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DIARY
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PROFILE
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Selfishly
Forty Nine Days p4
~~~ Forty Nine Days p4 ~~~
・・・ 貴方の傍に居られる時間 ・・・
注:死にネタです。ご注意ください。
一応、邂逅編には続きますが・・・。
旅行から戻って変わった事と言えば、二人の距離の取り方だろう。
心を交わしてはいても、どことなくそわそわした空気が流れていた二人だったが、
旅行から戻ると急速に近付いていった。
しっくりと馴染んでいったと言うのか、在るべき位置に落ち着いたと言うか、
二人の作り出す空気も自然に過ごせるようになっていく。
持ち帰りの資料をリビングで読んでいるロイの腕の中では、エドワードが最近興味を持った本を熱心に読んでいる。
ロイが読む片手間にコーヒーを一口飲み、カップをエドワードの口元に運ぶと、エドワードも自然に口を付ける。
二人で1つのカップで飲むと中身が減るのも早い。中身が空くと、エドワードがポットからコーヒーを注いでロイに渡す。
そうやって読み進めて行く時間が過ぎ、ロイの方が早めに終わる。
肩越しにエドワードの読んでいる物に一緒に目を通してみる。特にロイの興味を惹く内容ではなかったが、
エドワードと一緒に読む時間を過ごす事が嬉しいのだ。
それから暫くエドワードの読書振りを眺めて過ごしていると、エドワードが本をパタリと閉じた事で終わりを知る。
「読み終わったのかい?」
「うん、結構面白かったぜ」
そう返しながら、ロイに身体を預けてくる。ロイは幸せな気持ちでエドワードの腰に手を回して、
頭に顎を乗せて、本の内容を語ってくれるエドワードの話を聞いていく。
本の話から雑談に移り、楽しい時間を過ごしていると、時が過ぎ去るのもあっと言う間だ。
一頻り話して区切りがついた時刻を見れば、そろそろ日付が変わろうとしている。
「そろそろ休もうか?」
「うん。明日から忙しいって言ってたもんな」
旅行から戻った直後は、確かに残業続きが多かったロイだが、ここ最近は通常業務で戻って来れるようになっていた。
が、明日からはお偉いさんの査察やら訪問が立て込んでいて、これで暫くはまた、
残業続きの日々を過ごせなくてはならなくなる。
億劫そうな嘆息を吐きながら立ち上がると、自然に二人は手を繋いで寝室へと歩き出す。
「そうだよ…、全く面倒ばかり押し付けられて困りもんだ」
「優秀な者は妬っかまれるのも仕事…だろ?」
いつかの自分の言葉を返され、ロイは肩を竦めて返すしか出来ない。
さして遠くない寝室まで着くと、エドワードが着替えを出しに行き、ロイがベッドのシーツを捲くって待つ。
「ほら、あんたの」
そう言いながら着替えを差し出すと、ロイは微笑みながら首を横に振って、差し出された着替えではなくて、
エドワードの手首を掴む。
そんなロイの行動に、数瞬視線を彷徨わせてから。
「…明日から、忙しいんだろ?」
照れ隠しのぶっきらぼうな口調に、ロイは更に笑みを濃くして、エドワードの腰にもう片方の手を伸ばして引寄せ、
抱きしめてくる。
「そう、忙しくなるな。だから、今の内に充電しておきたくてね」
囁いている間にも、ロイはエドワードをシーツに縫い付けて、その上から覆い被さっていく。
「…明日に響かない程度にしろよ。あんたももう若くないんだぜ」
そんな可愛い憎まれ口をきく唇を、ロイは余裕の笑みを浮かべて塞いでしまう。
「若いか若くないかは、君に確かめてもらおうか」
余裕綽々の相手の態度に、エドワードは眉を顰めてベッーと舌を出す。
ロイは悪戯な舌からとばかりに絡め取り、長い情事の時間の始まりを告げる。
***
翌朝、夜の疲れを微塵も見せないロイが、ベッドに倒れ付しているエドワードに爽やかに出かけの挨拶を掛けてきた。
「じゃあ、エドワード、行ってくるよ」
うつ伏せに寝ているせいで唇に出来ないキスを、剥き出しの肩にきつめに落とす。
ピクンと反応を返す身体に名残惜しさを感じながらも、シーツ越しに手を這わせるだけで我慢して立ちあがる。
