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Forty Nine Days p3
Forty Nine Days p3
この鎖で君を繋いでおこう。
永久の誓いを籠めて、君の首へ。
離れている時にも。
独りで居る時も。
必ず還る場所はここだと、君に判るように・・・・・・・。
ロイは震える手に握りこんだ、まだ温もりの残る鍵に、自分の唇を押し当てる。
そうすると鍵を通していた鎖が、シャラリ、シャラリと小さな音を立て続ける。
それは鍵を握るロイの手が小刻みに震え続けているからだ。
まるで、「泣かないで」と慰めの囁きを呟いてくれているように、鎖は音を立て続ける………。
*****
翌朝の目覚めは、気分的にも上々だ。
ずっと恋慕っていた相手と思いを交わし、幸福に酔ったまま眠りにつけたのだから。
共に眠りに就ける関係まで進展できれば、更に喜びも増したであろうが、そこまで急ぐことはないと、
ロイは思っている。時間はこれから幾らでも有るのだ、ゆっくりと互いに合うペースで進めばいい。
今は、微かに届いてくるエドワードの気配や、温かな料理の匂いが届いてくるこの環境で、十分に幸せだと思えるのだから。
ロイはベッドの上で、ゆっくりと伸びをして起きる準備を始める。
「おはよう」
そう声を掛けてキッチンへ入っていくと、ここ最近の光景が見られる。
「お、おはよう…」
少しだけぎこちなく挨拶を返してくるのは、昨夜の名残を引き摺っているからだろう。
眦がほんのり紅く見えるのは、コンロの火のせいだけでもないはずだ。そんな初々しい反応をするエドワードに、
思わず口元に微笑が浮かんでしまう。
「今朝も美味しそうな朝食だね。いつも、ありがとう」
「ん…、そんな大層なもんじゃないし…。ほら、早く食べ始めないと、迎えが来ちまうぜ」
照れると口調が素っ気無くなるのは、エドワードの昔からの癖だ。
「そうだな、じゃあ、頂こう」
互いに向かい合って座り、穏かな時間が過ぎる。エドワードがここに来てくれるようになっても、
ロイの勤務は然程変わらず、二人してゆっくりと過ごせる時間は作れない日も続いている。
だからこそ、余程の事がない限りは、朝は二人してこうやって食事を取るのだ。
「そう言えば、今日は早めに帰れそうでね」
「へぇー、珍しいよな」
「ああ。ここ最近、毎日真面目に頑張っているおかげか、書類も溜まる事も無く、事件に走り回る事もなく済んでいるからね」
「仕事を真面目にするのは当たり前。でも、事件が起きなくて平和なのはいいよな」
そう言って笑い顔を見せてくれるのに、ロイも頷く。
「そろそろ食材も少なくなっているだろ? 今日にでもまた配達を頼んでおくよ。何か必要な物はあるかな?」
外には極力出ないエドワードの為に、必要な物は専用の業者に頼むようにしてあるのだ。
「そうだなぁ…、そろそろ温かくなってきてるから、生野菜と。あっ、あと調味料とかも減ってるのを頼んでおいてくれると助かる」
「判った、後でリストを書いて渡してくれ」
そんな会話を交わしながら、朝の短い一時を過ごすのだ。
満ち足りたゆったりと過ぎる時間…、多分、最高の時間の過ごし方だろう。ただ……、
ふいに訪れる無音の時間に、エドワードはロイをじっと見ている。――― そう、ただ見ているのだ。
最初は、何か言いたい事や話し掛けたい事があるのかと思って問いかえしたりもしたが、
エドワードが意識しての事でないのは、その後の反応でロイも気づいた。
エドワードはただ、ロイを見ているだけなのだ。
最初は面映い気持ちでいたロイも、時が過ぎる毎に自惚れも冷め、エドワードのそんな行動に戸惑いを持つ事も増えてきた。
そして今も。ロイが目の前に座っている…、互いの距離は、ほんの数10cm、計り間違えても何メートルも無いというのに、
エドワードはただ、ロイを見ている。彼が意識してのことでないのは、差したフォークから、料理が落ち空になっている事でも判る。
そんな彼を、自分に見惚れていると思い込めるほど、ロイは愚かにも、盲目にもなれない哀れな人間なのだ。
「…エドワード?」
控えめに声を掛けて呼んでみると、エドワードがふぅーと意識を取り戻していくのが目に見えて判る。
そして…、ゆっくりとロイに柔らかい微笑を見せ、何も無いと言うように小さく首を横に振って、
止まっていた自分の行動の続きを再開する。
その時のエドワードの微笑が、――― ロイは余り好きではない。
玄関までは見送りに出れないエドワードに、キッチンで挨拶をして出かけようとして、
ロイはふと浮かんだ事を聞いてみようと思いつく。
「行ってくるよ」
「おう、いってらっしゃい。今日も頑張って」
「ああ、早く帰れるようにね。…、そうだ」
入り口でクルリと振り返ったロイに、エドワードは何?と首を傾げて見ている。
「いや、君は何か欲しい物はないかな?」
「欲しい物? さっきリストを渡したぜ?」
その答えに軽く首を横に振り。
「いや、必要な物とかじゃなくて、エドワード、君が欲しいと思う物だ」
「俺の欲しい…物?」
「ああ、服でも靴でも、まぁ本でも良いんだが…、君には何かと家の事をやってもらってるのに、何もお返しして無いだろ?
