外伝~イエルカ興国譚3



 意識を失う直前、スクナヒコの眼前に渦巻く水と、風の様な「光の楯」が発現したのが見えました。そしてスクナヒコの体は、まるで瞬間移動する様に消えました。

 ふと気がつくとスクナヒコはまばゆい光の中で目を覚ましました。

 そこはハレーションを起こしたような白光に包まれ、目に映る全てのものにソフトフォーカスがかかっている、暖かく不思議なやすらぎを感じる空間でした。

(そうか、俺はあの怪物に吹っ飛ばされてそれから・・・随分あっけない最期だったな・・・。街のみんなはどうしただろう?ジョカさんは仲間に逢えたのかな?)

 すると、美しいサックスブルーの体と、極彩色の甲羅を持つ「玄武」の様な竜が現れだんだん近づいてきて、透き通った水色のブレスをスクナヒコにかけ、次第に遠ざかって行きました。すると急に眠くなり、スクナヒコは再び意識を失いました。

 次に目覚めると、スクナヒコは白い羽毛に覆われた「ルドラ」という名の翼竜になっていました。隣には一回り小さな淡い薄紅色の羽毛を持つ翼竜がいて、毛繕いをしてくれています。

 どうやら自分はこのメスの翼竜とつがいの様です。

 地球に比べ、ちょっと薄暗い空と、濃い大気に包まれた星の、果てしなく続く密林の中で暮らしている様です。

 やがてこのつがいは密林の中でも群を抜いて大きい「世界樹」と呼ばれる巨木に営巣し、巣では2羽の可愛い雛が狩りに出かけた父母の帰りを待つ様になりました。

 ある日、「世界樹」の近くで山火事が起こり、火は勢いを増して「世界樹」に迫って来ました。

 「おい!お前さんも早く逃げろ!」と、誰かが叫んでいます。自分達より大柄なワイバーンもラプトル達も次々と逃げて行きます。

 自分達だけなら飛んで逃げればいい。でも雛達はまだ飛ぶことができません。

 小さな翼竜は「このままでは雛達が危ない・・・何とかしなければ・・・」と、火の上空を旋回していました。

 その時翼竜は、古老から聞いた「天竜の降雨術」を思い出しました。
 そして高く羽ばたいては翼を畳んで炎に向かって急降下・・・を何度も何度も繰り返しました。

 通りすがりのワイバーンが「何やってんだ!煽ったら火が強くなるじゃねえか!」と怒鳴って行きました。

 ラプトル達が「どこのアホだあいつは!」と、遠巻きに眺めながら呟いています。

 しかし、小さな翼竜は愚直な迄に、何度も、何度も急上昇と急降下を繰り返しています。

 そしてついに翼竜は遷音速度に達し、体の前方に小さなレンズの様な雲が興りました。そして次の瞬間、翼竜は激しい炸裂音とともに音速の壁を突き破っていました。

 翼竜が通り抜けた後には小さな雨雲が現れ、小雨が降り始めました。

 「やった!」と周囲の誰もが思った次の瞬間、翼竜は前方の巨木に激突し地面に転がり落ちてしまいました。一種の達成感によって我を忘れた一瞬の気の緩みから上昇が遅れたのです。

 ギャラリー達から悲鳴があがりました。

 首も翼も骨が折れている様で、翼竜は激痛で動くことができません。

「火は・・・?雛達は・・・!?」 

 しかし無情にも小さな翼が起こした雨雲は僅かに小雨を降らせただけで消えてしまい、山火事を消し止める程の力を持ってはいませんでした。

 翼竜が「無念・・・」と思ったその時です。

 一天俄にかき曇り、やがて激しい雷鳴とともに滝の様な激しい豪雨が降り注ぎ、火は瞬く間に鎮火しました。

 薄紅色の羽根を纏った翼竜が飛んで来ました。ワイバーンやラプトル達も降りて来て、翼竜に、「貴方、雛達は無事よ!しっかりして!」「おい!しっかりしろ!聞こえるか?」と呼びかけました。

 意識が薄れ行く中、小さな翼竜の目には大空を舞う巨大な翼竜の姿が映っていました。
 巨大翼竜は目に微笑みを湛え、「勇者ルドラ、貴殿の想いに応え、お前の魂を継ぐ者を未来永劫守り続けよう」と翼竜の心に語りかけて来ました。

