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Selfishly
Radiant,Ever Forever p6
「ただいま」
急ぎも戻って来てみれば、家の中は静まり返っていた。
もう眠りに就いてしまったのだろうかと、廊下を進んでいくとリビングからは灯りが漏れている。
「ロイ、起きてるのか?」
そう声を掛けながら進んでみても、返事が帰ってこない来ないことに幾許かの焦燥を抱く。通り過ぎる時にちらりと見えたキッチンのテーブルの上には、どうやらフュリーが言っていた通りのデリバリーで届けられたらしい料理の箱が、開けられた様子もなく積まれている。その事に、少しだけ込み上げてくる嬉しさを感じて、リビングに入っていけば。
「…っ!」
ソファーに仰向けになっているロイの姿が目に飛び込んで来て、思わず駆け寄って傍から様子を窺う。
「ロイっ」
肩に手を置いて軽く揺すってみると、小さく寝息を立てているのが聞こえてくる。
「――― 何だよ、一体… 焦せらすなよ」
思わず恨み言を呟き、そしてアルコールの匂いに顔を顰める。
横のテーブルの上に置かれている酒瓶の残りを見て、呆れた様に嘆息を吐いた。
「… んなに飲んで。おい、起きろよ! 寝るならベッドに行って寝ろ」
先ほどより強めに揺すりを掛けると、ロイの眉間が顰められ暫くしてゆっくりと瞼が開かれる。
そして、数度瞬きをしているかと思うと、指で瞼を押さえる仕草で、エドワードは表情を硬くする。
「ロイ…、見えないのか?」
そう声を掛けてみると、ロイは緩慢な動きでエドワードの方に顔を向けてくる。が、その黒の双眸は焦点が彷徨う様子を見せている。
「――― エドワード?」
まるで寝言のように呟き。ロイはエドワードの方に手を伸ばしてくる。
「ああ、ごめん。ちょっと遅くなって…っ!」
伸ばした手を握り返して落ち着けてやろうとした瞬間、凄い勢いで手を引かれた。
「エドワード…エド…」
エドワードの身体を腕に抱きこんだロイは、うわ言のようにエドワードの名を囁いては、彼の頬や髪に自分の頬を摺り寄せてくる。
「お、おいっ。不安だったのは判るけど、ちょっと…待てってっ」
エドワードが慌てて静止を口にしたのも、頬を摺り寄せていたロイが首筋に口元を落としてきたからだ。
喉元や項にきつく吸い付き、甘噛みした後に舌を這わされた時には、さすがにロイの様子のおかしさに気づかされる。
「お、おい! 洒落にならないって。目、覚ませよ」
きつく抱きしめられている腕の中で、エドワードが手を突っぱねようとしても、酔ったロイの力は頑健で全く離せない。
「エドワード…」
嬉しそうにエドワードの名を呼びながら、ロイは犬のようにエドワードの耳朶に鼻を押し付けて匂いを楽しんでいる。
「…っ!」
情事の色濃いそんなロイの仕草に、エドワードは言葉もなく顔を朱色に染める。驚きで抵抗の力が止んだことに気を良くしたロイは、そのままエドワードの身体を横抱きにすると、ソファーへと寝かせて覆い被さってくる。身体を使って拘束が出来るようになると、空いた手でエドワードの身体を弄ってくる。
「ロイ! マジに止めろって! あ、相手を間違ってっ」
叫ぼうとしたエドワードの口を、ロイは掌で塞いでしまうと。
「間違う? 私が君を間違うわけが無いだろ? 君はエドワードだ、そう…」
私のと言葉を続ける前に、掌で塞いでいた唇に吸い付く。
優しくしてやる余裕が無い。幻は時間と共に消えてしまうのだ。
そう、いつも、いつも。ロイがどれだけ引き止めたいと願っていても、
まるで朝日に溶け込むように去ってしまう。
――― だから、出来るだけ早く全てを奪ってしまわないと…。
性急な口付けに怯えている相手の舌を、引きずるようにして絡める。嫌がるように振られる首を押さえ、より深くより強く中へと入り込んでいくと、息苦しさの所為かエドワードの涙がロイの頬にも伝ってくるが、それさえも興奮の要素になる。
自分の行為がエドワードに涙させていると思うだけで、ロイの中には熱い歓喜の思いが滾ってくる。
破るように開いたエドワードのシャツを肌蹴、その素肌に手を這わせると、エドワードの抵抗が大きくなった。
ロイは抑え切れなくなった口元から顔を離すと、器用に開いたシャツで両腕を後ろでに固定してしまう。
