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A blade of a peach {小説
何もない1日だった
「にゃんにゃんにゃにゃーん…にゃんにゃんにゃにゃーん…」
かすかに歌声が聞こえてくる
小さな女の子かと思ったが
予想は外れたようだ
「迷子の子猫ちゃん」を口ずさんでいたのは
明らかに俺と同い年か
1コ下ぐらいの女の子だった
「なぁいてばかりいる子猫ちゃん………はぁ」
ため息が聞こえた
その子は
防波堤から
海を覗き込むように見ていた
俺と同じ学校の制服
あんな子居たっけ
「落し物?」
俺が声をかけたら
びくりとこちらを振り向き
急いで立った
「なんですか!?」
「いや,そんなに驚かなくても…」
目を丸くして
おびえてるように見えた
「海,見てたから。何か落としたのかと思って」
「ああ…いえ,そうじゃないんです」
「うちの学校だよね,その制服」
俺は彼女の着ていたセーラー服を見た
「はい,桜ヶ丘中学ですよ」
「俺もそうなんだ」
「じゃあ先輩ですね!」
「中1?」
「はい,中学1年なんです。わー…さっそく先輩とお友達になっちゃったあ」
明るくて
笑顔が可愛い子だなあ,と思った
「あ,そうだ。名前聞いてもいい?」
「姫乃桃葉です」
「ももは?」
「はい」
「すっげ,珍しい名前だね」
「そうみたいですね」
俺はこの子に
興味を抱いていた
初めから珍しい子だなあって思っていた上に
名前まで珍しい
どんどん興味がわいてきた
「家は何処?」
「兄弟は居る?」
「どこの小学校?」
俺は次々に質問していった
桃葉はどんどん答えてくれた
桃葉は遠い所から引っ越して来たらしく
兄弟はたくさん居るらしいが
生き別れの状態らしい
小学校の時のことは教えてくれなかった
まだまだ謎につつまれた
姫乃桃葉を
俺はもっともっと知りたくなっていった
次の日の朝
桃葉と出会った
「おはよーございまーす!!」
「朝から元気だな。俺は眠い」
「はい!挨拶はしっかりしないといけないって,お母さんから教わりましたから!」
セーラー服の上に
白いカーディガン
足元は
黒いオーバーニーソックスをはいていた
髪にはちょこんと赤いリボンが付いていた
まるで
アニメに出てくる女の子のようだった
背は153cmぐらいで
体重は40キロってとこか
姫乃桃葉は小柄な女の子だ
目も大きくて唇も赤くて
まつげも長くて童顔で
可愛らしい顔だ
「昨日,先輩のお名前を聞き忘れちゃったのです!聞いていいですか?」
「ああ。俺は北条春斗」
「春斗先輩ですね!」
俺達は
階段の途中で別れ
俺は1年生と2年生のひとつ上の階まで上がった
「おはよお!」と言う元気な声が聞こえてきた
きっと桃葉が
友達に笑顔を振りまいていたのだろう
昼休み
非常階段でパンを食べるのが
俺の日課になっていた
非常口の扉が開いていることは
俺だけが知っていて
その階段でパンを食べているのは
俺だけだった
「あー…落ち着く」
大人数で群れるのが嫌いな俺は
昼食はいつも一人だ
1人仲のいい友達が居るが
休み時間に少し話す程度だ
此処からは学校の裏側が見える
階段をおりた所は
野良猫たちの溜まり場になっている
「あははははっ」
笑い声が聞こえた
此処には俺しか居ない筈だ
「あははっ!そうなんだ!これから遊びに来てもいい?」
声の主は桃葉だった
「桃葉?!」
「あ!春斗先輩!」
階段の下の
猫の溜まり場で桃葉はしゃがみ込んでいた
「何してんの?こんなとこで」
「お話してたの」
「話?」
「そう!この子達と」
桃葉は猫達をみて微笑んだ
「今そっち行きます!」
階段を上がるには
桃葉の背からしたら高いフェンスを飛び越えなければ
階段には来られなかった
「今行くから,そこで待ってろ!」
いくらなんでもあのフェンスを越えるのは無理だろうと思い
俺は階段を駆け下りた
「せーんぱいっ」
曲がったところに桃葉が居た
「フェンス,開いてた?」
「飛び越えちゃいました!」
「あのフェンスを?!無理だろ!?」
「私,ジャンプ力あるんです!」
だからって…
いくらなんでもあのフェンスは高すぎる
