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W`Dな男達 5・6
~~~ 『W’Dな男達』 ~~~
~~~ 『W‘Dな男達』 act5 ~~~
★偶然は交差に過ぎないが、宿命は引き合う磁力を宿している。
「ってわけで、現在、求職中だったわけ」
開き直って、この2年の己の軌跡を語って聞かせる。
本当なら・・・少々、情けないような経歴を語るのは癪に障るのだ。
出来ればきちんと過ごせていける事を知らせたかったから。
が、自分も少しは成長した。
つまらぬ見栄や意地で、虚像に塗りこまれた強がりをつく程ではない。
そんな事をしても、自分が悔やむだけ出し、この二人相手では
そんな嘘も直ぐにばれてしまうのだ。
なら、素直に、正直に話すのが1番。
そう開き直って話だ出せば、憎たらしい事にこの目の前の久しぶりに男は
先程から肩を震わせ、時折、噴出すのを堪えたりと途轍もなく失礼な態度を見せてくる。
「・・・・・・あんた、喧嘩売ってんの?」
ドスの効かせた声で凄むように言ってやっても、言われた当人には効きやしない。
「いや・・・。別に喧嘩は売ってるつもりはないが」
抑えるように表情を歪めているのは――― 堪えた笑いの所為だろう。
「――― 失礼。
まぁ、何と言うか・・・君らしいなっとね」
漸く笑いを噛み殺せたらしいロイが、そう完結に感想を述べた。
「ほっとけ! どうせ俺は錬金オタクで研究マニアだよ!
・・・・・しゃぁないだろ、これは性分なんだからさ」
物心ついた頃には、既に錬金術の世界に興味を持っていた。
何を特別指南され、教えられたわけでもないのに、呼吸をするように自然に
錬金術を使えるようになった自分は、多分、DNAの中に錬金術が組み込まれて
生まれたのだろう。
が・・・、それはこの目の前の男も、多分同様だろう。
それが証拠に、愉快そうに浮かべられる表情の中に、侮蔑や飽きれは見えない。
だからこそ・・・、正直に話しても大丈夫だろうと言う気になったのだろう。
「しかし・・・、それ程拘ってしまうなら、企業などの決まった研究をする道より、
個人の所属の研究所や家に入るほうが、多少はやりやすかったんじゃないのか?」
そう素朴に聞いてくるロイに、エドワードも渋々頷き返す。
「まぁそれは・・・確かにな。
俺もそっちを全く考えなかったわけじゃないけど・・・それだと、後々面倒臭そうな事に
なりそうで・・さ」
「面倒?」
怪訝そうな表情を浮かべるロイに、エドワードは曖昧な笑いを作って返す。
「まぁ、色々とな」
細かく話さずに言葉を濁すに留める。
そんなエドワードの態度に、深く追求する事はせずに、ロイは「成る程」と頷いて
その話を終わらせた。
ホークアイはそんな二人の会話に口を挟む事無く、黙って耳を傾けて静観していた。
ちなみにこの三人が話をしている場所は、ロイ達が乗ってきた軍用車の中だ。
妙な再開の場面から、「今までどうしてたんだ?」や「どうしてここに?」という流れに
なったのは普通だ。本来ならそこで、まぁ中に入ってとなるのだろうが、
それは誰も提案する者もなく、有ったとしても誰も賛同しなかっただろう。
なので結局、立ち話も何だと、アリーが色々と連絡を取りに行っている最中に
三人は車の中で互いの近況を交換するに至ったのだ。
