花夢島~Flower Dream Island~

花夢島~Flower Dream Island~

9~近づく距離~


 理由は勿論誕生日パーティーをするため、らしい。それは構わないのだが、ある問題が浮上する。それは寮が女子寮であって男子禁制だということだ。本来ならば2人に来て貰えれば一番楽なのだが、明緋さんの誕生日パーティーをするのだから来て貰うのはどこか可笑しいだろうというよく分からない麻衣ねえの持論により寮でパーティーを行う事は譲れないらしい。
 ならば俺はどうするのか。それを訊ねてみた所、そんな問題は2人にとってはとっくに看破されていたらしい。
「大丈夫ですよ。湊くんなら女装すればばれませんから」
「うんうん。言っちゃえば本当の女の子よりも絶対可愛いもん」
 と、俺が女装することは完全に決定していたらしい。
 そして、夏の日差しが最も強くなる頃、クーラーの聞いた部屋で俺は2人のオモチャにされていた。
「やっぱり湊くんには白と黒のフリルが似合うと思うんですよ」
「いやいや、やっぱりピンク色のノースリーブのこの服の方が――」
 2人は俺に合いそうな服を討論してくれているが、正直ありがたいとは全然思わない。
「湊くんはどっちがいいですか?」
 突然麻衣ねえが俺に決断を委ねてきた。2人だけじゃ永遠に決まらないと悟ったのだろう。
 俺は麻衣ねえと芽衣が持っている服を交互に見る。正直どちらも御免被りたい服だった。
「てか、何でズボンじゃなくてスカートを選ぶ!ズボン穿かせてよ!」
 そうだ。別にズボンを穿いたって問題ないだろ。女子だって普通に穿いてるし。
「だって、ねぇ」
「ですよねぇ」
 2人は互いの顔を見合い点頭く。一体何が彼女たちをそこまで駆り立てるのだろうか。
「取り合えずズボンはジーパンで上はTシャツか何かで――」
「ダメですっ」
「ダメだよ、そんなの」
 俺の提案兼願望は一瞬にして2人に一蹴された。完全に2人の世界に入ってしまった目の前の少女たちを俺は渋々と諦めの念を篭めながら見つめた。
 そして、そこから更に30分ほど経った辺りで漸く意見が一致したのか熱い討論大会を終えて俺にその服を差し出してきた。
 その服は、明らかに高校生が着る物ではなかった。それは俗に言う園児服というものなのだろうか。水色のソレに藍色のミニスカート。ご丁寧に黄色い帽子まで用意されていた。
「ねぇ……一体どうしてこんな服があるのかな……?」
 これはさすがにスルーして通れない道だ。園児の頃の服がまだ残っているならまだしも、コレは明らかにサイズが違う。本気で麻衣ねえの趣味趣向が妖しくなってきた。
「それは、その……学校でプレゼントされたんです。知らない男の人でしたけど」
 麻衣ねえ、少しは断ることも知った方がいいと思う……こんな物渡されても困るだけだろ……
「まあでも今こうして使い道ができたわけだしいいんじゃない?」
「いや、使い道できてないから」
 メイド服の時は何とか堪えられたが、さすがにコレは俺の精神が絶対に持たない。罷り間違ってこんな服を着た姿を知人に見られたら――ってこれからその知人の所に行く訳か。
 だったら尚更着れるわけがない。
(湊さんだったら似合うと思いますけど)
 俺が脳内で必至に諍っていると久々に湊(ミナト)さんが話し掛けてきた。
(いやいやいやいや。似合う訳がありませんし仮に似合うとしても絶対に着れませんから)
(じゃあ、無理矢理にでも――)
 湊(ミナト)さんがそう言った時、俺は何かが剥離するのを感じる。視界が一瞬光に染まり、それも暫くして収まった。
(一体、今のは……)
 そう口に出そうとして、それが出来ていないことに気がつく。
(少しの間だけ、お体借りますっ)
 湊(ミナト)さんのその言葉で何と無く理解する。湊(ミナト)さんは俺の身体を乗っ取ったのだろう。やはり変な感じがする。重力と言う物をまるで感じないし身体がとても軽い。湊(ミナト)さんも普段はこんな感じなんだろう。湊(ミナト)さんに限ってずっと身体を乗っ取ったままとは考えにくいし、今は開き直ってこの奇妙な感じを楽しむとしよう。
 目の前の光景は抜きにして……