それとも本当に運動神経がいいのだろうか
「あ!先輩,そのパンおいしそうですね!」
俺が片手に持っていたパンを見て
桃葉は目を輝かせた
「ああ,これ?」
「欲しいです!」
「いいけど,昼飯食ってねーの?」
「はい!ついお喋りに夢中になっちゃって」
桃葉は俺からパンを貰うと
一目散に階段を駆け下りた
「ちょっ…何処行くんだよ!」
俺も桃葉を追いかけて行く
すると桃葉はパンをくわえて
フェンスを軽々と跳び越した
「みんなで分けッこだよお!」
桃葉は猫達にもパンを分け
自分も食べた
「美味しー」
俺は呆気に取られていた
こんな高いフェンスを飛び越えるなんて
凄い…
俺が桃葉の身の軽さに圧倒されていると
桃葉はまたフェンスを乗り越えて
俺の前に来た
「ありがとです!パン,すっごく美味しかった!皆も喜んでます!」
「凄い運動神経。体操でも習ってた?」
「身軽なんですよね,私。跳び箱とかすっごい得意!」
「お前って不思議だな」
「え?」
「猫と話せるんだろ?」
「仲間だから。私を昔から知ってるのはこの子達だけだもん…」
桃葉は
何かわけありだと悟った
「…また来るね」
桃葉は猫達にそう告げ
階段を駆け上がっていった
振り返り俺に手を振った
俺は振り替えすことなく
その場に座った
「なあ,あいつって,何者なんだ?」
猫達に問いかけるが
答えが帰ってくるわけがなかった
帰り道
また桃葉が防波堤から海を眺めていた
「桃葉」
「あっ!先輩!」
「初めて会ったときも,こうしてお前,海見てたよな」
「はい」
「なんで?海,好き?」
「海は,私の憧れだったんです。私,泳げなくて,海に行ったことなかったから」
「小学校のとき,プールなかった?」
「…小学校のときは,まだ……」
「いいよ,言わなくても」
「…中学でもプールがあるんですよね」
「ああ」
「水が怖いんです」
「そうなんだ」
「今のうちに海,入ってみたいんです」
海が近くにない家だったのか
山の中?
桃葉の表情は
どこか寂しげだった
「…もう,一生は入れなくなっちゃうかもだから,憧れてるのに,だから…先輩!また海,連れてって下さいね!」
「…ちょっと来て」
俺は桃葉の手を引っ張り
歩きだした
「なんですか?先輩?!」
俺は
桃葉に海で遊ばせてやりたかった
この近くなら
すぐに砂浜がある
「ちょっと…先輩?」
「いいから」
どうしても桃葉に
海を見せてやりたい
あの砂浜からの海は
最高に美しい
「…ほら,海」
砂浜が見えてきた
「わぁ…綺麗」
桃葉の目は輝いていた
「寒いけど,遊ぶぞ」
「えっ?」
俺は砂浜に鞄とジャケットを放り投げ
桃葉の手をひいて
海へ走った
「ほら桃葉,これが海だ」
押しては返す波に
桃葉は見とれていた
少しずつ,桃葉は海へと近づいていく
足首まで水に浸かっていた
「冷たくねーの?風邪ひくぞ」
桃葉はどんどん進んでいく
「おい,待てよ。いきなり深くなるぞ」
桃葉の体は
どんどん水に濡れていく
「おい,帰って来いって」
「先輩も来て下さい,すっごく冷たい」
俺は仕方なく水に入った
桃葉の手を捕まえると
引っ張って砂浜に戻った
「仲間にも見せてあげたいな,キラキラしてる海」
「仲間も連れて来いよ」
桃葉の言う仲間とは
一体誰なのか
そんなのワカラナイが
きっと
大切な仲間なんだろうと思った
「先輩…」
「なに?」
「寒いです」
「そりゃ寒いよ。海の中服きたまま入ったんだから」
「お家,帰りましょうか」
「そうだな」
俺は桃葉と別れて
家に帰った
桃葉は俺の家と反対方向だった
その日の夜
俺は近くのコンビニに足を運んだ
「やめてよー!」
桃葉だった
「やあーだー!」
桃葉が黒のスーツを着たおっさんに
腕を掴まれている
「おい,おっさん。何してんだよ」
「先輩!」
「離せよ」
俺は桃葉をぐいと引っ張った
「何なんだ,君は。桃葉,行くぞ」
「せんぱぁい…,助けて下さい。先生,私に無理やり勉強させようとするんです」
「先生?」
「桃葉,お母さんとの約束はどうするんだ」
「……うん…」
桃葉の表情が一変して暗くなった
「うん,じゃなくて。年上の人にはなんて言うんだ?」
「…はい」
「さあ,先輩にさよならを言って,家に戻るぞ」