さすが軍の高官用の軍用車、内密な話をするのにも適している造りは密室と変わらない。
8人は余裕で座れ、ちょっとしたミーティングも出来るに違いない。
再開した時と違い、話に華を咲かせているのはロイとエドワードだけで、
どうした事か、ここに入ってエドワードの話を聞きだした頃から
ホークアイは始終沈黙を守り、エドワードの話に耳を傾けているだけになる。
話に熱中している両者には、そんな彼女の態度の変わりぶりは気付けてはいなかったが。
ホークアイが沈黙の中、自分の思考を巡らせている目の前で、
二人の話題は、次はロイの事に移って行ってるようだった。
「あんた、どんだけ不精なんだよ」
呆れ半分、からかい半分のエドワードの言葉にロイが必死に反論を試みている。
「仕方ないだろ! 週に一度帰れればいい程度の家に、そうそう時間をかける暇があるものか」
そのロイの言葉に、エドワードは意地悪げな笑みを貼り付けたまま言い返す。
「へぇ~? それって、ただあそこに帰るのが嫌だから帰んないんじゃない?」
エドワードの的を得た指摘にロイが鼻白む。
「・・・・・そんなことは・・・」
「そっかぁ? 最初の頃は帰ってたか、今ほど稀でも無かったんじゃない?」
「――― 君のその推測はどこから引っ張り出したものなんだ?」
ムッとした表情でロイが追求すると、エドワードはあっさりと返す。
「さっきちらりと玄関覗いたけどさ。
結構な数の靴とか軍靴があったぜ? あれ、新品じゃさなそうだから、一応
そんだけの数になるまでは帰ってるって事だろ」
胸の前で腕を組んで、どうだとばかりに言い切るエドワードに、ロイはちっと舌打ちでも
しそうな表情になる。
エドワードの洞察・観察眼は並じゃない。しかも、見たものから推測する事に長けた
優秀な頭脳も兼ね備えている。となると、彼が弾き出した答えは、ほぼ正解に近いものに
なるのだ。
「あんたも大概、家事能力が欠如してるよなぁ~。
あそこまで出来る人間は、そうはいないぜ。
金だけはあるんだから、さっさと業者入れるとかしてクリーニングかけたら?」
「・・・・・業者くらい頼んだことはある」
そのロイの言葉に、エドワードは成る程と大きく頷いて、独り善がりに納得している様子を示す。
「何だね、その目線は?」
「いや、別にぃー。
あっちこっち資料や文献を置いておくからだぜ?
俺らに価値があっても、わかんない奴には汚たねえ古本にしか見えないんだからさ」
そのエドワードの見てきたような言葉に、ロイがぎょっとなって問い返す。
「君!? 何故それを知ってるんだ?
まさか―――見てたのか!?」
驚きのあまり、そんな途方も無い想像を働かせてしまう。
「・・・んなわけないだろ。
多分あんたの事だ。そんな事だろうと思っただけ。
大方その業者も、腹立てたあんたが追い返したんじゃない?」
「・・・・・」
エドワードの見事な推理に、ロイは言葉を無くす。
これ以上は何を言い返しても、逆に暴露して行くようなものだと悟ったのだった。
「典型的な家事能力皆無な人間だよなぁ」
としみじみ呟くエドワードに、ロイが負け惜しみを出して。
「そこまで言うか?
君だって大方アルフォンス君にやらせている口だろうが」
と言い返すが、それにエドワードは勝ち誇った笑みを浮かべる。
「残念でした。俺らは師匠にみっちり家事を叩き込まれてるんだよ!
料理から洗濯炊事まで、何でもござれだ。
ちなみに裁縫も出来る!」
胸を張って返された言葉のないように、ロイが悔しそうに顔を歪ませるのを
エドワードは愉快そうに表情を緩めた。
が、やはり相手も負けてはおらず、瞳を閃かせたと思ったら切り替えしてくる。
「ふん。そう言う君も、社会不適合な性格では?」
ふんと鼻で哂って言えば、エドワードが食って掛かってくる。
どちらもどっこいどっこいな生き方だろうに・・・。
そんなやり取りを呆れて眺めていれば、車窓をコツコツと控えめに叩くアリーの姿が見えた。
「閣下、少々席を外させて頂きます」
と一応礼儀正しく声を掛けては見たが、低レベルな争いに熱中している二人は関知して
いないようだった。
さっさと車を降りて扉を閉めると、アリーの報告を受ける。
「どうだった?」
「はい。やはり人違いで、推薦の人物は・・・年齢68歳の男性でした」
そのアリーの説明に、ホークアイは何とも言えない嘆息を吐く。
自分の呆れた勘違いを責められた気がしたアリーが肩を竦めるのに、気付いたホークアイが
ゆっくりと首を横に振る。
「あなたの事を責めてるわけじゃないわ。
――― そんな高齢な人物では、あの邸は負担だろう・・・とね」
そのホークアイの説明に、アリーも成る程と頷くき、報告の続きを話し出す。
「で、協会の方に連絡が入っていたんですが、面接の本人、エドウィン・アビック氏は
寝過ごして中央外れの車庫まで行った模様です。
戻るのは早くても明日になるかと・・・」
「・・・・・そう」
暢気そうな人柄に、二人とも音無い吐息を吐いた。
「――――― それと、エドワードさん何ですが、こちらから問い合わせしてみたところ、
担当者の方が、先ごろのテロ騒ぎで列車の運行が止まり、現在別ルートで急いでる最中だそうです。
企業の方から急ぎ別の担当者に迎えに行かせるので、エドワードさんの居場所を教えて欲しいと」
どういった運命の作為か、妙な巡り合わせが今回のこの状況を引き起こしたらしい。
ホークアイは暫し思考し、ちらりと車内の二人の方に視線を流す。
遮光硝子では中の様子は窺えないが、今も他愛無い低レベルな言い合いを披露しているのだろう。
黙り込んだホークアイの様子を、アリーは不審そうに見守っている。
自分のミスは大きかったが、どちらにしろ面接者は着いていなかったのが判っただけでも
少しばかりほっとした。
やはり自分には、この任務は重すぎたのだ・・・としみじみ実感しながら。
暫しホークアイを見つめて立っていると、彼女が小さく頷いてアリーに視線を向けてきた。
「アリー」
「はい」
決意のついた声音で呼ばれ、アリーは次の指示を待つ。
「協会には、――― 申し訳ないのだけど、今回のお話は断る旨を。
かかった費用等は、こちらで支払うので請求してもらって下さい」
「・・・お断りですか・・・?」
「ええ。
それと、・・・・・エドワード君の件は、そうね。当人から連絡をさせますので、
それまで待って頂けるように伝えて」
「判りました」
用件をアリーに伝えると、ホークアイは車中に戻る為に扉に手を掛ける。
開けて入ってみれば、良く飽きないものだと感心させられる言い合いが続けられていた。
そこに・・・。
「ご歓談中に申し訳ありませんが」
凛とした声で二人の会話を中断させると、不毛な争いはすぐに終結し
4つの目がホークアイに集中してくる。
それを確認して、ホークアイは話し始める。
「時間も然程余裕がありません。と言うか、だいぶんおしてもおりますので、
私からの提案を1つ聞いていただけますか?」
否定を許さぬ強い言葉に圧された様に、二人は慌てて首を縦に振ってくる。
それに満足したように大きく1つ頷いて、話し始める。
「まずは・・・閣下」
先に上げられた呼び名に、ロイの腰が引ける。
「なっ、何かな・・・?」
「協会に連絡を致しましたが、面接本人者は別の場所にいるとの事で
本日中に面会が出来ない事となりました」
身構えていたロイが、目にも明らかにほっとした様子を見せる。
「・・・ああ、その件か。
――― 別に急ぐ事でもない。構わないんじゃないか?」
元々気乗りしなかった事だけあって、ロイの態度はあっさりとゆう以上に
興味も関心も無さそうな態度だ。
「はい、私の独断ですが、協会の方はお断りさせて頂きました」
ホークアイの言葉にロイが少々意外そうな表情を浮かべはするが、
特に反対する気もないのか、「判った」と返すだけで終わる。
「で、次にエドワード君だけど」
急に話を振られたエドワードがキョトンとした表情で窺ってくる。
「えっ? 俺?」
「ええ。先程話を聞かせてもらってたんだけど・・・。
あなた自身、自分が望んで就職をしているようには思えないの」
「・・・・・」
彼女の鋭い指摘に、エドワードが黙り込む。
「あなたは、アルフォンス君の為に・・・、彼が無事に卒業するまでの間、
自分がちゃんと生きていける事を示したいだけじゃないかしら?
