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W`Dな男達 9
~~~ 『W‘Dな男達』 act 9 ~~~
『 短所も極めれば ―― 特に変わらないが。
付き合っていけば慣れて個性だと達観できる 』
―― 今日は休日を貰うな。――
朝食の席でそう言ってきたエドワードに、ロイは快く了承した。
どこかに出掛ける予定はあるのかと訊ねると、司令部に行って組み手の相手を探すと
返してきたから、ハボックの実地訓練の時間を教えておいた。
ハボックは日頃は飄々とした男だが、格闘系は抜群の人材だ。
今日の訓練も彼が参加するのではなく、教官として指導を担当している。
エドワードに作ってもらったランチを食べながら、教えた時間までを計る。
自分の昼の分と一緒にと作ってくれたお弁当は、サンドイッチ1つだが
これが侮れない大きさとボリュームなのだ。
何個も作るのは面倒だと云うエドワードの言葉の通り、2枚の食パンの間には
全ての具が挟み込まれている。
野菜は大切だと言ってレタスにキュウリ、トマトピーマンがサラダボールの中身並みに入っており、
ボリュームを出す為にとぶ厚いロースハムに、塩胡椒でソテーしたハンバーグ。
彩にと厚焼き玉子が挟まれている。
成人のロイが大きく口を開けても、それに全部に齧り付くことは出来ないほどだ。
ハムハム、モグモグと端から齧って切り崩して食べていく。
絶対に手が汚れるからと、皿代わりに巻かれたアルミホイルを剥がしながら
食べていけば、なかなか上手く食べれる。良く考えられているものだ。
しかも、これだけ大振り大雑把と云うのに、エドワードの料理の腕は
恐ろしく高いのだろう。
ふんだんに野菜が入っていると云うのに水気は殆ど出ていない。
どの野菜もちゃんと下拵えから施されているし、ハンバーグはタレと一緒に
練りこんで味付けされているから、余分なソースでべとつく事もない。
卵やパンにもエドワードお手製のソースが使われている為、
大きくても飽きがこないで食べていける。
「ふぅー」
漸く食べ終わった頃には、お腹は満腹で顎が少々疲れたくらいだ。
司令部で用意されたコーヒーを飲みながら、午後の勤務の算段を立てていく。
エドワードが組み手に参加するのなら、久しぶりに覗いてみたい。
本人は身体が鈍ってるとぼやいていたが、元々超人的な身体能力を具えている彼だ、
そう簡単には技量が落ちる事はないだろう。
―― 彼が言う鈍っているの基準は、レベルが高すぎる。
カップを手の平で包みながら、椅子の背に凭れて息を吐く。
ホムンクルス達と渡り合い、生死を賭けた闘いの中に身を置いていた彼では
確かにちょっとやそっとの鍛錬をやる程度では、物足りないだろう。
が、そんな戦いに身を投じなくても良いのだ。
そうしなくても生きていける未来を築こうと、皆が頑張っているのだから。
貧乏性なのか、それとも生来のトラブル体質が身に付いてしまったのか。
そんな風にエドワードの事を思い浮かべていると、思わず口元に微笑が浮かんでしまう。
「良い事でも有りましたか?」
突然掛けられた声に、驚きのあまり声が出そうになるが、
長年培ってきた自制力でぐっと耐えこす。
「君か・・・。急に入って来られては驚くじゃないか」
不服そうにそう告げると、馴染みの副官からは呆れた表情が返ってきた。
「扉は開いたままでしたし、入るときには声もお掛けしました。
が、食後のお昼寝でもされていたのか、全然ご返答が返りませんでしたので」
「そ、そうか・・・」
コホン・ゴホンと空咳をしつつ、ロイは気まずげに居ずまいを正す。
「午後からの予定に変更はございませんが、2時からのハボック隊の訓練を
見学されるようでしたら、少々お急ぎいただいて残務を終わらせてください」
「ああ、判っている。食事はもう終わったから、早速取り掛かるとしよう」
「宜しくお願い致します」
そう言って決済済みの書類を持ち上げると、出口へと歩き出して行く。
閉めかけた扉を止めて、ホークアイ副官がロイの方に向き直すと。
「閣下。――― くれぐれも訓練は『見学』だけで終わらせて下さいね」
と、釘を刺すのも忘れず去って行く。
「・・・・・判ってる」
ボソリと返した言葉は、聞き届けるべき人の居ない狭い空間で留まって消えた。
シュッと唸る空気の音が上がる。直後にはバシッと重い打撃音が続いた。
ランニングシャツにズボンと云う軽装でエドワードは訓練に参加している。
