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久遠の輪舞(後編)act8本編完結編
・・・・・『 久遠の輪舞・後編 』act8、本編完結 ・・・・・
~ Amazing Grace ~
《息ている事と、生きている事は違うと言う事を、漸く気づいた…。》
シン国を旅立ち、故郷に近付いて行く毎に、今回の親善使節に懸かる意義を実感させられて行く。
補給地点ごとに万全の体制が敷かれており、親善使節に選ばれた人々も、苦難を予想していた旅の安楽さに、
頬が緩むのを止められないようだった。
「凄いよね…」
感心の吐息を吐きながら、アルフォンスは心からの感嘆を告げる。
それに答えるエドワードは、ロイの想いの重みに胸が詰まる思いで、小さく頷いて返すのが精一杯だった。
だからアルフォンスに返したのは、この旅の間中、守護するかのように付きっ切りのハボックだった。
「凄いだろー。褒めてくれ、褒めてくれ」
嬉しげに胸を張って、そう告げてくるハボックの仕草が妙に子供じみていて、
二人は込上げてくる笑いを抑えられない。
「なんだよぉ、そのお前らの態度は。
ここまで準備した俺の苦労を労ってやれよ」
不満そうな言葉も、笑いを含んで告げられれば、全く嫌味に聞こえない。
「すみません。でも本当に凄いです。ありがとうございます」
笑いを収めたアルフォンスが、ハボックに向き直ってきちんと礼を告げると、
彼は照れたように鼻の頭を掻きながら、笑顔を向けてくる。
アメストリスからシン国への旅路には、広大な砂漠地帯を横切って行かねばならない。
海路で行く方法もあるのだが、海に面してないアメストリスでは、陸路を選択するしかないのだ。
苦労して砂漠を横断した後も、国境線のように横断する山々や、気の遠くなるだだっぴろい平原を進むのは、
危険も付き纏い普通の旅人や商隊達では決死の覚悟が必要な道のりだ。
が、エドワード達がいる親善使節隊は、完全な護衛が付き、道々では移動の方法も万全に準備されており、
移動手段の乗換えだけで済んでいる。それもこれも、行き帰りを想定して組まれた行程のおかげだ。
今も次の乗り換えが整うまでの待ち時間を、皆がのんびりと過ごしている。
「まぁ、と言っても、これを組んだのは総統で、俺は言われた通り準備しただけなんだけどな」
「たい、いえ総統が? 自ら?」
思わず大佐と言いかけたのを直して、アルフォンスが驚いて聞き返す。
「ああ。親善使節を送るに中って、渡ってきた旅人や商隊の人達から情報を集めてさ、
安全で最速で進めるようにな」
そう話しながら、ハボックは優しい目で2人を見つめてくる。
2人に注がれている優しい視線の中、アルフォンスは感動と感謝の混じった表情を返し、
エドワードは潤む目尻をどうしようもなくて俯いている。
「あっでも、職権乱用ってわけじゃないんだぞ。便乗はさせて貰ってるけど、
ちゃんと予算外は総統の私財から支払われてるしな」
そのハボックの発言に、アルフォンスが更に驚きの表情を作る。
「そんな…。そこまでして貰って…」
驚きで言葉が詰まってしまったアルフォンスの呟きに、ハボックは大きな手の平を頭において撫でてくる。
「いいんだよ。そこまでしたんじゃなくて、あの人がそうしたかったのさ」
ロイの為、仲間の為、そして良き未来を創る為に2人が払った代償の重さを、ロイ達は忘れずにきた。
だから、時がきたら必ずそれを返そうと。
「良かった。本当に良かったよ…」
独り言のように呟かれるハボックの言葉が、兄弟を優しく包んでいく。
長い旅の時間の中で、2人が去ってからの話を聞いた。
笑いながら語られる話は、聞いていて決して安楽な日々ではなく、苦しい日々の繰り返しだ。
それでも彼らは今、それを笑って語ってくれる。
いや、笑って語れる未来を手にしたのだ。