そんな姿勢では、これからどこに勤めたとして、同じ事を繰り返すだけよ?
そして、結局そんなあなたをアルフォンス君は、更に心配になるのではないかしら?」
彼女の真っ当な意見に、エドワードどころかロイまで神妙に聞いている。
「だから、個人の所属している処には勤めたくない。何故なら、人間関係が絡みやすい場所では
いずれアルフォンス君が卒業をした頃に、――― 辞めにくくなるものね」
「ホークアイ・・・大佐」
困ったように自分の見つめてくるエドワードに、優しく微笑んでやる。
「アルフォンス君は自分の進みたい道が早く見つかっただけよ。
あなたにはあなたの時間がこれからあるんだから、急く必要はないわ」
ホークアイの言葉に、エドワードは目を瞠る。
確かに自分は、・・・・・弟のように明確な未来への展望が掴めなかった。
が、そんな自分を心配する余り、アルフォンスが自分に掛けるべき時間を
エドワードに費やすのは嫌だったのだ。
弟は、もう随分時間を失ってしまった。これ以上、瑣末な事に大切な時を使っては欲しくない。
そう考えていたエドワードの事を、どうしてこの女性は気付いているのだろう。
尊敬の念を深くして、エドワードはホークアイを見つめ返す。
エドワードのその頼りなさ気な様子に、ホークアイはにっこりと笑って語る。
「で、私からの提案なんだけど・・・」
「提案?」
「ええ。エドワード君、あなた。
閣下の、マスタング大将の家に就職して頂戴」
と、聞いている者には予想の出来なかった提案を落したのだった。
「こいつの!?」「鋼のが!?」
口を揃えて驚愕の声を上げているのにも、ホークアイは動じずに淡々と話を畳み込んでいく。
「だって、家事一般修得しているし、錬金術関連はOKだし。
その上、閣下がおっしゃっていた条件の、身を守るのもクリアー出来る人材など
他に考えられますか?」
きっぱりと告げられたロイの方は、彼女の迫力にあっさりと口を閉ざす。
「それにエドワード君。閣下の家なら、あなたが興味を持つ文献も山ほどあるわよ?
後・・・そうね、欲しい文献があったら必要経費で、勿論閣下に支払って頂きますが、
購入するのを認めると言うのはどうかしら?」
魅力的な言葉に、エドワードの瞳が一瞬閃く。
きっと頭の中にある欲しい本でも思い浮かべているのだろう。
が、嬉しそうな表情は次の瞬間にはあっさりと切り替わり、プルプルと首を振り
自分の誘惑に負けそうな考えを振り落とす。
「駄目! やっぱ、それ無理!!」
断ってくるエドワードに、根気良く話しかける。
「どうしてかしら? またとない好条件だと思うけど?」
優しいとさえ思える笑みを作って話してくる彼女に惑わされないように、
エドワードは意志を固くして気合を入れる。
「こいつん家って事は・・・あそこに入らなきゃいけないんだろ?
し、しかも、勤めるってことは――― 俺があの惨状を?
ぜ・・・絶対、無理! ってか、嫌!!!!!」
とんでもないと首を振って断るエドワードの様子に、ロイは複雑な表情を浮かべ、
ホークアイは同情の表情で頷く。
「ええ・・・・・それは本当に判るわ。私だって・・・無理だと思うもの」
賛同する彼女の言葉に、エドワードが大きく頷く。
「だろ? だろ? あんなとこで生活なんて、できねぇーって。
生息してるのは、害虫の奴と・・・・・そこの神経崩壊してるこいつ位のもんだぜ」
「・・・失敬な。――― 一応、生活してるスペースは・・・・・少しマシだ」
小さく力ない反論は、聞いてる二人にはあっさりとスルーされる。
「でもね、良~く考えてみて?
