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Forty Nine Days【完結】・来世編sideーE
Forty Nine Days【完結】・来世編 sideーE
SideーE
出逢った時から、その存在を好きになる事は決まっていたのだと思う。
暗闇の中、明日をも知れぬ自分の寿命に怯えて縮こまっていた自分を、
ロイはいとも容易く救い上げてくれたのだから。
あの時からきっと、こうなる運命だったんだ、俺達は。
「何だって? もう1回言ってくれないか?」
持ち帰りの資料とやらをリビングで読んでいたロイに、エドワードは話しかけ、
怪訝そうに聞き返すロイに嘆息しながらも、再度話し出す。
「俺、スキップしようと思うんだ」
「スキップ?」
エドワードの言っている事が理解出来ないという風な反応を見せるロイに、エドワードは辛抱強く語る。
「俺今度、ハイスクールに上がるだろ?」
そう告げると、子供の成長を喜んでいる親の表情で、ロイが微笑む。
「ああ、そうだね。もうそんな歳になったんだな」
それはロイとエドワードの同居生活の年数も示している。
ここに来てから、エドワードはジュニアハイに通い出し、それも無事に卒業する事になったのだ。
と言う事は、ロイとエドワードの暮らしも丸3年経ったという事になる。
「で、ハイスクールは行かない。俺、カレッジに進みたいんだ」
ロイは驚いたようにエドワードを見つめ、少し考え込む様子を見せる。
「…カレッジへ行くと言っても、君はまだ十五歳で…。
しかも、入試を受けてもいないだろ?」
漸く話が通じ合ってきた事にホッとしながら、エドワードは話を続ける。
「うん、入試はまだだけど、大検は取って有るんだ。だから、入試するに当たって、
あんたの許可が必要なんだよ」
「大検…、いつの間に取ったんだ…」
自分の知らない間にそんな行動を取っていたエドワードに、ロイは憮然となる。
「ごめん…、勝手に取ったのは悪いと思ってるけど。
だって落ちてたら恥かしいだろ」
この子供の言いそうな理由に、ロイは思わず苦笑を浮かべる。
「で、それが受かってたから、カレッジへ進みたいと?」
そのロイの言葉に、エドワードは話が早いのを喜ぶように、大きく頷いてみせる。
「駄目だ。必要ない。
君はちゃんとハイスクールに通って、カレッジに行くのは3年後にしなさい」
そのロイの言葉に、エドワードは目を大きく見開いて、次の瞬間には不満そうな様子を隠しもせずに現してみせる。
「何でだよ! 折角、資格が貰えたんだぜ! 3年も無駄に過ごすより、俺はさっさと次に進みたいんだよ!」
直ぐに喧嘩腰になるのは、この子供の習性だ。
良く変わる表情に、達者な口。最近は反抗期に入ったのか、事有る毎にロイに突っかかってくるようになった。
ロイは深い嘆息を吐き出しながら、エドワードの方へと向き直り厳しい態度で臨む。
「学校生活に無駄な時間など無い。そう思うのは、自分自身の驕りだぞ。先に進む事ばかり考えるのではなくて、
少しは今の自分の足元を見直しなさい。
歳相応の生き方があるはずだ」
そうきっぱりと告げると、エドワードは悔しそうに下唇を噛んで、ぷいっとそっぽを向いてしまう。
ここでまた、ロイは深い嘆息を吐き出す。
引き取った頃は、少し生意気なところはあっても、ロイに懐いて言う事も良く聞いてくれていたと言うのに、
ここ最近のエドワードはちっともロイの言う事を聞こうとしない。
「…どうしてそんなに急ぐんだ。君はまだ子供の歳なんだ。
急いで背伸びしなくても、ゆっくりと進んでいけば良いだろ?」
そんなロイの言葉に、エドワードはきつい瞳でロイを睨みつける。
「……… じゃないか…」
小さく呟かれた言葉に、ロイは首を傾げる。
「何だって? 済まない、聞こえなかったんだが?」
良く聞き取れるようにと少し腰を浮かせて、エドワードとの距離を縮めようとした矢先に。
「だって、早く大人にならなきゃ、あんたはいつまでも俺を子ども扱いしたまんまじゃないか!」
「エ、エドワード?」
真っ赤な顔をして、目尻にまで涙を溜めて叫び出した子供に、ロイは唖然として見る。
「俺、まだ十五歳なんじゃないっ! もう十五歳なんだよ!