「やっぱり似合いますねー」
 麻衣ねえが俺をマジマジと見つめながらそんな感想を口に出した。
「湊って男物の服はあんまり似合わないくせにこういう服になると異常なほどに似合うよねぇ」
 芽衣もニヤニヤしながら俺を見た。
「お願いだから似合うとか言わないで……こんな服似合いたくもない」
 園児服の似合う男子高校生なんて洒落にならない。多分2人ともどんびきするんじゃないかなぁ……
 だが、俺のそんな予想は悉く外れてくれた。
 俺(たち)は道行く人の冷たい視線や妙に熱い視線を同時に浴びながら明緋さん達の住んでいる女子寮へと到達。そして、やはり中で擦違う女生徒のイタイ視線を浴び、顔を真っ赤にし俯きながら2人の後についていき、2人の部屋に入る。
「……………」
 それとほぼ同時に2人の驚きを表す沈黙が流れた。
「麻衣、さん……?その服は、一体……」
 その沈黙を最初に破ったのは明緋さんだった。何故か肩をふるふると震わせながら俺を指差して聞いてきた。
「人を指差すなよ……」
 俺の苦情虚しく、
「どうです?すっごく似合ってるでしょうっ!」
 麻衣ねえのその自信満々といった笑みから繰り広げられるハイテンションな言葉に掻き消された。
「似合ってるなんて、そんなレベルじゃありませんわッ!!これはもう服と湊さんが一体化しているとしか考えられません!!!」
「おいコラ、あーたは何を言っているか」
 一体化とか、どこまでこの服着こなせてんだよ、俺……
「やっぱり、湊さんって女の子なのでは……」
 亞姫菜さんの言葉はクるから無視しておこう。多分全部受けてたら参ってしまいそうだ。
(ふふ、湊くん幼稚園児~)
 こっちはこっちで何故か浮かれてるし。
「でも本当に似合いすぎて私たちも最初は絶句したもんね~」
 さらには芽衣が更に混乱を巻き起こしそうな台詞をッ!?
「はい。もう違和感無さ過ぎて感動してしまいました」
「麻衣ねえもそんなんで感動しなくていい!そしてこの服に関する話題は終了!!」
 俺はこの話を打ち切りにしたかったが、その後の芽衣の、
「喜んでこの服着てたくせに」
 と言う爆弾発言と共に更に場は盛り上がり、それが収まるのに結構な時間を要した。