あそこなら、今すぐは無理でしょうけど、部屋数も多いからエドワード君専用の
書庫や研究施設も造れるのよ? 勿論、必要な物は全て経費で揃えてもらっていいわよ?」
「君!?」
ホークアイのとんでもない提案に、ロイが焦って言葉を挟もうとするが、彼女の一睨みで
あえなく撃沈する。
「書庫に、研究室・・・」
エドワードは思わず家にリゼンブールに送り返す算段の本たちを思い浮かべる。
一度リゼンブールにやってしまえば、おいそれとは読み返す事が出来なくなる。
そうなると、吟味して買って集めたものばかりだ。少々、困る事にもなるだろう。
グラグラと揺れそうになる心に、先程みた映像が閃いた。
そして、危ないとばかりに首を大きく振って、ホークアイに気弱な表情を向ける。
「中尉・・・じゃなくて大佐。申し出はありがたいけど・・・俺、無理だよ」
「エドワード君、大丈夫よ。あなたなら、どんな困難も乗り越えれるわ。
その後の未来を考えてみて?
出勤時間に縛られることも無いし、読みたい物、最新の情報。
それが瞬時に手に入るのよ?
そうね――― 何なら、特別待遇で軍の閲覧許可書も発行するわ」
物凄い条件が提示されて行くのにも、もうロイは脱力したように何か言うのは
諦めた。彼女の事だ・・・それに関しても、何か考え合っての事だろう。
ホークアイの誘いは魅力溢れすぎていて、エドワードは思わず眩暈しそうだった。
「時間が自由かぁ・・」
勤め人は時間に拘束されるのが、確かに面倒だった。
折角、閃いたりのっている時でも、出社時間に妨げられる事だって多々有ったからだ。
「そうよ。以前ほどではないにしろ、それでも軍に入ってくる情報はなかなかのものよ」
「だよなぁ~。一般人じゃ、それを知るだけでも難しかったんだよな・・・」
エドワードの心の傾き具合を確信すると、ホークアイはさらさらとメモ書きし
エドワードに提示する。
「全ての条件をクリアーし、更に上乗せしてくれるあなたの能力なら
どうかしら、これ位の提示をさせてもらうけど?」
と差し出されたメモに書かれた数字に、エドワードは目を瞠る。
「更に、あの廃屋をある程度整えてくれれば、更にボーナスとして・・・」
と先程とは1桁違う数字を並べる。
それを食い入るように見つめているエドワードに、ホークアイは最後と止めとして。
「将来アルフォンス君も、自分の医療所とか持ちたいと思った時、
資金は多ければ多いほどいいわよね」
と、優しい悪魔の囁きを溢したのだった。
~~~ 『W‘Dな男達』 act6 ~~~
★ 人はその人生に合った定位置へと、
就く事が定められているのかもしれない・・・。
「・・・・・良かったのか、承諾して?」
ホークアイが席を外した今、車内には二人だけだ。
ロイはエドワードを気遣うように窺ってくる。
「・・・・・まぁ、なるようにしかならないだろうしさ。
覚悟さえ決めちまえば、条件的に文句もないし・・・」
はぁ~と嘆息を吐くエドワードに、ロイも溜息を吐く。
自分で言うのもなんだが・・・あそこを片付けるのは、嫌だろうと察する。
もし貴重な資料や研究成果が無ければ、もしかしたら廃陣に化して
別の物を立て直したかもしれない。
どうしようかと思っている間にも、あそこはどんどん積み重なる廃棄物に
占領されて行くわ、片付ける時間は取れないわで・・・。
自分の家ながら、偶に帰る狭い生活スペース内以外、
どんな造りだったのか――― そして、どんな有様になってるかなど、
もう思いも出せないし、想像もつかなかった。
しかし・・・・・妙な縁もあったものだ。
目の前に座るエドワードを観察しながら、つくづく奇縁を実感していた。
ホークアイはと言うと、エドワードに早速覚書にサインをさせると
準備があるとかで車外に出て行った。
これらかあそこに向かうかと思うと、ちょっと・・・嫌、かなり抵抗を感じはするが
自分達が足掻いていた時を思えば、何とかなるかとも思う。
ふぅーと座り心地の良い背凭れに身体を預けようとして。
ガサリと紙を潰したような音で、慌てて背中に挟み込んでいた書類の束を取り出す。
「あ、ごめん! 何か潰したみたいだ」
そう言って取り出した書類の束は、先程までロイが確認していたものだ。
「いや、対した内容ではないから構わないが・・・」
と声を掛けている最中に思い出す。
「そうだ、丁度良い! 鋼の、この分析を見てもらえないか」
エドワードの手に持たれている書面を逆手で繰ると、彼の目にして欲しいページを開く。
「これ?」
「ああ。今分析を進めさせているんだが、一向に進まなくてね。
君、鉱物関係は専門だろ。覚えがあったら教えてもらいたいんだが」
ホークアイが帰って来るまではする事もない。エドワードは面倒だと思う事無く
書面に書かれている分析結果を流し読みしていく。
と、ものの数分も経たずに。
「鉱物って・・・これ、鉱物じゃねぇぜ?