後数ヶ月もすれば、ちゃんと十六歳になるんだ。
いつまでも子ども扱いは止めてくれよ!」
そう、気持ちのありったけを籠めて叫んでやる。それから、茫然としているロイを置いて、
自分の部屋へと飛び出して行った。
独りリビングに残されたロイは、最近はすっかりと癖になってしまった深い嘆息を吐く。
「子供だ何て、もうずっと思ってないさ…」
そんなロイの呟きは、この場を去ったエドワードには届かなかった。
「くそぉー! クソー! あの分からず屋のおたんこなす!
俺が…、俺が、どんな思いでいるのかも知らないでぇー」
バス バスと枕を叩きながら、エドワードはぶつけられない怒りを吐き出していた。
引き取られた頃は、毎日一緒の部屋とベッドで眠っていたが、第一次性徴期を迎えた頃から、
寝室は別にするようになった。
最初の時は、粗相をしてしまったと泣きべそをかくエドワードを、ロイは汚れた衣服やら、
身体を綺麗に洗って色々と説明をしてくれた。
その時に、『これからは、君も大人の始まりだよ』と言われた言葉を忘れた事は無い。
少しの恥かしさと照れくささ。そしてそれを遥かに上回る喜び。
エドワードの幼い心の中にも、好きな相手との差が、本の少しでも縮まった事が嬉しくて仕方なかったのだった。
が、気持ちとは別に、体の機能はなかなかエドワードの理性には従ってはくれず、
仕方なくロイに寝室を分けて欲しいと告げると、ロイは少しだけ寂しそうに微笑んで、
『判った』と言ってくれたのだった。
それからも、ロイはエドワードを小さな子供のように扱うのを止めなかった。
出かける時には、危ないからと送迎するのも普通なら、出来ない時には事細かく連絡先を聞かれたり。
外泊どころか、門限まで夕刻に決められて、守らなければ大騒ぎで探し出す始末。
最近は漸く止めてくれたが、服を着せるのから、入浴、果ては食事の時には口元まで運んで食べさせる有様で、
さすがの世間知らずのエドワードでも、過保護の言葉が頭の中に点滅するのは仕方がない事だろう。
子供の頃からきちんと躾を受けていたエドワードは、両親にも「自分の事は自分でする」ことを教えられてきた。
自立心も旺盛な彼にとって、ロイの愛情は息も出来ない、濃度の濃いシロップのようなものだ。
それでも素直に受け入れて来れたのは…、ロイが好きだったから。
そうやって自分の世話をするロイが、本当に幸せな表情を浮かべているからだ。
そうでなければ…愛情が無ければ、とてもじゃないがエドワードには耐えれそうもないのだから。
ロイが自分を見つけ、連れ帰ってくれた時。それから一緒に暮らす事になるのを、何の疑問も無く受け入れれた。
それは決まっていた事柄だと、エドワードの心の奥で解っていたからだ。
暮らすようになって、ロイはその容色もあって言い寄る女性が頻繁にいることを知った。
ロイに近寄る口実にエドワードを懐柔しようとする女性達の存在に、エドワードは内心、
ロイを取られはしないかとビクビクとしていたのだ。
が、そんな杞憂は、いつもロイが払ってくれた。
「この子の事には手を出さないで下さい」
誰が連れてきたのか、それとも勝手にやって来たのか、年配の女性が若い女性を伴って、
ロイとエドワードの家へと侵入して来たのだ。
「で、でもぉ、ロイさん。あなたはまだまだ若いのよ?
こんな小さな子を仕事しながら面倒見るなんて、無茶よぉ。
こちらのお嬢さんはね。お家は代々の教育者の出でいらっしゃって、
ご本人もとても優秀な先生をされているの。エドワード君の事も安心して、見てもらえると思うわ」
自分の名前が出された事で、エドワードはビクリと身体を震わせて、ロイの腰にひしとしがみ付く。
「……失礼。私の言い方が足りなかったようですね」
ロイはそんなエドワードの頭を優しく撫でて、大丈夫だと伝えてくる。
「この子の。エドワードの事は、誰にも面倒を見させる気は有りません。
手も口も、ついでに関心も持たないでいて下さい。
この子の事は、私が責任を持って面倒見て、不自由など一切させる気もありませんから」
と強く言い切ってくれた。
それを聞き終わったエドワードは、安心して力が抜けてしまったが、
それもロイには判っていてくれたのか、しっかりと抱き上げて、見知らぬ女性達の前から連れ出してくれた。
そして、そういう事はそれから何度か有ったが、悉くロイが撃退し、最近ではそんなロイの風評が広まり、
訪ねる者も減っているのだ。
そんなエドワードがロイへの恋心をはっきりと自覚したのは、ロイがエドワードを抱きしめて泣いた晩だった。
何が有ったのだろうかと心配する自分に、ロイは泣きながら笑って言ったのだ。
『幸せだ』と。
自分がロイの傍に居るだけの、そんなささやか日常が。
ロイは幸せだと泣くのだ。
エドワードはそんな様子のロイに、無性に謝りたくなって仕方が無かった。
『ごめんなさい』と。
『今まで一緒に居られなくて、ごめんなさい』と。
そして…。
これからは、絶対に離れはしないと…。
幼いながら、強く心に誓ったのその日が、エドワードの恋心の始まりだ。
そんなエドワードの思いを、少しも察してくれようとしないロイの態度が悔しくて、哀しくて。
エドワードはベッドにうつ伏せになって、その悔しさを噛み締め耐えていた。
トントントン
小さなノックの音が響いて、ビクリと反応してエドワードが顔を上げて、扉の方向を見る。
「エドワード、起きているんだろ? 少し話を聞いてくれないか?」
低く良く通るロイの声。エドワードの好きなものの1つだ。
「起きてない! 俺の話を聞いてくれないロイの話なんか、絶対に聞かない!」
そんなものに騙されるもんかと、声を張り上げて、エドワードは拒否を伝える。
暫しの沈黙の後、カチャリと扉の鍵が開けられる音が響く。
部屋には鍵が付いている。エドワードが飛び込んで一番最初にした行動は、その鍵を締めた事だったのに…。
驚くエドワードを余所に、ロイはすんなりと扉を開けて入って来る。
エドワードの表情が見て取れたのか、ロイは暗闇に溶け込むような小さな笑みを口元に刷く。
「何をそんなに驚いてるんだい?」
優しい声…で話されている筈なのに、何故かエドワードの背筋をゾクリとさせる
「えっ? ど、どうして? 俺、鍵…」
戸惑っているエドワードの様子に、ロイは直ぐ傍に立って手に平に掛かっている物を揺らして見せる。
「私の家だ。合鍵位持っていても、おかしくはないだろ」
クスクスと笑いながら話すロイの雰囲気が、妙な感じをエドワードに与える。
ロイがベッドの端に腰を降ろすと、思わず気圧されたように飛び起きたエドワードが、逆側へとずり下がる。
「どうしたんだい? そんな隅に行っては、話が出来にくいじゃないか」
そう言って手を伸ばしてくるロイに、エドワードはブンブンと音が聞こえそうなほどの勢いで首を振って、叫ぶ。
「だ、大丈夫! ちゃんと、そうちゃんと話、出来る!」
エドワードがそう言うと、ロイは器用に片眉だけ上げて、確認するように視線を絡めてくる。
「ほんと…、本当に出来るから! 話、ちゃんと聞く」
そう早口でエドワードが捲くし立てると、ロイは満足そうに微笑んで頷く。
「そう最初から、素直に言えば良いものを…。
エドワード、――― 素直で無い子は痛い目を見る事になるんだよ?」
その言葉が言い終わるや否やの瞬間に、エドワードはロイに引っ張られて、ベッドへと押さえつけられる。
「ロイ!」
驚いて跳ね除けようとするエドワードの抵抗など、ロイはあっさりと封じて組み伏せてしまう。
ロイは優男に見えて、正規の軍人なのだ。そんな相手が本気を出せば、
成長途上のエドワードなど一たまりもない。
「エドワード、君は本当に私を驚かせるのが上手いね」
そう言いながら、ロイはエドワードの引き攣った頬を優しく撫でる。
「まだ子供だ、子供だと思っていたのに…」
