大きな木と小さな命(小説)





空に近い


遠くを見ている




私は

まだ土の中だった















2年前から

私は一般に言う

不登校という分類になった

「あずちゃん,おいでよ」

「梓のことずっと待ってるから」

今日も電話がかかって来た

担任からだ

 ━「櫻井さん,あなた,勉強はどうしてるの?」

「用がないなら切ります」

 ━「待って。先生は貴方と話がしたいの。クラスの皆も待ってるわよ」

「悪いんですけど,行けない理由があるんです」

 ━「理由って何?先生に話してもらえる?先生,力になりたいの」

「本当に何とか出来るんですか?」

 ━「ええ,先生,何でもするわ」

「じゃあ,命下さい」

 ━「え?」

初めて言った

きっと何もしてくれないと知っていても

望みなんてなかった

ただ電話料金が勿体無いから

もう2度と電話を掛けてこないでほしかった

「出来ませんよね,では,失礼します」

まだ何か言おうとしていたが

私は受話器を置いた

先生ぶっても無駄

しょせん人間なんだから

「…桃,もう少しよ。もう少し,待っててね。お姉ちゃん,きっと桃を助けてあげるから」

あの木しかない

昔から思っていた

いつ,どのタイミングで頼めば

命を分けてくれるのだろう

私は小さな頃からこの町に住んでいた

私の大好きなこの町には

とてもとても大きな木があった

私が生まれる何百年も前から

ここを守り続けてきた木

その木には

いろんな言い伝えが残されていた

━あの木には昔悪さをして封印されてしまった

 大蛇の呪いが残されていて

 あの木を切った者には天罰が下る

━あの木の中には

 この町で亡くなった人たちの魂が

 宿っている

 あの木が一人の者に心を開く時

 その者の思うものは必ず蘇るだろう

そのほかにもたくさんの噂があった

あの木は昔この町で亡くなった魔女が姿を変えたものだとか

あの木の中心部には神様が居てそこから雨を降らしているだとか

あの木の枝を100本集めると願いが叶うとか

でも私が信じているのは

たった一つ

━あの木が心を開く時その者の思うものが蘇る

あの木が心を開くのはこの私で

蘇るのは私の大切な妹

桃なのだ

 ピンポン ピンポン

インターホンの音に気付き

私は玄関のドアを開けた

「はい」

「梓,行くよ」

もうそんな時間…

「ごめん,用意してくる」

舞子は私のバイト先の先輩

たまたま家が近かったことを知り

そのときからずっと一緒に出勤している

舞子は私が2年前まで通っていた高校の卒業生だった

舞子も中学の時に不登校を経験してて

私の気持ちを分かっているつもりで居る

でも私の不登校の理由は

舞子と同じような甘い理由なんかじゃない

「待たせてごめんね」

「いいから,早く行くよ」

鍵を閉め

舞子と歩き出す

「梓,学校どうすんの」

「またその話?やめましょう,学校の話は」

「中退しちゃうの?高校は卒業しておいた方が絶対いいよ」

「中退も考えてる。でも今は学校のことより,考えなきゃならないことがあるから」

「家のこと?親はもう好きにしていいって言ってるんでしょ?」

「家の心配もお金の心配もないんです」

「そういえばさあ,聞いたことなかったね。バイトの話。どうしてバイトしてるの?」

「お金が必要だから」

「親が振り込んでくれてるんでしょ?月5万だっけ」

「最近10万になった。経営が上手く行ってるんだって。金が愛情表現だと思ってるから,うちの親」

「じゃあバイトなんて必要ないでしょ?!月10万って,有り余ってるんじゃない?それに,あんな広い家に一人で,寂しいでしょ?私の家,狭いけど泊まりにおいでよ」

「いえ,寂しくなんてないんです。一人じゃないから,私は」

そう

桃が居てくれる

綺麗な姿で

私の側にいつも

桃が居てくれる

「寂しくなったらいつでもおいで」

私はあの広すぎる家で桃と2人暮らし

両親は電車で二駅ほど行った所で

毎日仕事に追われている

私と桃が2人で住むようになったのは

私が中学2年生の時からだった

あの時桃は小学校4年生で

2人ともまだ子供だった

そんな私たちに両親は

一軒家をプレゼントしてくれたのだ

両親が仕事で忙しいから

自分の好きなものだけを集めて部屋を作って

そこで自由な時間を過ごしなさいと

お父さんもお母さんも私達がよろこんでいると思っていた

私はなんとも思わなかったけど

桃はすっごく泣いていた

あのときの桃が一番ほしかったのは

何よりも親の愛情だったに違いない

もしあの時お父さんとお母さんが

桃に溢れんばかりの愛情を注いでいたのなら

桃は今でも幸せに笑顔で暮らしていただろう

桃には私が

これからたくさんの愛を注いであげなくてはいけないのだ


© Rakuten Group, Inc.

Create a Mobile Website
スマートフォン版を閲覧 | PC版を閲覧
Share by: