Selfishly

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act8「天風」



Family's start

act8「天風」

H19,10/12 15:00

「わぁー・・・!」

眼前に広がる前景に、感嘆の声を上げて、しばし無言で魅入っている子供に、
ロイは、優しい笑みを浮かべながら見守っている。

ロイが苦心・苦戦して、漸く得た休日。 エドワードと郊外まで足を延ばした。
ここは、NRIの東方支部が持つ、保養地兼演習場だ。
演習や訓練が無いときには、1部の地区を保養地として貸し出している。
今日はロイの権限で、敷地の全てを借り切っている。

昨夜、ランプの課題を終えたエドワードに出迎えられた後、
今日の休日の話をすると、仕事を心配する様子を見せながらも、
瞳を輝かしていた子供に、ロイは無理してでも休みを取った事に満足した。

朝から、はりきってお弁当を作ってくれ、それでもロイが起きてくるまでは
起こしにも来ずに、キッチンで待っていたエドワードの姿を見たとき、
子供にしては過ぎる思いやりが出来る彼を、少しだけ不憫に思う。
『もっと、我侭を言ってくれてもいいのに・・・』
自分の事には、多くを望まないようになってしまった子供は、
与えられたものだけを、大切に温め、密かに仕舞い、こっそりと喜んでいる。
我侭で、自己中心な子供の本分とは、全く逆だ。

何とか取り戻してやりたいと思うのは、彼本来の姿だ。
容姿形状の事だけではない、もっと内面的な事まで全て。


「どうだい? ここからの眺めは、なかなか見事だろ」

強すぎない風が、二人の身体に優しく触れながら、眼下に広がる景色へと飛んでいく。

「うん! なんか、圧巻って感じだ」

飽きる事無く、目の前の景色に心を奪われている様子を見ていると、
ふと不安が浮かんでくる。
柔らかな日差しを弾き、色鮮やかな自然の中に佇む彼は、
まるで景色に同化してしまい、溶け込んで消えて・・・。
そこまでに考えが及んだとき、ロイは堪らずに声を出していた。

「エドワード!」

少し焦ったような呼びかけに、驚いたのか目を瞠りながら、
ロイを振り返る。

「何? どうかした?」

キョトンと見返すエドワードは、いつもと変わらない。
それに安堵しながら、苦笑を浮かべて、

「いや・・、少し早いが、お昼にしないか?」

来る前に、弟のアルフォンスに、今日のお出かけの話をすると言うエドワードと一緒に
病院に寄ってから来たので、時間的にはそれほど早すぎもしない。

「そうだな、先に食べちゃった方が、後、ゆっくり出来るもんな」

合点がいったと言うように頷き、置いてあった荷物に近づいていく。
二人がここに来たのは、別にピクニックの為だけではない。
ロイの錬金術を教えるのにあたって、広い場所が必要だったからでもある。
気体や、炎を扱うロイの錬金術は、家や狭い敷地で行うには、
少々、無理があるのだ。
自分の過去に、苦い経験を何回も持つ彼だからこそ、よく解っている事で。


弁当の他に、ビニールシートやら、簡易のコンロ、はては組み立て式のミニテーブル。
次々と取り出しては用意するエドワードの準備のよさに感心しながらも、
聞いてしまう。

「エドワード、これはもしかしたら」

「うん、そう。 全部、家にあったのから作った」

エドワードの口癖になっている、材料に困らないは、本当に上手に活用されている。

手際よく用意されていくテーブルの上には、見た目も種類も豊富な、
豪華なランチが所狭しと並べられて、

「はい、準備できたぜ。 そろそろお茶も沸くから、食べようぜ」

「ああ、しかし、君は何時から起きてたんだい?」

「ん・・・、ちょっといつもよりは早く起きて用意したけど、
 べ、別にめちゃくちゃ、早くからってわけでもない・・・から」

少し照れたように口早に語られた事から、彼が今日の外出を
本心から喜んでくれていたのが、わかって・・・ロイも嬉しくなる。

「そうか、ありがとう」

その短い感謝の言葉だけで、十分通じたのだろう、
少しだけ、頬を赤くして、「うん・・・」と小さく返してきた。


その後、豪華なランチに、普段と違ったシュチエーションのせいか、
互いの話も弾みながら、ゆっくりと食事を楽しんだ。


「じゃあ、始めようか」

「おう」


ロイが指を弾くと、少し離れた位置に点在していた枯葉が舞い上がる。
前回は無風に近い状態での実験だったが、実際使うとなると、
そんな場所ばかりではない、と言うか、そんな恵まれた状況のほうが少ない。
炎を練成するときに、切っても切れないのが、気流だ。
練成の強弱に大きく影響を与える気流を、計算できずに外で炎を扱うのは難しい。

