Selfishly

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完結p2「狩人と哀れな獲物」


忘却の行方 第2ステージ

 ~ 狩人と哀れな獲物 1~



深夜の電話音は、人の心に不安を生ませ、
まどろみ始めていた身体に衝撃を与える。
そんな電話に、早朝にも近い時間と言うのに
ロイは嫌な表情一つせずに、機敏な動きで起き上がり受話器を取る。

「そうか、無事に渡ったか」
ゆっくりと吐き出された短いセリフだけで、通話は終了する。
チンと妙に耳につく音を鳴らせて、受話器はその役目から開放された。
そして、寝起きを起こされたロイは、満足げにベットに戻り、
まだ温もりのあるシーツの中に入っていく。
が、直ぐに寝直すようでもなく、両手を組んだ手の平に頭を乗せ、
暗闇の中の虚空にも見える天井を眺めている。
ーーー 静かに、ほくそ笑みながら ーーー



 ***

「おやっ? また来なすったのかね」
そう告げながら老婆は可笑しそうにしわがれた笑い声を上げる。
「ええ、どうしても貴方にお願いしたい事が出来まして」
ロイは慇懃に礼をして、指し示された椅子へと腰掛ける。
「さて? 今回はまた、どうした内容じゃろうかね。
 前回の薬はもう使い果たしたか?」
呆れが混じる声で、そう訊ねられ、ロイは小さく頭を振る。
「いいえ。薬はまだ・・・残っています」
その返答に、皺に隠された瞳が軽く開かれロイを見つめている。
その後、瞳はまた皺とも瞼とも見分けのつかない皮の中へと隠された。
「では、一体どう言う心つもりかの?
 無くなる前から、次の算段でもして頼みに来たかな」
口元に皮肉な笑みを刷き、老婆は酷くつまらなそうにロイに語りかけてくる。
が、それは会話をしたいと言うよりは、さっさと打ち切る為に段階を早めただけのようでもある。
ロイはそんな老婆の否好意的な態度にも、礼節を保って値踏みし直しているような
老婆の視線を平然と受けている。
そして、暫しの沈黙が流れた後。
「いえ・・・。 逆です。
 もう私があの薬を使うことのないよう。
 貴方には、その為の薬を作って頂きたい。
 そして、裏の情報を網羅されている貴方のお力をお借りしたいと」
そう告げると、静かにだが、しっかりと頭を下げる。
「使うことのないように・・・か。
 では、手段は2つしかないじゃろうな」
「ええ、地獄か天国か・・・2つに1つの選択でしょうね」
「・・・でお主が選択する道は、どちらのものなのかな」
淡々と進められる会話・・・。
ロイは、揺らぐ事の無い視線を老婆に向け、暗く美しい笑みを作る。
「勿論、地獄への道を」
ロイのそんな闇の表情を見ながら、老婆はしわがれた指で
置いていた古ぼけた机を打ち鳴らす。
「・・・そうか。
 ならこの婆は、地獄への道先案内人と言うわけじゃな」
声も無い乾いた笑いの表情を浮かべ、1人悦に入ったように頷き続けている。
「ふん・・・、面白い。
 まぁ、別に天国なんぞの退屈な世界には縁も無い。
 お前さんのような色男が落ちてくるなら、先に地獄で待っているのも
 そう悪くないじゃろうしな。
 で、何が必要かな?」
老婆の対応に、ロイは軽く礼をして告げる。
「惚れ薬を」
「惚れ薬~?」
ロイの返答に拍子抜けしたような声で繰り返される。
「はい。一過性のもので構いません。
 そう・・・一夜の過ちを犯す程度の」
「惚れ薬ねぇ。何で今更」
老婆は机に肘を付いて、頬を手の平に乗せながら
面白くも無さそうに呟き返す。
それもそうだろう。ロイに先に渡した薬なら、惚れ薬などの、
しかも一過性に過ぎないような薬などなくとも、
欲望を叶えること等、難しくも無いはずなのだ。
その薬を使わないために惚れ薬と言うなら、
何とも安直な恋だろう。
そんな想いが老婆の胸の内に浮かんだとしても、それは仕方ない。
それに一過性の惚れ薬など、催淫剤と殆ど変わらないではないか。
急に目の前の相手への興味が失せて行く。
が、願いを聞くと答えたのだ。違えるわけにはいかないだろう。
そして、ふと思いついた考察が口を吐く。
「・・・で、その薬はお前さんの惚れた相手に使うわけかの?」
その問いに、ロイは俯きながら小さく笑う。
「まさか。
 そんな容易いことで手に入るような相手ではありませんよ」
と。
そのロイの返答で何かを察したのか、老婆は見え隠れする瞳を閃かせて
ロイを見つめると、最初にロイが見せた暗い笑みと同質の笑いを見せてくる。
「どうやらお前さんも、闇の道行きを急ぎ進んでいくようじゃの」
「ええ、元よりその道しか進んでおりませんから」
「・・・そうか、判った」
そう告げると、老婆は薄暗い部屋の奥へと入ってゆき、
数分後に透明の小さな小瓶を一つだけ手に、返ってくる。