扉のノブに手を伸ばした瞬間、後ろにいるエドワードから声が上がる。
「ロイ! どんだけ…、いつ頃まで忙しいんだ?」
ロイは驚いたように振り替えると、エドワードに答える為にスケジュールを思い返して告げる。
「そうだな…。訪問の最終日が4日後だから、残務を合わせて5日間ほどかな?」
「そっか…。うん、判った。あんま無理すんなよ」
ベッドに起き上がってそう告げるエドワードが、酷く気落ちしているように思えて、
ロイは出ようとしていた足を戻して、エドワードの傍に行くと、膝を付いて目線を合わせる。
「寂しいのかい?」
髪を撫ぜながらそう尋ねてやれば、エドワードは珍しくも素直にコクリと頷いてくる。
「寂しいさ……当然だろ」
エドワードの素直な反応に、ロイは相好を崩す。
「5日後……そうか、アルフォンス君の錬成が完了する日だな」
「……………… うん」
「翌日には発つ気なのかい?」
「発つ…」
その応えは当然の事ではあるが、ロイにしては少し寂しい。
「そうか…。じゃあ、見送り位はさせて欲しいから、勝手に出て行ったりしないでくれるね?」
「見送り……?」
目を瞠るエドワードの反応に、ロイは自分がそんなに可笑しな事を言ったのだろうかと頭を捻る。
「ああ、構わないだろ? 一緒には着いて行ってはやれないが、見送り位はさせて欲しい。
そして、落ち着き先が決まったら、必ず連絡をするように」
以前の上司と部下の時の命令口調を真似てそう告げると、エドワードは泣きそうな表情で小さく頷いた。
玄関を出ると、手持ち無沙汰に立っているハボックが待っていた。
「遅かったすっね? 何か有りました?」
ここ最近、時間には正確になった上司に慣れ始めていたので、不思議に思って聞いてみる。
「いや……、たんに寝坊しただけだ」
「へぇー、そうっすか」
「急ぐぞ」
そう告げ、サッサと車へと乗り込む。早く帰れる目処は立たないが、少しでも早くと気持ちが急く。
――― 錬成完了が間近で不安定になっているのか? ―――
ここに来てから、あれ程気弱気な様子を見た事が無かった。置いて行くには忍びないが、
隠して暮らしている以上、表立って連れ歩くわけにも行かない。
――― 出来る限り、早めに終わらせよう ―――
そう心に刻みながら、長くなりそうな5日間に嘆息を吐く。
***
「これで今日の予定は終了か?」
疲れの滲む声でそう尋ねれたのは、とうに日付の変わる時刻を越している。ここ3日間ほど、毎日この有様だ。
「はい、本日の将軍は早朝にお帰りになるとの事で、これ以上の不要な接待は必要ないと仰せになられましたので」
こちらも同様の、やや疲れが滲んだ声音で返事が返され、ロイは長かった1日の終了にほっと安堵する。
「なら後は、業務書類だけだな」
この上更にと思えばぞっとするが、それでもやらないわけにはいかない。
「はい、大佐が合間を見て進めて下さったおかげでそうはありませんが、明日の朝に期限のものが少々」
「判った、それは私が終わらせておくので、君はもう帰りなさい」
ロイ同様、心労では倍以上は疲れているだろう副官を思ってそう声を掛けると、部下の模範のような副官は、
とんでもないと首を横に振る。
「いえ、終わられるまでお手伝い致します」
「いいから戻って少しでも休め。どうせ私が決済しなくてはならないものばかりだ、手伝って貰える物もないだろう。
明日には仕上げておくので、君はそれを提出してくれれば良い」
それだけ告げると、ロイは自分のデスクに座って、書類を捲り始める。
「…判りました。お言葉に甘えさせて頂きます。何か有りましたら、ご遠慮なくお電話下さい」
「ああ。もう今日はこれ以上の厄介ごとが増えない事を祈るがね」
「はい。…、大佐はお泊りに?」
ここ数日司令部に詰めている上司の行動を確認しておく。
「ああ…。いや、そうだな。一段落したら朝にでも1度着替えにだけ帰ってくるか…」
それだと殆ど寝る時間が無いのではないだろうか?と考え、副官が控えめに提案をする。
「必要な物がございましたら、調達させておきますが?」
「……いや、少し気になる事もあるんで、戻るとするよ」
組んだ手の親指を何度か組み替えながら、そう告げる上司を怪訝そうに眺めながらも、
それ以上の追求はせず、車の手配をしておく旨だけ告げて退出する。
静まり返った部屋の中、ロイは思わず目が行ってしまう電話を眺め、エドワードの事に思考を移す。