だから、ほんのお礼の気持ちだが、欲しい物が有ればと思ってね」
ロイにしてみれば、礼にかこつけてエドワードに何かをしてやりたいという気持ちからだ。
女性なら花や菓子、付き合いに応じて宝飾品など贈ってきたが、同性のしかも歳の離れた相手となると、
直ぐには浮かばない。だから、エドワードが欲しいと思う物でも良いから、贈れればと。ロイがそう尋ねると、
エドワードは目をまん丸にしてじっとロイを見つめてくる。そして…。
「ん…、ありがとう。…でも、気持ちだけでいいよ。それにここには俺が無理を言って置いてもらってるんだから。
礼をして貰う必要もないしさ」
困ったように眉を下げ、苦笑をしながらそんな返事をする。
「いやしかし…。何でも構わないんだよ? 君が気にするなら、そんなに高価な物にはしないし。――― そうだ!
着替え用のシャツかセーターとかはどうだい?」
ここに来てから、ロイのお古を錬成して着替えにしていたエドワードだが、やはり新しい物がある方が良いだろう。
そう考えたロイの提案にも、エドワードは申しわけ無さそうに、首を横に振ってくる。
「本当にいいんだ。着替えは別に困ってないし。……… それに俺のサイズの服なんかロイが買ったら、
…妙だと思われるだろ?」
「そんな事は…、たかが服1枚位の事なら」
大丈夫だと続けようとする前に、エドワードが申しわけ無さそうに「ごめん」と謝って、断りを伝えてくる。
そんな表情を彼にさせたくての思い付きではないし、無理強いして困らせるのは本意ではない。
「そうかい…。じゃあ、欲しい物が出来たら、その時は言ってくれるかな?」
少しだけ気落ちしながらも、エドワードの気持ちを考えて、そう伝えるに留める。
「ん、ありがとう。そん時は必ず言うよ」
そう礼を告げながら、ロイの優しさを察して感謝の気持ちを込めた微笑をエドワードに贈られれば、
それだけでも十分嬉しくなれる。
***
「今朝は、またえらくご機嫌のようっすよね」
朝に迎えに来たハボックの第一声。
「… 別に変わらないが」
素っ気無く返される声も、妙に軽く響いてくる。
ハボックは、相手に気づかれない程度に首を傾げる。ついこの前まで、司令部の面々同様に、
どこか気鬱な様子を見せていた上司が、ここ最近は妙に落ち着きを見せ始めていた。
で、今朝はこれだ。
本人は特に変わり無いように振舞ってはいるが、ふとした拍子の表情や、感じる気配が和らいでいるのは、
長く傍に居たからこそ感じる変化だ。
――― それが今日は、更にこれ。
なんか、華やいでるような気がするのは? ―――
上司の機嫌が良いに越した事はないのだが、原因不明は少々気味が悪い。ハボックの知る限りの中では、
特に代わり映えの無い毎日を過ごしていたようだったのだが。
怪訝そうに自分を窺う気配を感じながらも、ロイはひたすら素知らぬ振りで通す。
が、ハボックあたりでこれだから、副官の鋭い観察眼を誤魔化すのは至難の技だろう。
… 今日は、出来るだけ出ておくか …
最近の精勤のおかげで、溜まるほどの書類関係もない。しかも、大きな事件も無く平穏な日々だ。
それならば、最近は任せきりになっていた市内の巡回などをしてみるのも良いかも知れない。
そのついでにエドワードに良さそうな物でも探すのも悪くない。
そんな風に思えば、なかなかの妙案のような気がしてくる。
エドワードに欲しい物を考えて貰っていては、いつまでたっても言っては貰えそうにないのだから。
「市中の巡回ですか?」
怪訝そうに問い返され、ロイは「ああ」とだけ短く返して、デスクの上の書類の枚数を目算する。
「最近、下の者に任せっきりだったから、出れる状況の時に出ておくのも悪くないだろ?」
いかにもな返答をしながら、ロイは手早く書類を確認してサインを書き込んでいく。
「はぁ、それは確かにその通りですが…」
語尾が曖昧になるのは、ロイの言動を怪しんでいるからだろう。
日常の些細な職務を、上の者が行って見せるのは大変良い事だ。
市民にも、軍が国民を大切にしようとしている事のアピールにもなる。が、逆に高官が市中に巡回に頻繁に出られては、
警護する者の心労が増えることにもなる。
「判りました。本日は市中の査察と言う事で」
完全に納得したわけでも、賛同できるわけでもないが、ここ最近珍しくさぼりもせずに仕事に打ち込んでくれていたし、
幸い不穏な情報も入って来ていない。確かに、査察日和だろう。
「ああ、頼む。何か有れば連絡をくれればいいが、無ければそのまま直帰させてもらう事にする」
「結構です。本日の決済書類も頂けましたので」