「小さなものや、軽いものは、風圧を少し起こすことで動かせる。
 そして」

次に指を弾くと、舞い上がり落ちるはずの枯葉は、ふわふわと空間を漂い続ける。

「連続した練成を起こすことで、舞い上げ続ける事も可能だ。

 そして、更に大きいもの、重いものを扱うには」

次に指を弾くと、下方から上方へ、螺旋をかきながら、一気に舞い上がる。

「気圧を上げると可能になるわけだ。

 そして、それに炎の練成を組み込むと・・・」

左手で、少しだけエドワードを庇うようにして、指を弾くと、

ゴオウッと音を立てて、火柱が立つ。

周囲を焦がすこと無いように、瞬間で消えたが、
エドワードは食い入るように、その炎の上がった場所を睨んでいる。

「が、これはあくまでも、練成で起こしたものが、周囲の状況よりも
 力が強い、あるいは影響力が少ない時だけだ。
 大抵は、気圧や気流が関係し、利用する事も出来れば、抵抗力を
 考えにいれなくてはいけない」

気体の動かし方や、使い方は前回にマスターしている。
後は、それをコントロールし、色々な状況を経験し積んでいく事だ。

「さぁ」と促すロイに、しっかりと頷いて、エドワードが1点を見つめて
指を弾く。
枯葉は、ロイの時のように上空に浮くのではなく、霧散して塵尻に飛んでいく。

「エドワード、1点に集中して気圧を抑えるのではなく、
 周囲を回るように、均等に緩やかに」

その言葉に、頷くと、はっーと息を吐いて整え、
再度、指を弾く。

カサカサと蠢く葉たちは、霧散はしなかったが、僅かしか動かない。

「そう、それでいい。 徐々に、練成を上げていけばいいから」

1度目より2度目、2度目より3度目。
徐々に、舞い上がる高さと、漂う時間が長くなっていく。

「さすがは君だ。 そのペースでいい」

時に褒め、時に注意を与えるロイに、無言で頷き返している彼は、
恐ろしいほど真剣に集中している。
ビッシリと額に汗を浮かべ、一文字に口を固く結びながら、
彼の頭の中では、目まぐるしい速さで、データーが書き換えられて行ってるのだろう。

連続の練成で、空中に枯葉を固定できるようになると、
ロイは休憩を挟もうとSTOPをかける。

それに、少しだけ不満そうな表情を浮かべたが、自身も疲れていたのだろう、
汗を拭きながら、素直に「うん」と返してくる。

「俺、お菓子も持ってきたから」

クッキーでも持ってきたのかと見てみると、結構しっかりしたリンゴのパイが出てきて、
ロイは目を丸くする。

「一体、これまでいつ作ったんだね?」

「うん? これ、別に時間かかんないぜ?
 生地寝かせて作るんじゃないから、生地の上にリンゴスライスして
 焼くだけだから、簡単だし」

エドワードが、笑いながら軽く言う事は、ロイにはもしかした、
一生かけても出来ない事が多いかも知れない、など考えながら口にしたパイに
感心する。

「上手い」

サクリとした食感に、リンゴの香りが漂い、甘さも程よく甘酸っぱい程度だ。

「口に合ったようで良かった。 また、会社の皆にも持っててやるな」

エドワードも大きめに切ったパイを頬張って、嬉しそうにしている。

2つ目のパイに手を出そうとして、何か思いついたのか、
立ち上がってみせる。

「エドワード?」

シートから外れて立つエドワードに声をかけると、

「なぁ、ちょっと見てて。
 この前から、考えてたのがあるんだ」

そう言いながら、手の平を打ち合わせ、地面に手を付くと、
数メートル先に、小さめの炎が立ち上がる。

唖然と見やっているロイに、「どう?」と聞いてくる。

「エドワード・・・今のは、どうやって?」

発火布も使わずに、

「うん、発火布無しのバージョン。

 いつも発火布が使えるってわけじゃないだろ?
 だから、布の代わりに、俺の得意な物質練成で着火させてみたんだ」

上手く行って、良かったと軽く笑うと、さっさと戻ってきて、
続きのパイを食べだす。

ロイは、そのエドワードの様子をマジマジと眺める。

『この子は気づいていないのか?」

 今の混合の練成を行えるという点で、ロイよりも先に進んで行っていると
言う事を・・・。

「君に教えるれる事も、そう多くはないな・・・」

苦笑混じりに呟いたロイの言葉に、エドワードは小首を傾げて
不思議そうな表情を浮かべてくる。

それに首を小さく振ってやり、笑いかけてやる。
その笑いには、少しだけ寂しさが含まれているのは、
エドワードは気づかないだろう。

先へ先へと進んでいくこの子供に、ロイが力を貸してやれる事は
そう多くはない。 願わくば、進んでいく道が、自分と同じ地表に続く事だけだ。
ここに着いた時に、1番最初に浮かんだ不安のように、
進みすぎ、舞い上がる風たちと一緒に、飛んで行ってしまわないことを・・・。


丘を通り過ぎる風たちは、天高く舞い上がり自由に空を駆けていく。
飛ぶ術のない自分は、それを見上げることしか出来ない。





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