出来れば電話で連絡だけでも取りたいのだが、軍の回線を使って無人の筈の家には掛けにくい。
軍の回線は防犯や盗聴などの為、全て履歴が残されてしまうのだ。
それにエドワードも絶対に出ないだろうし…。
そう結論が出れば、後は出来るだけ早く仕事を終えて、少しでも、寝顔だけでも見に戻りたい。
2日前のエドワードの様子が、ロイには気がかりになったままなのだ。
「では、3時間後にお迎えに参ります」
「ああ、頼む」
そう返して家に戻れたのは、もう少しで早朝になろうという時刻だった。ロイは疲れた足取りで、
出来るだけ静かに家に入っていくと、暗がりの中を寝室へと進んでいく。
暁の時刻に近付いたおかげで、家の中は見通せないほど暗くは無い。リビングの扉が開いている横を
通り過ぎようとして、そこに人の気配がある事に気づく。
まさかと思いながらも、確認の為に声をかける。
「エドワード?」
寝ている事を考えて、低い小さな声で囁くように呟いてみると、蹲るようにしていた人影が、ゆらりと動く。
「ロイ…?」
その声にロイが慌てて電気を点ける。
「エドワード、どうしたんだ? こんな処で寝もせずに?」
足早にエドワードに近付き、その肩を抱いて冷え切っている身体に驚く。
「一体いつから…。まさか、一晩中ここに居たのか?」
「ロイ…、今日は戻って来れたんだ…?」
ロイにしがみ付くように腕を回してくる身体を抱きしめながら、心配の為固くなる声で問いを続ける。
「ああ、少ししたらまた戻るが…。
そんな事より、どうしてこんな処に居るんだ。転寝していたんなら、寝室でちゃんと眠りなさい」
うっすらと隈の出来ているエドワードの顔を見て、ロイは懸念を言葉にする。
「エドワード、まさか余り寝ていないのか?」
エドワードが小さく微笑んで、俯く。
「なんか…寝れなくて。あんたが居ない寝室にも入るのが嫌で…さ」
薄闇が払われていく窓の外に比例して、エドワードの気配が儚さを増している気にさせられる。
「何を馬鹿なことを。こんな処で居ては身体に悪いだろう。
さぁ、寝室に行こう。私も少しなら一緒に居られるから」
支えるようにして立ち上がらせると、エドワードは素直に従ってくる。
久しぶりのエドワードの温もりを感じている筈なのに、ロイの心はえも知れない不安が広がっていく。
ベッドの端に座らせて、エドワードの肩に手をやりながら、その表情を見ようと屈みこんで話しかける。
「どうしたんだ? 一体、何があったんだ?」
ロイの案じる問いかけにも、エドワードは首を横に振るだけだ。
「何も…、本当に何でもない。――― ちょっと寂しかっただけで…」
そう告げると、ロイの胸に凭れてくる。
「エドワード…。
明日でスケジュールも片がつく。明後日は出来るだけ早めに戻って来るから、後少しだけ辛抱してくれ」
ロイは髪を撫でてやりながら、安心させるように優しく語る。
「……… うん…、大丈夫、ごめん。
ちょっと不安定になってるのかも、俺」
錬成が完了まで後2日だ。エドワードの不安が濃くなるのも仕方がない。
こんな時期に傍に居てやれない自分を悔しく思いながら、ロイは、大丈夫だと繰り返し告げてやる。
「さぁ、少し寝なさい。アルフォンス君が戻ってくる前に、君の方が体調を崩して発てなくなるぞ?」
「そりゃ、アルに怒鳴られそう…」
そう軽口を返しながら、大人しくベッドに横になる。
「さぁ、私も一緒に少し眠るから」
そう告げながら、シーツを引き上げてやると、エドワードがそのロイの手を掴んでくる。
「エドワード?」
どうしたのかと思って、呼んでみる。
「ロイ……… 抱いて…」
そんな小さな呟きが洩れてくる。
驚きで動きを止めたロイに、エドワードは縋るような瞳で再度強請ってくる。
「駄目?」
金色の大きな瞳が、瞬きもせずにロイを見つめている。ロイは湧き上がる不安を退けようとするかのように、
エドワードを抱きしめる。
「エドワード…。疲れていて歯止めが利かないかも知れない…」
そう断りを入れながら、ロイは不安を噛み砕く勢いで口付けを仕掛ける。
「いい…、は・・止めなんか掛けなくて…いいから。
思いっ・・きり、ロイを…感じたい」
口付けの合間に苦しげに告げられる言葉に、ロイの脆くなっていた理性があっけなく倒壊する。
「もっ…とぉ・・ 奥まで…あんたで…一杯にして!」
激しい揺さぶりの中も、エドワードは貪欲にロイを欲してくる。