ロイが手渡した書類を受け取り、確認をしながら答える。
「で、護衛の者は何名手配致しましょうか?」
「護衛? いつも通りで構わないだろ? 」
ロイが市中に出る時には、部下が一人付いて行くくらいだ。以前はその護衛を巻いては、
気ままな時間を楽しんだりもしていたようだったが。
「そうですか。判りました、ハボック少尉に伝えておきます」
諦めたように返事を返して、ホークアイが部屋から出ていく。
ロイにとっては、いつも通りなのだろうが、軍の高官が少数の共だけで、街に出ていく事は、
本来なら余り歓迎できることではない。が、今更そんな事を言ったとしても、聞き入れるような上司でもない。
(市中の警備の者に、連絡を入れておかないとね)
物分りの良い部下の、苦肉の策だ。
「ちょ、ちょっと大佐。どこを回るんですか?」
さっさと歩いていくロイに、後ろからハボックが慌てたように声をかけてくる。市場の近くに車を止めさせたロイが、
てっきりそのままその箇所を査察に行くのかと思っていると、入り口付近から道を逸れて歩き去ってしまう。
「市場は後で寄る。先に、表通りに向かうぞ」
「へっ? なら車を動かしますから、戻って下さいよ」
ここから表通りまでは、かなりの距離がある。それなら、最初から車で移動した方が簡単だ。
「いや、道までにある店も見て回りたいから、車は必要ない」
ここから表通りまである道筋には、細々した個人の商店が並んでいる通りだ。表通り程、地価が高くないせいで、
個人で店を営む者には手頃なのだろう。
が、服飾にしても、雑貨にしても、普段のロイが興味を引くような店があるわけでもない。
どちらかというと、若者が好みそうな店ばかりで、扱っている物も手頃な価格だ。
「何か、重要な情報とかでも有ったんですか?」
熱心に店を眺めている上司に、そう声を掛けてみる。
「情報? いや別に無いが?」
ハボックの問いに、ロイが逆に不思議そうに返してきたのだった。
歩いていく最中にも、街の人達に声を掛けられ、その度にロイは愛想良く返事を返し、談笑をしている。
東方は、他の街ほど軍と市民の中が断絶している事も無い。治安には気を配っているおかげで、
テロや犯罪行為も多い割には未然に防がれて、被害も最小に抑えられている。
軍の横行や横暴な振る舞いも見られない為、友好的な関係を築けている街でもある。
今も数人の街の人々に囲まれながら和やかに談笑している上司を邪魔しないように距離を取って待機しておく。
「そうですか、暫くお姿を見られなかったと思っておりましたが、ご結婚されたんですね。おめでとうございます」
ロイの祝福の言葉を嬉しそうに受け取る女性は、幸せに頬を輝かせている。
女性には賛辞を惜しまないロイの性分から、その女性の美点を褒めようとして、思わず気を惹かれる一点に目が行く。
ロイがじっと見つめている物に気づいた相手が、首から持ち上げて掛けていたネックレスを取り出して見せてくれる。
「これが気になりまして?」
ニコニコと微笑みながら告げられて、ロイは初めて自分の不躾いな振る舞いに気が付く。
「これは失礼致しました。…とても素敵な物をお持ちなので、思わず見つめてしまって」
「いいえ、お気になさらず。変わっているでしょ? ペンダントトップが指輪だなんて」
その彼女が取り出して見せてくれた物は、しゃれた細工の細いネックレスに淡い光沢を放つリングの指輪が吊られている。
その指輪が結婚指輪である事は、まだ縁の無かったロイにも判る。
「ご結婚指輪でいらっしゃるのですね」
「ええ、指に嵌めておきたいんですけど、仕事柄難しかったんで、主人がこれに通しておくといいと贈ってくれたんですよ」
そんな些細な言葉にも、夫君への愛情が溢れている。
「リングもですが、ネックレスのチェーンもなかなかの細工ですね」
細いシンプルな中にも、センスと腕の良さが見て取れる品物だ。
「ええ。この近くに腕の良い職人がいらっしゃって」
「ほぉ?」
興味を惹かれた様子のロイに、彼女は親切にその店の事を語り始めてくれた。
「大佐、そっち側にはあんま、行かないで下さい。入り組んでて判りにくくなってるんすから」
静止の声を気にする様子も無いロイが、足を止めてハボックの方を振り返ってくる。
「なんなら、お前はここで待っててもいいぞ。この先に、目当ての店があるのを教えてもらったんでな」
と、ハボックの言葉を取り合いもせずに、さっさと路地へと入ってしまう。
「全くー、怒られるのは俺なんですよぉ」
ガリガリと髪を掻き乱し、泣き言を言いながらも仕方無さそうに着いていく。