「はあい……先輩,さよなら。また明日ね」
「勉強,頑張れよ」
桃葉は渋々帰っていった
俺にはたくさんの疑問が残った
あの男は誰なんだ
桃葉のことを知ってそうだ
お母さんとの約束って…一体
ああ もう
考えるのは止そう
余計謎が深まるだけだ
次の日
朝から桃葉は暗かった
「おはよう」
初めて俺から挨拶をした
桃葉は挨拶を返すことなく泣き崩れた
「先輩…っ」
「桃葉?どうしたんだよ」
「…お兄ちゃんが……」
「どうした?」
「…交通事故で,意識が戻らないの」
「まじかよ…」
「どうしよう,先輩…私,どうすればいいのか分かんないんです」
俺は
泣いている桃葉をどうすることも出来ず
ただ立ち尽くすだけだった
「…桃葉,座ろう」
俺は防波堤に登り
桃葉と座った
「ごめんなさい…少し落ち着いたみたいです」
「病院,行かなくていいのか?」
「先生が,見ててくれるから。大丈夫だって言われて…でも私,気が気じゃありません」
「その,先生って…昨日の?」
「はい」
「塾か何かの先生?」
「お勉強とか,この世界の常識とか,いろいろ,教えてくれるんです。塾とかじゃないんです」
「この世界?」
「私,まだ全然なじめてないんです。言葉とか,習慣とか。」
「桃葉…お前,何者なんだよ。何処から来たんだよ」
「……私,ほんとは」
━ヴー ヴー ヴー …
「出ろよ」
「…すみません」
桃葉は鞄から携帯を取り出した
「もしもし」
━「桃葉か?お兄さんの意識が戻った。もう安心だ」
「ホントですか?!今すぐ行きます!」
━「いい,来なくても大丈夫だ」
「でも,私,居ても立っても居られなくて…」
━「じゃあ来てもいいが,学校にはちゃんと許可を貰うんだぞ」
「はい!」
桃葉は勢いよく立ち上がった
「お兄ちゃんの意識が戻ったみたいで,私,病院へ行きます」
桃葉はジャンプして防波堤の下におりた
「付き添ってくださってありがとうございました!」
「一人で大丈夫か?!」
「はい!」
桃葉は走り出した
「きゃ!」
こけた
「大丈夫か?!」
俺は駆け寄った
「いたぁ…」
膝が擦り剥けて血がでていた
「絆創膏,持ってないのか?」
「…なんですか,ばんそ…?」
俺は鞄からバンソウコウを出し
桃葉の足にはった
「…これ,先生が指に張ってたやつだ」
「傷が早く治るんだ。病院,俺も一緒に行こうか?」
「…一人じゃ,心細いし…じゃあ…お言葉に甘えて」
俺たちは走った
「桃葉,病院どこなんだよ?」
「もうちょっと先!」
「走っていける距離なのかよ!」
「たぶん!私はいつも、走ってたから!」
「バスとか出てるんじゃねーの?!」
「乗った事ないから分かりません!」
そのまま俺たちは走り続けた
「おい…桃葉、何処まで行く気なんだよ」
「あ,見えてきました!」
「え,ここ?」
桃葉は病院へ駆け込んだ
俺はまだ
理解できずにいた
ここは,動物病院
「おい,桃葉…此処,動物病院だぞ?お前、お兄ちゃんが入院してるって言ってたよな?」
「はい」
「じゃあ何で…」
「あ,先生!」
昨日,桃葉といた人だ
桃葉が先生と呼ぶ,その男
「桃葉…あちらの方は,昨日の?」
「北条春斗と言います…桃葉と同じ中学の,」
「先輩よ,先生」
「一緒に来てくださったのか」
「…あの,お聞きしたいことがあるんですが」
「なんですか?」
「桃葉,ここは兄が入院している病院だと言いました。でもここは動物病院…これは一体,どういうことですか」
その,先生,は
少し俯いてつぶやいた
「桃葉は…まだ話していないのか」
「…何を,ですか?」
「何れ,桃葉から話すと思う。それまで,待ってやってくださいませんか?」
俺はまだ知らない
桃葉の,過去
「先生!先輩!お兄ちゃん,元気でした!」
「そうか。よかったな桃葉。さあ,学校へ戻りなさい」
「はい!先輩,戻りましょ?」
「わざわざ付き添っていただいて,有り難う御座いました」
「…いえ」
「さあ先輩,行きましょう!」
何れ,分かる
でも俺は不安だった
桃葉は,いつか突然
俺の前から姿を消してしまうんじゃないか,と
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