性急な繋がりで苦しいだろうに、ロイを包み込んでいるエドワードの表情は満ち足りて、恍惚としてさえいる。
「エドワード…エドワード」
そんなエドワードに煽られる様に、ロイの動きも激しくなって止まれなくなっていく。
そんな狂気を孕む時間の後、エドワードは意識を失うようにして眠りに就いた。
ロイはざっと汗だけ流して、新しい軍服に着替えると表情を引き締めて、玄関へと向かう。
エドワードの様子は、明らかにおかしい。
不安定だけであれだけ乱れるものだろうか…。
ロイは一刻も早く戻る為に、気を引き締めて出かけていく。
戻ったら、何があっても問いただそうと、心に刻み付けて。
***
「対価は支払う」
「へぇ?」
そう答えたエドワードを、真理は面白そうに見つめてくる。
「何だ、当てでも見つかったか?」
からかい混じりの口調に、少しばかりの蔑みも交えて問うてみる。
真理が出した対価の提案は、もう一人分の対価だ。
神に逆らい、魂を悪魔に売ってでも戻りたいと願っていた兄弟だ。
更なる対価も支払う罪を重ねる気だろうか…と。
「俺だ」
そうエドワードが言い切った瞬間、ゆらりと薄闇が揺らぐ。
「……… お前?」
「ああ、対価は俺だ。これで不足はないだろう」
もう誰も犠牲にはしない。不足だと言われた時から考えを巡らせた末だ。
何かを犠牲にしなくてはならないのなら、今度はそれを自分が補う順番が来たのだ。
「…後悔しないのか? 弟は罪悪で死より辛い目に遭う事になるぞ」
罪悪がどれ程人を蝕むか…。それはエドワードには、痛いほどに解る。ずっと自分がそうであったように……。
「それでも俺はあいつに生き続けて貰いたい。
欺瞞に満ちた自己犠牲でも、自己満足でも構わない。どんな非難も謗りも全て受ける。
だから、あいつを完全な形で戻してくれ」
揺らがぬエドワードの決心に、真理の方が気圧されて揺らぎを見せる。
長い沈黙の時が続き、呆れた様に嘆息を吐いて再度真理が問う。
「最後にもう一度だけ聞く。対価を支払うのか?」
「ああ、俺の全で支払う」
「――― 解った、等価交換だ。お前の弟の錬成は叶えられる」
その言葉を真理から引き出した途端、エドワードは一挙に緊張が解ける。
力の抜けた足では支えきれずに、その場に崩れ落ちるように座り込んだエドワードに、真理は複雑な表情で見続ける。
「お前は…愚か者だ」
ポツリと告げられた言葉に、エドワードはのろのろと首を上げる。
「戻れば安泰な短い一生が送れるだろうに、つまらない情でふいにするとはな…。
1度目に来た時も、阿呆だと思ったが、それ以上の愚か者だったとはな」
その真理の言葉に、エドワードは自嘲の笑みを浮かべる。
「ああ、本当に俺は馬鹿な人間だ。出来もしない錬成を試みて、あいつを…アルを唆し巻き込んだ。
本当に罪深いのは俺らじゃなくて…、俺だけだったんだ。
俺は罪を償うべく生きてきた。いや…、更なる罪を重ねる為に。
罰を被るのは、一人でいい」
それだけ言い終えると、エドワードはもう何にも反応を返さずに自分の思考の中に浸りこんで行った。
ゆっくりと門が開いていく。
――― ごめん、大佐…。
あんたとの約束を果さないままで… ―――
ゆっくりと闇がエドワードを呑み込んで行く。薄れる意識の中に真理の言葉が響いてくる。
『四十九日間、それが俺が門を止めれる時間だ。
お前はその間、どこへなりと行け。
ただし、エドワード・エルリックと言う存在は気づかれるな。
……お前の望む、たった一人の相手以外にはな。
弟の錬成は四十九日後に終了する。
それがお前の最後の時と交換だ』
***
エドワードは綺麗に片付けた室内を見回す。
借りていた衣服は再度元に錬成し直してある。このまま出ても、エドワードがここに居た痕跡は
日が経つにつれ、薄れて消えていくだろう。
エドワードは残り僅かになった時間を惜しむように、ロイとの日々が刻まれた空間に浸っている。
「これで最後か…?」
漸く残務も終わりの目処が付いてきた。ロイの死に物狂いの頑張りのおかげで、
全員が予想していたより遥かに早く終了を迎えれそうで、疲労の濃い中にも安堵感が漂っている。
息抜きにとホークアイが皆にコーヒーを淹れて渡してくれる。
「やっあー、今回は参りましたよね。本当に地獄を見たっすよ、俺」
しみじみ呟かれる言葉に、皆も同感と頷く。
「全く、上は何でこんな無茶なスケジュールを平気で渡してくるんですかね?