そして、然程進まない内にロイが目的の店を見つけたのか、ハボックに店の前で待つように告げると、
中へと消えていくのを、がっくりと肩を落として見送った。
『彫金工房』と書かれた看板の店の中では、様々な細工が狭い店内に飾られている。
どれもが手軽に手にとれる値段ながら、質は中々高そうだ。
ロイは店内に飾られている品を、ざっと見回していると、店主らしく男性が声を掛けてくる。
「どんな物をお探しで?」
職人も兼ねているらしく、店主は無愛想な表情に精一杯の愛想を籠めて訊ねてくる。
「チェーンをね」
目の前の箱に並べかけられている細い鎖達は、まだペンダントトップが付いていない。
シンプルな者を好む者なら、そのまま付けるタイプかもしれない。
「長さはどれ位のもので?」
「そうだな…、出来れば余り短くなくて、首にかけて取り出せ使える物がいいな」
「取り出して使える長さですか。子供さんの家の鍵でも吊るんですかね?」
そう返しながら、別の箱に入っている鎖を見せてくる。そこに入っているものは、
何重かに重ねられて吊られているところを見ると、長さも結構あるのだろう。店主に子供用かと尋ねられて、
少々憮然とした思いが込上げるが、年齢を考えてみれば相応の判断だろう。
「子供と言うほど小さくはないが、大柄ではないな」
「ここに有るのは銅かメッキが多いんで、余りお子さんとか、長時間身に付けるのは薦められんのですけどね」
商売っ気の無い店主は、誠実な人柄らしく渋い表情で、箱の中身を物色している。
「そうだろうな」
あっさりとそう返すロイに、店主は怪訝な視線を向けてくる。
「ここに無い物で作られた物が欲しいんだ」
入って来て一瞥した時から、この中に欲しい物が無い事は判っていた。
腕の良い彫金師らしいが、まだまだ宝飾に金を掛けれる裕福な人々は一部しかいない。
そういう客層を相手にしないとなると、安価で手軽な細工物しか作れないのは仕方がない。
「では一体、どんな物が宜しいんで?」
そこで初めて店主は、入って来た軍人が高官であることに気が付いた。見た目が若いせいで、
年若い軍人が彼女か、家族への贈り物でも探しているのかと思っていたのだ。
「材質はプラチナがあれば、それが一番良いな。金は柔らかすぎるんでね」
「プラチナ…ですか?」
「ああ、それも出来れば純度が高い物が有れば、それがいい」
さらりとそう告げるロイを、店主はじっと検分するような視線を向けていたが、
確認するようにポツリと告げて、店の奥へと入っていく。
「合金じゃないんですね。…ちょっと待ってて下さい」
ロイは独りになった店内を見回す。ここの店は今時珍しい一点ものばかりらしい。
安い装飾品の殆どが、大量生産されているご時世に珍しいことだ。経営も楽ではないだろうが、
やはり一点ものと言う魅力は高いのか、街の人々も大切な時への贈り物に珍重されていると話していた。
だから、余り期待はしていなかったが、覗いてみようと言う気になった。そして、店内に飾られている品を見て、
店主の腕前に感心させられたのだ。
コンコンコンと、催促のようにハボックが窓を叩いてくる。それに、もう少し待てとジェスチャーしていると、
小さな小箱を大切そうに持った店主が戻ってくる。
「これではどうなんでしょうかね」
箱の中には、柔らかい布で包まれるように掛けられた淡い光沢を放つチェーンが掛けられている。
細く強靭な鎖には、所々他の輪よりも少しだけ大きな輪が組み込まれており、その輪には細かな細工が施されている。
「これは…素晴らしいな」
ロイのシンプルな褒め言葉を気にいったのか、ここに入って初めて店主の顔が綻ぶ。
「そう言って貰えるなら出した甲斐がありますな。
これは若い頃の秀作でしてね。もう二度とこれだけの材質を扱える時は来ないと思うと、なかなか手放せなかった物なんですわ」
店主は我が子を愛しむように、包んでいる布で鎖を撫でる。
「もし店主が構わないようなら、ぜひこれを頂きたいのだが」
ロイの控えめな申し出に、店主はあっさりと頷いた。
「構いません。こいつの真価の判る方に使って頂ける方が、これも嬉しいでしょう。
宝飾品は使ってもらって初めて価値が出るもんです。
こんな薄暗い店の奥で、箱に仕舞われたままでは可哀想ですからな」
そう告げると店主は、包装をロイに窺ってから包み始める。
告げられた金額は良心的な代金で、それにはロイの方が驚かされるが、店主はそれで良いと首を横に振る。
「しかし、これはご主人にとっても大切な品なのではないですか?
