Selfishly

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Forty Nine Days p5 【来世編】


Forty Nine Days p5【来世編】

~ Oath of soul ~




「酷いもんだな、ここも…」

 侵略軍を漸く追い返し、荒らされた街を取り返したはいいが、
瓦礫の山が築かれた街は、既に人っ子一人居そうも無い。
 今年配属されたばかりの新兵卒は、主に救援に回っている。
 今組んで任務に当たっているのは、陸軍学校の腐れ縁で続いている友人だ。

「戦争は人が行う悪事の中でも、一番最低な悪行だな」
 軍隊に入隊して、そんな事を平気で言ってのける友人は、この男くらいだろう。
人好きされる性格で、何かと面倒見の良い相棒は、ロイの数少ない友人の一人だ。
 無愛想な上に、周囲に関心の薄いロイは、どこに入っても少しだけ浮いた存在だ。
その彼を上手に周囲に溶け込ませてくれるのは、
いつもロイを心配してくれるこの友人、マースのおかげだ。
「あ~あ、早く停戦条約結んで、さっさと家に戻りたいよ。
 なぁ、ロイ、お前もそうだろ?」
 人気の無い荒れ果てた街を探りながら、そんな事を尋ねてくるマースに、
 ロイは「まあな」と適当な相槌を返す。


 マースは相手に気づかれないように、小さな嘆息を吐いて、そっと無表情な友人の様子を窺う。
 このロイと言う奴は、成績は学科、実技とも優秀で、実行力も申し分ないのだが、
 どうにも協調性が足りないと言うか、何事にも関心が薄いという性格が災いして、
 上からの評価が芳しくない。
 以前、どうして入隊したのかと聞いた時も、特にやりたい事もなかったから、
 誘われたついでに入ったと言う無関心ぶりだ。
 今も、この荒廃した街を見ても、眉一つ動かさずに、淡々と作業を続けている。
 最初に出逢った時、『すかし野郎だな』と言う悪印象を持ったものだが、
 そうではないと気づいたのは、暫く経って組むようになってからだ。
 常にどこかへと視線を彷徨わせている彼の眼差しが何を意味しているのか…。
 その答えはマースだけの推測でしかないが、多分間違って居ないと確信も抱いている。
 彼は、『何かを』見つけられずに、長い時間を生き過ぎて、すっかりと周りへの興味を失いつつあるのだ。
 一度、『お前は何をそんなに探しているんだ?』と尋ねた事があった。
 聞かれた本人は、何を言ってるのだと胡乱な視線で返してきただけだったが・・・。

 ――― こいつは、気づいていないんだな ―――

 見つけられない失意で、世界から隔絶しそうになっている己さえ判っていない。
 軍隊を選んだのも、この世界から一番早く去れそうだからではないのだろうか?
 ずっと遠い瞳で視線を彷徨わせているロイに、マースは常に不安を抱き続けていた。
 目を離したら、あっさりと去って行きそうで…。
 どうしてこんなにもややこしい友人が気になるのか。
 不思議に思いつつも、気にせずにはおれない。
 こうなったら、最後まで見張り続けてやると覚悟を決めたのは、随分前だ。


「マース、何をぼんやりとしている。もうここには救出する人間も居そうに無い。
 次のポイントに移動するぞ」
 任務の終わった跡地には、何の感慨も見せずロイはさっさと廃屋を曲がって、
 置いてあるジープの方角へと足を向けている。
 とその時。小さく微かな気配がロイの感覚を霞めていく。
「何だ?」
 一人ごちながら、声がした廃屋の中を用心深く探る。

「どうしたんだ?」
 ロイの様子に、マースも緊張した面持ちで声を掛けてくる。
「気配を感じないか?」
「気配?」
 ロイに言われて中を探るように耳を澄ますが、気配どころか物音一つ聞こえてこない。
「何も感じないぜ?」
 そうマースが言うのにも構わず、ロイは煤けた室内へと足を運んでいく。
「おい、おいってば! 待てよ、単独で行動するな!」
 マースの静止にもロイは耳を貸さずに、どんどんと中に進んで行き、
 行き止まりになった地点で、周辺を探り始める。
「何やってんだ、お前。何も感じないぜ。それにそこは行き止まりだろうが」
 呆れたような声を掛けてくる友人にも探すように告げる。

「違う…、絶対に居る。ここに…、待っている筈だ」
 日頃とは人が変わったような真剣な顔付きで、埃塗れの床に膝を付き
 這いずる様にしてロイが探し始めるのにギョッとなって、戸惑いがちに問い返す。
「待って…? 何言ってんだ、お前…」
 意味不明な事を口走りながら、奇妙な行動を止め様としないロイに、
 マースは徐々に募る不安に、静止の声を掛ける。
「おい…おいって。何もない。そんなとこに何も有るはずないだろ!」
 止めようと肩に手を置くと、邪魔をするなと怒鳴りつけられた。
「漸く…漸く、戻って来たんだ。誓いを果しに…」
 必死に探る手が震えて、放置されていた壷に当たり、1つが砕け散る。
「何やってんだ、ロイ! 危ないから離れろ」
 もうこれ以上見ていられないと手を伸ばした瞬間、
 ロイが壊れた破片の中から、小さな鍵を見つけ出した。

