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act7 「灯火」
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act7「灯火」
H19,9/25 20:50
「さて、君の為に用意したものがある」
そう告げながら、コトリとテーブルに置かれた物を、
エドワードは、訝しげに眺める。
下には金属製の箱があり、その上に球状のガラスが付いていて、
その中には、芯になる為の棒が立っている。
そうそれは、どこから見ても
「ランプ?」
訝しげな声に、ロイは真剣な表情で、答えを返す。
「そうだ、ランプだ」
やはりの答えに、些か拍子抜けしたような表情を浮かべるエドワードに、
ロイは苦笑を浮かべる。
エドワードが、ロイの錬金術を習得しようとしている理由を話し、
自分の成そうとしている事を伝えると、ロイは酷く驚愕していたようだが、
エドワードに錬金術を教えてくれ、力を貸してくれると言ってくれた。
錬金術は個人の研究の成果であり、秘密でもある。
本来なら、知りたいからと言うだけで、おいそれとは教えてもらえない。
手引書や研究書に書かれている事からの独学では、
実際に発現させる応用に至るのは、難しい。
だから誰しも、実際に活躍している人物に教えを乞う為に、
弟子入りしたり、研究所に所属したりして、研究に力を貸す代わりに
学ぶ機会を得ようとする。
個人の私事の為に、知識を分け与え、手ほどきしてくれる事など、
ほぼ皆無に近い事なのだ。
が、ロイは教えてくれると、そして、自分も協力すると言ってくれた・・・。
エドワードは、自分の家族だからと。
そして、ロイから出された課題の基礎の本を読破して、
いよいよ、実地に入ると言うことになったのだが。
「君が、気体や気流、圧力、燃焼の理解をきちんと出来ているのは
先ほどの質疑応答から確認できた。
後は、その理論の実地をを積んで行く事になるわけだ」
「うん」
「君が火を熾すだけなら、さして時間もかけずに習得できるだろう。
火は、熱と可燃物と酸素があれば着火する。
が、それを操り、高エネルギーを生みだして行きたいとなると、
術は当然複雑になる。
しかも、術者の危険は倍増する事にもなるわけだ。
エネルギー体のコントロールには、ミスは許されない。
1度発生させてしまえば、抑える事が難しく、抑える瞬間も
与えれないかもしれないんだ」
要するに、コントロールをミスしたのがわかるのは、
術者がダメージを受けた後になるくらい、一瞬の時間という事だ。
なら、ミスの無い様に最善の準備が必要だろう。
「見ていなさい」
ロイがテーブルから、1m程離れた所から発火布を嵌めた指を鳴らすと、
テーブルの上のランプに火が点る。
そして、再度、指を鳴らすと、ランプの火が消える。
「ランプの中に火を灯し続けるには、中の酸素濃度と大気中の元素を調整する事で出来る。
では、逆はどうしたんだと思う?」
「酸素を分離させるか、消滅させる事で、燃焼が止まる」
その通り、よく出来ましたとばかりに微笑んで頷き返すロイを見ていて、
エドワードは、ロイが示唆しようとする事柄を理解した。
「ランプの中には油は入っていない。
代わりに、炎を起こすための元素を用意した、では
そこまで、どうやって火種を送る?」
「ランプの中までの距離に、真空管状態の管を繋げる。
中の気圧を調整する事で、音速以上の速さで、起こした火種を送る事ができる」
「そうだ。 そして、消火はその気圧を逆にする事で酸素を除去する事ができる。
が、圧力を図り間違った場合は、どうなるか?」
「圧力に耐え切れない器は破裂する」
「そう、そして、器内の元素の調整を間違えた場合も同様に、
内部から破裂する」
ロイが再度何気なく手を閃かせると、ランプ内の空間に火が点る。
そして、再度指を動かすと、しばらくすると、ビシッとガラスにひびが入る。
それを見透かしていたように、ロイが指を鳴らすと、ランプはひびが入った状態で止まり、
火は、中でゆらゆらと揺れ燃えている。
「ランプの上部を気圧で蓋をすれば、当然、中の熱は逃げ場が無くなる。
膨張はじめた熱が、爆発を起こす事になる。
が、ガラスはもともとそんなに強い物質ではないから、早々に割れる。
これなら、大きな被害にもならないし、物質を構築するのは君の得意分野だ。
破損したら、自分で直して、実験が続けれるだろ?」
ロイの言葉に、不承不承頷いて返すエドワードを見て、
「エドワード。 一瞬に爆発を起こす事も、炎上させる事も
そう難しい事ではない。