譲って頂く方としてはありがたいですが、何故また…」
通っている上客でもないような一見のロイに、あっさりと渡せるような品物ではないだろうに。
店主は丁寧に包み終えた品をロイの差し出しながら。
「…そうですな。何故と問われても私にも判りません。
が、お客さんがお探しの品に相応しいと勘が働いたと言うしか…。
大切な方に、大切な物をお渡ししたいのでしょ?」
すらりと言われた言葉に、ロイは目を大きく見開いて、暫く無言で店主を見つめた後、頷く。
「――― ええ、そうです。
とても大切な、愛しい人への贈り物を掛けたいと…」
そのロイの言葉に、店主は満足そうに頷いて見せた。
指定の金額を書き込みながら、ロイは街の人々に聞いた話を伺ってみる。
「店主はお若い時に、有名な宝飾店で勤められていたそうですが」
「ははは、そんな頃も有りましたな」
笑う店主の表情には、曇りも翳りも見えない。
「一部の人だけを飾る物を作るより、材質は低くとも多くの人に使って貰いたくなって、思わず飛び出してしまいました」
「そうでしたか」
「まぁ、そのおかげで生活は貧しくはなりましたが、気も楽です。
好きな事が出来て喰っていける分、別に困りもせんし、ありがたく商売させて貰ってます」
そう答える店主に小切手を渡すと、ロイは礼を告げながら品物を受け取り、店を出る為に踵を返す。
「ちょ、ちょっとお客さん!」
小切手の宛名を確認して驚き、書かれた金額に再度大慌てする。
「それは次回の仕入れに。これだけの素晴らしい物を作れる腕を眠らせるのは勿体無い」
言われた金額の数倍の数字が並ぶ小切手を握って、店主は深々と頭を下げた。
「何か買ったんすか?」
外に出ると、退屈仕切った表情のハボックが立っている。
「ああ、ちょっと鍵用のチェーンをね」
「へぇー、こんな店でねぇ…」
色気が無い買い物だと思っているのがありありと判る表情を見せ、興味が無くなったのか「サボらないで下さいよ」と
一言告げると、今度は戻る道を先に歩いていく。
胸ポケットにしまった小箱を上着の上から触れる。店主の好意を無碍にするような事をしてしまったが、
ロイにとっては正当な等価交換だ。出された品は、それに価する出来栄えで、
そしてそれ以上に価値ある店主の気持ちに対しての。
もしかしたら店主の若かりし頃に、賞を取った作品だったのかも知れない。
それをあっさりと譲ってくるのは、彼が過去と綺麗に決別している証拠なのだろう。
別に鎖でなくても良かったのだろうが、思いつけばそれが一番しっくりくる物の気がした。
鎖…とは、暗示的な贈り物だ。
繋がりを持ちたいという願いでもあれば、縛り付けておきたいと願う欲望の現われにも取れる。
誰かにそんな物を贈りたいと思ったことはないが、エドワードには持っていて欲しいと願っている自分がいる。
――― これからは、そう願うことも出来るようになるな―――
旅ばかりのあの頃と違い、もう少しで彼も過去から解放される。
それから先の事を考えると、出来るだけ傍に入られると嬉しい。そんな願いを籠めての贈り物だ。
…喜んで貰えると嬉しいんだが…
明るい気持ちで運ぶ足取りは軽い。残りの査察箇所を回って、早く帰る為にも、
残りの時間はまじめに仕事をして行こうと決めて進んで行く。
「これを俺に?」
夕食の後、昼間に買った贈り物を差し出すと、エドワードが戸惑いがちに受け取ってくれる。
「ああ。査察中に良い物を見つけてね。使ってもらえると嬉しいと思って買ったんだが」
ありふれた包装紙からは、高価な感じは受けない。
「何が入ってんだろ」
カサカサと包みを剥がしてみると、古びてはいるが包装紙にそぐわない上等な箱が出てくる。
横開きの蓋を開けると、中には細い鎖が納まっていた。
「鎖? しかもこれって、プラチナじゃないのか?」
眉を顰めて品物を見入っているエドワードに、苦笑しながらロイが頷いてみせる。
「さすがに君には一目で見破られるか」
観念して認めるロイに、エドワードは呆れたような表情を浮かべる。
「あのなぁ…。俺の分野は鉱物関係だって。
しかもこれって、かなりの純度高いんじゃないのか? 細工も凄いしさ」
険を含む視線に、ロイは肩を竦めて返す。
「別に有名な宝飾店の品物でもないから、高価と言うほどの品じゃないさ。街の方に良い店を聞いてね。
足を運んだついでに、店主が譲ってくれた物さ」
対したことないように話すロイを胡散臭そうに見ながら、エドワードは再度手の中にある品物を見つめる。
宝飾には疎い事もあり、鉱物としての価値でしか判らないが、手の込んだ細工からも、そうそう安い買い物ではない筈だ。