「じゃあ、気を取り直して――」
 そして、ほとぼりも冷めた頃、漸く本来の目的を思い出し、芽衣が音頭をとる。
「ハルちゃん、誕生日オメデトーっ!!!」
 芽衣が両手を挙げて飛び跳ねる。こういう姿を見ると姿相応の行動だなぁと思う。
 俺たち3人も芽衣に倣って明緋さんへと祝福の言葉を投げかける。そして、芽衣のハイテンションを保ったままプレゼント渡しへと流れていく。
 麻衣、芽衣、亞姫菜さんの順にプレゼントを渡していく。その度に喜ぶ顔を見せている。さすが長くいるだけあって趣味をわかっていると言うか、俺なんかが選んだプレゼントで喜んで貰えるのか不安になってきた。
「えと、はい。これが俺からのプレゼントだよ」
 俺は黄色いリボンに包まれた箱を差し出す。それを受け取った明緋さんはその中身を見て突然固まった。
 その肩がプルプル震えている。
「えっ、あ、もしかして気に入らなかった……?」
 不安になり誰かに助力を仰ぎたいと願い3人の方を向く。だが、3人ともゆっくりと首を振る。なるほど、つまりコレは修羅場と言うものなのか?そうなのかッ?!
(そんな分析してる場合じゃないと思いますけど……)
 湊(ミナト)さんの一言で我に返った。俺は未だそこに佇立する明緋さんに声をかけようとにじり寄る。
 それと同時に明緋さんが声を洩らした。
「そ、湊……どうして、これを選んだの……?」
 その声に怒りや悲しみなどの負の感情は感じられず、ひとまず安心できた。
「えと、何と無く明緋さんが好きそうだなぁって思って」
 あの日芽衣に先に帰られたために一人で明緋さんの誕生日プレゼントを選んで彷徨していた。そして、何件目かで何と無く目に入ったショーケースの中のピンク色のウサギのぬいぐるみ。何故かそれと明緋さんの姿が重なって、俺はソレを選んだ。その代わりに懐は寂しくなったが……
「湊っ!」
 先ほどまで数歩先にいた明緋さんが俺の目の前にいた。そして、勢いをそのままに俺に抱きついてくる。
「―――ッ!!!」
 そして、芽衣と麻衣ねえから驚嘆の声が洩れた。
「え、は、明緋……さん?」
 一体どうしたと言うんだ。急に抱きついてくるなんて彼女らしくない。
「見つけましたわ……私の運命の、人……」
「は?」
 意味不明すぎて思わず声を洩らしてしまった。だけど真面目に意味が分からない。何でウサギのぬいぐるみプレゼントしただけでこんな……
 俺は再び3人の方を見た。亞姫菜さんは前にも見たような驚き顔で硬直。麻衣ねえと芽衣は――生きた心地のしない顔をしていた。 
「湊様……」
 艶やかな眸で俺を見つめる明緋さんに俺は不覚にも少しドキッとした。
 それにしても、このままでいる訳にも行かず、俺は明緋さんを離そうと頼んでみる。
「明緋さん、そろそろ離れてくれないと何を仕出かすか分からない人が若干2名ほどいるんですが……」
 先ほどまで生気を失った顔をしていたくせに何故かさっき見たら嫉妬に塗れた表情をしていた。
 明緋さんもその2人の方を見ると納得してくれたのだろう。後ろに回されていた手がゆっくりと離れていく。
 そのまま離れるかと思いきや明緋さんは俺の耳元でお願い事をしてきた。
「これからは、私の事呼び捨てでいいですわ」
 蕩けるような甘い声。俺はその心地好さに思わずハイ、と言っていた。 




 数多の問題を乗り越え――た訳でもないのだが――俺たちは夏とはいえさすがに暗くなった帰路を辿っていた。女の子2人に挟まれているのに何故か今は嬉しくないという不思議な状況。てか気まず過ぎてここから逃げたい……
「じーーっ」
 先程から何か微妙な視線を左右から浴びさせられている。
「えと、2人とも、何?」
 いい加減抛っておくのもアレな感じがしたので訊くことにした。
「湊くん、明緋さんのことを好きになった、なんてことは……」
 やっぱりこの話題か……予想はしていたがさすがに一日に同じ議題を何度も繰り返されるのは疲れる……
「いや、大丈夫だよ」
 俺は心で可愛いとは思うけど、と付け足した。今日始めてみた心から笑う笑顔には正直心を揺さ振られた。
(そう言うのは大丈夫じゃないって言うんですよ)
 コイツはまた的確なツッコミを……
(大丈夫だって。多分俺が麻衣ねえや芽衣に抱いているものには到底及ばないから)
 湊(ミナト)さんに適当に辨明をし、2人に言う。
「まだ俺には選ぶ事はできないけど、俺が好きなのは2人だけだから」
 言っていてむず痒さを感じた。だが、それ以上にジレンマが俺を大きく悩ませる。
(選ばない訳にはいかないんだよなぁ)
 もう後には引けない。だが俺は2人のどちらの悲しむ表情を見たくない。
(一体どうしろってんだ……)
 2人との会話を楽しみながら、水面下で俺は板挟みに苛まされていた。


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