が、一定の炎を灯し続ける方が遥かに難しい事なんだ。
君が必要としている術も、安全に確実に施そうとなると、
コントロールは必要不可欠だ。
私は君の身を危険にさせる手っ取り早い術を教える気はない。
時間はかかっても、君が確実に、安全に術を起こせないと意味が無い。
わかるね」
捨て身の術なら、1つの構築式をマスターするだけで済むだろう。
が、それを行使した後、術者が戻れる可能性が無くなる。
ロイは、教えるとは言ったが、エドワードの身を犠牲にしてとは言ってはいないし、
当然、思ってもいない。
エドワードが行おうとしている術は、途方も無い事なのだ。
なら、それに対応できる防御も身に付けていなくては、
発動した後に、エドワードが無事でおれるわけがない。
ロイの言葉に、エドワードは黙って頷いた。
胸が詰まるような想いを抱えながら・・・。
パリーンと軽い衝撃音が響く。
「ああっ! クソぉー」
悪態と共に、大きく嘆息を付く。
「もう、今日で何回目だよ・・・」
テーブルの上の壊れたランプに、手を打ち鳴らせて置くと、
場を照らす光と共に、ランプは綺麗に元の形に戻る。
ロイに出された課題は、見た目よりも遥かに難しく、
発火布を擦り合わせる度に、ランプが割れたり、周囲に火種が飛んだりと、
修理のほうが忙しいくらいだ。
コツが掴めれば、操作が出来るようになると言われたが、
後何回、修理をすれば出来るようになるのやら。
消沈しながら、壁にかかっている時計を見て、
「やばい! もう、こんな時間か。
そろそろ、帰ってくる頃だ」
慌てて部屋を飛び出し、キッチンに飛び込んで行く。
ロイから出された課題に取り組んで3日目になる。
進歩しているのかしていないのか、エドワードには読み取れない状態なのだが、
2日目になり、頻繁にランプを破損させるようになったのを愚痴ると、
ロイが感心したように、「順調だ」と褒めてくれた。
確かに、1日目は割れるどころか、術が発動する事もなかった事から考えると、
発動できるようになっただけでも、マシなのだろうが・・・。
気弱な嘆息を付きながら、煮ているスープの灰汁を掬う。
『こんなんで、本当にアルを救えるんかな・・・』
今やっている事の、何十倍・何百倍も難しい術をマスターしなくてはならないのに、
ちんたらと初歩の術で、ミス続けている自分が、ほとほと嫌になる。
自己嫌悪に落ち込みそうになりながらも、食事の用意を進めていると、
丁度、帰宅してきたのか、玄関の方でロイの声が聞こえてくる。
「ただいま、帰ったよ」
ひょいっとキッチンに顔を出し声を掛け直すロイに、エドワードも
「お帰り」と低いテンション丸解りの挨拶を返してくる。
それに苦笑を浮かべると、励ますように、
「ほらっ」とお土産を手渡してやる。
「うん、いつも、サンキュー」
それに、少しだけ笑みを浮かべて礼を告げると、
ロイが頷いて、着替える為に部屋へと歩いていった。
エドワードが課題に取り組み始めると、ロイの帰宅は少しだけ早くなった。
仕事が忙しいのは変わらないようだが、時間のやりくりをしてくれ、
出来るだけエドワードに時間を割こうと頑張ってくれている。
なのに、成果を言えば・・・。
また、落ち込みそうな自分を叱って、夕食の用意を続けていく。
「今日は、何か困った事はなかったかい?」
夕食の席で、ロイがそう伺って来る。
彼の教え方は変わっていて、あれをしろ、これをしろと指示はせず、
その日エドワードが取り組んで、失敗したり、詰まった所を伝えると、
それに必要な事を説明してくれる。
『成果は?』と聞いて焦らす事もなく、エドワードが失敗を告げると、
『そこまで進んでいれば、上出来だ』と褒めてくれるのだ。
不思議な事に、ロイが満足そうに、そう言ってくれると、
また、頑張ろうと言う気が湧いてくる。
目の前のスープを掬いながら、エドワードは1つため息を吐き出して、
フルフルと首を振る。
「昨日と同じ。 何とか火は点けれるようになったけど、
点いた火を維持しようとすると、無理だったり、割れたりの繰り返し」
「どうして、火を維持できないかは?」
「頭ではわかってるつもりなんだ。
酸素濃度を調整させてと思ってるんだけど、多くし過ぎると
燃焼が激しくなって破裂するし、少なすぎると消えるしで」
「そうか、それが解っていれば上々だ。
エドワード、最初からランプの中だけで調整するんじゃなくて、
まずは周囲にも広げてやってみてごらん。
それでランプを包み込むようにして、そして、その枠を小さくしていく。
そうすれば、濃度が高くなりすぎても、いきなりは割れたりしないで済む。
で、段々と枠を小さくすれば、ランプの中にすっぽりと入るだろ?