が、確かにブランドのロゴ等は刻まれていないから、驚くほどの値段は付けられはしないだろうが。
しかし、男のエドワードにネックレスを贈られても、使い道が…。
眉を寄せて箱を見ているエドワードに、ロイが話を続けてくる。
「エドワード、それはメインじゃない。本当に贈りたい物は、こっちなのさ」
ロイのその言葉に、まだあるのかと言うように目を瞠って返してくる。ロイはそんなエドワードに、
微笑を浮かべて1つの鍵を取り出してみせる。
「?」
ロイの手に持たれた鍵を見つめ、怪訝そうにしているエドワードにロイは渡した小箱から鎖を取り出して、
ペンダントトップよろしく鍵を通してみせる。
「この鍵はね、この家の合鍵だ」
「家の…?」
驚き、聞き返してくるエドワードに頷いてみせる。
「今は使う事が無いだろうが、これから先に使って貰えると嬉しいと思ってね」
少し照れているのか、視線を俯かせて手元の鍵を通すのに苦心している素振りで話してくる。
「出来た」
そう告げて示してくる鎖の先には、彼が付けた鍵が揺れている。
エドワードは揺れているそれをじっと見つめたまま反応する様子を見せてくれない。
「…迷惑だったかな?」
少しだけトーンの落ちた声が、ロイの気持ちを現している。
自分では名案のような気がして浮かれ過ぎただろうか? 昨夜の事があったから、
喜んで貰えると思っていたのは、自分の早合点なのだろうか…。
そんな心配を抱えながら問いかけてみると、漸く気を向けてくれたのか、エドワードが小さく横に首を振る。
「違う、そうじゃない…。なんか、嬉しくて、胸が詰まっちゃってさ。
ありがとう、大佐…」
そう礼を言って、エドワードが鎖を受け取ろうと手を伸ばす様子に、ロイはほっとしながら立ちあがる。
「私が着けよう」
そう嬉しそうな笑みを浮かべながら、エドワードの後ろに回りこむ。
「…良かったよ、君が喜んでくれて」
安堵の籠もった言葉に、エドワードは小さく「ごめん」と返す。
「気にしてないさ」
ロイがさらりとエドワードの髪をかき上げて、鎖を回してくる。質の高い細工のおかげで止めるのもすんなりと出来る。
「重くないかい?」
「ん…、全然、平気…」
そう答えるエドワードの声は、羞恥心の為か少し掠れている。
「そうか…」
そう答え、止め具合を見るように再度髪をかき上げると、ロイは自然に吸い寄せられるように、エドワードの白い項に唇を触れさせる。
「た、大佐!」
驚きと戸惑いで跳ねる身体を、ロイは後ろ手からそっと抱きしめる。
「出来たら名前で呼んでは貰えないかな? エドワード」
笑いを含んだ声が、強請るように耳元で告げてくる。ロイがエドワードの事を名前で呼んで来ても、その逆はまだ無いのだ。
「な、名前で…?」
慌てるエドワードに、ロイはさも当然のような態度で返す。
「そう」
その返答に、エドワードが硬直したように動きを止める。そして、暫く無言で黙りこんだ後に、情けない声で聞いてくる。
「また今度でいい?」
「駄~目、今直ぐ、この場で」
「今すぐぅー!」
無理だと言うように頭を振って抵抗するエドワードに、ロイは哀しげに嘆息を吐く。
「嫌かい? 残念だな…、君に一度位は呼んで欲しかったんだが…。
無理強いは出来ないし…ね」
そんな風に呟かれれば、自分が酷く悪い事をしている気になる。
「べ、別に無理って程でも…」
慰めか言い訳か区別がつかない返事を返す。
「いや…。君が嫌がるような事を強要するのは私の本意じゃない。
大丈夫、気にしないでくれ。寂しいが我慢するよ…」
そんな事を言いながら、エドワードの肩に俯くように頭を伏せられれば、エドワードとて気にしないではおられない。
「判った! 判ったから。その嘘臭い演技は止めろってば」
エドワードの反応など予測済みだったのだろう。ロイは楽しそうな笑い声を上げると、さぁさぁと急かしてくる。
「ったく、いい歳して泣き真似なんかするなよな…」
「別に泣き真似じゃないさ。好きな相手に冷たくされれば、誰でも気落ちするに決まってるだろ?」
「そんなに、柔い神経してるかよ、あんたが」
「あんたじゃないだろ、エドワード? さて、呼んでくれるね」
回された腕で揺さぶられながら強請られれば、逃げ道の無いエドワードも観念するしかない。
「・・・・・・・・・・ ィ」
ぶっすりと照れ隠しで言われた言葉は、小さすぎて語尾しか聞こえない。
「聞こえないよ、エドワード。ほら、もう1度」
強請るようにかあやすようにか、手がエドワードの腕を軽く叩く。
「判ったよ! もう!
