VALKYRIE





 君に初めて気付いたのは2002年5月の始め頃だったろうか・・・。
外で猫の争う声と、複数の足音。見れば中庭の覇権争いでトラに敗れた巨大ウシネコと、その半分にも満たない小さな身体で激しく争っている、まるで神話から抜け出た妖精の様な君。
 私の存在に気付いたのか、何度も立ち止まっては振り返り、逃げて行った君。君の淡い碧色の瞳を見た時、運命の出会いを感じた。
 こんな竜虎相撃つ様な世界に君は相応しくない、できることなら保護してあげたい。でも人を見れば逃げてしまう君。それは儚い夢の様に思われた。
 そして5月28日、(なぜか運命の猫はこの日にやってくる)庭掃除をしていた妻が声を押し殺して呼んでいる。
「ねえ!残ってたサ○エンス・ダ○エット持って来て!静かにね・・・。」
 外に出てみると、3mの距離でこちらを伺っている君、(O.O;)前よりかなり痩せて、戦士の眼になっている様だ・・・。この頃はその風貌から「ノルちゃん」って呼んでたよね。
 相当にお腹が空いていたんだろうか、警戒していた君は匍匐前進で素早く近寄って来た。でも逃げ道の確保も忘れてはいない。
 上目遣いに私達を気にしながらも一気にトラの一食分をペロっと平らげた君は何処ともなく去って行った。
 こっちは興奮冷めやらない。あの「ノルちゃん」がウチでゴハンを食べていったんだから・・・。
 この日から君は、我が家の広縁に続く物置小屋、通称「なめくじ横丁」の通い猫になった。                    (続く)


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