2003年 揚雲雀俳句作品抄

平成15年揚雲雀作品抄

秋りんや納屋に据ゑたる莚機
母の忌の僧の衣にいぼむしり
火口湖のケルンに睦む秋あかね
手打蕎麦出て鎌祝い果てにけり
写生子の川原に散れり赤のまま
◎海昏れて番屋の明り年忘
撫子の岸に舫ひし手漕ぎ舟
重ね置く鉢にこほろぎ鳴きだせり
 留守の家の敷居に太き青蜥蜴
濁流の堰を溢るる墓参かな
神杉にひびく厄日の護摩太鼓
◎観察の夏蚕に名前つけて飼ふ
柿の木にまた新たなる蝉の声
削ぎ落す皮の薄さの新牛蒡
七浜に霧笛のひびく合歓の花
キャンプ張る潮の香強き小松原
滝床に木漏れ日揺るる岩煙草
◎日を返へす武蔵の二刀菊人形
だし抜けに牛の啼き声蛍狩
山百合の蕊つけて来し榊取り
枇杷の枝手折りて来る見舞客
田を上がり井戸水浴ぶる裸かな
木鋏の音をちこちに梅雨晴間
北洋船発ちし港や秋つばめ
夏の蝶地蔵に照りし堰の水
田植祭畦に塩盛り幣たてる
植ゑられし早苗たちまちそよぎけり
青葉闇俵に乗りし男神
渓谷に鎖の梯子鴨足草
昼酒の肴におろす夏大根
誰かれの面影に逢ふ盆の道
落椿掃かず心平生家守る
歌詠みの手帳を腰に田を打てり
桑畑の下の細江や春の鴨
浜の子の課外授業や海蘿掻く
梨受粉青きボタ山まなかひに
黒潮や噎せつつ啜る心太
摘草の刃物ひそませ吟行す
名草の芽こぞりし家に退院す
木の芽晴癒えて仔犬と戯れり
大杉に注連張る寺や蝮草
雀の巣節穴多き藁小屋に
老鶯やをんなひとりの畑仕事
着ぶくれて主治医を囲む夜の廊
差し替へる点滴の針春寒し
青き踏む土竜の径を蹴ちらして
円墳の頂きに松初雲雀
植木の荷門前濡らす春祭
早蕨や荒るるがままの山の畑
看護師の太き二の腕衣更
散乱の鳥の和毛や枯木山
みたらしの竜頭の口の氷柱かな
風折れの杉の枝刺さる厚氷
注連はらる弘法水に千羽鶴
凍大根牛鳴く里の家ごとに
師の句碑を読みあげている冬日向
呉服屋の奥の石蔵藤の花
柚子風呂に胼胝もんでゐる刀鍛冶
薮柑子僧の雪駄の白鼻緒
お降りや藍色ふかむ庭の石
歳晩や鋸屑とばす車海老
小鳥の餌撒き霜柱崩しけり
◎山笑ふ山羊の初乳のほとばしり
◎山羊の杭冬青草へ移しけり
冬薔薇血管さぐる注射針
出し抜けに木の実爆ぜたる落葉焚き
紙漉きの氏神走る嫁ケ君
栗鼠跳びし枝ゆれてゐる初詣
初鴉波の残せる昆布つつく
廃屋の引き水鳴れり蕗の薹
新藁を牧より戻る牛に敷く
駐在の庭にもみづる箒草
小鳥来るつるはし担ぐ坑夫像
鳶の笛北上川の萱刈りに
短日やどさりと置かる薬の荷
竹林の風のきしみや鵙高音
初鶏や起きだしてきし男衆


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