完全犯罪 {小説




それは

犯罪の証拠をまったく残さないで行われた犯罪



そんなこと

普通の人間には

出来っこないだろう





私には出来たのだ











「今日の依頼のことなんだけど」

私の声に

タクがこちらを向く

「また?昨日も1人,殺したばかりじゃないか」

怪訝そうな顔で私を見る

「そんなこと関係ないでしょ。ちゃんとお礼はしてるじゃない」

「…で,今日は何なんだ?」

ひとつ言葉をおいて

タクは依頼を申し受けた

「簡単よ,とても」

「また殺人か?」

「いいえ。盗みを働いて欲しいの。資料は用意してある。北町4丁目に,大きな美術館があるわ。その美術館にある絵を盗み出して欲しいの」

「絵?」

「そう。花の宝石箱,っていう絵なの」

「花の宝石箱?昨日ニュースでやってた,あれか」

「そう。あの絵,きっと高く売れるわ」

私は紅茶を一口飲み

微笑した

「大熊に売りつけるって訳だな」

裏ルートで絵や宝石を売ると

価値が着き

高く売れるのだ

大熊はそれを売り買いする

裏の世界では顔の広い男だった

「大熊には連絡を入れたわ。6千万で買い取ってくれるそうよ」

「6千万…それなら,花の宝石箱より,もっと高い絵がありそうだ」

「いいのよ,そんなの。兎に角私はあの絵が欲しいの」

「どうせ売るのに?」

「ええ,そうよ」

私はタクに資料を渡した

タクはひとつ手に取り

開いた

それはパンフレットだった

どの絵が何処にあるかを書いた

美術館の地図だ

「こんなもの,俺には必要ない」

タクがパンフレットを机に置いた

「早い方がいいでしょ?」

「実行は明日だ」

「頼んだわよ」

「ああ」

タクも微笑した

「分かってるわよね」

「ああ」

「完全犯罪よ」

「当たり前だ」

タクは風邪と共に消えた



タクは

私の仕事

つまり

犯罪を全て引き受けてくれる

いい相方だ


タクは

3年前に死んでいる


私は姿の見えないタクを利用し

完全犯罪をしているのだ


タクとの契約は

タクが私の仕事をしてくれる代わりに

私はタクをこの家に住まわせる

それだけだった


タクは居場所がなかった

私は見えない体が欲しかった

そんな時,2人は出会った

最高の駆け引きだったのだ



私はその夜

タクの死んだ場所に

花を供えに向かった

そう遠くはない場所で

タクは自殺をしたのだ


理由は

居場所がなかった

それだけだ



そんなタクを

誑かし

居場所をあげるから

犯罪を引き受けて

などと駆け引きを申し込む

私の心は

冷め切っているだろう




「ねぇタク…貴方は最高のパートナーよ」

微笑むタクの顔が

瞼の裏に浮かぶ

「貴方の居場所は此処にあるわ」

私はそっと目を開け

歩き出した

タク

頼んだわよ


私はタクに依頼をしたら

こうして毎回

タクの最後の場所に

お花を供えに来る

タクは一人が大嫌いだった

でも

いつも一人だった

だから

今は

私が居てあげる

いつでも,片時も離れず

私が

居てあげる


ねぇタク

貴方が居たら

向かうとこ無敵でしょ?

タクも私が居れば

いつだって強気でいれるでしょ?