別に分けても良さそうな訪問ばかりだって言うのに」
「怒涛の五日間でしたね」
やれやれと皆が一息吐いている中も、ロイは手を休める事無く最後の書類にサインをしている。
そして、最後の一行にサインを書き終えると、漸く渡されたコーヒーに手を付ける。
ちらりと見た時計は、もう後一刻ほどで日付が変わる事を知らせている。
「四十九日間の終わりか…」
後少しの時間を、不安を抱えて過ごしているエドワードの事を思い浮かべると、ついつい呟きが零れる。
「四十九日ですか? どなたかお亡くなりの方でも?」
そう尋ねて来たのは、資料を取りに来たファルマンだ。
「…亡くなる?」
ギョッとなって聞き返すロイに、ファルマンが「はぁ」と頷いてくる。
「東洋の風習で、確かそんな言葉が有りました。人は死後四十九日が過ぎて、現世と別れを告げて旅立つとか。
その期限が四十九日間とされているそうですな」
ファルマンの淡々とした説明を聞きながら、ロイの表情がどんどん険しくなる。
「死後…だと?」
ガタリと音を立てて立ち上がった上司に、ファルマンが気圧されて下がる。
「はっ…。明くまでも、東洋の風習とか観念ですが。死後四十九日後に来世への行き先が決まると言われて…」
ファルマンの続く説明を最後まで聞く事も無く、ロイは驚く面々を置いて走り出す。
「大佐?」
副官の呼び止めに、また連絡するとだけ言い終えて、車の鍵だけ引っ掴むと上着も荷物も放り出して帰路につく。
「馬鹿な…、そんな馬鹿な筈が無い!」
込上げてくる不安を飲み下そうとするが、からからに乾いた口内では上手く行かず、
ハンドルを握る手も小刻みに震え続けている。
「大丈夫、大丈夫だ。
彼は、エドワードは…待ってくれている、ちゃんと…」
そう念じるように言葉を吐き出す端から、不安が形を作って頭を過ぎっていく。
乱暴な運転で門の前に横付けにし、鍵も閉めずに転がり出るようにして家へと走りこむ。
真っ暗な家は、ロイの不安を増長させ、鍵を開けることさえままならない。
「くそっ…」
苛ただしげに鍵を強引に差し込んで、さっさと開けと怒鳴りたい気持ちで回す。
バタンと扉を開くと、ロイは電気を点ける前に名前を叫ぶ。
「エドワード!!」
応えも無く、ここ暫く続いていた帰りの空気も今は感じられない。
ロイは額に浮かんでいる汗を拭いながら、次々に電気を点けて歩き、エドワードの名前を呼び続ける。
「エドワード、どこに居るんだ。返事をしてくれ! エドワード!」
キッチンを通り過ぎ、暗いままのリビングの前に立つと、漸くロイはほっと息を吐き出した。
そして、まだ震えの治まらない手で電灯を点ける。
「エドワード、どうして返事をしてくれなかったんだ」
そう少しばかりの非難を籠めながら、エドワードの方へと足を進めようとして…。
「帰って来ちまったんだ…」
エドワードの呟いた言葉に、ロイの足が竦む。
強張る表情のままエドワードを凝視するロイに、エドワードは哀しそうな微笑を向ける。
「ごめんな…、俺はもう行かなくっちゃ」
と、ロイを不安のどん底に突き落とすような言葉を吐きながら。
「な…なに……何を言ってるんだ…。行く・・とは、アルフォンス君の所だな…そうだな、エドワード?」
そうで有ってくれと、哀願を籠めた瞳でエドワードを見つめる。
それに小さく首を振り、エドワードはロイを見つめてくる。
「俺は…、もう本当は死んでる人間なんだ」
そう告げられた事の半分もロイの頭には入ってこない。
「錬成で対価が足りなくて……、俺は自分を使った」
馬鹿な、そう声に出さずにロイの口が語っている。
「どういう気まぐれか、真理の奴が期限付きで返してくれた。
けど、それも後数分で終わる」