微生物関係は俺の専門外だけど」
という答えが返ってきた。
「微生物!?」
目を瞠るロイには気付かずに、エドワードは分析から得た答えは説明して行く。
「ああっそう。これ、考古学にも関係するのかな?
特殊な微生物の群集の化石だな。
以前旅してた時に、珍しいものがあるからって見せてくれた収集家がいてさ。
これの小さな塊だったけど、すげえ高額でやり取りされてるらしい。
けど、風化に弱いから何らかの加工かケースにでも収めてないと
すぐこんな風に砂粒化しちまうんだ。で、俺は落ちたのを少し分けてもらって
調べた事があるんだけど。何? これがなんかの鍵になってる事件でもあんの?」
鋭い指摘に、ロイは正直に頷く。
「被害者の身体に付着していたものだが、分析が進まなくては捜査の方向性が掴めなくてね。
掴めれれば・・・噂だけは広がっている人物を捕まえる手立てになるかとね」
成る程と頷き、膝に付いた手で頬杖を付きながら書かれている文字を追う。
「・・・・・付着していた質量を考えても、多分、結構大きな形のもんだと思うから、
希少価値も大きい。それ専門の取引をしている奴に聞けば、買い手までのルートは
判明しやすいと思うぜ。――― 最悪そっちが駄目でも、これを発掘される場所は
限られてる。俺が聞いた発掘所も1箇所だったしな。
そこから堀を埋めてけば、口閉ざしてる奴らも開くしかねぇんじゃない?」
そのエドワードの意見に、小さく口元を上げる。
「鋼の銘は、今も健在らしいな」
嫌味や皮肉ではなく、素直にそれを喜んでくれているロイの言葉に、
エドワードも照れながら、鼻の頭を擦る。
「別に・・・。以前、見知ってただけだし」
確かに分析の結果を見ていた事があるのなら、エドワードの頭脳なら答えを
弾き出すことは難しい事ではなかっただろう。
だが・・・と思う。
その先の捜査の方向性に思考が及ぶのは、彼の経験の豊富さが閃いているからだ。
――― これだけの人材・・・・・今は他にはいない ―――
弱体化してしまった錬金術部門には、彼を追うような人材は望めない。
つくづく、彼の存在は稀有だったのだと思わせられる。
ノックと開錠の音に、ロイは自分の物思いから覚める。
そして、入って来たホークアイが司令部へ向かおうと告げるのに頷き、
道中の中でエドワードの出した分析結果の説明を聞かせた。
「そうでしたか・・・。良かったです、これで何とか手懸りを無駄にしないでおれますね」
その言葉には全く同感だと、ロイも上機嫌に頷いて返してきた。
現場がどれだけ頑張って捜査をしても、それを使いこなせる手段がなくては
徒労に終わってしまう。ここ最近の研究部門の不甲斐なさに臍を噛んでる思いを
させられていたのは、何もロイだけでもないのだ。
「でも、エドワード君が来てくれる事になって、本当に良かったわ。
取り合えず、暫くの間はあそこに住むのは危険だから、宿舎を用意しました。
そこから通ってもらって、住めるような処まで回復したら住み込みでお願いできるかしら?」
そのホークアイの配慮には、エドワードとて大歓迎だった。
今日から寝泊りしろと言われたら、外にテントでも張ってもらうかと思っていたのだから。
「OK、助かるよ大佐」
安堵に表情を明るくしたエドワードに、ホークアイも微笑み返す。
「で、もう一つの件なんだけど」
次に告げられた話には思い当たる点がない。エドワードが怪訝そうに首を傾げるのに
ホークアイは嬉しそうに話し出す。
「先程話したでしょ? 軍の最新情報も閲覧できるようにするって」
そう説明されて、漸く思い当たる。特に重点は置いてなかった処だけあって