ローイ ロイロイ ロ・イィー! これで良いだろ!」
耳朶を朱に染めながら、やけくそに叫ぶエドワードの反応が可愛すぎる。
ロイは肩に顔を埋めたまま、クスクスと込上げる笑いを零す。
「何、笑ってんだよ! 人にこんな恥かしい思いさせて」
憤慨したエドワードが、腕から抜け出そうともがく。
「いや……済まない。 嬉しかったもんだから…」
そんな言葉をしみじみと囁かれれば、エドワードだって怒り続けにくい。
「別に……名前呼ぶ位なら、対した事じゃないし」
ポツリと呟かれた言葉に、ロイが嬉しそうに礼を言う。
「そうかい? ありがとう、嬉しいよ」
「ん…」
後ろからでは耳同様赤い頬しか見えないのが残念だ。きっと今のエドワードは、酷く可愛らしい表情を見せてくれるだろうに。
顔は見れないから…。代わりに。
「エドワード」
そう呼びかけてみる。
「…何だよ、…ロイ」
返された返事が嬉しくて、また呼んでみる。数度続けていると、諦め切ってくれたのか、
凭れかかりながらロイが気の済むまで付き合ってくれる。
互いを呼び合う事から始まって、他愛無い言葉をやりとりする。
面と向かって言うのには抵抗があるような言葉でも、背を向けていると少しはましだ。
まぁ、恋愛経験豊富なロイにはそんな抵抗は皆無だろうが…。
そんな意味も無い時を過ごせるのも、楽しくて仕方ないなんて、どちらも恥かしいくらい、
始まったばかりの恋人期間に酔っている。
エドワードの胸元では、そんな二人を笑うように、小さな鍵が揺れ続けていた。
***
「出張ですか?」
「うん、そう。本当は私が行く予定だったんだけどね。最近腰痛が酷くて、億劫になっちゃって」
闊達に笑う様子には、腰痛で悩まされているようには到底見えない。
「はぁ…、でどんな内容で?」
「ああ、な~に全く対した内容でもないんじゃ。西方に今度就任した奴がおるじゃろうが」
「西方に? それは、キルギス司令官の事でしょうか?」
「そうそう、そのキリギリスの奴が就任祝いをするから顔を出せと煩くてな。どうせつまらん手柄話を聞かされるだけだと思うと、
わしのか細い神経が耐えれんわ」
将軍の言葉に、ロイは嘆息を吐きながら言葉を返す。
「そう言えば、キルギス将軍とグラマン将軍は士官学校からの同期とか」
「そうじゃ! まさしく腐れ縁続きでの。士官学校の時からいけ好かない奴じゃったが、
今度の西方司令官抜擢でいい気になっておる!
たかだか、二支部の指令官長を務めた経歴を持ってるからと、わしの事を万年東方止まりとか吹聴しているらしい。
わしは好きでここに居るんであって、あやつのように経歴を自慢して回るのは好かん」
要するに犬猿の仲という事だろう。
「別に代理なら、私で無くとも良いのでは…?」
たかだか就任の挨拶なら、他の者か、祝辞で済ませても構わないだろうに。
「そうもいかんのじゃ。あやつが以前から、自分の馬鹿息子を自慢しておってな、東方には後継者も育たなければ、
良い部下も持ってないから老体に鞭打って大変だろうと愚弄しおって…えーい、腹の立つ」
確かにグラマンには息子が一人も居ない。孫も違う性になっているから、直系がいないのだ。
「要するに、見世物に?」
「うむ。君なら向うもケチは付けられんだろう。若くから大佐で、優秀な国家錬金術師だ。あいつの馬鹿息子なぞ、霞んで見えるわ」
カッカッカッと笑い声を上げて胸を張っているグラマンに、ロイは渋い表情を見せる。
「行ってくれるな?」
期待満々の表情で尋ねられれば、拒否しにくいが、タダで受けるのも嬉しくない。
「報酬は高くつきますが?」
普通、上官にそんな事を言おうものなら、即刻不敬罪で問われるが、この司令官は少々変わり者なのだ。
「休暇一日でどうじゃ?」
と指1本を目の前に立てて示してくる。
「移動までの日数を考えて仕事を進めなくてはなりませんから、一日では割に合いませんね」
「ちぇ、けちな男じゃな。よーし、大盤振る舞いで二日でどうだ!」
それに無言で首を振り、ロイは黙って3本指を立てる。
「3日か…」
ロイが空けるとなると、当然その間はグラマンに仕事が降りかかってくる。
「仕方ない、背に腹は変えられんからな。判った、3日出そう」
ふぅ~と溜息を吐きながら、許可を出す。
「ありがとうございます。で、もう一つだけお願いが…」
「まだあるの?」
渋い表情を見せる相手に、ロイはにっこり笑ってお願いを口にする。
『好きにするといい。が、君のとこの副官には、自分で許可を貰ってくれ給えよ』
その言葉に、ロイも苦笑いをして頷く。
***
「旅行?」
以前約束した通り、エドワードに料理の手ほどきをして貰いながら、本日の夕飯を作っている最中にロイが伝える。