「鍵…、そうだ扉を開かないと…」
 すくりと立ち上がり、ロイは正気を取り戻したような冷静な態度で、マースに告げる。
「マース、灯りを点けてくれ。この鍵が嵌る鍵穴がどこかに有るはずだ」
「おいおい、ロイ~」
 泣き言を言い出すマースに、ロイは厳しい口調で叱りつける。
「早くしろ! ぐずぐずしている時間は無いんだ!」

 ――― そうだ…。早くしないと、また失ってしまう ―――

 そんな謂れの無い焦燥感だけがロイを突き動かせて行動させていく。
 マースが渋々点けたライトを頼りに、隈なく周辺を探っていくと。
 棚に隠されたように有る、小さな鍵穴が見つかる。
 ロイは震えてくる腕を叱咤して、その鍵穴に見つけ出した鍵を差し込んで回しこむ。
 カチリ ちゃちな鍵はあっさりと施錠を開き、そこに閉じられていた扉を知らしめる。
「…まじ、扉があったんだ…」
 茫然と呟いているマースを置いて、ロイは急かされる様に扉の中へと身を滑り込ませる。
「おいっ! ロイ、危ないだろ。慎重に様子を探らないか」
 顔を覗かせて怒鳴るマースに、ロイは腕だけ伸ばして、ライトを貸せと示してくる。
 どうやら貯蔵庫になっているらしい下は、そこそこの広さをしているようだ。
 ロイを追うようにして中へと降りていくと、ロイが膝を付いてじっと一点を見続けながら、
 何やら言葉を呟いている。


「大丈夫だ…。君を助けに来たんだ。偉かったな、独りで頑張り続けてくれて」
 掠れた声で驚かさないようにと優しく話しかける。
 後ろから、ロイの視界の方向を覗いたマースは、その先にみたものに思わず声も出なくなる。
「さぁ、もう大丈夫だ。こちらにおいで」
 ロイが囁きながら伸ばして腕の先には、小さな隙間に窮屈に身体を滑り込ませている小さな子供が震えている。
「大丈夫だ、もう大丈夫なんだよ。・・・さぁ帰ろう、一緒に」
 そう懇願するように告げるロイを、暗闇に浮かぶ金の光がじっと照らしている。
 そして、一瞬消えたかと思った光が次に現われた時、その身体は飛ぶ様にしてロイの中へと納まってきた。
 ロイは細い身体をきつく抱きしめながら、じっと目を閉じる。

 ――― 今、込上げるこの感情を、何と言えば良いのだろうか。
       神等信じた事も無ければ、祈った事さえなかった。
       自分さえ信じて来れなかった己に、祈りなど無意味な事だったからだ。

       でも、今、呟かれてるの心の声は、間違いなく感謝の祈り。
       誰に聞かせるわけでもない。
       ただ、この小さな魂を守り、逢わせてくれた運命に。
       ロイは初めて、心からの祈りを捧げた ―――


 暫くそうしてから、徐に子供を抱き上げたまま立ち上がり、ゆっくりと階段を上がっていく。
 日の光の中、ロイは腕の中で不思議そうにロイを見ている瞳を見つめ返す。
「君の……、君の名前を聞かせてくれるか?」
 小さな身体は、見た目通り軽い。薄汚れてはいるが、きちんと整えてやれば、
 その瞳同様の輝きを持つ髪も見られるだろう。
 ロイは見ず知らずの子供に、魂ごと吸い寄せられたように惹きつけられて行くのを感じている。
 勝気そうな瞳が、ロイを一睨みすると。
「人に名前を尋ねる前には、自分の名前を言うんじゃねぇの」
 ロイは目を瞬かせて、そう言ってのける子供を嬉しそうに見つめる。
「…ああ、そうだ…そうだったな。私はロイ ――― ロイと言うんだ。
 君の事は何と呼んだら良いのか教えてくれるか?」
 ロイが名乗りを上げると、先程まで震えて縮こまっていた子供とは思えない不敵な笑みで名を告げる。
「俺はエドワード! エドワードって言うんだ」
 太陽に負けない力強い笑みに、ロイも思わずつられて微笑み返す。
「そうか、良い名だ…、―――本当に・・・良い名だ。

 エドワード、これから私と仲良くしてくれるかい?」
 そうロイが尋ねると、少しだけ考える素振りをして、エドワードがこくんと頷いてくれる。
「いいぜ。なんかあんた友達いなさそうだから、俺が友達になってやっても」
 そのエドワードの言葉に、後ろから着いて来ていたマースが噴出し笑いをしている。
 そんなマースを一睨みして、それでもロイは嬉しそうに笑って返す。
「ありがとう。これからは宜しく」
「おう、任せとけ」
 そんなやりとりをしながら、二人は仲良く帰路に着く。





 ――― いつか…。遥か過去に誓われた言葉は、
       巡り巡って、漸く成就する時を得た。

       今度こそ、
        同じ時を刻み歩み続けて行く為に 。

       『漸く、また逢えたな』 そんな声が 
       天空の彼方から、聞こえてきたような気がした ―――



to be continues~~~








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