舞い降りた天使は闇夜を照らす6

誠の父が経営する呑み屋は道玄坂の少し入り組んだ場所にある。



呑み屋と言っても居酒屋のような活気はない、それは良い意味でだ。



アジアンテイストの小洒落たバーのような店だ。
カウンター席と、フロアのテーブル席と個室がある。



今日はカウンターもフロアも三分の二くらい、席がうまっている。



僕たちは個室に通された。
床は板張りで座布団が敷いてある、この店でも比較的大きい方の部屋だ。



大蔵省こと誠様々のお陰でこうやってVIP待遇を受けられる。
そして未成年でありながらお酒も提供してくれる。
普段も僕と健也と誠はこの数室しかない個室で三人で飲んだりしている。



オールバックでエプロンを腰にきつく締めあげた痩せたウェイターがお通しを一人ずつに配りながら乾杯の飲み物をどうするか訪ねてきた。
健也は迷うことなく「とりあえず生三つ!!」と声をあげた、そして目を女の子の方に向け二人に何が飲みたいか確認した。



黒縁の女の子はカシスオレンジを注文し、太めのバタコさんのような女の子は杏酒のソーダ割りを注文した。



ウェイターが注文を復唱して立ち去ると健也は文学部の青山という女の子と出会ったきっかけを話し出した。



「恵美ちゃんの方から話しかけてきたんだよな?」と健也は満面の笑みで青山という女の子に話しかけた。



恵美っていうのか、覚えなくちゃ。と僕は思った。




すると青山さんは「はい! ジュースの自動販売機にお金を入れても肝心のジュースが出てこなくて。 近くにいた健也先輩に助けを求めたんです。」 きっとその時の記憶を辿っているのだろう、少し上を向いて青山さんは喋った。



「で、ジュースは買えたの?」誠がみんなの思いを代弁するかのようにさらりと聞いた。
すると青山さんは「はい、買えました! 三本も!」悪戯事が見つかったような少女のように青山さんは申し訳なさそうに肩をすくめた。



「自販機が壊れたから蹴りを何発か入れたんだよ、そしたら三本出てきたんだ、な!」健也は悪びれるそぶりも見せず、むしろ楽しい思い出を他人に話すように煙草の紫煙と一緒に言葉を吐きだした。
「アレ、コツがあるんだ。 踏みつけるように自販機の前面の下あたりを蹴り下ろすんだ、そうすれば何本か出てくるんだ。」



おーい。
それ多分犯罪だぞー
常習犯か~?



法学部で学んだ限りでは自販機のそう言った犯罪やトラブルや悪戯をまだ学んでいないけど。
きっと裁判起こされたら負けるよー



そんな僕の気も知らずに健也は饒舌に喋り通して女の子からキャッキャキャッキャ笑いを取っていた。



おーい。
健也くん、僕のための合コンじゃなかったのかー
僕にも少し喋らさせてくれー
誠もバタコさんと話し始めちゃったし。
僕だけ置いていかないでくれー



先程のウェイターが注文の飲み物をトレイに乗せて運んできた。
これでやっと乾杯が出来る、乾杯をしたら僕も喋るぞ~と意気込んで乾杯をした。
音頭をとったのはやはり健也だった。



「こんな美女二人と更に他の大学から来るはずの可愛い女の子…今はいなくてちょっとフライングだけどー!また来たら乾杯すりゃあいいさ~
じゃあクサいけど、出会えたことに乾杯!」



べただなー
でも女の子は合コンに慣れているようで軽く受け流してグラスをみんなと軽くぶつけ合った。 女の子たちは誠のつまらない鉄道オタクの電車の話を聞いても文句も言わずに相槌をうっていた。



後輩にあたる女の子二人、別学部であれど興味があるのだろう、講義内容や講師の質問をしてきたり



話が途切れることがなかった。
僕も時々会話に参加してみた。
途中で誠が健也にアイコンタクトをしているのが分かった。
僕に積極的に話をさせてやろうという心遣いだろう。
ありがたい。
でも話題が浮かばない。
「男子校病」は深刻なのかもしれない。



飲み物が無くなったのでウェイターに再度注文を取るべく僕が呼び出しボタンを押してからすぐに青山さんの携帯が青山テルマの曲を奏で始めた。 電話ががかかってきたのだ。
自分が青山だから名字が同じ青山テルマを選択したのかな~?と考えているとウェイターがきたので飲み物とシーザーサラダと鳥の唐揚げとフライドポテトを注文した。



ウェイターが帰るのとほぼ同時に青山さんが、「友達が着いたみたいなんですけど場所が分からないらしくて、迎えに行ってきます」と言って席を立った。



バタコさんはお留守番。
健也は青山さんの事が気になっている様子だ。



微妙にバタコさんと青山さんに接する時の態度が違う。



二人は気が付いているのかな?と思っていると注文の飲み物と食べ物が運ばれてきた。



そしてそれから少ししてから青山さんがドアをあけ部屋の中に入ってきた。
一人の女性を連れてだ。
この人が…



僕と健也と誠の時間が一瞬止まった。



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