それが、その枠の適正と言うわけだ」
そのロイの言葉に、エドワードは目をパチクリと瞠る。
その表情に、クスクスと小さな笑い声を上げながら、話を続ける。
「君が今、行き詰っている所は、頭で描いた構築式を感覚で捕らえる事だ。
大は小を兼ねると言うだろ?
指定範囲と幅を広げて設定して、それを段々縮小し幅を固定していく。
そうすれば、得たい情報も感覚も、順番に入ってくる」
「・・・そっか、物質の構築と同じなんだな」
「それはそうだよ。 等価に従った反応しか起きないんだから、
気体も同様だ。 大きすぎれば、次は不必要な分を落とす。
小さければ足す、同じだろ?」
「うん・・・」
呆けたように返事を返すエドワードに、ロイは優しく微笑む。
「見えないから無いわけではないんだ。
存在するのは、物質も気体も同様だよ。
硬度を強くするのと、濃度を高くするのは、理論は違えど、
やることは同様だ。 そこに在るものを動かすだけなんだから」
そこまで話すとロイは、押し黙ったまま考え込んでいるエドワードを
そっとしておいた。
ヒントさえ与えれば、彼なら自ずと答えを導き出してくる。
言ったとおりさせる事は、パターンを経験させるのには良いが、
応用が利かなくなる恐れも高い。
そして、何十、何百のミスと言う経験から、
人は意外に多くを学び、身に付けていくし、発見も出来る。
今のエドワードなら、明日にはマスターしている事だろう。
それが終われば、次の課題に進む準備をしよう。
丁度、自分の休みの週末になるから都合もいい。
そんな風に思いながら、
考え込んで、食事が止まっているエドワードに気づかせて、
食事を終わらせると、土産のデザートを用意してやる。
それに、嬉しそうに目を輝かせているエドワードを
ロイは温かい瞳で、見守っている。
「出来たー!!」
ランプの中に、物質の触媒を使わずに、炎が点ってゆらゆらと
揺れながら、弱い灯りで周囲を灯している。
エドワードは、消えずに灯り続けている炎を見ながら、
小躍りしそうに浮かれた気持ちを抑える。
そして、一息深呼吸すると、ゆっくりと指を擦り合わす。
パチンと小さな音が爆ぜると、ランプの中の灯りも消える。
それを見届けると、ホッーと張っていた気を吐き出し、
満面の笑顔を浮かべる。
そして、子供が気に入った遊びを繰り返すように、
何度も繰り返すと、よしっと頷いて、部屋を後にする。
ここ最近の中では、少しだけ遅くなりながらも、
ロイは上機嫌で帰路に付いていた。
明日の休みを確保する為に、今日出来る分をなるべく片付けてきたのだ。
これで、明日は多分、呼び出しもなく休めるはずだ。
自分の家が見えてくると、ロイは怪訝そうに目の前に近づいている家を見ながら
足を速める。
いつもなら、灯りの点っている家は、今日に限って真っ暗だ。
『弟の所から、戻っていないのか?』
チラリとそんな事も浮かんでくるが、それにしては時間が遅すぎる。
何かあったのだろうかと、僅かに浮かんでくる不安を抱えて、
玄関の鍵を開けると・・・。
ポツンと扉の直ぐ傍で灯が点る。
そして、至る所に置かれているランプが、順番に灯を灯して行く。
「そうか・・・マスターしたんだな」
驚くやら、感心するやら、そして、自分の事のように喜びが浮かぶ。
頑張り屋の小さな天才君は、どうやら課題をクリアーしたらしい。
灯る明かりに誘導されるようにキッチンに顔を覗かせると、
一斉に点いた数多くのランプの光りに、満面の笑顔のエドワードの表情が見えた。
そして、ロイも彼の傍に近づいて、そっと手の平を伸ばし、
子供にするように頭を撫でて褒めてやる。
「良く頑張ったね、さすがは君だ」
照れたように、乗せられた手を邪険に避ける仕草をするが、