そんな彼らを、エドワードもアルフォンスも誇らしげに思う。
自分達の選択は、決して間違っていなかったのだと。
「…」
何かの気配に呼ばれた気がして、エドワードは眠りからふと目覚める。
静まり返った野営のテントの中では、アルフォンスとハボックが気持ち良さそうに眠りについている。
砂漠での旅も終盤に近付き、明日にはここを抜けて列車への移動が可能な地域に入れるそうだ。
エドワードは横になったまま、暫く逡巡していたが、気配を殺して、そっと起き上がりテントを抜け出していく。
「寒~」
寒暖の激しい砂漠地帯にも、僅かな四季はある。
旅の始めには秋頃だった季節も、そろそろ冬に近付いているのが、冴え冴えとした空気で伝わってくる。
所々に宿直をしている警護の者が、エドワードを見止めると、
余り遠くには行かないようにと、やんわりと告げてくる。
それに頷き返して、野営地の端ギリギリの場所まで来て、夜の帳が眩い虚空を見上げる。
旅をしている頃にも、田舎の方では見事な星が眺めれたが、
空気が澄み切っている砂漠の夜の美しさは格別だ。
「気づかなかったよな…」
帰れる喜びで一杯過ぎて、空を見上げる事さえ忘れていた。
エドワードは夜空に惹かれるように、野営地の窪みから砂丘を登っていく。なだらかな丘を登りきると、
広がる闇が続いている。この先に、去って久しぶりの故郷や、待っている相手が居るのだと思うと、
今すぐにでも走り出して行きたくなる。
そんな自分の逸る気持ちを諫め、テントに戻ろうと踵を返そうとした瞬間、先ほどと同じ感覚で呼び止められる。
何も無い虚空には、星達の輝きも届ききらない。
その筈だったが…。
地上で一点、小さな瞬きが浮かんでいる。波に揉まれる小船のように、小さな光は浮き沈みしながらも、
しっかりと早い速度で近付いてくる。
一瞬、砂漠を根城にしている盗賊の出現かと緊張を走らせ、瞳を眇めてそれを検分してみるが、
光源の元は1つのようだ。
迷いもなく、一直線に近付いてくるその様子から、目的はエドワード達の野営地を目指しての事だろう。
どれほどの時間が過ぎて行ったのか、暗い闇の帳が少しずつ薄紫の衣へと濃淡を付け始め、
光源がジープのライトだった事が見て取れる程、近づいてきた。
エドワードは息を詰めて、その光景を見つめている。
本当なら、即、野営地に戻り、この事を伝えなくてはならない。なのに、足は縫い付けられたように動かず、
視線は瞬きも忘れたように、その小さな光の一点を凝視したままだ。
『呼ばれる』気配は、先ほどより遥かに強くなっていく。
身体が引寄せられるように…、いや、魂が吸い込まれていくように、抗えない何かがエドワードを呼んでいる。
エドワードはふらりと足を動かし、丘を降りていく。
早く早くと急く気持ちが、動きの悪い足を叱咤するように、つまずかせる。
「まさか…。まさか…」
転がりそうになった身体を、手を付いて建て直しながらも、視線はそこから外れない。
白々と控えめな朝焼けの先触れが、周囲をゆっくりと浮かび上がらせていく。
ジープの中に乗り込んでいる人の中から、1人の人物を見分けた時、巻いていたシーツも放り出して走り出した。
走りながら、1つの言葉が喉から迸り続ける。
「たいさ…。大佐ぁ! 大佐ぁー」
エドワードにとっては、それは階級銘ではない。
たった一人を示す、愛称に近かった。
その言葉を、上がる息を無視して呼び続ける。
そんなエドワードの様子を見止めたのか、ジープが前方で急停車すると、中から1人の男性が飛び出してきて、
エドワード同様に、走り出してくる。
「エドワードォ!」
何度も何度も、自分の名前を呼んでいる。
そう、ずっと、ずっと。
自分たちは互いの存在を呼び続けていたのだから。
潤んだ視界の先に、同様の表情を浮かべている相手が、必死に走ってくる。