最初は全員で軽く身体慣らしから一緒に初め、二人一組の組み手。
そして今は模範訓練を披露している最中だ。
自分より二回り以上大きな男達を、エドワードは軽快なフットワークで翻弄し、
スピードと反動を使った拳や蹴りを繰り出しては、相手を倒していっている。
「大将~。どぉーこが鈍ってるってぇー」
自分が仕込んだ兵達を次々に打ちのめしていかれては、教官としてハボックの
面目が立たない。
「ん~? これでも結構鈍ってるんだけどな・・・」
ヒョイっと相手が繰り出した拳を避け、素早く屈んでは足払いをかけて相手を転がす。
「くっそぉー」と唸りながら起き上がろうとした相手の胸倉に乗り上げて、
首筋を押さえ込めば相手は動きを封じられて降参の言葉を吐き出した。
「もういい! 一対一じゃ埒があかん。おいそこのグループ、纏めてかかっていけ。
ハボック隊の名誉の為に、兎に角1勝でも上げてくれよな、頼むぜ」
そのハボックの暴挙にもエドワードは楽しそうに笑うと、不敵な笑みを口の端に浮かべて
片腕を突き出したかと思うと、来い来いと指で相手のグループを
煽る仕草をする。
「くっそぉー」
「一人じゃ叶わなくても・・・」
「おう、3人がかりなら勝てる!」
うぉーーーと勇ましい雄叫びを上げながら突進してくる男達を
エドワードは悠然と待ち受け、リーチ二つ分に迫ったところで相手に対峙する形で
3人の中へと飛び込んで行った。
複数を相手する時には距離を取るのが通常だ、それを態々狭めて行くとは・・・。
ぶつかり合うと思われた4人は、まるで風がすり抜けるようにエドワードの姿が
通り抜けて行く。
「ゲッ!!!」
すり抜けた後に1人が悲鳴を上げて地面へと倒れこんだ。
それに驚いた仲間の二人が振り向く間もなく。
「ギャッ!」「ヒッ!!」
と背後から手刃を首筋に打ち込まれ、先の一人同様固いベッドへと昏倒した。
「だぁ~~~~!!! 3人かかってこれかよぉー」
わしゃわしゃと髪を掻き乱して、ハボックが大声で喚く。
「悪いなハボック中佐。そろそろ親分が部下の敵討ちしてやる頃じゃない?」
愉快そうに言われた提案に、部下達は一斉に喜色の声を上げて囃したてる。
「中佐ぁ~! 頼んますぅ!」
「せめて一勝! 無理なら一発でもお見舞いして下さいよぉ~」
救護室に連れられて行く者、連れて行く者が続いていて、訓練場に残っている者は
僅かになっている。
腕に自信があり、屈強さで鳴らしているものから挑んで行ったのだから
残っているメンバーでは、全員でかかっても――勝ち目は無さそうなのだ。
「しゃーねぇなぁ」
口では仕方無さそうに応えるハボックも、実は先程から参加したくてウズウズしていたのだ。
根っからの武道派だ。強い相手の戦いを目前で見ていて、血が沸かない筈がない。
勝つか負けるかではない。挑む事が楽しいのだ。
「・・・俺は部下のように簡単にはいかないぜ」
ポイッと上着を横手の部下に投げ渡すと、ハボックはエドワードとの間合いを計るように
ゆっくりと円を描く様に歩き出す。
騒がしかった訓練場が、両者が睨みあった途端水を落したように静かになった。
ゴクリ・・・と誰かが喉を鳴らした音が、皆の耳にまで広がりそうだ。
エドワードの足の早さを考えて広めに取った間合いの向うで、ハボックはゆっくりと
角度を変えてエドワードを検分する。
エドワードの身に付けている武術は、元は古武道からの流派だろう。
自分より体格の大きい者のそれ自体の重さや動きを利用して反動で攻撃にする。
相手が早ければ早いほど、技が決まった時に返される反動の衝撃は大きくなる。
エドワードのものにはそこから自身の動きや体重を加えて、より機動力を高くしてあるのだ。
―― 身体を取られればやられる。――
動きのない戦いは無く、動きを止めれば攻撃の的になる。
―― そうならない為には・・・――
軽い足運びでエドワードとの距離を一挙に縮める。
そして、ビュッ!と空気を切り裂く音がエドワードの耳元を掠って行く。
エドワードが反撃をしようとした時には、ハボックは間合いを離して
次の攻撃箇所を狙っていた。
素早く繰り出される技と、引きの早さ。自分の身体能力を見事に使っての
連続技が繰り広げられる。
一旦、距離を大きく開けハボックはエドワードを見ながらにやりと笑い顔を向ける。
「・・・さすが親分格は違うってわけだ」
額に浮かんだ汗を拭いながら、エドワードも笑い返す。
「まぁ当然だな。触れられれば俺の反動を使われる。