「ああ、君が以前話していただろう。自分の存在を気づかれなければ、外に出るのも問題ないと」
大雑把な手つきで蒸かしたジャガイモの皮を剥いている。熱い内に剥けば簡単に剥がれるのだが、少々熱過ぎるのが難点だ。
「それはそう話したけど。何でいきなり旅行なんだ?」
彩の野菜を手際よく刻みながら、エドワードがそう問うてくる。
「いや実は、グラマン将軍に出張を仰せつかってね。それを受けるご褒美にと下さったんだ」
「ご褒美~?」
手を止めて、疑わしそうな視線で相手を見る。軍務で褒美が出るような話は、過去にも聞いた事も無い。
報奨はあるらしいが、それは余程大きな功績を挙げた時位だ。
「ああ、本当だとも」
納得してくれないエドワードに、ロイは昼間の将軍とのやりとりを話して聞かせる。
「悪どい~」
唇を尖らせて、ロイにそんな言葉を投げ掛けてくるエドワードに、ロイは心外なと表情を顰める。
「別に任務でもないのに西方まで出向くんだ。少しくらいは、メリットが有った方が楽しいじゃないか」
ロイがすり潰したジャガイモを受け取り、エドワードは彩りの野菜と味付けをして見せる。
「でもって旅行? 無理だよ…、ロイの護衛と鉢合わせしちまうし」
護衛の相手は、大体においてエドワードの良く知るメンバーが付いてくる。
その相手には、どんなに変装してもばれるだろうし、目を盗んで付き従っていくのは無理だろう。
「護衛はいないんでね。その心配もない」
そんな爆弾発言を、さらりとロイが告げると、驚いたエドワードの手元が狂う。
「塩っ辛い…」
折角、順調に出来上がっていたのに。手元がブレた拍子に大量に落ちた塩で、
払っても尚濃い味付けになってしまった。
「大丈夫だ。こうやってパンで挟んで食べれば、それ程気にならないさ」
言ったロイ自身は、自分の言葉を然程気にもしていないようだが、聞かされたエドワードには俄かに信じられない話だ。
軍の高官が護衛の一人も付けずに遠方へ出かけるなど、許されないのではないだろうか。
そう告げるエドワードに、あっさりと肯定してくる。
「ああ、通常なら無理だろうな」
「ならっ!」
「が、うちでは結構有るんだ。だから中尉も慣れてくれてるんじゃないかな?」
その言葉に、彼の部下達の苦労を忍ぶ。
米神を抑えているエドワードを苦笑しながら見、ロイはエドワードに話しかける。
「君がここに来てから、どこにも連れて行ってもやれないし、君も出て行かないだろ?
ここでは君を知っている人達も多いから、そうそうには出て行けないだろうが、西方まで出れば、
もう少し自由に出歩けんじゃないかと思ってね」
そんな風に話し出すと、エドワードもロイに視線を向けてくる。そのエドワードに微笑んでやりながら、ロイは説得を続ける。
「が、君にとって危険な賭けだとは思うから、無理も余り言えない。
西方までだと、どれだけ急いでも1週間ほどここを空けないといけなくなる。
それでは折角君が居てくれているのに、勿体無いじゃないか」
そう告げられれば、確かにその通りだ。ここに滞在できる期間は決まっている。
それはエドワードにとっても嬉しくは無いことだ。
がだからと言って、ロイの無茶を認めるような言動は出来ないし。
そう思っているエドワードの前で、ロイが零した言葉がエドワードの胸を突く。
「それに、出来れば今は離れたくないんだ、私が」
「ロイ…」
「馬鹿みたいだろ? 良い歳した者の言う事ではないが…。離れている間に…、
また君が居なくなったらどうしようかと思うと、不安でね」
笑って言われているのに、エドワードは身を抓まされるような気持ちにさせられる。
昔のエドワードなら、絶対に頷いたりはしなかっただろう。自分にとっては喜ばしい事が全て良い事だとは限らないのだ。
けれど……、今は、今だけは………。
「――― 仕方ない、付き合ってやるか」
溜息混じりに告げられた返事に、ロイの表情がほっと安堵の色を浮かべる。
軍規を乱している自覚はあるし、部下の気苦労を増やしているのも判っている。
それを告げた時の副官の表情は、苦虫を噛み潰したように顰められ、了解できませんと何度も首を横に振っていた。
その気持ちも勿論判っている。が、今ここにエドワードを置いていく事は、どうしても出来ない。
頭では判っていても、気持ちが割り切ろうとしない。冷静に自分が間違っている行動をしようと判っているのに、
それを止められない時にはその判断に従う方が良いのだ。
正しい法則やルールが、全ての時に適応するわけではない。
やはりと後悔することになるのなら、意地を通して見る事も大切だ。
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