 小さな翼竜が「貴方はどなたですか?」とうわごとの様に問いかけると翼竜は「リンドブルム」と答えました。

「誰と話してるんだ?大丈夫か?」「幻覚が見えてるんだ・・・(--;)まずいな・・・」

 皆の目にリンドブルムの姿は見えていない様です。小さな翼竜は雛達の無事を聞き届けると、短い生涯を終えました。

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 「勇者ルドラよ、お前の魂を継ぐ者を未来永劫守り続けよう」というリンドブルムの声が再び遠くから聞こえてた様な気がしました。

 スクナヒコが眠りから目覚めると、ジョカが心配そうにスクナヒコの顔を覗き込んでいました。

スクナヒコ:あれ、ジョカさん・・・?

ジョカ:ああ、よかった!(T^T)・・・サリエス様!スクナヒコ様の意識が戻り
    ました。

サリエス:よかった!!どこか痛みますか?

 スクナヒコはまだボーッとしています。どうやらここは神殿の地下室の様です。

スクナヒコ:(あれ、ここはどこだ?・・・俺は一体・・・?あの夢は何だっ
      たんだろう?)

 起き上がろうとするスクナヒコをサリエスが「まだ起きない方がいい」と制しました。
 イツァークが持参した「武神の鎧」は黄金の鎧に見せかけた、表に体裁のいい金紙、裏にレンガ状の石材を貼り付けたブリキの鎧でした。胸の部分にはぽっかりと大きな穴が開いていたそうです。

サリエス:動きの早い怪物と闘わねばならない貴方にこんなものを装着したと
     いうことは「死ね」と言っているとしか思えません。彼奴は一体何
     を考えているのか・・・(▼▼メ) それにしてもあの鎧の破損からは
     考えられない程の軽傷です。これは奇蹟としか言いようがありませ
     ん。・・・それに、あの山の中腹で闘っていた筈のあなたが、なぜ
     麓の湖畔で倒れていたのか・・・不思議です。

スクナヒコ:ああ、それなんですけどね・・・、あの怪物の怪光線に撃たれた
      と思った瞬間に、水と風が渦巻いている様な「光の楯」が見えた
      んです。そしてですね・・・かくかくしかじか・・・という訳な
      んです。

ジョカ:ええっ!?それは「大海王ミズガルドオルム」です。ミズガルドオル
    ムは水を自在に操る竜です。きっと指輪の御加護があったんですね!
    良かった~・・・。(ノ_<。)

スクナヒコ:はい、お陰様で命拾いしました。ありがとうございました。

ジョカ:でも、風の渦はミズガルドオルムの力ではないと思います。リンドブ
    ルム・・・?何なんでしょう、風を操る竜なんでしょうか?

スクナヒコ:何かですね、夢を見たんですよ。

 スクナヒコはジョカとサリエスに、イツァークが語った彼らの神「アンラ・マンユ」とその血を引く「アヌンナキ」、3柱神の子孫である「ディンギル」への憎悪・・・不思議な空間と自分が翼竜だった時の夢を話しました。

サリエス:イツァークは皆に貴方が死んだと触れ回っています。皆に貴方が生
     きていることを伝えないと“恭順派”は益々勢いを増すでしょう。

スクナヒコは:いえ、死んだことになっている方が好都合です。この傷が癒え
       たら、たっぷり礼もしなければいけませんし・・・。

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 スクナヒコが吹っ飛ばされて間もなく、ユートムの周囲は雨期が明けたというのに激しい雷雨に見舞われ、雷雨も2週間続きました。

 雷雨の影響なのか真夏には珍しく涼しい日が続き、アンラ・マンユ(捕食者)も、アヌンナキ(恭順派)達もなりを潜めていましたが、スクナヒコが姿を消して2週間ほど経った頃、猿の仮面を被った集団が「恭順派」の家を各個撃破して回るようになり、後には左目の無くなった家主の遺体が遺され、遺体の側では目玉大の小人が青黒い液体を吐いて死んでいました。

 それが「捕食者」の正体と知るものは、街の中にはまだ誰もいませんでした。

 猿の仮面の集団を除いては・・・。

つづく







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