Selfishly

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追跡者 11章(完結)


~ 追跡者 11章(完結) ~
 ***

「大佐~、報告書、持って来てやったぜー」
「こんにちは~」
 元気のよい互いの挨拶に、名物コンビの登場を、司令部の面々がホッとする。
 事件終了後から数日、全く訪れる気配のないエドワードに、皆してやきもきしていた処だったのだ。
 戻ってきた直ぐは、事件の処理や対応に追われてバタバタしていたから、誰も気にならなかったが、
 落ち着いてくるにつれ、落ち込みの酷くなってくる上司に、打つべき手立てもないまま、苛々とさせられていたのだ。 
 機嫌が悪くなってくれた方が、まだマシだ。 覇気なく、陰気な表情で居られては、
 示しがつかないし、欝通しいことこの上ない。

「大佐、中?」
「ええそうなの、良ければ先に顔出して上げて頂戴。
 ちょっと、元気がなかったところだったんで」
「何だよ? ちゃんと、仕事してなかったのかよ?」
 自分には報告書を書かせてたくせに、と頬を膨らませるエドワードの屈託の無い表情に、
 ホークアイもホッとして、軽口をたたく。
「そうなのよ。 仕事を溜め込まれてて、皆して困ってたとこ。
 ぜひ、エドワード君から渇を入れてやって頂戴」
 中尉の言葉に、「おう!」と勢いよく引き受けて、扉を乱暴にノックして、中に入って行く。
 その後姿に、アルフォンスも司令部のメンバーも、微笑を浮かべて皆で顔を見合わせたのだった。

「大佐、仕事溜めてんだって~」
「鋼の。 エドワード…」
 机から上げた顔が、余りにも情けなくて、エドワードは思わず苦笑を浮かべる。
「なんだよ、あんた。 ちゃんと、家に帰ってんのか?
 酷い顔だぜ?」
 いつもきちんと身なりを整えている男に珍しく、ぱらぱらと無精ひげが見え、軍服も心なしかヨレている。
 ペンを持っていた手を離すと、机の上で何度も組んだり、開いたりしている手を、じっと見ていたかと思うと、
「この前は…すまなかった。 君の気持ちも考えずに、先走ってしまって…。
 別に、あんなに焦ることもなかったのに…と、後から酷く後悔してね」
「ああ…」
「が、言った言葉に嘘はなかったんだ。 ただ…、少し、急ぎすぎたと思う。
 自分の希望ばかり言って…」
 叱られるのを恐れている子供のように、恐々と告げる言葉は、小さくて、聞き取るのが精一杯だ。
「ロイ」
 エドワードの呼んだ声に、瞬間に反応して、驚いた表情を浮かべ顔を上げる。
 エドワードは司令部では決して、ロイを名前では呼ばないし、二人でもなかなか呼んではくれない。
 顔を上げると、エドワードが、真っ直ぐな視線を自分に向けて立っている。
 綺麗な瞳が、穏かな色を湛えてロイを映している。
 そのエドワードの瞳に魅入っているロイに、エドワードは静かに語りだす。

「俺、話したんだ、アルに」

 その言葉に、ロイが更に驚きを大きくして、聞いた言葉が信じられないと、表情に浮かべてみせている。
 そんな反応を返す相手に、エドワードは泣き出しそうな笑みを浮かべ、言葉を続ける。

「遠慮されている事が惨めにさせられる。 
 俺が幸せになっているところを見せないと、自分も幸せに成れないって、あいつが言うんだ。
 今生きてない俺になるんなら、もう戻らなくて良いってまで言ってくれたんだ。
 だから…、だから…」
 そこまで語り、それ以上言葉を告げれなくなったエドワードを、ロイは机から立ち上がり、
 しっかりと頷きながら抱きしめてやる。

 そして、
「幸せになろう、二人で」
 そのロイの言葉に、手の中でエドワードが小さく頷く。
「そして、アルフォンス君には、私たち以上に、幸せになってもらえるように」
 その言葉には、大きく頷いた。
「そして…、必ず、皆で力を合わせて、アルフォンス君と、君が戻れるようにしよう」
 もう、頷くことも出来なくなったエドワードが、ギュっとロイにしがみ付いてくるのに、ロイも力一杯抱き止める。

 ロイに抱きしめられ感じる温かさ。 これが今、エドワードに感じられる唯一の温もりだ。 
 暗い過去に封印してきた切望を、ロイはエドワードに与え続けてきてくれた。 
 今の自分の気持ちに、これと言う名前は、もうつけなくてもいい。 
 ただただ、この温もりを与える事が出来たロイを放したくない、
 それだけがエドワードの中に残った想いだったから。
 様様な複雑な想いが絡まる中に、悩み苦悩して見つけた一つの真実。
 いずれこの想いの名前を知るだろう。 

 罪悪感も、後ろめたさも、消えて無くなりはしないが、けど、今はただ、
 素直に自分の中に宿っている想いを認めてやる事にする。
『放したくない』と思う、この気持ちを…。

 ロイは、精一杯の力で抱きついてくるエドワードを、痛い程の力で抱きしめ返す。
 そして、溢れる愛しい気持ちのまま、美しい金糸の髪に頬擦り、口付けを落とす。
 いつも、どれだけ抱きしめていても、ロイは不安を抱え、心細い思い、恐れを消せなかった。
 この腕で抱きしめている彼が、飛び出して行ってしまうのではないかと。 
 だから、強引にでも、この腕に止める方法ばかり考えていた。
 けれど、エドワードは真っ直ぐに前を見据えた末、自分から飛び込み還ってきてくれた。
 その意味の深さを噛み締めながら、ロイは抱きしめる腕の力を強くする。
 信じられない程の喜びを感じながら。

 抱きしめあう二人の間に、言葉は交わされる隙間も無い。
 言葉では伝えきれない事も、世の中には沢山あるのだ。
 だから、今精一杯に寄り添うことで、伝えようとする。

 「あなたが、欲しい」のだと言う、
 大事で大切な、小さな真実だけを…。



 自分達の歩いてきた道には、色々な真実の欠片が落ちていた。
 1つ1つ、拾い上げて仕舞って行く内に、それは心の中で、
 1つの形をとる。

 真実は、綺麗くも優しくもないかも知れない。
 それでも、それは何よりも大切なものなのだ。

 互いが互いを追い、欠けたピースを取り戻すために
 足掻いていた道の先では、 
 それを捧げ持っていた相手が待っている。
 漸く着いたゴールには、
 そこから始まる、二人の新しい道のりが見えてくる。


 追って、追って、駆け抜け、追いついた先に何があるのか、
 それは追跡者の二人にしかわからない。



                  ~ 追跡者  Conclusion ~




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