懲りずに撫でている手の平を、本気で振り落とそうとまではしない。
ひとしきり撫でるのに満足したのか、ロイは手を退けると、
自分の発火布をはめ、指を鳴らす。
灯っていた多くのランプは瞬時に消え、テーブルの上の1つだけが残る。
「基本なくして応用はない。
基礎を押さえずに力を発動させても、被害は周囲にも自分にも降りかかる。
私が師事した人の言葉だ。
私は遅くに能力が発現したタイプだったんでね。
最初は、何とか遅れを取り戻そうと、躍起になって無茶ばかりしていた頃もあったんだ。
失敗を繰り返す私に、父が見るに見かねて教師をつけてくれた人が、
私に最初にさせた事が、このランプを灯す事だった。
馬鹿にしきって取り組んだ私が、マスター出来たのは1週間もかかった後だったよ。
やっとの思いでマスターした私に、その人は穏やかにそう話してくれた。
何の為に術を学ぶのか、それを忘れるなと言う事なのだろうね。
破壊し、消滅させる為にだけ術があるわけではない。
こうやって、1つの灯火を灯し続ける事で、自分が何を成し遂げたかったのかを
追求していく事は、自分が生きていく上で、大切な事だね」
穏かな灯りの中、ロイが話す言葉が、ゆっくりとエドワードに染み込んでくる。
生き急ぐような自分にも、本当に大切な事は何かを思い出させようとするかのように。
「うん・・・」
小さな声で返事しながら、頷いたエドワードに、
ロイは微笑を浮かべながら、頷き返した。
~after~
「しかし、どこにあれだけランプがあったんだい?」
ランプの片づけをした後に、一休みのお茶をしながら聞いてみる。
「ああ、あれ? もともとは、家から出たゴミと瓶から作ったんだ。
ここ、材料には困らないからな」
「そうか、器用なものだ。
私の時に、その能力があれば、割れるたびに困らなくても済んだんだがね」
はぁ~とため息を付くロイに、
「へぇ? ロイの時はどうしてたんだ?」
「その頃はまだ、物質の錬金術は苦手でね。
最初は買い直したり、買い置きをしておいたりで散々だったよ。
限が無くなると言うより、お金が続かなくなりそうだったんで、
物質の練成が得意な人に、練成陣を書いてもらって
直そうと試みたんだが、これも上手くいかなくてね。
最後の方は、資金が底を尽くか、術が出来るようになるかの
瀬戸際に差し迫られて、慎重になったものだ」
「結構、苦労してんだな・・・。
でも、マスターできたわけだから、良かったじゃんか」
「ああ、おかげで、火力の調整には敏感になって、
思うがままさ」
苦笑と共に語られた言葉に、エドワードも釣られて笑い返す。
「で、あのランプはどこかに片付けておくのかい?」
「う~ん、あんだけあっても邪魔だろ?
だから、1、2個残したら、後は、ガレージセールとかでもして
売りに出そうかと思ってんだ」
「そうか・・・。 しっかり者だな、君は」
元手はタダなのだから、売れれば丸儲かりだろうが、
果たして、あんなユニークなデザインで売れるのだろうか・・・?
答える時の、微妙な間のうちに、そんな事を考えながら、
集められた奇天烈なデザインのランプたちを眺める。
優秀な彼の、思わぬ弱点(?)を知って、ホッとするロイであった。
[あとがき]
久しぶりのFSシリーズ。
今回は、特に何と言う展開はありません。
短い割には、苦労させられたのは、科学や物理が苦手なせいでもあります。
あちらこちらと調ながら、もっともらしく書いてみましたが、
お馬鹿な頭には、難しかったです。
選んだテーマが悪かった・・・。
↓面白かったら、ポチッとな。
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