直ぐには思い浮かべれなかったが、確かにそんな話も提示されてはいた。
「で、今から司令部で直ぐに許可書を発行するつもりなんだけど。
閣下。彼の名目を幾つか考えてみたのですが、錬金術部門の顧問アドバイザーでは如何でしょう?」
その提案に、ロイは成る程と頷き、エドワードは目を丸くする。
――― そういう事か・・・―――
ロイは思い浮かべながら苦笑する。軍の情報を閲覧出来る立場をと言っていたが、
一般のエドワードにいくら以前軍属だからと許可できる範囲を超えているように
思って首を傾げてはいたのだ。が、それもこういう事なら納得できる。
彼女は、ホークアイ大佐は、エドワードを雇うと決めた時から、先の布石も
考えていたのだろう。
確かにそうだろう。これほどの人材だ。使わない手はない。
なのに何故、自分にはその案が浮かんでは来なかったのだろうか・・・。
ロイがホークアイに視線を送ると、まるでロイの考えを読んだのかと思わせられる
微苦笑を返されたのだった。
(閣下では、無理な算段よね。この人はエドワード君が関わると昔から
冷静な判断が出来なくなる事も多かった・・・。
今も、軍には極力関係させないようにと無意識で避けていたのでしょうし)
が、エドワードはどちらにせよ、今のままでは社会で生き残るのは難しいだろう。
2年前ホークアイが抱いた疑念は、そのまま現実となっていた。
という事は、彼やロイが望もうと望まないと、生きる場所は決められているか、
限られているかのどちらかだ。なら、彼が望む未来を見つめるまで、もう少し
ここに居場所を置いといてもらっても良いだろう。
「た、大佐! 俺は別に軍に入るつもりは・・・」
慌てるエドワードにホークアイが宥めるように説明する。
「大丈夫よ、エドワード君。私も閣下も、あなたが軍に入るのは嬉しく思わないわ。
アドバイザーは民間に何人も居るの。所属する必要もなく、私達が依頼した時だけ
助けてもらえればいいのよ」
その説明に、エドワードも自分の思い描いていたものと違う事を知る。
「・・・・・なんだ、そうなんだ」
「ええ。でも軍の中は機密のものも多いから、そういう役職を作って閲覧できる対応を行ってるだけ。
勿論、無料でとは言わないわ。依頼したものには、きちんと報酬も支払われるので
簡単なバイトだと思って受けてくれないかしら?」
事実はそれほど気楽なものではないが、複雑に説明する事もない。
正式な書面は司令部に着いたら渡すのだが、彼は決めた事を後からは撤回しない性質なのを
判っているので、先に了承を得ておく方が良いのだ。
騙してるようで申し訳ないが、彼なら享受できる範囲だろう。
「そんなんで良いのか? なら・・・別に俺で役に立てることがあるなら」
「本当に? 嬉しいわ。軍も人材不足で困っていたから、エドワード君が
助けてくれるなら百人力ね」
嬉しそうに微笑むホークアイの表情に、エドワードも照れたように顔を綻ばす。
その向かいでは、ロイの咎めるような視線に気付くが、特に口も挟んでこない様子に
ホークアイは無視する事に決めた。
結局。司令部に着いてから提示された書類の内容は、やはりと言うか
色々の誓約やややこしい条件が記載されていた。
エドワードは暫し憮然とした様子を見せてはいたが、結局サインをして渡したのだった。
渡した早速に、目を通して欲しいと言われた分析中の項目の数々に辟易しつつ、
それでも久しぶりに感じる高揚感を感じつつ、エドワードは止まっている検査項目を
解読し始めたのだった。
「疲れただろう」
と声を掛けられたのに気づいた時は、ここに着いてから結構な時間が経ってからだ。