そんな哀しい事を、エドワードは綺麗な優しい笑みで語る。
「ごめんな、ロイ。…俺はあんたに酷い事をしたと思ってる。
――― それでも、俺はあんたの傍に行きたかったんだ」
ポロポロと零れ出す雫が、エドワードの頬を伝って、足元に濃い色を付けていく。
「…そだ。う…そだ、そんな事は…。
エドワード、言ってくれ、嘘だと。
また戻ってくるとっ!」
ロイは縫い付けられたように動かなかった足を、引き摺るようにして一歩一歩、エドワードの元へ歩いていく。
「エドワード、冗談…冗談だな。君はもう、この世に居ないなんて…!
嘘に決まっているーーー!」
そう叫んで手を伸ばせば、ちゃんと温もりのあるエドワードの身体に触れられ、実感できる。
どうして、エドワードはそんな酷い嘘を吐くんだ。
ロイは髪を掬い、頬を包み、震える唇でエドワードの唇を塞ぐ。
「ありがとう・・な、ロイ。…俺、幸せだったよ、あんたと過ごせた日々が。
泣かないで…哀しまないでくれ。
勝手な事ばかり言ってる俺を許さないで良いから…。
俺はずっとあんたの傍に居るよ。
俺はあんたで、あんたは俺だ。
いつか必ず、また巡り合えるんだ、俺達は。
その時は、うんと怒鳴ってくれて良い。
怒ってくれて良い。
こんな終わりしか出来なかった、俺の我侭を…憎んでくれ」
サラサラとエドワードを象っていたモノが、砂の様に崩れていく。
「エドワード、嘘だ・・・嘘だ! こんな事があって・・・あって溜まるか!
行くな 行くな 行かないでくれー!」
ロイの悲痛な叫びを受けながら、エドワードの唇が動く。
サヨウナラ アリガトウ
と。
そして、小さな音が鳴って、エドワードが立っていた足元に零れ落ちた。
ロイは茫然と膝を付く。そして落ちていた、自分が渡したこの家の合鍵を通した鎖を震える手の平で掴む。
「これだけ…? 君が、居てくれた証は――― こんなちっぽけな鍵だけなのかーーー!」
鍵を握り締めた拳で、何度も何度も床を叩く。
固く握り締めすぎて、鍵が手の平を傷つけて、紅い染みを流していくのにも構わず、
ロイは繰り返し繰り返し、怒りに任せて拳を打ち下ろす。
――― おかしいと…、気づいていた筈だ。
あの弟思いのエドワードが、錬成の途中で置いて出てくる筈など有る訳が無いと。
――― どうして語る未来に、エドワード自身の話が出来なかったのか。
――― 小さな日常を、まるで宝物のように喜んだエドワード。
『幸せだ』と涙した彼の様子を、どうして深く考えようとしなかったのか………。
全ては恋に目が眩んだ、愚かな自分が見ようとしなかった咎…。
***
茫然と椅子に座り込んだまま微動だにしない。
先程から煩い位に扉が叩かれている。
それもどこか遠くの事のように感じながら、ロイはじっと握り締めた鍵を見つめている。
赤黒くなっている手の平からは、ロイの心の傷と同様に、癒えぬ傷から新しい血が滲んでは染みを広げていく。
「大佐! 何か有ったんですか、大佐ぁー」
いつまでも出てこない上司を心配して、強硬手段を取ったのだろう。
慌しい足音が、廊下を響いて近付いてくる。
近付いた足音がふいに止まり、先程から叫んでいた主が、更に声を張り上げてくる。
「大佐、一体どうされたんですか! 手、その手は…」
ロイが固く握り締めている手を取ろうと伸ばした手を叩かれる。
「触るな!」
ロイの恫喝に、ハボックの身が竦む。
「ど、どうしたて言うんです…。中尉…、そうだ! 中尉に怒鳴られますよ」
いつもの脅し文句を告げても、ロイはピクリとも動かず反応を返さない。
ハボックはオロオロしながら、見たこと無い上司の有様に、援護を頼もうと電話を探す。
「ったく、どうしたっ言うんだよぉ。アルが見つかったって連絡があった矢先に…」
