あくまでも唯奈のことは好きだったし

萌莉以上になることはなかった

でも

俺はどうしても

唯奈を大切に思えなかった

「最近冷たい…」

「冷たくなんてねぇーし,大体俺ってそんなに優しい人間だった?」

「十分優しかった」

萌莉はそんなこと言わない

ないものねだりだったのかもしれない

唯奈で埋められない部分を

萌莉で埋め尽くすことによって

俺は満足感を得ていたのかもしれない

「今日保健室で萌莉ちゃんと話してたよね…」

「だから?」

だんだん鬱陶しく思えてきていた

「萌莉ちゃんと,すっごく仲良さそうに…」

「最近委員とか係でよく会うから,たまたまだろ」

「いや…どうして?私が彼女なんじゃないの?」

「うぜぇよ…お前」

「萌莉ちゃんと付き合うんだ…そうなんだ…」

「なんなんだよ!」

「へぇ…萌莉ちゃんが好きになったんだぁ……」

「うざいって…好きでもなんでもねぇし。そんなに俺のこと信用できないんなら別れる?」

「……別れは時に,人の人生を狂わせるのである」


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