コトン
見かけどうり軽い音を立てながら、小瓶がテーブルに置かれた。
「薬は飲用して使う。効果は然程長くは持たない、せいぜい2時間程じゃろう。
 服用後、触れる相手に欲情を覚え、欲するようになる。
 自分の意識も有る中でじゃから、惚れてる様な錯覚を抱くことじゃろう」
「なるほど」
小瓶を手に持ちながらも、ロイの瞳は既にそれを見ていない。
今の説明から、もう次の算段でも立てているのだろう。
そんなロイの様子を、観察するように見ながら、老婆が語りかけてくる。
「で? お前さんのお願いとやらは、それでお終いなのか?」
老婆のその言葉に、ロイは参ったような表情を見せ、返答を返す。
「高察、恐れ入ります。
 ええ、これだけではありません。
 実はこれから舞台を始めようかと。
 が、私の手持ちでは少々役者不足でして。
 で、顔のお広い貴方なら、良い人を紹介して下さるのではと・・・」
2人の間に、仄暗い空気が漂っている。
「な・・るほどな。
 で、価は覚悟しているじゃろうな」
値踏みするような老婆の瞳に、ロイは笑って告げる。
「ええ、勿論です。
 私の持てるもの全てを支払ってでも」
その答えに、老婆は満足そうに頷き笑う。
「クックックッ・・・。
 お前さんの想い人は、余程の価値の相手らしい。

 いいじゃろう、お前さんの希望を叶えてやろうかね」

そうして、ロイは作ったシナリオを語っていったのだった。



 ***

老婆と逢い、その後に深夜の電話を受け取ってから、月日が1つ2つと過ぎ去って行った。
その間、ロイは辛抱強く待ち続けた。
運命がロイを選ぶか、神が捌きを落とすのか。
どちらが早いのかを・・・。




司令部の朝は、当直のもの通常出勤の者が入れ替わり立ち代りで、
始業前の一時に喧噪を生み出している。

「おはようございます!」
「なぁ、昨日の夜によぉ」
「日誌! おい、日誌も書いていけって!」
「至急の連絡が入ってます、急いで」

がやがやと声が飛び交う中、ロイの執務室では静けさが満たしていた。
それと言うのも・・・。
「鋼のが遅れる?」
「はい。私用で出遅れたそうで。
 先ほど電話があり、少し遅れるとの事でした」
「珍しい事もあるものだな」
そのロイの言葉に、ホークアイも頷き返す。
ロイやホークアイ同様、エドワードも大概の仕事の虫だ。
大抵は人より早めに来て、ロイやホークアイの仕事の段取りを
見直してくれていたのだが。
「最近、考え込んでいるような時が多かったように見受けられましたから、
 何かあったのかも知れませんね」
「そうだったかな・・・」
そのロイの言葉に、ホークアイが不審そうに小さく片眉を上げる。
(変ね・・・。 いつもエドワード君の事になると、
 見落としされたり、ほっておかれるような事はないのに・・・)

「まぁ、いつも真面目な彼の事だ、多少は多めに見てやる事にしようか」
それだけ言うと、デスクに座って業務に取り掛かり始める。
その様子に、ホークアイが胸の内で首を傾げる。
いつも進んでは取り掛からない相手が、妙に機嫌良く見えるのは、
気のせいだろうか?