長い口付けで酸欠になりかけていたエドワードは、荒い息を吐き出しながら咳き込んでいる。
ロイは忙しなく上下している胸に手をやって、滑らかな肌を感じ入る様に撫で触れる。
――― どうして見えなくて良いなどと、諦めようとしていたのか。
彼が晒している全てを見たい。
自分だけに暴かせてくれる色々な表情に、痴態。
喘ぐ彼も、縋り乞う様子も。
自分が与えて彼が生むもの全て、この目に焼き付けたい。
緩急をつけて弄っている間に立ち上がってきた小さな果実を、ロイは親指で押し潰すようにしてやれば、エドワードの抑えた声が上がる。
「もっと…、声を聞かせてくれ。君が見えない私に判るように…」
見えないなら耳に入れて、脳に刷り込んでおこう。
彼が啼く場所を全て覚えていく為に。
エドワードが声を上げた果実を、唇で挟み込むと声をもっとと強請るように擦ってやる。
「やめっ…! ロイっ 止めて…っ」
必死に上げるエドワードの声を聞いて、ロイは違うと言うように果実に歯を立て首を小さく振る。
――― そんな言葉が聞きたいんじゃない。
もっと強請ってくれ。
喜んで声を震わせてくれ。
執拗にしこりを噛みしだき、舌で転がしてやれば、エドワードは望んだ声を惜しみなく上げてくれる。
「はっ…あ、あっ あぁ…っん……」
背を撓らせて快感を伝えてくるエドワードが愛しくて、ロイは夢中になってエドワードの身体を暴くのに熱を込める。
何度も夢見、切望しても遠く。
虚しい幻想に悩まされ続けていた夢夜が、やっと手に入る。
夜陰は密やかで、時は短いまほろばだ。
全てを告げることも、思いの丈を全て注ぎ込むことも出来はしない。なら、この時に得れる全てを手にしておきたい。
下肢に手を伸ばせば邪魔な衣服がロイを拒む。ロイはベルトを外し、ホックを開けチャックを下ろしてしまうと、その中へと手を差し込む。
「ひっ…!」
ビクリと反応するエドワードに気を良くして、ロイは僅かに湿り気を帯び始めた素肌に直接触れる。
処女のように身を震わせているそれを優しく握りこむと、掻く様にして指を動かしてやる。
「なっ… や、止め―― そ、んなに動か…さないでっ…ぇ」
初めて人の手で触れられる感覚に、エドワードは自分でも抑えきれない感情に慄いて身体を跳ねさせる。
「ああ…。そんなに怖がらなくてもいい。大丈夫、だ。気持ち良くさせるから…」
同じ性を持っている者同士だから、そこをどうされれば気持ち好いのかは判っている。同性にした経験は無いが、異性に奉仕してもらった経験を元に、エドワードが善がり狂う程の快感を与えてやろう。
彼の体の奥深くに、自分を刻み付けれるほどの。
本当の彼が手に入らないのなら、幻のエドワードだけでも自分に繋ぎ止めておきたい。
ロイはトロトロと熱い涙を零しているそこを、丁寧にそして力強く手淫を施してやる。
両手を動かしにくいから、ズボンも下着ごとずり下げる。
手を添えなくても立ち上がるほど感じてくれている証にロイは舌を這わせて、溢れているエドワードの蜜を取り込んでいく。
彼はきっと体の中までも、熱くて甘いのだろう。
舌で舐め取るだけでは足りず、ぱっくりと口に含んでしまうと、エドワードの感極まった嬌声が上がった。
「ロイっっっ! な、なぁ― や、止めて やだやだっ いやぁぁっ…」
不自由な上半身を捻らせようともがくエドワードが、切羽詰った声でロイに拒絶の声を叫び続けている。
ロイはその声を聞きながら、不思議で仕方が無い。
どうして彼は、こんなに拒絶の言葉ばかり吐くのだろう。
こんなに素直にここも身体も感じていると云うのに。
自分の慣れない口淫では、足りないのだろうか。
ああ…そうかも知れない。何せ、男性相手に口淫をするのは初めてなのだから。
ロイは申し訳ないような気持ちで、エドワードの花芯を吸い上げてった。
「・・・・・・・・・・・・・・・・っ!!」
声に成らない音を上げながら、エドワードの体が絶頂へと駆け上がって行く。ロイは満足の行く結果に、喉を鳴らして全てを嚥下すると、次は自分の番だと云う様に、弛緩した身体をうつ伏せに返す。
まだ息が整っていないのか、エドワードの肩が忙しなく上下しているのを感じながら、その背に沿って口付けを落とし。所々に歯を立てる。そして、降ろした手で双丘を揉み込むと、そこにも何度も口付けては所有印と張りのある感触を愉しむ。