エドワードは知らず知らずの内に、両手を前へと、相手へと伸ばして走っていた。
そして、受け止めるように広げられた腕の中に、飛び込んで行く。
痛いほど抱きしめられて漸く、自分がやっと戻ってきたのだと…苦しいほどの喜びの中、感じられたのだった。
「あ~あ、ったくぅ。ちゃんと待ってて下さいよって、念を押してきたのになぁ」
丘の上から、苦笑交じりの、それでも嬉しさを隠せない声で、ハボックが呟き、見守っている。
***
「無茶です!」
「別に無茶ではないさ」
ロイは小さなバックに荷造りする手を休めず、そう返す。
ここは隣国の端に位置する村で、明日にはエドワード達が到着する予定のポイントだ。
和平交渉の為に、諸国を表敬訪問して回っていたロイが、日程を終えた後、足を伸ばしてやってきている。
ここまで来ることでさえ、ホークアイにとっては賛成できかねない行動だったのに、
その先にロイが言い出した事など、問題外だった。
「明日には、無事にこちらへ入国すると伝令があったばかりではないですか。
せめてこの村でお待ちになるようにして下さい!」
ホークアイの必死の説得も、尤もな事だ。
「ホークアイ大佐。
訪問後には休日を取って良いと言ってくれたのは君だろう。
なら、休みの日に私がどこへ出かけようとも、自由のはずだが?」
笑いながら、からかうように返された言葉に、ホークアイは珍しくもムッとした表情を浮かべる。
「それとこれは違います!
夜分に砂漠を旅するなど、無謀すぎます!」
「大丈夫だ、ちゃんと案内人も居てくれる。夜分の移動は、遊牧民なら通常の事らしいぞ」
そう告げて、ロイが部屋から出て行くのを追いすがるようにホークアイも付いていく。
「彼らと私達では、生活環境が全然違います。
今、浅はかな行動をして、もし何かあったらどうなされるのですか! 無責任すぎます!」
その言葉に、ロイが足をピタリと止め、ホークアイを振り替える。自分の言葉を聞きとめてくれたのかと、
ホッと胸を撫で下ろしながら言葉を続ける。
「総統のお気持ちは、私達も十分に判ります。私達も同様の気持ちなのですから。
が、ご自分の責務とお立場をお考え下さい。
今、あなたに何かあったら、折角のエドワード君達の犠牲が無意味になってしまいます。
彼らは明日には、無事にここに着きます。もう暫くの辛抱です。ここで大人しく待っていて上げて下さい」
じっとホークアイの言葉を聞いていたロイが、小さな笑みを口の端に浮かべる。
が、それは笑みと言うには、自嘲の色が濃過ぎるようだった。
「ホークアイ大佐。
私は、もうずっと無責任な人間のまま生きてきた。
これ以上、我が身可愛さの余り、卑怯な人間では在りたくないんだ。
必ず無事に戻ってくる。君はここで待っていてくれ」
そう告げると、ロイはもう振り返らずに宿を出て行った。
「総統…」
独り廊下で立ち尽くしたまま、ホークアイは動けずにいた。
ロイの副官としては、ここは絶対に引き止めなくてはいけない。そう、例え身を挺してでも。
が、今のロイの行動は彼個人としてのものなのだ。
彼が送っていた後悔の日々の辛さを、ホークアイを含む周囲の者達は、自分達と同様だと思っていた。
が今、痛いほど伝わって理解できたのは、彼の悔いは後悔などの生温いものではなかったと言うことだ。
彼はずっと、自分を謗り、嘲り、罵り続けて生きていたのだ。
自分の野望の為に、それに誠心誠意尽くし続けてくれた二人の兄弟の、
そして愛しい人の犠牲を見てみぬ振りして過ごしてしまった己を。
彼はずっと……。
そうして今やっと、彼は自分の立場と個人のロイ・マスタングの双方を考えた妥協線に辿り着けたのだろう。
それが今、彼が動くという事なら、ホークアイに止められるはずが無い。
だから静かに待っていよう。
彼が護り続けた未来の扉の前で…。
彼の腕の中で泣きじゃくるエドワードの温かさに、ロイはエドワードが本当に