が、いつまでも突っ立っているわけにもいかず、
ホークアイは急ぎスケジュールの確認を行う為に、本日のファイルを広げて
上司の本日の予定を読み上げていく。


スケジュールの確認が終わる頃になって、エドワードが出勤してくる。
「ごめん! 遅れちゃって!」
バタバタと走りこんで来たエドワードに、2人が朝の挨拶を掛けてくる。
「おはよう、エドワード君。
 珍しいわね、大丈夫?」
「あっ・・・うん、ごめんな。
 遅れた分、昼休みは返上するから」
「そこまでしなくても、大丈夫よ」
エドワードの言葉に、ホークアイがそう返してくれるが、
エドワードは首を横に振って、頑なにやると告げてくる。
「鋼のがそうしたいと言うんだ、やらせておけ。

 で、先日頼んでいた資料は出来てるか?」
ロイの言葉に、作成した資料を持って、渡しに近付いてくる。
「うん、有る程度は完成してるんだけど、やっぱり不確かな情報ばかりじゃ
 判らないところも多くてさ。
 近い内に出かけて、見てこようかと思ってる」
「そうか。なら、出来たとこまでで構わないから、読ませてもらおう」
そう言って見上げた先には、余り顔色の良くないエドワードの様子が窺える。
「鋼の。 どこか体調でも悪いのか?」
「えっ・・・?
 あのぉ・・・。

 いや、別に何にも無い、何にも無い」
何かを言いかけて、気づいたように首を振ってそう返すエドワードの様子に、
見ていたホークアイは気遣わしげにし、ロイは「そうか・・・」とだけ返して
余計な詮索は、互いに控えたのだった。

その後もエドワードの不調は続き、彼らしからぬミスを続発させては、
更に、落ち込みを酷くさせていった。
残業すると言い張るエドワードに、皆が説得して定時に帰らせる算段を組む。

「ごめん・・・俺。
 何か、皆に迷惑かけどおしで・・さ」
項垂れながら帰り支度をしているエドワードに、ハボックが気にするなと
髪を掻き乱すように撫でる。
「良いって。
 そんな日もあるさ」
「そうですよ。エドワードさんには、日頃はお世話になりっぱなしなんですから、
 たまに逆があっても、誰も気にしませんよ」
皆の慰めの言葉にも、小さく頷くだけだ。
仲間達は互いに顔を見合わせて、小さく頷きあう。

「よーし! こんな日は、パッーと飲んで憂さ晴らししようぜ」
ハボックの掛け声に、皆も勢い良く賛成の言葉を上げる。
ぐずるエドワードを宥めながら、司令室を出始める。
最後に退出の声だけかけてこようと、ハボックが執務室にいるロイに挨拶をしに
入っていく。
「じゃあ、中将。俺らはすんませんが先に帰らして貰います」
「ああ、ご苦労だった。

 それとハボック、これを持っていけ」
と告げながら、ロイは財布から数枚札を抜き取ると、
ハボックに差し出してやる。
「中将・・・、ありがとうございます!
 遠慮なく使わせて頂きます」
嬉しそうに礼をしながら、ロイから渡された軍資金を仕舞いこむ。
「彼も色々と悩むときも有るだろうから、たまには息抜きでもさせてやれ」
「はい!!」
満点の返事を返して、意気揚々と出口へと歩いていくハボックの背中越しに。
「ハボック」
「はぁ?」
呼び止められて首だけ捻って、上司の方を向く。
「もし、お前らの手に負えないことや、状態になるようなら
 私に連絡をしてこい」
誰がとは言わなくても、判っている。
この上司が一番気にかけているだろう心中を察して、ハボックは「判りました」と
返答して部屋を出て行った。

1人になった執務室で、ロイは真剣な表情で空を睨むようにして見つめている。
ーーー 采は投げられた ---
後は答えが出、希望通りに自分の願いに転ぶのかは
ここから先の自分の出方にかかっている。

彼女・・・エドワードの婚約者が最近行った場所。
報告を聞いた時、ロイは自分の計画が順調に進んだ事を知った。

ーーー 酷い事をしているのは判っている。
 それでも、欲しい者を諦められなかった自分の業の深さだ。

 エドワード、諦めてくれ・・・。
 君に魅入られた男は、魂までも売り渡すような男に成り下がっているのだからーーー

代わりに、償いの為にも彼を大切に、大切に愛しんでいこう。
自分に与えられる限りの事を、ロイはエドワードの為にしてやるつもりだ。
常に添わせて、片時も離しはしない。
時が来たら、こんな危ない軍からも抜けさせよう。
彼にはこの先、髪の毛一筋たりとも傷つけないように護ってやるのだ。

ロイは日が落ち始めている窓の外の光景を、物思いに浸りながら
ずっと見続けていたのだった。


[あとがき]
 ひ~っさびさの更新です!
 もう忘却されていたかも知れませんが、
 残っていた課題の二つ目スタートです。
 最近、オフ本の世界に嵌っていたので
 この話の感覚を取り戻すには、ちょっと時間がかかりましたが。
 新年初のアップが、短めですみません。m(__)m
 明日以降、また頑張りますね~。

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