なら使われないように取られる前に打ち込まねぇとな」
「良く見抜いたよな。でも俺の動きに拳を当てれるかな」
言い終わった時には、エドワードはもうその場所には立っておらず、
勢いをつけて飛び上がると、そのスピードのままハボックへと蹴りをかける。
「わぁぁぁーー! あ、あぶねぇ・・・。何するんだ!当たったら怪我するだろうが」
大きな声でエドワードに文句をぶつける。
「ちっ、あのスピードで避けられるとはな。
中んなかったんだから良いだろ! ってか、ちょっとくらい中れよ」
「冗談! 俺は今日はデートなんだよ!! 中ったら確実に残業だ。
それだけは絶対にお断りだ!」
ギャーギャーと騒ぎあいながらも、二人は楽しそうに技を繰り出している。
それを見ていたギャラリー達は・・・。
「あの華奢なのも化けもんみたいなもんだが」
「ああ、それを相手にあんだけ楽しそうに戦える教官も・・・人間じゃないな」
全くもってその通りと、皆が頷く。
訓練場では訓練兵そっちのけど、教官とエドワードが決着の着かない
遊びを繰り広げていく。
「呆れたものね・・・」
はぁ~と目の前で苦い表情で嘆息を吐かれれば、ハボックの大きな身体が
一回り小さくなったように見えた。
「訓練をすべき教官が、訓練兵をほったらかして組み手を楽しみ、
気付けば訓練時間が終わっていた―― そういうわけですね」
「・・・・・・・・ハイ」
シュンと頭を項垂れてホークアイの叱責を受けている。
「しかも・・・今日の訓練での負傷者の多さ。
負傷者を出すなとは言いませんが、勤務に支障をきたすほど出せとも言ってませんよ」
「「・・・・・・・・・・・スミマセン」」
それに関してはエドワードも責任を感じているので、ハボックと並んで小さく謝る。
「ホークアイ大佐、それ位で許してやれ。
模範演技としては最高のものを見せれたんだ、兵達の役に多いに立ってくれる。
支障が出ているシフトには、ハボックが責任を持って担当すればいいことだ」
さらりと言われた提案に、ハボックの口が悲鳴を上げるように大きく開く。
「―― そうですね。幸い手当てを受けても勤務に戻れなかった者は数人でしたから、
その分は教官として責任を取ってもらいましょう」
ロイの提案に賛同しているホークアイの前では、ハボックがいやいやするように
首を振り続けている。
「そ、そ、それだけはーーーー!
お、俺、今日デートなんっすよぉ~。前回も約束すっぽかしちまって
今日行かなけりゃ・・・・・振られますぅ~~~」
必死に嘆願するハボックの姿に、エドワードはさすがに罪悪感が広がって行く。
「あ・・・あのぉ・・・。俺が無理言って、訓練に参加させてもらったからで。
俺でよければ、ハボック中佐と代わって勤務とか出来ないかな・・・」
軍の仕事がエドワードに代われるとは思えないが、見張りとか見回り位なら
何とか交代できるかも知れない。
「あら、エドワード君は全く気にしなくていいのよ。
元はといえば、うちの軍のメンバーが不甲斐なさ過ぎたの。
それも訓練が足らなかった中佐の責任だから、これからはもっと
厳しくしてもらわないとね」
「その通りだ。いくらエドワードが見事な武道家だとしても、複数でかかって
掠りもしないようでは、話にならん。
それとハボック心配する必要はない。
ええっと、ミス,マリーだったかな? 彼女から伝言が届いていた。
『今日の約束は無しと云う事で。それと、これからもゴメンなさい』だそうだ。
良かったな、憂いがなくなって」
ポイッとハボックの前に、誰が書いたのか判らないメモが差し出された。
「と云う事で、私達は3人で食事にでも行かないか?
今日はエドワードも休日を取っているんでね。家事も休んでもらおうと
レストランを予約してあるんだ」
「まぁ。それは素敵な提案ですわね。エドワード君と食事に行くのも何年ぶりかしら。
じゃあ早速着替えて参ります」
「ああ、玄関に車を回してもらっているから、そこで落ち合おう。
さぁ、エドワード、私達は先に車に乗っておこう」
「えっ? えぇぇ、で、でも!!」
先程から石像の様に固まってしまっているハボックを気にするエドワードを
鬼の上司たちは「大丈夫。彼は慣れてるから」とさりげなく酷い事を言い捨てて、
エドワードを連れ出して行ってしまった。
固まっているハボックを動かしたのは、容赦ないシフト交代の呼び出しだった。
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