2004/11/14
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カテゴリ: 国内小説感想
 好きか嫌いか確かめるために読むこともある。大抵どちらか分からないままもう少し読もうということになっていつのまにか好きになってたり、多く読むうちについていけなくなり別れたりする。以前は好きになる基準は四冊というのがあったが、今ではそんなこともない。
 段々に消えていく女主人公、『薬指の標本』などと似たような造り。こちらは長篇。日本人作家の長篇を読むのは久し振りの気がする。俳句や詩などの短いものばかり触れて来たから、やや厚めの文庫本を読み終えるのは途方もなく時間がかかる事の気がしたけれど、サラサラ流れる文章を読み進めるには苦労がなかった。生理的に受け付けない部分も今回は少ない。
 時折何かが消滅していく島。ある朝消滅はやってきて、人は消えたものを見ても触れてもそのものに関する記憶や思い出が何も浮かんでこなくなる。木の実が消滅した時は島の木々から一斉に木の実が落ち、カレンダーが消滅すると冬のまま季節が変わらなくなる。そんな島に暮らす女性小説家が主人公。彼女が書くのは声を失うタイピストの物語。小説を読む人は少ない島だが、何かが失われる物語が好まれる。





 小説を読まない人に小説を渡しても思うとおりの反応は返ってこないよね、というのではなく。素直な気持ちを言葉に出せるおじいさんと小さい頃からの付き合いがあった主人公。亡くなった両親よりも彼との交流の方が深い。ただ一読者として男の目として見れば、あまりに無害でいい人過ぎて嘘臭くて好きになれないじいさんだけれど。それは関係ない。
 新たな消失が生まれると、「記憶狩り」と呼ばれる連中が消失したものに関するものを片っ端から集め、焼き捨てる。島の住民の中には記憶を全く無くさない(無くせない)人も居て、彼らは強制連行され、その先は誰も知らない。
 この「消失」の仕組みが分かりそうで分からない。例えば「犬」という文字を見て走り回ったり尻尾振ったりじゃれついてきたりする犬を想像出来るのは、私達が犬に関する記憶や経験があるからだ。犬を見たことも触れたこともない子供や、言語の異なる国の人に「犬」という文字を見せても彼らは私達が思うような想像は出来ない。大体そういうことなんだろうとは思う。しかし、おじいさんはとっくの昔に消失したはずのフェリーに住んでいるし、それが記憶狩りに破壊されることもない。鳥が消失しても空を飛び回るものはいる。物語の大きな流れの中では小さなことなのだけれど。
 主人公担当の編集者も記憶を無くせない人で、彼女の家の隠れ家に匿うことになる。解説で触れられていたが、この生活が『アンネの日記』に似ている。この小説を書き上げた後、小川洋子は『アンネの日記』の舞台に旅立ち、『アンネ・フランクの記憶』という本を著した。こういった名作には子供の頃に触れておくべきだったな、とまた思う。
 始めから最後まで消失に関する事ばかりの物語。かといって暗さ哀しさに溢れているわけでもない。読後感で一つ哀しいのは、描かれた物語をなぞるように、この話に関する記憶が自分の中から溶け出して消えて行くような感覚に襲われていること。この本に限らず、いちいち感想を書くとその本に関して一始末済んだようで、どんどん記憶は薄れていく。普段はそれを気に留めない。
 無くしたものには出来るだけ気付かない方がいいんだ。


講談社文庫 1999年





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Last updated  2004/11/14 12:02:25 PM
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