自分の手の中に戻ってきた事を実感している。
幾夜も、幾つの年月も、エドワードを見続けてきた。
が、それは朝日と共に消えうせる幻達だった。
触れる金糸の滑らかさも。
抱きしめる肌の感触も。
口付け、混ざり合う芳香も。
全ては、目覚めればお終いだ。
それが漸く、この腕の中に留めておけるのだ。
もう目覚める事を、恐れる必要もない確かな存在として。
今は黒く艶やかな色を纏う彼の髪に口付ける。
自分はこの髪に、何度誓いを立てただろう。
胸に埋めている頬を手の平で包み込んで、顔を上げさせると、泣きすぎた瞳が赤く腫れているのにも、
慈愛の籠もった優しい口付けを落としていく。
何かを伝えようと震える唇は、嗚咽に遮られ何も音には出来ずにいるが、ちゃんとロイには聴こえている。
エドワードがずっと呼び続けてくれていた『ロイ』と刻む、口の動きで。
押さえ切れない喜びは、ロイの体中を駆け巡って、エドワードへと注がれていく。
そして、エドワードからも同様の歓喜が、ロイの中へと流れ込み、深く、濃く、強く交じり合っていく。
それは魂の共鳴。
高く、低く。
甘く、切なく。
深く、広く、延々と広がっていく。
ずっと探し続けていた。
求め続けていた。
この世に生を受けた時から、受け継がれた細胞の一つ一つに刻み込まれた、自分の半身を求め焦がれる魂の刻印。
その意味が、漸く判った気がした。
「済まなかった」
ロイからの第一声の言葉に、エドワードが瞬きを返す。
「君に…、君達兄弟に、辛い思いをさせ続けて…」
苦渋で彩られたロイの表情から語られる言葉に、エドワードは再び、目を瞬かせてロイを見つめてくる。
ロイは真っ直ぐに向けられる視線を、痛みに耐えるようにして覗き込んだままだ。
彼が、エドワードが手元に戻ってきてくれた事が信じられない。卑怯な自分に愛想をつかされていたとしても、
ロイには文句が言える立場ではない事も判っている。
だから、自分を呼んで飛び込んできてくれた時には、心が震えるほど嬉しかった。
不思議そうに自分を見上げ、大きく1度瞼を瞬かせると、エドワードが聞いてくる。
「何で?」
その問いに、ロイの方が戸惑いを示す。
「何故って…。
君達に辛い選択を強いたのは、他ならぬ自分だ。
なのに自分はのうのうと生きて、野望を叶えて行っていて…。
君らの犠牲を踏み台に生きてきた私が、君に謝るのは当然だろう」
そうロイが語っている間にも、エドワードの機嫌はどんどん悪くなっているのか、
表情が険しいものになっていく。
そして、ドンとロイを押しやって離れたかと思うと。
「馬~鹿! そんな下らない事を真っ先に聞かせるんじゃねぇよ、ったく」
仁王立ちして、ロイを睨みつけるエドワードの言葉には、さすがにロイもムッとする。
「…下らないとは酷いんじゃないのか?
君らが怒るのは無理も無い事だ。が、私だって悔いずにいたわけじゃ…」
「だーかーら! それが下らない考えだって言うんだよ!」
「エドワード…?」
エドワードの怒りの方向が判らずいるロイに、エドワードは苦笑して話を続ける。
「あんたに、そう生きて欲しいと思ったのは俺らだ。
俺らは一緒の夢を見た。そしてそれを叶える為に頑張ってきたんだ。
あんたはそれを叶えて行ってくれている。
それを知った時の、俺らの気持ちが判るか?」
「…」
「誇らしかったんだよ。嬉しかったんだ。
俺らが選んだ道は、間違ってなかったんだって…な」
ロイはエドワードの言葉を聞きながら、ゆっくりと瞼を閉じる。
そして、自分が溜め込んできた悔いを昇華するような、深く長い吐息を吐き出す。
気づけば、知らずのうちに零れていた涙を、今度はエドワードが手の平で救ってくれている。
「俺らのシンでの暮らしは、無駄じゃない。必要な時だったんだ。
そしてあんたは、約束を守ってくれた。
そうだろ?