優しく撫でていた手の平が、エドワードの顎を痛いほどの力で掴んで、固定してしまう。
そして、覗き見ていた顔が降ろされたかと思うと、吐息が交じり合う程の近さに添えられる。
エドワードの心臓が痛いほどの激しさで鼓動を打ち付けてくる。
自分の顔色は見えないが、多分血の気が引いて蒼くなっている事だろう。そして、
そんなエドワードの様子を検分するように、ロイはじっと視線を注いでいたかと思うと。
「……十六歳になるまでは待とうと思っていたのに…君は私を煽るのも上手いな」
そう言って、嬉しそうに笑う。
その表情が…肉食動物が舌嘗めずりしているように見えるのは、エドワードの気のせいなのか…。
小刻みに震え出した身体を、ロイは容赦なく押さえ込み、歯の根の合わなくなっているエドワードの口に、
遠慮ない口付けを施す。
「……!!!」
驚いて跳ね上がる身体を、ロイは逃がすものかと体全体を使って絡めとっていく。体の触れ合いと言えば、
温かな居心地良いものしか知らなかったエドワードだが、今触れているロイの身体は、
布越しでも熱く滾っているのが感じられる。
恐怖に縮こまるエドワードの舌を、傍若無人に引っ張り出し、薙ぎ倒していく。
呼吸が出来なくて死んじまうー!とエドワードの心の悲鳴が漏れそうになった瞬間、
見計らっていたようにあっさりと侵略は終わった。
はぁはぁと荒い息を吐き出すエドワードを、愛しそうに見つめながら、ロイは懇願するようにエドワードに囁く。
「エドワード、私を煽るのも程々にしておいてくれ。
君も私を、淫行罪で捕まらせたくはないだろ?」
少し困ったような表情でそう告げる様子は、いつもの優しいロイだった。
「…いん……こうざい?」
聞きなれない単語に、霞んでいた意識が浮上する。
「そう。君が知らなくても仕方がないが、例え同意があっても、十六歳未満の相手に手を出せば、
その罪に問われ、罰せられる。
だから、十六歳の誕生日まで、私を挑発するのは控えてくれ給えよ。
……… それでなくとも、セーブしにくくなっている言うのに」
最後のセリフは、不満気にロイの口の中で呟かれて、エドワードには聞き取れなかった。
「判ったね?」
念を押してくるロイに、エドワードは茫然としながらコクリと頷き返した。
「宜しい。後、スキップはやはり認めない。代わりに、学びたい事があるのなら、聴講生の道を考えなさい」
「聴講生…?」
「ああ、大学に入っていなくても、学びたい者に門戸を開いてくれるシステムだ。
まぁ、そんなものに通い始めて、私の相手をする時間が無くなるのは、余り歓迎出来ないがね」
不満そうにそう告げるロイの表情が、拗ねた子供のようで、エドワードは思わず笑みを浮かべる。
「何だね、私が真剣に言ってるのに、笑うなんて」
不機嫌そうに責められれば、エドワードの緊張も一気に解け、弾けた様に笑い声が上がる。
そんなエドワードを、ロイも嬉しそうに見つめている。
笑いが治まって、ロイの腕の中で見上げてくるエドワードと視線を交わして、ロイが話す。
「エドワード、生き方も、私達の関係も、慌てずにゆっくりと育てていこう。
君にはもう少し時間が必要だろ?」
先程の狼狽振りを揶揄されて、エドワードは思わず顔を赤らめる。
「焦らなくて良い。どんなに時間がかかっても、私の気持ちは変わらない」
私は君のもので。
君は私のものだ。
ずっと、ずっとね。
それだけは、変わらない誓いだ。
その誓いを聞きながら、エドワードは久しぶりにロイの腕の中で眠る。
この世界でもっとも心落ち着ける場所。
漸く、ここに戻ってきたという安堵感を抱きながら………。
【あとがき】
死にネタだったのに、ここまでお付き合い下さった皆様。
本当にありがとうございます!
このお話は・・・死にネタを書きたかったからでは、勿論無く。
この時期、不変の変わらないものを書きたかった頃でした。
日々の生活や世界では、事変も人の心や想いも・・・本当にあっけなく変わってしまう。
それに厭きれ切っていた時だったのを覚えています。
なので、せめてロイとエドの一組だけでも。変わらない想いを貫いて欲しい・・と。
が、死にネタになってしまったことには変わりありません。
ご不快な想いをさせてしまった方々に、深くお詫びさせて頂きます。m(__)m
そして、お付き合い頂けありがとうございました。 ラジ
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