そしてその奥に隠れた花陰に、指を差し込んでいく。
ほんの僅か先を射れただけでも、エドワードの体が強張ったのが判る。これではとても先には入れてもらえそうも無い。
「エドワード、力を抜いて…。これでは中に入れない」
その言葉に答えてるのか、首を横に振っている様子が伝わってくる。
ロイは両手を前に回すと、片手をエドワードの口内に、もう片方をエドワードの下肢へと回す。
「ほら、これなら大丈夫だろ?」
耳朶に舌を這わせながら、エドワードの感じるポイントを攻めてやる。先ほどの逐情で身体中が敏感になっているのか、ロイが少し手を触れてやるだけでも、そこは反応始め、身体は小波の様に震えを大きくする。
「んっ…ぐっ…っ」
口内に含ませた指で、ロイはキスの時同様エドワードの舌を、歯列を頤を撫で掻いてやれば、くぐもった声を上げながらエドワードの口内に唾液を溜めていく。
それを指で救い下へと運ぶ事を数回繰り返し、少しずつ差し込む指を深くさせて行く。驚いて身体を硬くすれば、下肢に回している掌に力を籠める。
そうして快感に摩り替わっている間にまた、忍ばせている指を深く、本数も増やしていく。
口内から指が引き抜かれると、エドワードは嬌声と哀願を叫んでくる。
もう、止めてくれと叫ぶ声が、どこか遠くで響いている。
そんなエドワードの悲痛な声も、今のロイの頭の中には届いてはいない。彼は今、エドワードを抱く事に夢中なのだ。例え泣き叫ばれようが、哀願されようが、この熱い体の中に自分の想いを射ち込み、注ぎ込むまで止まるなど考えられなくなる程に。
散々、叫び喘がされたエドワードがぐったりとなった頃、ロイは細腰を掴んで持ち上げると、十分に張り詰めた自身を宛がった。
「ああ…漸く入れる、な…」
ひたりと沿わされた熱に、エドワードが驚いて首を振り返そうとした時には…。
「なっ―――っあああぁぁぁぁっ―――!」
体全身を火炎が貫いていった。
狭い中を容赦なく突き進んで来るのは、火炎を操る相手だ。
痛みの余りずり上がるエドワードの腰を掴んでは、容赦なく押し込んでいく。
「ああっ… 君の中だ………」
エドワードの体内の熱さを堪能しているロイの零す声は、満足そうな吐息と共に吐き出される。熱い中に身を浸し、その狭さに背筋が震えるほど感じ入る。ロイは限界まで挿しいれると、エドワードの身体を背後から抱きしめた。
「これで…全部――私のものだ………」
漸く捉まえた。
心からの安堵と、身体中が沸騰しそうなほどの歓喜の中。
ロイは夢中になって腰を使い始める。
もっと奥まで。
もっと深く。
互いの体の中に、相手が溶け込み、取り込めるほど入り込みたい。
誰にも邪魔されも、奪われる恐れも抱かなくて良いほどに、深く深く中へと入り込むのだ。
互いが交じり合う場所からは、激しい音が上がり続けている。
エドワードの声がすすり泣きに変わるまで。
そして、すすり泣きも上げれなくなっても、ロイはエドワードを手放せないまま、その身体を抱き潰し続けたのだった。
*****
――― …あさ、か―。
瞼を透かして差し込む光を、欝惜しいそうに手の平で遮り、ロイは痛む米神に眉間を寄せる。
飲み過ぎたのか、やや頭痛がするが体調はそう悪くない。
悪くないどころか、気分は大変良い。
目は瞑ったまま、翳していた手を横へと下ろすと、触れたものの感触にギクリとする。
そっと手を動かして感触を辿らなくても、それが何かは判る。
そして、自分の状態にも頭が回っていく。
そして、信じられない結果に辿り着いた時。ロイは恐る恐る、震える身体を叱咤して、首を横に向けた。
「……………………………… っ!?」
頭が痛んでいた事も吹き飛ぶような光景に、ロイはガバリと上半身を起こし、信じられない思いで自分の横に寝ている相手の状態を茫然と見つめるしか出来なかった。
「ぐっ………」
込み上げてくる吐き気を飲み込んで、ロイは震える手でうつ伏せになっているエドワードの顔を覗き込む。
青くさえ見える顔色の悪さに、不調を耐えているのか眉間に皺が刻まれたままだ。目尻は流しすぎた涙の所為で紅く腫れ上がっている。震える指で、顔に掛かっている髪を梳いてやれば、どちらのものか判らない体液でごわごわに固まっている。