私にとってタクは

生きるための

最高のパートナー


タクにとって私は

存在し続けられる

最高の居場所


「今日もまた来てくれたんだな」

「タク…居たの」

「莉音の為なら,俺は何だってする。俺たち,出会えてよかったな」

「ええ,そうね。そうよね。出会えたことは,最高の奇跡だわ」

タクは一枚のメモを持ってきた

「大熊から連絡があった」

「大熊?何の用だって?」

「取引は明日にして欲しい,だとよ」

「明日?突然なに?無理な事言い出すのね。でも珍しいわ…大熊が予定を変更?」

「此処に来て欲しいだって」

タクはメモを私に手渡した

「グランドマンションの…308号室…事務所が変わったの?」

「取引相手が急いでるらしい。どうも,明日の夜の便でアメリカへ帰らないとならないとか,なんとか…」

私は爪を噛んだ

私には考え事をすると

爪を噛む癖があるのだ

「……貴方に任せるわ」

「莉音,俺が断ったらどうするつもりだ?」

「…今回は諦めるわ。今回の仕事はタクに任せることにしたの」

「まあ断りはしないけどな。今から行ってくるよ」

タクは引き出しから

大きな黒の袋を取り出した

「そう言ってくれると思ったわ,貴方なら」

「当たり前だろ?俺たちは,」

「最高のパートナー。そうでしょ?」

「ああ」

 ━プルルルル プルルルル

タクが風と共に家から出て行った

それと同時に電話が鳴り響いた

「はいもしもし」

━「愛沢智里です」

「ちさと?…どうしたの?電話なんて。智里らしくないじゃない」

━「いいじゃない,たまには。莉音は,唯一同じ道に進んだ友達なんだから」

「不気味なこと言わないでよね。友達だなんて。久し振りに聞く響きだわ」

━「今はどうあれ,昔は,そうだったでしょ?」

「昔の話を持ち出すのはやめて。用がないなら切るわよ」

━「まあそんなにカッカしないで。今日は貴方にいい事を教えてあげるわ」

「いいこと?」

どうせろくなことじゃないんだろうとは

分かっていた

━「貴方が取った,もしくは貴方の相方が取ったか,今取りに向かっているであろう,絵の買い手はね,この私なの」

「智里が?どうして?」

私が疑問に思うのも無理はない

智里も私と同じ,闇の世界で生きる人間

━「貴方を,もしくは貴方達を,ハメる為」

「はめる?」

私は受話器を握り直した

━「悪いんだけど,莉音,ちょっと邪魔なのよ」

私は黙って受話器から聞こえてくる声に

耳を澄ましていた

━「大熊が私と莉音のどちらかとの取引を止めることを考えてるの。私はその情報を知人からきいたの。それを大熊に問い詰めたの。そしたら大熊,なぜかあっさり認めてね。私にこう言った。花園莉音を次の仕事で捕まえることが出来たら,お前を選んでやる,って。だから私は人を雇い,大熊に依頼を申しこんだ」

「どうしてそんな話を私に?隠しておいた方が有利なんじゃないの?」

━「私,卑怯じゃないから。フェアじゃないでしょ?そんなのって。それに,この話を教えたところで,貴方の負けなのよ?莉音」

「馬鹿言わないで。絵は今頃私のパートナーが取ってるわ。きっとね。」

━「そのパートナーさん,今頃私の手下と警察達に取り押さえられてるんじゃない?美術館には隅々まで警官と私の手下が見張ってるの。貴方が思ってるくらいの人数じゃないのよ。何百人もの人間が見張ってるの。あなたのパートナーは今頃取り押さえられているか…追い詰められて,逮捕されてるところかしら。あんな厳重な警備の中で,逃げれるなんて普通の人間じゃ考えられないわ。ネズミ一匹たりとも,外には出さないわ」

「普通の人間じゃなかったら…?」

━「え?」

「外に出ることは可能よ。私のパートナーは,必ず絵を私の元に届けてくれる筈よ」


━「楽しみね」

私は受話器を置き

コーヒーを入れた

馬鹿な子ね,智里も

タクが捕まる?

そんなのありえるわけないじゃない

幽霊が取り押さえられたところなんて

見たことないわ

私がコーヒーを飲み終えた頃に

タクが絵を持って帰ってきた

「挑戦状でも出したのか?」

タクは絵を壁に立てかけた

「まさか。智里がタクを捕まえようとしてたのよ」

「なんでまた」

「大熊といろいろあったみたいだけど」

「へぇ」

私はすぐに大熊の事務所まで絵を運んだ

だけど大熊はどうして

私を捕まえることが出来たら、なんて言ったのかしら

私がもし、捕まったりなんてしたら

大熊まで巻き添えになることだって

十分に考えられるわ


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