俺にはちゃんと判ってたぜ。あんたが、約束を守ってくれるってな。
だからあんたに感謝する気持ちは一杯だけど、後悔や、まして恨んだりなんて、
そんな気持ちは微塵もない。
ありがとうな。
こんなに早くに誓いを叶えてくれて。大変だっただろ?」
ロイは重たくなった瞼を、必死に開く。
霞む視界の向うで微笑むエドワードは、どんな時よりも、綺麗で輝いて見える。
「エドワード…」
「なぁ、俺が怒った理由が解ったか?
久しぶりにあったこっ…恋人に、言うべき言葉は他にあるだろ?」
頬を薄っすらと紅く染め、睨むように自分を見つめてくる瞳に、ロイは嘆息を吐いて俯く。
そして、しっかりと顔を上げてエドワードを見つめ返すと。
「ああ…。そう…だな。
本当だ…。
君に告げる言葉は、他にある…。
逢いたかったエドワード。
ずっと、ずっと君に逢いたかったんだ…」
そう告げると、エドワードは大輪の花が開いたように微笑んで、離れていた腕にポスンと戻ってくる。
「うん…。俺もずっと、ずっとあんたに…、ロイに逢いたかった…」
そう告げてくれる愛しい人の髪に、頬を埋める。
この愛しき存在が、自分の腕の中に居てくれる幸せ。
贖罪と罪悪に満ちて始まった自分の人生の中で、この存在だけが光を射しかけ導いてくれる。
そして自分は、ようやっと未来を夢見る事が出来る。
闇ではない、光の道を歩けるのだと…。
そう彼はいつも自分に語りかけてくれる。
ロイは漸く、再び手にした恋人をしっかりと抱きしめ、溢れそうな喜びを噛み締め続けるのだった。
「だから、無理だってば!」
「何故? いいじゃないか、一緒に戻れば」
「おかしいだろ! 今まで居た奴が居なくなったら」
「そんなもの、先に行ったとでも何とでも言えるじゃないか」
「あのなぁ~。遠足の帰宅じゃないんだぜ?
親善大使のリーダー格が居なくちゃ、話になんないだろ。
ほれ、さっさと戻る! どうせ、ホークアイ大佐に迷惑掛けて出てきたんだろ?
これ以上、苦労をかけるなよな」
そう言って背を押すようにして、ロイが乗ってきた車に連れて行くと、渋々ながら車に乗り込んでいく。
車の窓から顔を出すロイの表情は、売られていく子犬のようだ。
「エドワード、やっぱり一緒に…」
ぐずるように言いかける言葉の全部を言わせずに、素早く口付けを落とす。
「…待っててくれよな。俺が還る場所で、あんたが」
エドワードの行動に、ロイが呆気に取られている間に車が動き出す。
そして、大きく手を振って。待っていると告げ返してくるロイに、エドワードも大きく手を振り返す。
それが小さくなって見えなくなった頃、漸くエドワードは踵を返して、
自分を待つ仲間たちの所へと戻って行こうとした時、
後ろで控えていたアルフォンスが、遠慮がちに声をかけてくる。
「兄さん、一緒に帰らなくて良かったの?
僕らの方は、何とか出来ないこともないんだよ?」
気遣いの良い弟らしい言葉に、エドワードは小さく首を横に振って答え返す。
「いいんだ。
俺らは最後まで役をやり終えなくちゃな。
戻ってくる事が最終じゃないんだ。ここからが、俺らのこれからの人生のスタートになるんだぜ?
大丈夫だって。ロイもちゃんと解ってる」
そう言って微笑んだエドワードの表情は、幼い頃から共にしてきたアルフォンスでさえも
見た事がなかった程の、喜びと優しさに満ちた綺麗な微笑だった。
(還るのはいつでも、あいつが居る処だ)
もう離れる為に進むのではない。
この先、ずっと一緒に生きる為に進むのだ。
何度小さな別れを経ても、必ずその先には、2人が戻る道があるのだから。
そう心で告げながら、新しい人生のスタートに歩き出す。
久遠の輪舞《後編》完
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