体の方は更に酷い有様で、鬱血した後がどれ位あるか数え切れないほど刻まれており、腰には余程強く握り込んだのか、ロイの指の形がくっきりと浮いていて、その周辺には歯形まで着いている場所がある。下肢も同様の様子をみせ、ぐちゃぐちゃに汚れている上、所々血痕まで付いている。
茫然と周囲を見渡せば、どれ程の凶行を自分が強いたのかを見せ付けられる。汚れきったソファーに、どろどろのカーペット。ボロ雑巾のように捨て置かれている二人の衣服。
ロイは目を瞠りその様子を見て取ると、両腕で頭を抱え込んで悔やみ嘆いたのだった。
「ん…っ」
どれ位そうやってロイが自分を罵り呪っていたのか、エドワードの呻き声ではっとなる。
どれ程の誹りや罵倒も憎しみも、自分は受けなくてはならない大罪を犯してしまったのだ。ロイは悲愴な顔つきで、目を覚まし始めたエドワードを見守った。
――― 身体中が痛い…。
だるい身体を寝起きの頭で訝しむ。
瞼を開こうと思っているのだが、鉛のように重く、たかが薄皮1枚を上げるのにも、今は挫けそうだ。
――― なんだ…? どうしたんだよ、おれ…。
気を抜けば薄くなりそうな意識を必死に繋げていると、自分を呼ぶ声で覚醒する。
「エドワード………」
弱弱しい自分を呼ぶ声に、必死になって瞼を上げる。
どうやら重いのは瞼が腫れているかららしく、開いてもいつもの半分程しか視界が利かない。そんな狭い視界にまず飛び込んできたのは、青いのを通り越して真っ白になっている引き攣ったロイの顔だ。
――― 何故、そんな悲愴な顔をして覗き込んでんだ?
まるで今から死刑を宣告される死刑囚のようだと思いながら、はっと気づいた事を口にする。
「ろ…い、あんた目、みえるのか…」
声が妙に掠れているから、話し難い。それでも、ちゃんと確認をしておかなくては。そう思って声を掛ければ、ロイは驚いたように目を瞠り、辛そうな表情を見せてくる。
――― そっか…、見えるようになった…んだ……。
浮上した意識は、安堵の所為でまた泥の様な眠りの中へと戻っていく。ロイの気遣うような哀しげな声を不思議に思いながら、エドワードは意識を手放したのだった。
~~~ sunset ~~~
あの日依頼、ロイはエドワードを壊れ物のように扱うようになった。
常に数歩の距離を空け、会話も最小限に口を閉ざし無口になっている。
なら、エドワードと別行動をするのかと思えばそうではなく、以前同様に同じ空間に居たがった。
あの日。再び目を覚ました時には、ぶり返した痛みと共に昨夜の出来事が脳裏に浮かんできた。
ベッドに寝かされていたエドワードの横には、沈痛な面持ちで座って看病をしているロイがいたのだ。
「どう――― 償えば良いかも、私には思いつけない…。
君は私を訴えても、罪を償わせても良い権利がある。
逃げるつもりはもうとうないから、君が言う通りに従う…」
そう告げてくるロイに、エドワードは不思議と怒りや憎しみは湧かなかった。驚かなかったかと云えば、当然驚いたし、衝撃も大きかった。が、何故だろう…、こうして項垂れているロイを目にすれば、それらは然程重要な事には思えなくなってくる。
「ロイ…、気にすんな。あんたは酔ってて判らなくなってたんだ。目も見えない時だったから、不安で―― 誰かに縋りたかったんだって」
そう言って気丈にも笑ってやれば、エドワードと逆にロイは瞳を暗くさせて、頭を振る。
「そ…んな事はいい訳にもならない。私がやった事は犯罪だ。罪は断罪されなくてはならない」
強張った表情でそう言い募るロイに、エドワードは途方に暮れる。
エドワードが構わないと言ってる事を、ロイが償うと言っても平行線を辿るばかりだ。
彼にはそんな事に構っている時間は無いのだから。
暫し考えて、エドワードはロイに声を掛ける。
「―― 判った。あんたがそこまで言うんなら、俺も1つだけ言わせて貰う」
エドワードが横になったままそう伝えると、ロイは神妙な顔で頷いて返す。
「さっさと目を治せ。… そうすれば、不安になって血迷うこともない、さ」
「エドワード…」
泣きそうに顔を歪めて見せるロイに、エドワードはもうこの件には触れないで欲しいと告げた。ロイはピクリと身体を跳ねさせ、そして重々しく頷いたのだった。
――― 早く目を治して、あんな事が起こらない様にすれば、
期待してしまいそうな馬鹿な自分の感情にも
終止符が打てる。
あんな風に思いの丈全てをぶつけられるように