ぶつくさと独り言を呟きながら、こんな時に頼りになる副官に連絡する。
「あっ、ホークアイ中尉! いや、大佐は無事って言えば無事なんすけど、
ちょっと妙で…。はぁ、俺じゃどうしよもない状態っすよ。
電話に出させろ? …そんな感じじゃないんですって。傍に寄るだけで危ない感じで。
はぁ…一応指示仰ぎますけど、兎に角こっちに来て、援護頼んます!」
ハボックの泣き言に、受話器からは大きな嘆息が伝えられてくる。
電話を切って渋々、ロイに向きなおして、中尉に言われたように伝言を告げる。
「大佐ぁー、しっかりして下さいよぉ~。アルの奴が発見されたって、連絡が入ってるんですから」
そこで初めて、ロイが反応を見せる。
「ア・・ルフォンス?」
漸くまともに自分を意識してくれた上司に、ハボックはここぞと話しかける。
「そうです! そうっすよ! あいつらを見つけたって情報が入ったんです。
で、中尉から対応の指示をどうするかって聞いてきてるんっす」
「鋼のは――― エドワードは…エドワードはどうしたんだ!」
ガタリと椅子を蹴り立って、物凄い勢いでハボックを問い詰めてくる。
「それが情報を確かめられないから、指示が必要なんですよ!
兎に角司令部に来てくださいよ、皆やきもきして指示待ってるんですよ」
「…直ぐに出る」
突然歩き出したロイの後を追うようにして、ハボックも玄関に向かう。
ロイの怪我も気にはなるが、ここでは自分に出来る事も無さそうだ。
取り合えず、中尉の居る司令部へ行くのが先決と車を走らせる。
真実は残酷な確定を降すだけで、ロイの一縷の望みも掻き消された。
発見されたアルフォンス・エルリックは間違いなく本人だった。
ただし、記憶は母を失った時のまま、時を止めていた。
目覚めれば、彼は母と兄とを同時に失った事になり、失意のまま子供のいない師匠夫妻に引き取られ、
傷ついた心を癒しながら日々を生きている。
ロイは物陰から、元気に歩み去る少年の姿を見送ってて、静かに踵を返す。
残酷で、哀しい天使は、もう彼の元には二度と戻っては来てくれなかった。
ロイは突き抜けるような晴天の空を見上げ、予言された未来を見透かすように、じっと視線を止める。
――― 『泣かないで、哀しまないで…。
俺はずっとあんたの傍に居るよ。
俺はあんたで、あんたは俺だ。
いつか必ず、また巡り合えるんだ、俺達は』 ―――
「君は本当に勝手な誓いを贈ってくれたもんだ。
ああ、いつか必ず。また逢える時には覚悟していたまえ…」
そう呟くと、また歩み始めていく。
いつか巡り合う未来への道を…。
【あとがき】
更新をしようとして、ギクリ・・・。
小説入れてるファイルが見当たらない!?
どこだどこだと探し出すけど、どうやら気づかない内にファイルごと消去していた模様。(タラリ・・・)
でぇぇぇ~!!小説全部入ってのにぃ~~~(T.T)
そりゃもう慌てましたよ! 最近うちのパソ子ちゃんは、古い上に色んなものを詰め込まれて
パンク状態で調子が悪かったから・・・。
そう云えば・・・何やらの時に大きなデーターがクリップされてますが?と何回か聞いてきてたよな。
大抵は保存するんだけど、その時は丁度画像で表紙作成していたから、
てっきり落としてきた画像のことかと・・・。
復元かけて戻せて本当に良かったです・・・ハァ~、焦った・・・。
で、上記のお話の現世編は終わりました・・・ごめんなさい、死にネタで。(T.T)
未来編は「邂逅編」となってますので、お許し頂ければと思います。m(__)m
↓面白かったら、ポチッとな。
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