帰り支度を整えたロイが、エドワードに与えられた部屋にやってきていた。
「・・・・・ああ、あんたか」
書面から顔を上げて、思考が今だぼんやりしているのを現す口調で返す。
「今日はもうそれ位にして、食事に行こう。
宿舎までの案内をするように言われているから着いてきなさい」
不思議と優しく感じる言葉遣いで話しかけてくるロイに、エドワードは流されるように頷くと
少ない持ち物を手にして後を追うようにして部屋を出たのだった。
人気の少ない玄関までの道で、ロイはエドワードに何くれと話しかけてくる。
それを面映く思いながらも、請われるままに答えていけば食事の時間も
宿舎までの道のりも驚くほどあっと言う間に過ぎていった。
「けど・・・、あんたがあんだけ話す人間だとは思わなかったぜ」
別に無口な人間だと思た事も、そう印象を受けた事もなかったが、
自分とは必要な事以外、会話した記憶も余りなかった気がする。
「そうかい? ・・・・・そうだな、少し浮かれてたのかも知れないな」
「浮かれて?」
不思議そうなエドワードの問いかける目に、ロイは苦笑しながら説明した。
「・・・君が食事やお茶の誘いにのってくれた事は、殆どなかっただろ?
それがこうして一緒に出来ることになって、嬉しかったんだろうな」
ロイの言う事は何となく判るような気もする。確かに以前の関係の時には
この上司とはそういう関係は築いていなかった。
どちらも忙しく、偶に顔を合わせても嫌味やら皮肉の応酬に返すのが
自分達のコミニケーションの有り方だった。
それを思い返せば、確かに再開からこちら、初めての事が多いかも知れない。
「・・・・・まぁ、俺も楽しかったから、嫌じゃなかったけど」
ロイが何を喜んでの事かは判らないが、確かに今日の時間を楽しいと思っている自分が
居る事は嘘ではない。だから、そう正直に思ったことを返しただけなのだが、
ロイはそんな自分の言葉に、驚いたような表情を見せ、その後笑い顔を浮かべていたのだった。
その彼の表情の変化の理由は判らなかったが、聞き返す間もなく用意された部屋へと通されたのだった。
*****
「ここ?」
「そうらしいな」
二人は用意された部屋を見渡しながら、どう反応すれば良いのかと悩まされる。
ホークアイが二人に用意した部屋とは、ホテルでも最上階の位置にある
かなりの広い部屋・・・・・と言ってしまって良いものか。
フロアーの何分の1かは占領しているだろう部屋は、長期滞在者用に
普通の生活が過ごせる居住空間があった。
リビングに少々手狭なキッチンもあり、寝室が二つに書斎の役割を果す部屋に
クローゼットの部屋まである。
「凄い部屋だけど・・・」
「ああ。どうやらここで暫く一緒に寝起きしろという事だろうな」
ホークアイの意図は不明だが、結果は判る。
彼女には彼女の思うところがあるのだろう。
ロイもエドワードも戸惑いはあるが、敢えて彼女に真意を問うほどの事でもないと
自分に納得させ折り合いを付ける。
「あんた、どっちの部屋を使う?」
取り合えず必要な順番から決めておく。
「別にどちらでも構わないが。君は希望があるのかね?」
見比べたところ、特に大きな違いはない部屋だ。希望と言えるものは
二人共々、別にない。
じゃあ適当に別れるかと、立ち位置に近かった扉へと向かう。
そしてそれぞれの扉の前で。
「お休み」
「ああ、良く休みたまえ」
と挨拶を交わして部屋へと入って行く。
それを何とも不思議に感じながら・・・。
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