抱かれれば……… 馬鹿な自分が思い違いをしてしまう。
まるで彼に愛されているのではないかと…。
*****
体調が戻ってきて久しぶりに司令部に顔を出せば、皆が心配して声を掛けてきてくれる。もう大丈夫だと告げながら、自分のデスクに着くと、数日間で溜まった書類や資料が積まれていた。
これはエドワードが方々に頼んでいた、生体関連のものだ。
熱心に読み進めている内に、周囲の気配から切り離されていく。昔から1つの事に集中し出すと、他には気が廻らなくなる癖は変わらない。
だから、自分を呼ぶ声に反応できたのは、本当に珍しい。
「…ド。エドワード?」
肩を叩いてそう呼びかけてくるのはロイだった。エドワードが気づいて顔を振り向かせると、
「すまない、何度か呼んでたんだが」
そう告げながら、手を引いた。
「あ、いやゴメン…気づかなくて」
呼ぶのに肩を触れたくらいで、二人とも意識し過ぎだろう。
すっと身体を引いたロイが、エドワードに封筒を差し出してくる。
「これがこちらに来てたので」
そう言って差し出された物を受け取ると、エドワードの表情が途端明るくなる。
「アルからだ」
うきうきと開封し始めるエドワードの様子を、ロイは少し離れた場所に留まって見つめている。最近のそれがロイの立ち位置になっているのに気づいているエドワードは、幾許かの寂しさを感じるが、敢えて指摘もしない。手紙はアメストリス国内から発送されている。どうやら弟は無事に戻って来ているようだ。
中の内容に目を通すと、エドワードの瞳が輝きを増す。
読み終わった便箋を折畳むと、じっと自分を窺っているロイを思い出す。
「あっ…。えっと、アルフォンスの奴が後2日ほどでこっちに着くらしい」
「そうなのか?」
親善使節の来訪の日程は、もう少し後なのだがと頭の中で考えているのが判るので、エドワードは書かれていたことを掻い摘んで説明してくれる。
「使節は国内の各地を訪問しながら来るだろ? それに合わせてると遅くなるってんで、一足先に向かってくれたらしい」
「…そうか、態々申し訳ないな」
「あんたが気にすることはないって。で、あいつが着いたら、持って帰ってくる情報と照らし合わせたいから、ここの空き部屋を1つ借りたい」
「ああ、勿論構わない。手配しておこう。他に必要な物があれば、何でも言ってくれ」
「ん。その時は頼む」
伝え合う話が終わると、どちらも思わず黙り込んでしまう。物言わぬロイの視線を感じて、エドワードは戸惑いながら所在無げに手元の資料に視線を落としてみたりする。
目は口ほどにものを言い。そんな言葉を思い出させるようなロイの視線は、ずっとエドワードに何かを問いかけている気がして、心を騒がせられてしまうのだ。
聞いた方が良いのだろうかと、声を掛けようとした時。出払っていたメンバーが戻ってくるのが伝わってくる。
エドワードが意識をそちらに逸らした瞬間、ロイは隣の執務室へと踵を返していた。
「あっ…」
声を掛けるかどうか一瞬悩みながらも、エドワードは何も言わずにロイの背を見送ったのだった。
パタン
閉じた扉の音を背に、ロイは自分の弱い心を内心で詰る。
「触れないでくれ」とエドワードに言われ了承したと云うのに、ロイの頭はあの狂ったような夜のことを忘れられないでいる。
横を向いているエドワードの口元に。
背後から見える項や、細腰を気づけば目が吸い寄せられるように見ている自分に気づいては、心底己の愚かしさと浅ましさに嫌気が差す。
触れられなかったから、気づかなくていられたのだ。
触れてしまえば、どれ程自分が飢えていたのかを、はっきりと自覚させられてしまう。そして、欲も生まれる。
所有欲と云う醜い欲望が、エドワードの一挙一動に向けられる。
彼の時間も思考も言動までも、全てを支配したいと云う傲慢な願いと、彼の面を彩る全ての表情を、独り占めしたいと渇望する強欲な要求。
そんなものまで自分の中で生まれてきて、ロイの思考を雁字搦めにして行きそうだった。暴れもがく感情を、理性の意志で押さえつけ踏みつけていくには、随分と忍耐が要ることだ。
これ以上、エドワードを傷つけたくない。嫌われたくないと思う一心だけが、ロイを留めていた。
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